ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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すみません、ちょっと忙しくて次の投稿は日曜になります!


第1076話 ソレイユらしいアプローチ

 それから一時間程かかり、四人は無事に岩の破壊を終えた。

 

「どうだ?違いが分かるか?」

「う~ん、どうだろう」

 

 四人は体を動かしているが、まだしっくりこないようだ。

 

「あっ、そうだ、ピュア、ちょっと新曲のフリをやってみない?」

「それはいいかもですね、もう体で感覚を覚えてますし、

どのくらい動きが違うかすぐに分かりますね」

「ほう?新曲か?」

「うん、今度の曲はゆうぎり姉さんがメインなの」

「凄え!見ていいの?」

「もちろん!でもまあ私達二人だけのパートだと、

見てもよく分からないかもしれないけどね」

 

 そう言ってウズメはコンソールをいじり、新曲のリズムセクション部分だけを流し始めた。

 

「お?事前に用意してあったのか?」

「うん、時間が開いた時にちょっとでも練習しておこうって思って、準備しといたの」

 

 そのウズメの真面目さにハチマンは感心した。

 

(やっぱりプロだよなぁ………)

 

 そして最初に三味線の音が鳴り響き、次いでドラムパートが始まり、軽快な曲が流れ始め、

二人はそれに合わせて踊り始めた。

最初は決めポーズから始まり、頭の上で手を叩いた後、

二人は太ももに手を当てて体を左右に振り始めた。

 

「ほう………」

「ほええ………」

「うわぁ………」

 

 曲の全体像は分からないが、三人はそんなウズメとピュアに思わず見入ってしまう。

そして曲が最後の部分に差しかかり、

ウズメが『来なさい』と言いながらハチマンに手を差し出すと、

ハチマンは思わずそちらにふらふらと足を踏み出した。

 

「兄ちゃん?」

「うおっ、つい誘われちまったわ………」

「あはははは、凄いね」

 

 そして曲が終わり、二人が得意げにこちらに歩いてきた。

プリンとベルディアは涙を流しながら拍手し続けており、

ハチマンも紅潮した顔でうんうんと頷いている。

 

「ハチマン、凄いよ、まるで自分の体じゃないみたいに良く動けた!」

「どうでした?ハチマンさん」

「いやぁ、正直感動したわ、早く完全版を聞いてみたい、というか買う」

「毎度あり!」

 

 ウズメが冗談っぽくそう言い、一同は笑いあった。

 

「今のは何て曲なんだ?」

「えっと、佐賀事件かな」

「へぇ………最初の三味線を聞いた時は、もっと和風な曲かと思ったけど、

いい意味で期待を裏切られた感じだったわ」

「あの音はゆうぎり姉さんが自分で弾いて入れてるんだよ」

「ほう?ゆうぎりさんは三味線が弾けるのか………」

「うん、まだ十九なのに凄いよねぇ」

 

 その言葉にハチマンはピタリと動きを止めた。

 

「あの色気で十九………だと!?」

「うんそうだよ?知らなかったんだ?」

「正直もっと上かと思ってたわ………」

「ゆうぎりさんには内緒にしておいてあげますね」

 

 ピュアが悪戯めいた口調でそう言い、ハチマンは素直に頭を下げた。

 

「悪い、そうしてくれ………」

「あっ、ちなみに私も同い年ですよ?十九です」

「なん………だと!?」

 

 ハチマンのあまりの驚きっぷりに、逆にピュアの方が戸惑った。

 

「そ、そんなにおかしいですか?」

「いや、十六くらいかと思ってたから………」

「ふふっ、ありがとうございます」

 

 ピュアは若く見られた事が嬉しかったらしく、素直にお礼を言った。

実際のところ、色気が無いと言われたとも言えるのだが、

そういうネガティブな面は普通にスルーするピュアであった。

そこにウズメがニコニコしながら加わってくる。

 

