ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第1079話 幸太郎の教え

 次の日の午前の部で、ウズメとピュアが慌てて八幡に駆け寄ってきた。

 

「ハチマン!昨日あの後大変だったんだって?」

「そうなんだよ、二人は丁度エレベーターに乗った後だったから気付かなかっただろうが、

あの後巽さんが例の氷に足を滑らせてな、頭を打っちまって、病院まで付き添ったわ」

「気付かなくてごめんね、っていうか呼んでくれれば良かったのに」

「いやいや、付き添いは俺一人で十分だったからな、

やる事も、巽さんの体を冷やし過ぎないように気をつけるくらいしか無かったし」

 

 実際には救急車を呼んだ際にその指示に従った為、もう少しやる事があったのだが、

大した事ではなかった為、わざわざ二人に連絡する事はしなかっただけである。

 

「そういえば昨日、夜中に救急車が来てたけど………」

「あれってリーダーだったんだ?」

「おう、そうなんだよ、フランシュシュのマネージャーさんが、

氷で足を滑らせて頭を打っちまってな」

 

 その話を近くで聞いていた者達が横から会話に参加してきた為、

ハチマンは昨日何があったのか説明した。

二人が次期社長室を訪問していた事に関しては誰も何も突っ込まなかった。

そもそも何かあるはずが無いからだ。

その程度で何かあるようなら苦労しない、というのが彼女達の共通認識である。

 

「えっ、今日の忘年会でフランシュシュの歌が聞けるのか?」

 

 ハチマンの話が終わると、キリトがウズメにそう尋ねてきた。

 

「うん、時間的に三曲くらいになると思うけど」

「三曲………もしかしてリクエスト可能とか?」

「あ~、うん、大丈夫だよ」

「そうか!ちょっと待っててくれ!お~いフランシュシュファンの奴、ちょっと集合!」

 

 キリトがそう声を掛け、ほとんどの者達がこちらに集まってきた。

少し前までは必ずしもファンでなかった者も多数存在したが、

今ではほとんど全員が、すっかりフランシュシュのファンである。

中にエルザも混じっていたが、これはただの興味本位である。

 

「実は今日の忘年会に、フランシュシュの皆さんが参加して下さるそうだ」

「「「「「「「「おおおおおおおお!」」」」」」」」

 

 今回は、この狩り場にいる者のうち、

忘年会に参加出来る距離に住んでいる者は全員が招待されている。

その変わり、身元に関してはしっかりと洗われており、

その事を納得して受け入れた者のみが参加出来る事になっていた。

 

「という訳で、リクエストで三曲を選ばせてもらえる事になった。

今からアンケートを回すから、各自好きな曲に投票してくれ」

 

 ALOにはこういった機能もある。本来は狩り場を選ぶ為などに使われるのだが、

その汎用性は高く、こういった時に便利な機能である。

 

「オーケー、投票開始!」

 

 そこから一気に全員が投票し、選ばれた曲は、

『あっつくなぁれ』『佐賀事件』『輝いた』の三曲であった。

『あっつくなぁれ』に関しては、この場にいる二人がメインだからであり、

『佐賀事件』は新曲だからである。そして『輝いた』は、

この曲の別バージョンが即席カレーのCMに使われており、

その曲からフランシュシュを知った者が多かったからだ。

もっとメジャーな曲が落選し、この三曲が選ばれたのは実に興味深い。

 

「オーケー、それじゃあウズメにお願いしてくるからな!」

「「「「「「「「お願いします!」」」」」」」」

 

 ここにいる者達のウズメやピュアへの態度はとても丁寧である。

二人は特別扱いはされたくなかったが、こういった場合は仕方がないだろう。

 

「それじゃあ今日はこの三曲でいきますね」

「心を込めて歌いますから」

 

 ウズメとピュアは笑顔でそう言い、仲間達のテンションは爆上がりした。

 

「わ、私にもリクエストしてくれてもいいんだよ?」

 

 そこにクックロビンがそう突っ込んできた。

 

「お前はALO関連の曲を歌うって言ってたじゃないかよ」

「う………確かに他の選択肢が無い………」

 

 神崎エルザの持ち曲でALO関連の曲は三つある。

CMに使われた主題歌、イベント中の挿入曲、メカニコラスのうた、である。

このうち挿入曲に関しては、このイベントのどこかで流れる事が発表されている。

 

「まあお前もフランシュシュに負けないように頑張れ」

「も、もちろん!」

「それじゃあそんな訳で狩りを始める。今日は午前の部だけだから、その分頑張ろう」

 

 そして狩りが始まり、今日はソレイユも参加していた為、

狩りの効率が凄まじく上がり、士気も高かった事で、討伐数は五千まで伸びる事となった。

 

 

