ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第1074話 敵にも出来る奴はいる

「これは………?」

 

 よく観察すると、中央にレイド単位でギルドのリーダー連中を含む者達が、

巨大な巨人を中心に円陣を組んでおり、その円陣を囲むように、周囲で戦闘が行われている。

そして周囲の敵が弱ると、中央からパーティ単位でプレイヤーが突撃し、

敵にトドメを刺しているように見える。

 

「………なるほど、中央には各ギルドから選抜されたメンバーが集まってるのか」

 

 それだとギルド単位で計測される討伐数のカウントは全員に入るが、

周りの連中に経験値が入らないんじゃないかと思ったが、

それはどうやら一定時間ごとにメンバーを交代させる事で補っているように見える。

 

「よく考えたもんだな、というかあまりの効率の悪さを見かねて誰かが提案したのかな」

 

 このやり方を提案したのは七つの大罪の軍師であるアスタルトであった。

交代に関しても各ギルドの裁量に任せてあるようで、

どこからも不満の出ない、実に見事な采配だと言える。

 

「一応アスモと話はしておくか」

 

 シャナはそう考え、アスモゼウスはどこにいるかときょろきょろと辺りを見回したが、

丁度メンバー交代のタイミングだったのか、

中央の軍から外に向かってアスモゼウスが歩いてくるのを見て、そちらに向かった。

 

「あら貴方、私に何か御用かしら?うふん」

 

 自分に真っ直ぐ向かってくるシャナに対し、アスモゼウスはそんな感じの反応をした。

色欲のアスモゼウスとしては、まあ当たり前の反応である。

そんなアスモゼウスに周りから、熱い視線が向けられているのを見て、

シャナは思わず噴き出してしまった。

 

「………何か面白い事でもあったのかしら?」

 

 あくまでも演技を続けるアスモゼウスに、シャナはその場でメッセージを送った。

ここで話しかけて、アスモゼウスのイメージを損なうのは悪いと思ったからだ。

 

『一旦落ちて連絡してくれ、俺だ、シャナだ』

 

 アスモゼウスはシャナの存在はもちろん知っているのだが、

さすがにその顔までハッキリと覚えていられた訳ではなく、

メッセージを見た後、シャナの顔を二度見した。

 

「あっ………ごめんなさいね、ちょっと落ちなくてはいけないの。それじゃあご機嫌よう」

 

 アスモゼウスは取り繕ったようにそう言うと、七つの大罪が集まっている辺りに移動し、

シャナにウィンクをしながらログアウトの体勢に入った。

シャナも今後の事を考えてここでログアウトする事にした。

周りでは多くのプレイヤーが好きにログアウトしてる為、

誰かにおかしなちょっかいをかけられる心配も無いからだ。

 

 

 

「おう出海、随分頑張ってるみたいじゃないかよ」

『もしかしてこっちの様子を見に来たの?ごめんなさい、忙しくてまともに返信出来なくて』

「いや、別に気にしてない。それにしてもあんなやり方、誰が考えたんだ?」

『うちの軍師のタルト君かな、あの子、気が弱いけど凄く優秀なのよね』

「そんな奴がよくルシパーに意見を言えたな」

『言ったのはほら、私だから』

 

 どうやらそういう事らしい。

八幡は、七つの大罪の陰のリーダーって実はこいつなんじゃないのかと思ってしまった。

 

「なるほどなぁ」

『それよりもヴァルハラは何をしてるの?狩り場にはいないみたいだけど』

「別に狩り場はあそこだけじゃないぞ」

『それはそうだけど………』

 

 その声からは、寂しいオーラが出ているような気がした。

それもそうだろう、今のアスモゼウスの周りには、仲良しのヒルダもラキアもいないのだ。

 

「しかしあの巨人、でかくなったよな」

『あの大きさになったのって結構前なのよ、

そこで成長が止まって、そこからはちょっとずつステータスが上がってるみたいに感じるわ』

「ふ~ん、そんな感じで成長するのか」

『そっちの巨人はどうなの?今何匹くらい邪神を討伐したの?』

 

 その当然の質問に、八幡はどう答えればいいのかかなり悩んだ。

 

(ここで本当の事を教えるのもな、ほぼ決まりだとは言え、

もしかしたらこっちが間違っているのかもしれないしなぁ………)

 

「多少大きくなったみたいだが、その程度だな」

 

 実際トンキーはほんの少し大きくはなったが、それだけであった。

おそらく既に成長限界を迎え、能力値の方により多くが振り分けられているのだろう。

 

『へぇ、そうなんだ。あっ、それよりもさ、

ソニック・ドライバーとアルン冒険者の会がどこにいるか知らない?』

「ん?うちと一緒に行動してるぞ、お前に追い出されたって泣いてたからな」

『嘘!?し、仕方なかったのよ、私がいない時に決められちゃってたんだもん!』

「あいつらにどこにいるのか直接聞いたりしなかったのか?」

『もちろん聞いたけど、教えてくれなかったんだもん………』

「ああ、まあ今はライバルって事になるしな」

『そうだよね、仕方ないよね………』

「しかしルシパーも意味不明だよな、

これじゃあ何の為にアルヴヘイム攻略団を作ったのか分からないじゃないかよ」

『………正直ハイエンドの装備をもらってから、あいつらの態度が変わってきたんだよね』

 

 アルヴヘイム攻略団のルールでは、ハイエンドは公平に回す事になっていたが、

今回は団の活動として得た装備ではないので、

他のギルドからすれば、味方の戦力が上がって大歓迎、といった感じだったのだが、

どうやらルシパーは若干の後ろめたさを感じていたようだ。

それを誤魔化す為に、更に強気に振舞ううちに、

幹部達がその態度に影響され、俺強えオーラをあからさまに出すようになった。

その延長として、別行動が提案されたという側面もあるらしく、

アスモゼウスはそれがかなり不満であるようだ。

 

