ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第1083話 ミーティングの混乱

 さて、時は戻って元日の午後、初詣を終えた後は特に何も予定はなく、

八幡は次期社長室に戻ってマネージャーの勉強を進めていた。

 

 攻略に関しては、元日にも関わらず一部の者達が狩りを行っており、

この日が終わった時点での討伐数は、五千五百まで伸びていた。

 

「ふう、今日は頑張ったね」

「ハチマンさん、褒めてくれるかな?」

 

 ファーブニルとヒルダがそんな会話を交わし、

フカ次郎やエルザも半分以下の人数でここまで狩れた事で、

高めのテンションで今日の成果を喜びあっていた。

 

「フカちゃん、イェ~イ!」

「ロビン、イェ~イ!」

「アサギも手伝ってもらっちゃってごめんねぇ?」

「ううん、こういう時に稼がないと、いつまで経っても追いつけないしね」

 

 古参のメンバーと比べ、能力が足りてないという自覚がある者達が、

この機会に上との差を詰めるべく、正月返上で頑張っていたのである。

その中にはベルディアやプリン、それにウズメやピュアの姿もある。

四日にミニライブがある為、午後の部しか参加は出来ないのだが、

二人も早くハチマンの役に立ちたいと思っている為、その士気は高い。

 

 仲間達に討伐数を稼いでもらう事を心苦しく思いながらも、

八幡はマネージャー業務を覚える事に余念がない。

八幡は自嘲する。まったく俺はいつからこんな勤勉な人間になってしまったのだろうか、と。

少なくとも社畜の才能が備わっていた事は、かつて本人も言っていた通り間違いないようだ。

 

 二日も同じような感じで進み、討伐数は六千まで増えた。

八幡は四日のミニライブの他、色々な仕事を正月返上で進めていく。

そして日付は変わり、迎えた一月三日の朝、

八幡はソレイユ・エージェンシービルのレッスンルームの入り口前に、

かなり緊張した様子で立っていた。

 

「………遂に本番か」

 

 八幡は服装も幸太郎に寄せており、頑張って代役を果たそうと意気込んでいた。

 

「よし」

 

 八幡は深呼吸をして心を落ち着かせると、ドアを開けて中に入った。

 

「はい皆さん、おはようございま~す」

「「「「「「「おはようございます」」」」」」」

「俺は代役マネージャーの比企谷八幡です。

一昨日はうちの忘年会に参加してくれて、本当にありがとう」

 

 八幡はそう言っていきなり拍手を始める。

 

「最高だったなお前ら!はい拍手、本当に素晴らしかった、みんなで拍手!」

 

 八幡は端から端まで拍手しながら移動していった。

ここまで八幡がやっているのは全て幸太郎のアレンジであり、

その似合わなさにフランシュシュのメンバー達は笑いを堪えるのに必死になりながら、

八幡に合わせて拍手をした。

 

「はい、そして突然ですが、ここで皆さんにお知らせがあります」

 

 八幡は端から端まで拍手を終えた後、中央に戻り、腰に手を当てながら胸を張った。

 

「CMの仕事です、実は俺が企画しました」

「えっ?」

「おお………」

「さすが!」

「そうじゃろそうじゃろ」

 

 八幡は幸太郎を意識してうんうんと得意げに頷きながら、横にあった黒板を回転させた。

 

「これです、はいドン!」

 

 そこには『CM決定!ゾンビ・エスケープ』と書かれていたが、

その文字は上下が逆になっていた。だが八幡はその事に気付かない。

これはわざとやったのではなく、回転させるという事を意識していなかった八幡が、

ただ普通に裏側に回って文字を書いたせいであった。

フランシュシュのメンバー達は、かつて幸太郎が同じ事をやらかした事もあり、

これも幸太郎の真似なのだろうと思っている為、誰も突っ込まない。

 

「マネージャー、ゾンビ・エスケープって何だ?」

「うちで作ってるゲームです」

 

 八幡は平坦な口調で早口でそう答えた。これも幸太郎の真似である。

だがさすがにそれで終わりではなく、八幡は一同に資料を配った。

 