 

「それじゃあ会場で待ってるからな、

受付は夕方五時からなんで、招待状を忘れないように宜しく頼む!」

 

 そのハチマンの宣言で狩りが終わり、続々と仲間達がログアウトしていった。

ハチマンはそれを見届けた後、最後にログアウトし、会場へ向かった。

そこには内輪の者達が既に準備に入っており、忙しそうにあくせくと動き回っていた。

八幡が最初に声を掛けたのは、ねこやのマスターである。

 

「マスター、連日色々頼んでしまって申し訳ないです」

「いやいや、そもそも飲食には普通、休みなんてほとんど無いから」

 

 マスターは問題ないという風にそう答え、八幡は深々と頭を下げた。

 

「やめて下さいよ、雇い主が部下にそんな態度をとるもんじゃありません」

「それでもです、ありがとうございます」

「やれやれ、任せて下さい、ベストを尽くしますから」

 

 そして飲み物が日高商店によって運び込まれていく。

今年の十二月の日高商店の売り上げは、例年の十倍を超えるらしい。

その分勇人のお年玉が増やせると、小春は嬉しそうにそう微笑んだ。

 

「ふう、今回は会場の飾りつけは除夜の鐘くらいだし、後は料理だけか」

「八幡君、そろそろ出るのかしら?」

「ああ、雪乃、悪いが後の事は頼む」

「ええ、任せて頂戴」

 

 八幡は、この後幸太郎の見舞いに行く事になっていた。

まだ検査もいくつか控えており、しばらく入院していなければいけない幸太郎から、

マネージャー代理としての業務のレクチャーを受ける為である。

 

「さて、それじゃあ行こうか、姉さん」

「ええ、行きましょう」

 

 現地には既に倉社長が行って待っているはずであり、

親会社のトップ二人が見舞いに行く事になっているのだ。

二人はキットで幸太郎が入院している病院へと向かった。

ここは昔から雪ノ下家と関係が深い、例の八幡が収容されていた病院である。

 

「鶴見先生!」

 

 八幡が最初に声をかけたのは、鶴見留美の母親であるリハビリの先生、鶴見由美であった。

 

「あら八幡君、今日はどうしたの?もしかして病気や怪我………じゃないみたいね?」

「はい、今日は知り合いの見舞いに来ました。ルミルミは元気ですか?」

「留美はとても元気よ、でもたまに寂しそうな顔をする事があるから、

たまには遊びに連れ出してやって頂戴ね。

来年は受験だから、夏以降は勉強漬けになると思うしね」

「ははっ、分かりました、考えておきますね」

「ええ、宜しくね」

 

 そしてそのまま由美に案内してもらい、八幡と陽乃は幸太郎の病室へ訪問した。

 

「あっ、比企谷さん、昨日はご迷惑をおかけしました」

 

 そう言って先に来ていた倉社長が頭を下げた。

 

「私の不注意で本当に済みませんでした、比企谷さん」

 

 幸太郎はフランシュシュのメンバーが相手だと、

何というか、ファンキーな性格を演じているようなのだが、

こういった場だと、常識を弁えた好青年になる。

 

「いやいや、検査結果はどうでした?大丈夫でしたか?」

「今のところは何も。雪ノ下社長もこんな時期にこんな事になってしまって申し訳ない」

「気にしないで、フランシュシュの事はきっと、

このマネージャー代理が何とかしてくれるわ。

とにかく四日にあるミニライブだけ乗り切ればいいだけだしね」

「それくらいなら何とか………」

 

 八幡は若干不安そうにそう言い、幸太郎に教えを請うた。

 

「という訳で巽さん、宜しくご指導ご鞭撻の程、宜しくお願いします」

 

 こうして陽乃も交えてではあったが、

幸太郎は八幡に、マネージャー業務についての説明を始めた。

ひと通り聞き終わった後、八幡はしばらくぽかんとしていたが、

やがて立ち直ったのか、幸太郎にこう尋ねてきた。

 

「えっ、マジですか、今まではそんな感じだったんですか?」

「あはははは、はい、そんな感じです。

どうせ一日だけだし、まあ同じ事をやっておけば、掴みはオーケーだと思います」

「ボンジュール、サガジェンヌ………」

 

 八幡がそう呟くと、陽乃がゲラゲラと笑い始めた。

 

「おい馬鹿姉、笑うな」

「あはははは、無理無理、笑うなって言う方がおかしいから」

 

 横にいる倉社長も笑いを堪えているのか、真っ赤な顔をしていた。

 

「ま、まあこれも仕事だし、頑張ります」

 

 陽乃に笑われながらも、八幡は真面目さを発揮してそう宣言し、

本番前日のミーティングの進行について、頭を悩ませる事になったのだった。

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