ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第1078話 深夜の出来事

「ハチマンさん、これって………」

「何か着ぐるみみたい?」

「周囲には何もいないか………チッ、厄介な」

 

 ケルベロスの中身らしき姿はもうどこにも無く、既に逃げ出した後のようであった。

 

「ハチマン、これ、どうする?」

「う~ん………うわっ」

 

 ハチマンがその抜け殻に触った瞬間に、その姿が消滅した。

 

「えっ?」

「何をしたの?」

「いや、触っただけなんだが………」

 

 ハチマンがアイテムリストを見ると、そこに『ケルベロスの毛皮』が追加されていた。

 

「おっ、これ、素材扱いなのか、見に来て良かったわ」

 

 途端にハチマンの機嫌が良くなり、ウズメとピュアは思わず噴き出した。

 

「わ、笑うなって」

「ごめんごめん、ちょっと面白くて」

「ハチマンさん、意外と現金なんですね」

「ま、まあ何も得られる物が無いよりは全然いいと思ってな」

「ふふっ、確かにそうですね」

「それじゃあ俺達も落ちるとするか、ケルベロスがどんな姿になったのかは分からないが、

まあそのうちまた戦う事になるだろ」

「そうですね」

「だねぇ」

 

 三人はそのまま狩り場へと引き返し、結界コテージ内でログアウト処理をした。

 

 

 

「やれやれ、まさか姿が消えなかったのがこういう理由だったとはな………」

 

 八幡はぼそりとそう呟くと、次期社長室のソファーから体を起こした。

 

「さて、飯だけもらいに行くか………」

 

 そのままマンションに向かい、八幡は自分の部屋に足を踏み入れた。

その瞬間に、スパイスのいい香りが鼻をくすぐる。

 

「あっ、八幡君、おかえり!」

「夕食の準備はもうすぐ出来るから待っててね!」

 

 見渡すと、部屋の中は女性陣にほぼ占領されていた。

元々部屋に泊まっている美優、舞、香蓮と優里奈に加え、明日奈、優美子、結衣、いろは、

南、沙希と、ソレイユ関係者のうち寮の部屋を与えられていない者が集まっていた。

 

「これはまた、凄い人数だな」

「ささ、座って座って」

 

 室内には仮のテーブルが増設されており、何とか全員が座れるようになっていた。

 

「こういうの、キャンプみたいで何か楽しいね、リーダー!」

「おう、確かにそうだな」

「メニューはもちろんカレーだよ、カレー!」

「炊飯器はどうしたんだ?」

「大きなのを借りてきてあります!」

 

 どうやら色々と準備万端のようだ。

そして食事が始まり、八幡はそこで先ほどのケルベロスの話をした。

 

「えっ、そんな事があったんだ?」

「おう、また敵対する事になるだろうから、しばらくは絶対に単独で行動しないようにな」

 

 その話はそれで終わり、話題は明日の忘年会の話に移った。

もっともそこまで派手にする気は八幡には無く、エルザが歌うと言っていた他は、

シンプルに宴会が行われるだけであり、

今回はビンゴとかも行われない為、結局料理の準備をどうするかの話に終始した。

 

「ねこやのマスターにも手伝ってもらえるから、まあ大丈夫だろ」

「そっか、そうだね」

「おもちゃの除夜の鐘も準備したから百八回鳴らそうな」

「うわ、本当に?」

「おう、で、その後少し寝てから朝からみんなで初詣だな」

「どこに行くのかは決めてるの?」

「柳林神社だな、車ももう手配済だ」

「えるちゃんの所だね」

 

 一同はそのままわいわいと食事を終え、しっかりおかわりもして満足した八幡は、

後片付けを女性陣に任せ、テーブルを片付けて人数分の布団を敷くのを手伝った。

 

「それじゃあみんなでのお泊り会、楽しんでな」

「うん、ありがとうね」

「それじゃあまた明日な」

 

 八幡はそのまま部屋を出て、ソレイユ本社へと戻っていった、その道中の事である。

 

「あっ、八幡!」

「八幡さん、偶然ですね」

「お?」

 

 丁度敷地に入る所で八幡に声をかけてきたのは、愛と純子であった。

二人とも帽子を被ってコートを纏い、薄く色のついたサングラスを着用している。

 

「二人で出かけるのか?」

「ううん、コンビニだよ」

「ああ、なるほどな」

 

 ソレイユの社員寮に併設されているコンビニはガードマンが常駐しており、

ソレイユの敷地内から外に出ずに直接店に入る事が可能であるが、

一応警戒しておく事も必要なのである。

 

「俺も行くわ、今日はこっちに泊まりだからな」

「えっ、そうなの?」

「おう、明日はヴァルハラの忘年会があるからな」

「それ、聞いてない」

「あっ」

 

 それで八幡は、この二人に誘いの連絡をしていなかった事を思い出した。

これは別にわざとではなく、二人の加入が急すぎたからだ。

 

「そうだった、悪い、明日の夕方から大忘年会をやるんだが………来れるか?」

 

 八幡は申し訳なさそうにそう言い、二人は顔を見合わせた。

 

「明日は何も無いよね?」

「うん、無いですね」

「というか、フランシュシュの全員で参加して歌ってもいいのかな?」

「それは大丈夫だけど、でもいいのか?」

「うん、みんな暇してるはずだし、

準備もうちからコンサート用の音源を持ってくから全然平気」

「うわぁ、楽しみですね!」

「そうか、それなら明日、会場で待ってるわ」

「うん!」

 

 こうして忘年会へのフランシュシュの参加も決まった。

そのままコンビニで買い物を終えた後、それなりに遅い時間であったが、

二人がもう少し八幡に、ヴァルハラの事を色々聞きたいとせがんだ為、

八幡の次期社長室に二人を招待する事になった。

 

