ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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すみません、今週も忙しく、次の投稿も日曜日になります、申し訳ありません


第1081話 八幡の初詣

 そして次期社長室で迎えた元日の朝、八幡はまだまどろみの中にいた。

いつもなら既に目覚めている時間なのだが、アルコールが入っているせいもあり、

まだ頭がしっかり働いてくれないのである。

その時夢うつつな八幡の耳に、パシャパシャとシャッターのような音が聞こえてきた。

 

(何だ………?)

 

「お・は・よ・う」

「ご・ざ・い・ま・す」

 

 同時にどこかからそんな声が聞こえた気がした。

だがその声はとても小さな声だった為、八幡は空耳だと思い、特に何も反応しない。

直後に何かが体をまさぐる気配がし、八幡は何となくその何かを思いっきり抱いた。

途端に息を飲む気配がし、右腕と左腕、それぞれの中で何かがもそもそと動いた。

 

「ん………?」

 

 ここで八幡の脳が少し覚醒したが、腕の中の二つの物体が、

まるで抱き枕のように抱き心地が良かった為、

それが再び眠気を誘い、八幡は再びうとうととし始めた。

そんな八幡の耳に、ぼそぼそと小さな声が聞こえてくる。

 

「ど、どうしよう」

「明日奈、顔がにやけてるわよ」

「ハ、ハレンチです………」

「純子、ニヤけすぎ。あと羨ましい………」

 

(………………ん?この声は明日奈と雪乃、それに純子と愛?)

 

 八幡の脳が、何かがおかしいと警鐘を鳴らす。

だが警鐘よりも眠気が勝り、八幡の体は全く動こうとしてくれなかった。

 

(これが明晰夢って奴か………?でもいい匂いがする)

 

 八幡は両腕に力を込め、抱き枕を抱き寄せ、交互にその匂いを嗅いだ。

その瞬間にまたシャッター音が聞こえ、遂に八幡の脳が完全に覚醒した。

 

「なっ、何だ?」

 

 慌てて体を起こすと、八幡の腕の中には明日奈と純子がいた。

 

「………………へっ?」

 

 見渡すと、他にも室内には雪乃、クルス、理央、かおりの寮住まい組がいた。

その横には愛の姿もある。

 

「え、何これ?どういう事?」

 

 しばしの沈黙。そして純子が頬を染めながら、何故かひそひそ声で囁いてきた。

 

「お、おはようございます」

「………………あっ」

 

 八幡は動画でこういう番組を見た記憶があった。

 

「まさかこれ、寝起き………ドッキリか?」

「あっ、はい」

 

 これは昨日の忘年会の雑談で、昭和脳の純子がたまたま言った話を実現しようと、

その場にいた者達が示し合わせた結果である。

雪乃の手引きで次期社長室に侵入した一同は、八幡の寝顔を見てニヤニヤしつつ、

その寝顔を写真に収めて悦に入っていた。

そしてそろそろ起こそうと、代表して明日奈と純子が声を掛けた瞬間に、

二人が八幡に捕まったと、まあそういう事らしい。

雪乃のその説明を聞いた八幡は深いため息をついた。

 

「はぁ………いや、まあいいけどよ」

「それよりも八幡君?」

「ん?」

「いつまで二人を抱き締めたままでいるつもりなのかしら?」

「あっ、そうだった、すまん!」

 

 八幡は慌てて二人から手を離したが、

二人はお互い顔を見合わせ、その場を動こうとしない。

 

「明日奈!」

「純子!」

 

 そんな二人を雪乃と愛が八幡から引き離す。

 

「てへっ」

「ご、ごめんなさい」

 

 その瞬間に、これを好機と思ったのか、クルスと理央が八幡の懐に飛び込んだ。

 

「八幡様、私の方が抱き枕としての性能がいいですよ」

「た、多分、私も!」

「こら!」

 

 その二人はかおりが即座に排除した。

 

「二人とも、もう出かけるんだからいい加減にしなさい」

「「はぁい」」

 

 二人はあわよくば、程度の気持ちだったのだろう、返事をして素直に立ち上がり、

そのままいそいそと八幡に着替えを持ってきた。

 

「ささ、八幡様、このマックスがお着替えのお手伝いをしますね」

「私も私も!ほら八幡、脱いで脱いで」

「おわっ、やめろ!寒い、寒いっての!」

 

 八幡はいきなり脱がされそうになり、必死に抵抗した。

だが先ほどは止めてくれた雪乃や愛、それにかおりが何故か二人を止めてくれない。

 

「お、おい雪乃!愛!かおり!」

「………残り時間を考えると、この際仕方がないわね」

「八幡ごめん、もうそろそろ予定の時間だから………」

「雪乃がそう言うなら仕方ないと思うんだよね」

 

 三人は八幡の呼びかけに応えてはくれないようだ。

 