「まあ世の中ってのはそういうもんだ、今の自分の環境の中でやれる事を頑張れって」

『うぅ………分かった、頑張る』

 

 仲間内では出海だけが仲間外れになっている格好なのだが、

その事をわざわざ伝えるのも可愛そうだと思い、八幡はその事を言わなかった。

 

「というか、お前が装備してたのってハイエンドの装備なのか?」

『えっ、今更そこに突っ込むの!?』

「いや、だってよ………お前のあの装備、下品じゃね?」

『うっ………』

 

 ぶっちゃけるとグランゼ達が作ったハイエンド装備は、いわゆる既成レシピの品であった。

最初からデザインされている物をただハンマーで叩くだけなので、

確かに熟練度は上がるのだが、設計図から製作した装備と比べると、

デザイン的にも性能的にもかなり劣る事になる。

小人の靴屋の職人達とていっぱしの職人であり、

ハイエンド素材が手に入った時の為にいくつかの武器を設計してあったのだが、

リーダーのグランゼがとにかく早く武器防具を供給しろと言ってきた為、

泣く泣くその指示に従ったという経緯もあるのだが、

その事実は表に出てこない為、八幡の印象としてはそんな感じになってしまうのだ。

 

『それは私も思う………』

「お前の露出っぷりもかなり下品だよな」

『うっ………そうなのよ、聞いてよ』

 

 今アスモゼウスが装備しているのは、

まるでエロマンガのサキュバスが装備しているような、

ほぼヒモのみで構成されたビキニと、申し訳程度の赤いマントのみである。

さすがのアスモゼウスもグランゼにそれを渡された時、勘弁してよと思ったのだが、

その場で断る事はもちろん出来ず、色欲としてのプロ根性も発揮して、

我慢して装備しているのだと言う。

 

『グランゼちゃんって本当にそういうセンスが無いのよね………、

単純に私が色欲だから、露出が多ければそれでいいとか思ってるの。

世の中そんな単純じゃないのにねぇ』

「まあお前が選んだ道だ、諦めろ」

『うぅ………厳しい………』

 

 そう言いつつも、その時の出海の顔は晴れやかであった。

仲間達と引き離され、学校も休みに入っている為、

今回のイベント絡みの不満について、愚痴を言う相手が誰もいなかったのだ。

今日八幡と話せた事で、多少なりとも気が晴れたのだと思われる。

 

『ありがと、何か元気が出たわ』

 

 その言葉を聞いた瞬間に、八幡は何故か出海に意地悪をしたくなった。

 

「そうか、それなら良かった。まあいずれガチでやり合う事になるだろうから、

その時はお前の首は俺が取ってやろう、うんうん」

『へっ?』

「それじゃあ俺は戻るわ、そっちもそろそろ戻れよ。

あ、トイレにはちゃんと行っとけよ、その年で漏らすのはさすがにやばいからな」

『あっ、ちょっと、どういう事!?そこんとこ詳し………』

 

 それで八幡は電話を切り、直後に思わず噴き出した。

 

「まったく出海はいじり甲斐がある奴だよ」

 

 そのまま八幡はALOに戻り、

少し後にアスモゼウスからのメッセージ攻撃をくらう事になった。

 

『ちょっと、やり合うってどういう事なの?』

『既読スルーするんじゃないわよ!』

『ねぇ、もしかして私達間違ってる?ねぇ、やらかしてる?』

『リアルでちょっとエッチな写真を送ってあげるから、答えてよぉ………』

 

 最後の文字を見た瞬間に、ハチマンはそれをヒルダに見せた。

 

「おいヒルダ、こいつを何とかしてくれ」

「へっ?何が?………って、何これ、どういう話の流れ?」

 

 ハチマンは経緯を軽く説明し、ヒルダはハチマンを二度見した。

 

「えっ、めっちゃ煽ってない?」

「いや、あいつが元気になったとか殊勝な事を言うからつい、な」

「まあいじりたくなる気持ちは分かるけど、それなら自分で何とかしてよ!?」

「えっ、やだよ、あいつはお前の娘だろ?」

「娘って何!?ただの同級生だよ!?」

「だってあいつの保護者はお前じゃないかよ」

「いや違うからね!?」

 

 この後、結局ヒルダはハチマンに押し切られ、

アスモゼウスのご機嫌取りをする事になった。

 

「もう、この埋め合わせはちゃんとしてもらいますからね!」

「あ~、まあ考えとくわ」

「本当ですね、約束ですよ!」

「はいはい約束約束」

 

 一応言質をとった事でヒルダは引き下がり、

代わりにウズメがユウキと共にこちらにやってきた。

 

「ハチマン、ウズメのステータスとスキルについて、

ちょっと相談に乗ってもらいたいんだけど」

「おう、結構稼げたか?」

「うん、かなり凄い事になってると思うよ」

「どれどれ………」

 

 そのまま二人でステータスについてアドバイスし、ウズメはかなり強くなった。

しばらく慣らし運転のように体を動かしていたウズメは、

その動きの早さに驚いたようだ。

 

「ハチマン、凄いよ、凄く体が軽い!」

 

 そんなウズメにハチマンがこんな提案をした。

 

「よし、それじゃあ明日、体術スキルを取りに行くか」

「それが必要なの?うん、分かった!」

「わ、私もご一緒したいです!」

「ヒーラーにはあまり必要がないスキルだけど、まあいいか」

 

 ピュアも同行を希望し、ハチマンはそう言いつつもその頼みを承諾した。

三人は一旦アルンへ戻り、次の日の朝、アインクラッドの第二層へと向かう事となった。


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