「これがそのパンフレットだ、

今回はゾンビ・エスケープの主題歌も同時に担当してもらう事になるから宜しく。

曲はもう作り始めてて、『徒花ネクロマンス』というらしい」

「「「「「「「おぉ………」」」」」」」

 

 ソレイユに移籍してからまだ日が浅いにも関わらず、いきなりタイアップ成立である。

一同が驚くのも無理はないだろう。

 

「一応みんなには、ゾンビのメイクもしてもらう事になる。

イメージとしてはパンフレットの最後に紙を挟んであるのでそれを見てくれ」

 

 その紙にはおでこにバッテンがついたさくらや、

首が切り離されたような大きな傷があるゆうぎりの加工された写真があり、

一同はきゃっきゃうふふしながらその写真を見て笑っていた。

 

「マネージャー、これって死んだ時の設定とかはあるんですか?」

「あ~、幸太郎さんは、さくらは交通事故でトラックにはねられたとか、

ゆうぎりさんは斬首されたとか、愛はステージの上で雷に打たれたとか、

そんな設定を言ってたな。まあ詳しくは、後日幸太郎さんに聞いてくれ」

「「「「「「「は~い」」」」」」」

 

 その元気な返事に八幡は満足そうに頷いた。

 

「マネージャー、そのゲーム、試しにやってみたいんだけど!

その方が宣伝するにもやりやすいし?」

 

 いかにもこういうのが好きそうなサキがそう言い、他の者達も頷いた。

 

「むむ、確かにそうだな………」

 

 八幡はこの後のスケジュールを考え、空いている時間を探した。

 

「夜の九時から一時間くらいならまあ平気だな、

それまでに準備はさせておくから、その時にみんなで一緒に遊んでみよう」

「やった!」

「さっすが話が早い!」

 

 一同はその提案に喜んだが、その時事件は起こった。

八幡がうっかり黒板の方に振りかえってしまったのだ。

上下が逆になったその黒板を八幡は二度見し、その顔が赤く染まっていく。

幸太郎が同じ事をやらかした時は、同じように二度見はしたものの、

その後は平然としていたが、ただでさえ緊張していた八幡は平静ではいられなかったらしい。

そしてそんな八幡の表情を見た一同は、

これが仕込みではなくただのミスだった事に気が付き、口々に八幡を励ました。

 

「ドンマイ、マネージャー!」

「八幡、気にしないで!」

「誰にだってミスはありますよ」

 

 その励ましに八幡は、ギギギと音が聞こえるような仕草で振り向いた。

 

「え、え~っと………」

 

 何とかこの場を和まさなければいけない、八幡はそう考え、

テンパった頭できょろきょろと辺りを見回した。

その目に、部屋の隅に何故か置いてあった、フランスパンのぬいぐるみが飛び込んでくる。

 

(あれだ!)

 

 八幡は幸太郎の教えを思い出し、つかつかとそのフランスパンのぬいぐるみを手に取った。

そして満面の笑みを浮かべた八幡は、

元の場所に戻ってそのフランスパンを肩にかつぎながら言った。

 

「メルスィ~?」

 

 一同はその姿にかつての幸太郎の姿を重ねていた。その時の経緯はこんな感じである。

 

 

 

「あっはぁ………メルスィ~?」

 

 本物のフランスパンをかつぎ、そう言った幸太郎を見て、

幸太郎の奇行に慣れて入る一同も、さすがに戸惑った。

そして幸太郎は愛につかつかと近寄り、その耳元でこう言ったのである。

 

「ボンジュール、サガジェンヌ………」

「はぁ?」

「サガジェェェンヌ………」

 

 愛が嫌そうにそう答えたが、幸太郎は尚も、『サガジェンヌ』を連呼する。

 

「チッ」

 

 愛は心底うさったそうにそう舌打ちし、仕方無しにこう答えた。

 

「はいはい、サガジェンヌサガジェンヌ」

 

 直後に幸太郎は体を起こし、

その手に持ったフランスパンを、思いっきり愛の頭に叩きつけた。

 

「お前のどこがサガジェンヌじゃい!」

 

 それを受け、気の強い愛は即座に反撃をした。

幸太郎の手からフランスパンを奪い取り、その横っ面に叩きつけたのである。

 

