夕方五時、ソレイユ社内の会場が開かれ、受付に多くの者達が押し寄せてきた。
「はい、アルン冒険者の会の方ですね、お名前は………」
「あっ、保さん、お待ちしてました」
「あ、勇人君、こっちこっち!」
受付に座っているのは、かおりとえるであった。
その横に案内役としてクルスが控えている。
「さて、予定だとこれで全員かな」
「だね、あとは入り口を施錠して、私達も会場に向かおっか」
入り口に一応緊急連絡先を書いた紙を張りつけ、三人はそのまま会場へと向かった。
「八幡様、全員揃いました」
「オーケー、それじゃあ始めるとするか」
クルスの報告を受け、八幡が前に出て壇上に上がる。
「みんな、今日は今年一年の感謝の気持ちを込めて会を企画させてもらった。
思う存分楽しんで、飲み食いしていってくれ」
ちなみに今日の参加費はゼロである。必要経費は全て八幡の懐から出ているのだ。
「それじゃあ乾杯!」
「「「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」」」
乾杯の音頭と同時に女性陣が、八幡のグラス目掛けてグラスを差し出してくる。
「八幡君、乾杯!」
「乾杯!」
「八幡様、乾杯です!」
「か、乾杯!」
「八幡君!」
「八幡!」
「リーダー!」
「か、乾杯………」
結局八幡がグラスに口を付けたのは、それから十分後の事であった。
「ふぅ………」
「ちょっとお疲れぎみ?大丈夫?」
「ああ、麻衣さんか」
ホストとして常に女性陣に囲まれ、その相手をしていた八幡は、
忘年会が始まってから一時間後、やっと人の波が途切れ、一息つく事が出来ていた。
「………麻衣さんは凄いよなぁ」
「いきなり何?」
麻衣は突然そう言われ、思わず噴き出しながらそう聞き返した。
「実は一週間ほど、俺がフランシュシュの臨時マネージャーをやる事になったんだよ」
「あら、そうなの?前のマネージャー、巽さんだっけ?何かあったの?」
「夜中に氷で足を滑らせて頭を打った、みたいな?」
「あっ、そうなんだ」
「で、巽さんから教わった、フランシュシュのマネージャーの心得ってのがさ………」
八幡は大きな声で言うのは憚られたのか、
麻衣の耳元で幸太郎に教わった事をこそこそと話した。
「あはははは、何それ、そんな事やってたんだ?」
「そうなんだよ、それで簡単な演技の練習をする事になったんだけど、
やっぱりいきなり上手くはいかなくて、
その流れでいつもこんな事を平気でやってる麻衣さんは凄いなって」
「お褒めに預かり光栄です、リーダー」
麻衣はキリっとした顔でそう答え、八幡は感嘆の表情になった。
「それそれ、そういうとこ、よくスッと別人みたいになれるなって思ってさ」
「う~ん、よく言われるのは演じるキャラの気持ちになって、とかだけど、
まあ所詮臨時のマネージャーなんだし、楽しめばいいんじゃないかしら」
「楽しむ………か」
八幡はここまで、頑張ろうと思うばかりで、楽しもうなどとは全く考えていなかった。
だが今麻衣にそう言われた事で、肩からスッと力が抜けたような気がした。
「あの子達も八幡さんに、
プロのマネージャーっぽく振舞って欲しいなんて思ってないと思うわ」
丁度その時臨時で作られたステージに、フランシュシュのメンバー達が登場し、
辺りに大きな拍手が巻き起こった。
「今日はお招き頂きありがとうございます、フランシュシュで~す!」
「美味しいご飯に釣られてやって参りました!」
その挨拶に、あははという笑い声が上がる。
「という訳で、食事代代わりに歌います、よろしくぅ!」
二階堂サキが元気にそう挨拶し、『あっつくなぁれ』の曲が流れ始めた。
メインを張る愛と純子が八幡に手を振ってくる。
「あの二人に随分懐かれてるみたいじゃない」
「あ~………まあそうみたいだな」
「ふふっ、まるで他人事みたい」
八幡はそれには答えず、ぽりぽりと頭をかいた。
「いじめるなら咲太にしてくれ」
「それはいつもだからまあ、たまにはね」
「ふぅ………」
そしてフランシュシュの二曲目、『輝いた』が、
CMバージョンではなく通常バージョンで披露された。
逆にCMバージョンの方だけを知っている者が多かったらしく、
これもまた盛り上がる事となった。
「アイドルって凄えよなぁ………」
「結構体力勝負よね」
「あの振り付けとか絶対に覚えられないわ」
「映画とかのセリフは?」
「無理無理、絶対に無理」
「やる気になれば出来るんじゃない?来年余興とかでやってみれば?」
「………まあ考えとく」
それで会話は終わり、麻衣は他の者に場所を譲る為、去っていった。