「ちなみに十六なのは、わ・た・し」

「あ~、お前はそんな感じだな、うん、分かってた」

「ちょっと!扱いが適当すぎじゃない!?」

 

 そこからまた笑いが起こり、今度はベルディアとプリンが感動した面持ちで言った。

 

「ウズメ姉ちゃん、ピュア姉ちゃん、俺も凄く感動した!」

「素晴らしかったです、私達も曲が出たら絶対買いますから!」

「「ありがとうございます!」」

 

 二人は満面の笑みでお礼を言い、冗談めかしてこんな事を言った。

 

「それにしてもゲームの中だと本当に体が軽く感じるなぁ、

ここでPVとか撮ったら凄い事になりそう」

「ですね、舞台とかもどんな景色にも出来そうですしね」

「………………ふむ」

 

 ハチマンはその言葉に何か真剣に考え始めた。

 

「それは………ありかもしれないな」

「えっ?」

「幸いうちにはいい技術者がたくさんいるからな、

今こうして見ていても、二人は現実世界とまったく区別がつかなかったし、

そういう企画もありかもしれない」

「あっ」

「た、確かにそうかもですね」

「それにあれだ、レッスンとかもVR環境でやるのを混ぜるってのはどうだ?

ここで練習する分には疲労がたまる事はないし、

まあ健康の為にもこっちばっかりってのもまずいんだろうが、

適度にVR空間でのレッスンを混ぜるってのはありだよな?」

「う、うん、それいいかも!」

「ライブの前日とか、疲れを溜めないように練習出来ますね!」

「だな、よし、そんな感じで動いてみるわ」

「夢が広がるね」

「だな、PVとかでこういう場面を入れたいって時に、いくらでも好きな事が出来るぞ」

「凄く楽しみです!」

 

 要はVRラボの延長線上にあるシステムだ、その開発は容易である。

実にソレイユらしいアプローチ方法だと言えよう。

 

「よし、それじゃあ狩り場に向かうとするか」

「本番だね、兄ちゃん!」

「結構敵も強いから、ベルは無理するなよ。やばくなったらマックスの後ろに隠れるんだ」

「うん!」

 

 一行はそのままヨツンヘイムの奥地へと向かう事にし、

アルンへと移動して、少し休憩する事にした。

 

「それじゃあ三十分休憩で、トイレと水分補給だな」

 

 そして五人は一旦ログアウトし、三十分後に再集合した。

 

「ウズメ、ピュア、さっきの話、巽さんに言っておいたからな」

「あっ、そうなんだ?」

「うちの開発部から何人か人を出すから、とりあえずやってみようって事になったわ」

 

 さすがはソレイユ、そしてハチマン、仕事が早い事この上ない。

 

「よし、それじゃあ行くか」

「うん、行こう行こう!」

 

 四人はピクニック気分で移動を開始した。途中で出てくる敵は普通に倒していく。

四人とももう中級者レベルには達しており、

普通に敵と遭遇しても、もはやハチマン一人で処理しなくてはならないという事は無い。

 

「みんな強くなったなぁ………」

 

 プリンは斬馬刀をぐるぐると振り回し、

ベルディアは兄と同じく聖騎士スタイルで見事に盾役をこなす。

ウズメはまるで舞うように敵を切り裂き、

ピュアは回復役をこなしつつ、その手に持つハンマーで敵を殴りつける。

 

「ふふん、まあこのくらいはね」

「兄ちゃん、どんどん進もうぜ」

「おう、そうだな」

 

 四人はそのまま奥へと向かっていき、キャンプ手前の最後の広場までたどり着いた。

その中央には何か巨大な生き物が居り、ウズメは目を細めた。

 

「ねぇハチマン、あれ、この前のフェンリルさんじゃない?」

「お?偶然の再会か?」

 

 そう言った直後にハチマンは、そのシルエットに違和感を覚えた。

 

「三つ首………?」

 

 その瞬間にハチマンは、大声で四人に叫んだ。

 

「みんな、先に行って助けを呼んできてくれ!あいつはフェンリルじゃない!