「何なの!」

 

 幸太郎は僅かな時間、その場に蹲った後、スッと立ち上がり、

ちっともサガジェンヌになれていないと、全員に説教を始めたのであった。

 

 

 

「純子はん、これって………」

 

 ゆうぎりがひそひそと、隣にいた純子に話しかける。

 

「あの時の再現になるんでしょうか………」

「でも今の愛ちゃん、純子ちゃんと一緒でマネージャーにベタ惚れだよね?」

「っ………」

 

 逆の隣に座っていたさくらにそう言われ、純子は顔を赤くして下を向いた。

 

「さくらはんも中々言いますなぁ」

「いや、だって一目瞭然だし?

あっ、というかゆうぎりさんも確かこの前の忘年会の時………」

「うふふ」

 

 ゆうぎりははぐらかすような笑顔を見せた。その時八幡が、予想通り愛に近付いていく。

 

「やっぱり愛さんに行きましたね」

「どうなるでありんすかね」

「う~ん………」

 

 当の愛は、顔を赤くして八幡を見上げていた。

この時点で幸太郎に対するものと、態度が明らかに違っている。

そして八幡は、目をぐるぐるさせたまま機械的に愛の耳元でこう囁いた。

 

「ボンジュール、サガジェンヌ」

「うん、私、八幡のサガジェンヌ!」

 

 愛は満面の笑みでそう言って立ち上がり、いきなり八幡に抱きついた。

 

「「「「「「あっ」」」」」」

 

 その行動に残りの六人は驚いたが、八幡は何故か動こうとしない。

その口からはぶつぶつと、『舌打ちと同時にパンで叩く』と聞こえてくる。

どうやらまだあっちの世界にいるようで、

今自分が愛に抱きつかれている事にも気付いていないようだ。

 

「上手くやりましたね愛さん………チッ」

 

 その時純子が若干黒い表情でそう舌打ちし、

それをトリガーとして認識した八幡が動き始めた。

 

「お前のどこが………」

 

 そう言って八幡はフランスパンを振りかぶったが、

叩く対象が椅子に座っていない為、その目が泳いだ。

 

「むっ………」

「もう、八幡のサガジェンヌはこっちだってば!」

 

 愛がそう言って八幡の顔を自分の方に向け、その勢いのまま、愛の唇が八幡の唇に近付く。

 

「「「「「ああああああ!」」」」」

 

 純子以外の五人はあまりの出来事にそう叫んで硬直したが、そんな中、純子だけが動いた。

 

「させません!」

 

 純子はそう言って八幡に抱きつくと、二人の間に手を差し込み、

愛の唇は純子の手の甲にキスをする事になった。

 

「セーフです!」

「くっ、純子………」

「ん………おお?」

 

 そこでやっと八幡が覚醒した。

 

「えっ?何この状況」

 

 その時ゆうぎりがスッと動いた。ゆうぎりは完全にフリー状態の八幡の右側に移動し、

その頬にいきなりキスしたのである。

 

「「あああああああああ!」」

「愛はん、純子はん、油断大敵でありんすな」

 

 ゆうぎりはそう言うと、八幡にウィンクし、そのまま自分の席に戻った。

 

「ずるい!」

「わ、私も!」

 

 愛と純子がそう言って八幡に迫ったが、八幡は既に覚醒しており、

両手で二人の額に手を当て、その攻撃を押し戻した。

 

「お、お前達、これは何の真似だ!」

「「ぐぬぬぬぬ」」

 

 ここに至ってはもうどうしようもないと悟った二人は悔しそうに自分の席に戻り、

残された八幡は、呆然としながらゆうぎりの顔を見た。

 

「えっと………」

 

 ゆうぎりはそんな八幡に、舌なめずりで答えた。

その色気に圧倒され、八幡はそれ以上何も言えずに黒板の前に戻り、

丁度その時振り付けの先生が部屋に入ってきた為、咳払いをした後にこう言った。

 

「よ、よし、それじゃあレッスンを開始しよう」

 

 こうしてこの日のミーティングはゆうぎりの勝利で幕を閉じる事となった。

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