「あの……」
「ん、どうしたリーファ」
「お兄ちゃん、先輩って、もしかしてみんなはリアルでの知り合いなの?」
ユキノはそれを聞いてハッとし、慌てて説明を始めた。
「ごめんなさいリーファさん、まだ説明してなかったわね。
その通り、私達は全員リアルでの知り合いなの。
ハチマン君とキリト君とは、事情があってしばらく離れていたのだけれど、
最近再び合流する事が出来たのよ」
「なるほどね。そういう事だったんだ」
「ごめんなさい、隠すつもりは無かったのだけれども」
「あ、ううん、違うのユキノ。実はね、ちょっと羨ましいなって思って」
羨ましい、と聞いてユキノは、ある一人のプレイヤーの事を思い出し、リーファに尋ねた。
「……リーファさんとレコン君も、リアルでの知り合いじゃなかったかしら」
「あー、うん、確かにレコンとはリアル繋がりなんだけどね。
まあでもレコンとは、ただの腐れ縁かな。みんなから感じる絆の強さと比べるとちょっとね」
それを聞いた一同は、どうやらみなレコンに同情したようだ。
(レコン、ドンマイだ)
(レコン……報われない奴……)
(レコン君、いつかきっと報われる時が来る……かもしれないわ)
(レコン君、かわいそう)
(これは完全に友達認定ですね)
(レコンって誰だっけ……)
「あっ……」
そんな中、ユキノが再び何かに気付いたように声を上げた。
「ん、どうしたの、ユキノ」
「そういえば私がリーファさんにお願いしたのは、
二人と私達が合流するための案内、って事だったわよね」
「あ、そういえばそうだったかも」
「ここからは多少危険が伴うわ。これ以上リーファさんに無理を言うのは……」
「あー、そういう事ね。気にしないでユキノ。シグルド達とも決別したし、
私はこれからは私の意思で、みんなに協力する事にしたから」
「……ありがとう、リーファさん」
「リーファ、ありがとな」
「頼りにしてるぜ、リーファ!」
リーファはキリトの笑顔を見てドキッとしたのだが、
それを悟られないように、慌てて全員に笑顔を向けた。
「というわけで、これからも宜しくね!」
それを聞いて、みな口々によろしくと挨拶を返した。
そして引き続き、ユキノがリーファに話しかけた。
「リーファさん、リーファさんも知っていると思うけど、
私達のパーティは、今までずっとどこの勢力にも加担せず、極力中立を保ってきたわ。
でもその方針を貫くのは、この瞬間に終わりという事になったわ。
私達は今後、このハチマン君と共に歩む事を、ついさっきみんなで話し合って決めたの。
その事をまずあなたに伝えておくわね」
「えっ?」
「もちろん俺もずっとハチマンと一緒だぞ」
「お前ら……」
「そっか、ユキノじゃなくて、ハチマン君がみんなの中心なんだね」
「お、おう……なんかそうみたいだな」
「ふふっ、何でハチマン君がそんなに自信無さげなのよ。
でもそっかぁ……私はどうしようかな……」
そんなリーファの様子を見て、キリトが何気なくこう言った。
「リーファは今のところ、どこにも行くあてが無いんだろ?
それならとりあえず、何かが決まるまで俺達と一緒にいればいいんじゃないかな」
「……いいの?」
「もちろんいいに決まってるさ。なあ、ハチマン」
「ああ。リーファもこの前言ってただろ。友達の友達なんだから、もう私達も友達だって。
リーファがそれでいいなら、何も遠慮する事は無いぞ」
「ありがとう……うん、何かやる気が出てきた!改めてよろしくね!」
「こうしてチームハチマンの勢力は、どんどん拡大されていくのであった」
「おいキリト、何ナレーター口調で言ってるんだよ。それにチームハチマンって」
「絶望的にセンスの無い名前ね。もう少しまともな名前を考えておきなさい、ハチマン君」
「そうだよお兄ちゃん、コマチも妹としてちょっと恥ずかしいよ」
「私はまあそれでもいいと思うけどね」
「ユイユイ先輩、それは無いです」
「う……いずれギルドも設立するつもりだから、その時までの宿題って事で頼む」
「格好いい名前を頼むぜ、ハチマン!」
「お、おう……苦手なんだけどなそういうの……」
その時、会話を聞いていて我慢出来なくなったのか、
ハチマンのポケットからユイが飛び出し、くるくると周囲を飛び始めた。
「私もいますよパパ!私もチームハチマンの一員なのです!」
「あら、あなたが噂のユイさんね。始めまして、私はユキノよ」
ユキノが最初にそう言い、他の者も口々に自己紹介をした。
「私はユイです!パパの娘です!」
そう言ってユイはハチマンの頭の上に乗り、腰に手を当てて仁王立ちのポーズをとった。
ユイは明らかにドヤ顔だったのだが、その姿がとてもかわいく感じられたのか、
女性陣は口々にユイに話しかけ、楽しそうにしていた。
しばらくして場が落ち着くと、まずリーファがハチマンに話しかけた。
「で、これからどうするの?まず敵を殲滅してから、同盟の締結地点に向かうのよね?