「それじゃあちょっとだけな」

「うん!」

「お、お邪魔します」

 

 部屋に入ると部屋には既にマットレスと、その上に布団が敷かれていた。

この部屋はこういう時にのんびり出来るように土足禁止であり、

部屋の入り口に小さな下駄箱が置いてある。

いくつかのソファーは離れた所にどけられており、

一つだけ二人がけのソファーが布団の横に残されていた。

 

「う………」

 

 八幡はソファーで寝るつもりだったのだが、薔薇辺りが誰かが気を利かせたらしい。

 

「え~っと………」

 

 八幡は若干の気まずさを感じていたが、二人は特に気にした様子は無かった。

 

「さすがに布団に座るのはちょっと申し訳ないね」

「そうですね、私達はソファーに座りましょう」

「八幡は布団でごろごろしてていいからね」

「いや、でもそれは………」

「いいからいいから」

「そ、そうか、なら遠慮なく………」

 

 二人のコートを預ってハンガーに掛けると、

二人は部屋着なのか、かなりラフな格好をしていた。

普通のトレーナーにミニスカート姿である。

そんな平凡な格好も眩しく感じられるのはさすがは現役アイドルというところか。

八幡は二人に目を瞑っていてくれと頼み、二人はそのまま手で自分の目を覆った。

その間に八幡は布団の上に置いてあったジャージに着替えると、

疲れていた事もあり、そのまま布団の上に腰掛けた。

八幡は気付かなかったが、二人は指の隙間からチラチラと八幡の着替えを見ていたが、

そのくらいはまあご愛嬌である。

 

「悪い、もう大丈夫だ」

「う、うん」

「失礼します」

 

 そのまま二人はソファーに座ったが、これが実に目の毒であった。

二人がミニスカート姿であった為、八幡の目の前には今、

二人の生足が惜しげも無く晒されている。

下手をすると、その奥の見えてはいけないものまで見えてしまいそうだ。

 

「や、やっぱりみんなで布団に座ろう、その方が楽だろうしな」

「それはそうだけど………」

「本当に大丈夫だから、気にせず座ってくれ。今ひざ掛けを出すからな」

 

 部屋は適温ではあったが、若干肌寒くはあった為、

八幡は奥からひざ掛けを持ってきて二人に渡した。

 

「ありがと!」

「ありがとうございます」

 

 これで二人の危険な状態は解消され、八幡は内心でほっと一息ついた。

そのまま真ん中に小さなテーブルを置き、買ってきた飲み物で三人は乾杯した。

 

「今日はお疲れ様」

「「お疲れ様!」」

「さて、それじゃあ何から話そうか」

「色々!」

「色々か………」

 

 三人はそれから色々と話をした。

ゲームに関する基礎知識とか、強くなる為に必要な事、

今までヴァルハラがどんな事をしてきたか、今裏で何をしているか、とにかく色々である。

それがひと段落すると、今度は二人が八幡に、フランシュシュの活動について話をした。

八幡はフランシュシュのCDを全て買ったらしく、その曲を流しながら、

愛と純子が調子に乗って小さな声ではあるが、歌を披露し、

八幡も歌に参加させられて三人で一緒に歌ったりと、

三人はしばらく楽しい時間を過ごす事が出来た。

 

「ふう、楽しかったぁ」

「ALOと関係ないところで普通に盛り上がっちまったな」

「あはははは、ですね」

 

 八幡は知らなかったが、純子がこんなに快活に笑う事は珍しい。

こういう所で地味にソレイユに移籍した事が、フランシュシュにいい影響を与えているのだ。

 

「それじゃあもうこんな時間だし、私達は部屋に戻るね」

「そうか、それじゃあ送ってくわ」

「えっ?別にいいよ」

「いやいや、何かあったらまずいからな」

 

 八幡はそう言って立ち上がり、二人にコートをかけてあげ、自らもコートを羽織った。

その懐には当然警棒を忍ばせている。

 

「よし、行くか」

「わざわざごめんね?」

「気にするなって」

 

 三人はそのまま外に出て、ソレイユ・エージェンシー側のビルへと移動した。

 

「あ、そこ、凍ってるから気をつけてな」

「本当だ!」

「危ないですね」

 

 八幡は細やかな気配りを見せ、何事もなく三人はその入り口にたどり着き、

そこで二人に別れを告げようとしたその瞬間に、中から一人の男性が姿を現した。

フランシュシュのマネージャー、巽幸太郎である。

 

「あれ、マネージャー?」

「コンビニにでも行くんですか?」

 

 幸太郎はこんな時間に二人が外にいた事で一瞬ギョッとしたように見えたが、

その横に八幡がいる事に気付いて笑顔を見せた。

普通は詰問されてもおかしくない場面ではあるが、八幡に対する幸太郎の信頼は厚く、

愛や純子にいい影響を与えてくれていると分かっていた為、

こういった時に何か言う事はない。

 

「ちょっと飲み物をな」

「そうですか、それじゃあお休みなさい」

「マネージャー、お休み!」

「ああ、お休み、比企谷さんもお休みなさい」

 

 幸太郎はそのままコンビニに向かい、八幡は二人を見送った。

その瞬間にドスンという音がし、慌てて振りかえった八幡の目に飛び込んできたのは、

先ほどの凍った部分で足を滑らせ、地面の上でのびている幸太郎の姿であった。

 

「巽さん!」

 

 そのまますぐに救急車が呼ばれ、八幡はその付き添いで病院へと向かった。

幸太郎は頭を強く打ったらしく、そのまましばらく入院する事になり、

正月でマネージャーの適役が他にいないと困った顔をする倉社長を気の毒に思った八幡は、

自ら志願し、一週間ほどの間、フランシュシュのマネージャーの真似事をする事となった。

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