多分………ケルベロスだ!」

 

 前回はそのハチマンの指示に逆らったウズメとピュアは、

この時はハチマンの指示に素直に従った。

二人ともあれからそれなりに戦いの経験を積んでおり、敵の強さが桁違いで、

自分達がいても足手まといになるだけだと分かるようになったからである。

 

「分かった、待ってて!」

「おう、この距離なら死んでも蘇生してもらえるから、心配すんな」

「駄目です、生きて下さい!」

「あっ、はい」

 

 四人はそのまま洞窟へと駆け込み、その入り口を塞ぐようにハチマンが立ちはだかった。

同時に赤いオートマチック・フラワーズが展開され、

腰に光の円月輪とワイヤーソードが装備される。

 

「あんたケルベロス………だよな?やるなら俺が相手になる」

 

 敵か味方かまだ分からない為、一応ハチマンはそう呼びかけた。

もし敵なら、これで返事でもあれば、時間が稼げてラッキーと思ったからである。

果たして返事はあり、その三つ首の獣、ケルベロスは足を止めた。

 

『ふむ、初めて会う敵が妖精王の一人とはな』

「やっぱりあんたは敵なんだな」

『然り』

 

 ケルベロスは短くそう答え、ハチマンは心の中で舌打ちした。

 

(チッ、会話が続かないじゃねぇか、お前は昔の俺か!)

 

 そんな自虐的な事を考えつつ、

ハチマンは相手の興味を引きそうな話題は何か無いかと考え、

先日会ったフェンリルの事を伝える事にした。

 

「あんたのお仲間のフェンリルさんは、俺の事を歓迎してくれたんだけどな」

『あ奴は仲間などではない、我が宿命の敵だ』

 

 そう言った途端にケルベロスはそう言い、イライラしたように足を踏み鳴らした。

 

(やっぱりこいつは、フェンリルと対になる存在なんだな、

その事が確認出来ただけでも収穫ありだ)

 

 ハチマンはそう考え、敵が唸り声を上げて足に力を入れたのを見て、

来る、と確信した。その瞬間にハチマンはケルベロスに向かって叫んだ。

 

「フェンリル、頼む!」

『何っ!?』

 

 思わずケルベロスは振り向き、その瞬間にハチマンは敵に向かって突撃した。

ケルベロスは背後に何もいないのを確かめ、慌てて向き直ったがハチマンの方が早い。

ハチマンは雷丸を一刀で構え、こちらを向いた瞬間のケルベロスの顎に、

攻撃を思いっきり叩き込んだ。

 

『ぐおっ!』

 

 その攻撃は見事なカウンターとなる。カウンター使いの本領発揮だ。

だがハチマンはそれで止まらない。同時に腰のワイヤーソードを思い切り振りぬき、

ケルベロスの首筋に赤い光が走る。

低級プレイヤー相手なら、今の一撃で即死させられたはずだが、

さすがにケルベロスはタフであり、それなりのダメージを与えはしたものの、

当然倒すまでには至らない。

 

『貴様、卑怯だぞ!』

「ハッ、お前が油断しすぎなんだよ」

 

 ハチマンはそう言った瞬間に何故か一瞬動きを止め、その場に伏せた。

 

『ぬっ』

 

 直後にハチマンの背後にある洞窟から矢が飛び出してきて、

ケルベロスの向かって左の頭の首筋に突き刺さった。

ハチマンが伏せたのはこれが理由である。

先ほど一瞬動きを止めたのは、遠くからシノンの声が聞こえたからであった。

 

『ぐわあああああ!』

 

 たまらずケルベロスが悲鳴を上げ、

直後に洞窟の中から、頼れる味方が何人も飛び出してきたのであった。


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