曲が終わった後、再び大きな拍手が巻き起こり、
当然八幡もフランシュシュに割れんばかりの拍手を送る。
「本当はこんな風に気軽に聞けるはずはないんだよなぁ、俺は本当に仲間に恵まれてるよ」
ぼそりと呟くように放たれたその言葉が去り行く麻衣の耳に届き、
麻衣はその事をとても嬉しく思った。
そしてここで一旦フランシュシュは引っ込み、代わりに舞台にはエルザが上がった。
「ここからはずっと私のターン!」
再び大きな拍手が巻き起こり、エルザがギターを弾きながら歌い始めた。
エルザはさすがの歌唱力を誇り、曲がALO絡みという事もあって、
今日のメンバー的にも大変な盛り上がりをみせた。
「まったくあいつはいくつの顔を持ってるんだろうなぁ」
「本当よね、あのピトフーイをよく躾けたものだと感心するわ」
続けてやってきたのは詩乃であった。
「別に躾けた気は無いけどな」
「結果的にそうなってるじゃない」
「まあそれは否定しねえよ、ってか無言で酒を注いでくるんじゃねえ」
「何よ、私のお酒が飲めないっていうの?」
「へいへい、頂きます」
八幡は基本あまり酔わないが、この後は片付けがある為、
あまり酔わないように、ペースをかなり落として飲んでいた。
詩乃も空気を読み、少ししかお酒を注いでいない。
そんな詩乃の気配りを八幡はさすがだなと思いつつ、
素直に認めると調子に乗る為、口に出す事はしない。
「そういえば明日奈には飲ませてないだろうな」
「大丈夫よ、小町がちゃんとガードしてるわ」
「ならいい」
以前やらかした為、明日奈はこういった場でお酒は飲ませてもらえない。
もし飲む事があるとすれば、八幡と二人きりで、なおかつ家にいる時だけなのである。
「ところでフランシュシュのサインはいつ配ってくれるの?」
「この前の奴か、ってかお前も希望したんだな」
「ええ、もちろん」
「みんなが帰る時、俺が見送りに立つつもりだから、その時だな」
「八幡が全員を見送るの?」
「さすがに忘年会中にみんなとは話しきれないから、まあそれくらいはな」
「真面目よねぇ」
詩乃はそんな八幡に感心しつつ、だからヴァルハラは強いのよね、と思った。
そして曲が終わり、エルザがこちらに走ってきた。
「はっちま~ん!」
「おう、さすがだなエルザ、っていうかメカニコラスの歌はやめたんだな、えらいぞ」
「だってここにはメカニコラスはいないじゃない」
「「確かに………」」
八幡と詩乃は、その正論にぐうの音も出なかった。
「お、衣装が変わったな」
丁度その時フランシュシュが再登場した。衣装が思いっきり和風になっており、
メインのゆうぎりだけが目立つ着物を着ている。
「ほう………」
そしてゆうぎりの独唱が始まり、先日見た動作から曲が始まる。
「ここはこんな感じなのか」
八幡は目を輝かせながらフランシュシュの姿に見入り、そこである事に気が付いた。
「………なんかゆうぎりさんとずっと目が合ってる気がするな」
「「むむっ」」
エルザと詩乃はそう言われ、じっとゆうぎりを観察したが、
確かにその目線は八幡から離れない。
ウィンクや、こちらに来るように誘うような仕草、はては投げキッスまでも飛び出し、
八幡は赤面状態に、二人はぐぬぬ状態になった。
「あれで十九っていうんだから驚きだよなぁ………」
八幡がぼそりと呟き、二人は驚きで目を見開いた。
「エルザ、そうなの?」
「さすがにそこまで詳しくないけど、八幡が言うならそうなんじゃない?」
「むぅ、三人目………」
そのまま曲は進行し、決めポーズで無事に終わった後、
ゆうぎりはわざわざ八幡の所まで来て一礼し、八幡の耳元で何か囁いて去っていった。
「は、八幡、何だって?」
「ん?おお、『たまにはわっちも遊びに誘っておくんなんし』だってよ」
「「ぐぬぬ………」」
こんな若干の波乱もあったが、会はつつがなく進行し、時刻は夜の十一時半となっていた。
「よ~し、全員で除夜の鐘を鳴らすか」
おもちゃのような鐘ではあったが、その音は雰囲気満点であり、
参加者達はきゃあきゃあ言いながら鐘を鳴らしていく。
そして年が終わり、時計の針が十二時をさし、新たな年が始まった。
「「「「「「「「「「あけましておめでとう!」」」」」」」」」」
そこで会はお開きとなり、八幡は予告通り、全員を見送った。
残るは内輪の片付け要員だけである。
「八幡君、今年もいい年になるといいね」
「ああ、そうだな」
八幡と明日奈は一緒に仲良く片付けをし、女性陣は明日奈の引率でマンションへと向かい、
八幡はそのまま次期社長室へと再び戻り、この日は大人しく眠りについた。
クリスマスで頑張った為、こちらは穏やかな描写になりました!