「あ、明日奈、こいつらを止めてくれ!」

「ごめん、止めたいのはやまやまだけど、本当にもう出かける時間だから」

「分かった、自分で着替えるから!」

「そうですか?それじゃあ仕方ないですね」

 

 八幡の必死の訴えでやっとクルス達が止まり、理央が舌打ちをした。

 

「チッ」

「今お前、舌打ちしたよな!?」

「何?気のせいじゃない?」

「くっ、図太くなりやがって………」

 

 八幡はそう言いつつも、寒い為にさっさと着替えようとして、その手を止めた。

 

「………おい」

「何かしら?」

「着替えたいんで全員部屋から出てって欲しいんだが」

「大丈夫よ、みんな、目隠ししましょう」

 

 その雪乃の音頭に従い、その場にいたほとんどの者達は目を手で隠した。

 

「………まあいいけどな」

 

 八幡は雪乃に口で勝つ事の困難さを知っている為、説得するのを諦めた。

そして上着に手をかけ、首の辺りまで上げたところでピタリと手を止めた。

 

「………おい」

「何かしら?」

「その手、隙間だらけだよな?絶対こっちが見えてるよな?」

「何の事かしら、遂に脳が腐ったの?」

「………まあいいけどな」

 

 室温は適温ではあったが、やはり裸同然の姿で長時間いるのは辛い為、

八幡は女性陣の視線を気にせず着替え始めた。

 

「は、八幡君、もう少し、もう少しこっち向きで!」

「明日奈、お前、まさか飲んでないよな?」

「何それウケるし」

「久々に聞いたなそれ」

「昔と比べると随分筋肉質になったのね」

「雪乃さぁ、お前、絶対見えてるよな?」

「八幡様、男らしいです!」

「マックスはさぁ、せめて隠してるフリはしような」

 

 この言葉通り、クルスだけは一切何も隠さず、八幡をガン見している。

 

「八幡、ちょっとは隠そうよ」

「おい理央、誰のせいでこうなってると思ってやがる」

「は、八幡、着替え終わったら教えてね」

「俺の味方は愛だけか………」

「おはようございます」

「純子、それはもう終わったから」

 

 こうして朝からどっと疲れる事になったが、

とにもかくにも八幡は出かける準備を終え、

参加出来る者達と連れ立って柳林神社へと向かう事となった。

 

 

 

「ん、あれ、紅莉栖?」

「くっ、殺せ!」

「いきなり何だよ………」

 

 柳林神社にはさすが正月らしく、それなりに人がいた。

そしてその応対をしている者の中に、巫女服姿の紅莉栖が混じっていたのだった。

 

「お前、何してんの?」

「見て分からない?手伝いよ、手伝い」

「キョーマはいないのか?」

「岡部も手伝いさせられてるわよ、後で顔を出してあげて」

「おう、分かった」

 

 そんな八幡一行に気付いたのか、向こうから顔立ちの整った巫女が駆け寄ってきた。

 

「八幡さん、あけましておめでとうございます!」

「お、るか君、正月から頑張ってるみたいだな、ウルシエルとは大違いだな」

「いや、私もここにいますからね?」

 

 一見すると美少女にしか見えない漆原るかが、

紅莉栖と共に巫女服で甲斐甲斐しく働いている。だが男だ。

その後ろからえるが姿を見せ、頬を膨らませながら八幡を睨んだ。

 

「何だ、お前もいたのか」

「当たり前じゃないですか!弟だけ働かせたりしませんよ!」

「ふ~ん、あ、るか君、これ、お年玉な」

 

 事前に準備していたのか、

八幡は懐からALOの図柄のポチ袋を取り出し、るかに差し出した。

 

「えっ?いいんですか?ありがとうございます!」

「わ、私には!?」

「何でお前にあげないといけないんだよ………と言いたいところだが、

まあ約束だからな、ほれ」

 

 八幡はそう言いながら、『えるへ』と書かれているポチ袋を取り出した。

 

「やった!」

「それじゃあぽいっと」

 

 八幡はそれを容赦なく賽銭箱に放り込んだ。

 

「あああああ!何するんですか!」

「だってこうしろってお前が言ったんじゃないかよ」

「た、確かにそうですけど!ぐぬぬ、こうなると、中から出せるのはしばらく先に………」

 

 だが自分がそう言ったのは確かな為、えるは落ち込みつつも、

その八幡の行動にそれ以上抗議は出来なかった。

 

「よし、それじゃあみんな、お参りしようぜ」

 

 順番にお賽銭が投げ込まれ、参加者達がかわるがわる願い事をお祈りしていく。

八幡も、先ほどのえるへのお年玉とは別に賽銭を投げ込み、

仲間達に囲まれながら、神様にお祈りをした。

 

「少し騒がしいですが、こんな幸せな日々がいつまでも続きますように」




八幡がえると約束したのは第698話ですね!

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