てっきりユキノ達が受けた同盟締結現場の護衛の依頼のためだと思っていたんだけど」
「ん、そうか、そう思ってたんだな。まあ基本的にはそれで間違いないぞ」
「基本的にはって事は、他に何かあるの?」
「ああ。まずシルフとケットシーの領主に多額の金銭と引き換えに、協力を依頼する。
その金で装備を整えてもらって、アルンへと向かい、グランドクエストに挑む。
それが俺達の当面の目的だな」
「グランドクエストお?」
「ああ。なあリーファ、リーファはグランドクエストの仕様に疑問を感じた事は無いか?」
「どういう事?」
ハチマンは、以前から感じていたグランドクエストの仕様についての疑問を、
リーファに丁寧に説明した。リーファもどうやら以前から思うところがあったようだ。
「そうか、私が何となくグランドクエスト関連で、もやもやしてたのって、
多分そういう事だったのかもしれない」
「言われてみると、色々とおかしいだろ?」
「うん。まるでゲームの運営を長く続ける気が無いように思える」
その言葉を聞いたハチマンは、呆然としたように呟いた。
「ゲームの運営を長く続ける気が無い……だと」
「あ、ごめん、ただの感想だから気にしないで」
「いや、正直その視点が抜けてたよ。すごい参考になったわ。ありがとうな、リーファ」
「あ、うん、どういたしまして」
「まあそんな訳でだな、いつまでもいがみあってないで、異なる種族同士で協力しあって、
共同でクリアを目指してみるのはアリだと思わないか?」
「確かにアリかも」
「で、とりあえずユキノの伝手で協力を依頼できそうなのが、
シルフとケットシーだったって訳だ。まあキッカケはそんな感じだな」
「そっかぁ……私も前あれで悔しい思いをしたから、また挑戦出来るのは嬉しいかも」
「本当はサラマンダーにも協力を依頼出来たら最高だったんだけどな。
もし今日敵にまわす事になったら難しいだろうな」
「うん、まあそうだよね」
「よし、それじゃあみんなで細かいところを詰めてこうぜ。何せ今は時間がない」
一同は頷き、当面の計画を立て始めた。
まずユキノ達が先行して回廊に入り、途中で敵の正体を確認してハチマンに連絡を入れる。
そのためまずは、ハチマンとキリトは全員とフレンド登録をする事にした。
そしてハチマン達はそれまで街に留まり、まだここにいますよとアピールを続け、
ユキノ達から連絡が入り次第回廊に入り、合流して敵を殲滅する。
そういった段取りが素早く決められ、ユキノ達は目立たないようにフードを被り、
先行して回廊へと入っていった。
「さて、俺達も表に出るか」
「敵はシルフなのかな、サラマンダーなのかな」
「どっちなんだろうな……」
「出来ればサラマンダーの方が私としては助かるんだけどなぁ」
「まあ、普通に考えてそうだよな……もし敵がシルフだったら、
リーファには迷惑をかける事になるかもしれないな」
「ううん、もう私自身で決めた事だからね。
今までお世話になったサクヤには本当に悪いと思うんだけど、私はシルフの街を出るよ」
「そうか……」
「それにあなた達と一緒の方が楽しそうっていうか、
まだ見た事がない物を色々と見れそうじゃない?そういうのってわくわくするよね」
「おう、わくわくするよな!」
「だよね!」
キリトとリーファは楽しそうにそう話していた。
そんな時、ハチマンの下にユキノからメッセージが届いたようだ。
ハチマンはメッセージを確認し、リーファに尋ねた。
「なあリーファ、回廊の中で、湖に橋がかかってる場所って分かるか?」
「あ、うん、回廊の出口側だね」
「どうやらそこで敵が待ち伏せをしているみたいだ。
もしユキノ達が回廊を抜けた先にいない事が分かれば、そっちにもし敵がいた場合、
その戦力も同時に相手にしなきゃいけないかもしれないな」
「うーん、橋が戦場だとするとね、回廊内だと飛べないから、
大人数の展開は出来ない事になるのよね。だからどちらかというとこっちの方が有利かもね」
「確かにそうだな。挟撃さえされなければいけるな」
「まあ敵が何人いようと、俺とリーファは目の前の敵をただ殲滅していくだけだな」
「ふふっ、そうだねキリト君。で、結局敵はどっちだったの?」
「安心してくれリーファ。今回の敵は……サラマンダーだ」