ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第1084話 レッスンを終えて

 レッスンを終えた後の休憩時間に、

愛は三角座りをしながら八幡の方を潤んだ目で見つめ、一人ため息をついていた。

 

「はぁ………せっかくのチャンスだったのに………」

「愛さん、あれはさすがにやりすぎです」

 

 そこに純子がやってきて、愛の隣に座った。

 

「だ、だってあんなに近くに八幡の顔があったんだよ?

そしたら盛り上がっちゃうじゃない」

 

 愛は頬を膨らませながら、純子にそう言い訳した。

 

「その気持ちはよく分かりますけど………」

 

 そう言って純子もハチマンの方を見つめた。

その八幡は、今は楽しそうにゆうぎりと何か話している。

 

「とんだ伏兵が………」

「まあゆうぎりさんだけで済んで良かったかもしれませんよ」

「それはそうかもだけど………」

「とにかく元気出していきましょう、別に八幡さんに嫌われた訳じゃないんですし」

「っ………うん、そうだね!」

 

 愛は切り替えたのか、明るい顔でそう言った。

 

「すみません、失礼します」

「お、二人とも、良く来てくれたな」

 

 そんな中、レッスンルームに見知らぬ二人組の男が入ってきた。優介と公人である。

 

「みんなすまん、ちょっと聞いてくれ。この二人は今度うちの専属になる予定なんだが、

ゾンビ・エスケープの宣伝用の絵を描く為に、みんなの事をスケッチしたいんだそうだ。

出来上がった後に描いた物を見せてもらうからおかしな物を描かれる心配も無いはずだ。

という訳で、自然にしてくれてればいいからちょっと協力してくれないか?」

「あっ、そういう事だったんだ」

「綺麗に描いてね!」

 

 その言葉に、一同は口々にそう頷いた。

そのままレッスンは続けられ、二人はスケッチブックに何か描き始めた。

どうやら分業しているらしく、優介が描いた絵に、公人が着色をしているようだ。

 

「どんな絵になるのかな?」

「楽しみだね」

 

 フランシュシュの七人は、終わった後にそれを見せてもらうのを楽しみに、

いつも以上にレッスンを頑張る事となった。

 

 

 

「八幡兄貴、今日は本当にありがとうございます」

「まさかアイドルのレッスン風景をスケッチ出来る日が来るなんて………」

 

 何をやっても上手くいかず、腐っていた二人に光を与えてくれたのだ。

二人は本気で八幡に感謝していた。

 

「二人の創作活動の役にたてたなら嬉しいな」

 

 八幡は親しげな態度でそう言い、二人は八幡への尊敬を新たにした。

まったく変われば変わるものである。

 

「おい公人、兄貴って、凄えいい人だよな」

「まったく俺達は今まで何を見てきたんだろうな………」

 

 二人はそんな会話を交わしつつ、

共同でフランシュシュのメンバー達を、アニメチックな絵としてデザインしていった。

その作業は二人にとって、とても楽しかった。

 

「よし………こんなもんか」

「いい出来だよな」

「そうだ、ついでにフランシュシュの人達が兄貴を囲んでる絵を描こうぜ」

「いいなそれ!」

 

 時間が余った為、二人はそう相談し、チラチラと八幡の観察を始めたのだった。

 

 

 

「よし、今日はこのくらいかな」

 

 レッスンも無事に終わり、多少時間的余裕を残した状態で、

この日のレッスンは終了する事になった。

もっとも去年のうちに、ミニライブの練習は嫌というほどこなしていたので、

この日はなるべく通して各人の動きを確認するという意味合いが強かった為、

時間いっぱいやる必要が無かったという側面もある。

 

「「「「「「「「「お疲れ様でした!」」」」」」」」」

 

 フランシュシュの七人と、無事に絵を描き終え、

ここまで見学していた二人が元気よくそう挨拶し、一同は優介と公人を囲むように集まった。

 

「二人とも、どんな絵が描けたか見せて?」

「凄く楽しみ!」

 

 アイドルに至近距離で囲まれるという、人生で一番ドキドキする状態になった二人は、

おずおずとスケッチブックを一同に差し出した。

 

「ど、どうぞ」

「ありがとう!」

 

 そしてフランシュシュのみんなが集まってスケッチブックを覗きこむ。

そのスケッチブックはアニメ絵でありながら、

誰が見てもフランシュシュのメンバーだと分かる、

簡単に色鉛筆で彩色された、見事なイラストで埋め尽くされていた。

特に注目を集めたのは、最後に描かれた全員の集合した絵である。

 

「「「「「「「おおおおおおお」」」」」」」

 

 メンバーからの評価が上々である事がその声から分かり、二人は誇らしげに胸を張った。

そんな二人の絵を八幡がポンと叩いた。

 

「良かったな、二人とも」

「「は、はい!」」

 

 この二人、先ほどそうしていたように、優介が人物担当、公人が背景と配色担当である。

優介は人物を描くのは上手いが、色付けのセンスが致命的に無く、

逆に公人はとても幻想的な風景を描け、色使いのセンスも最高なのだが、

人を描かせるとまるで子供のお絵かきのようになってしまう。

そんな半人前な二人だが、二人が一緒になると、その力は何倍にも膨らむのだ。

 

「ねぇ、この絵、もらえないかな?」

「コ、コピーで良ければ………」

「やった!マネージャー、お願い!」

「なぁ、これ、俺にもくれないか?」

「もちろんオーケーです!」

 

 こうしてその絵は全員に配られる事となった。

 

「それじゃあ後日、どんな絵が必要なのか、担当者と話し合って決めるとしよう」

「俺達、それまでにこの絵を元に、色々なシーンを描いてみます!」

「ALOもゾンビ・エスケープも一応知ってるんで!」

「ん、無理はしないでくれよな」

「心配してくれてありがとうございます!」

「でも俺達、今、凄く絵が描きたいんです」

「そうか、なら好きにしてくれていい」

「「はい!」」

 

 八幡は顔を綻ばせ、二人を激励した。

 

「描けたら一番に見せてくれ、俺もゾンビ・エスケープはかなりやり込んでるんだ」

「そうなんですか?」

「おう、千葉デストロイヤーズっていうチームでS級クエストまでこなしてるぞ」

「あっ!」

「あそこって、八幡兄貴のチームだったんですか!」

 

 現在S級クエストをクリアした事があるのは千葉デストロイヤーズだけであり、

二人はその事を知識としては持っていたらしい。

この事で、二人は益々八幡への尊敬を高める事となった。

こうなるともう、八幡を裏切る事は絶対に無いだろう。

 

「それじゃあ二人とも、

俺はフランシュシュを連れて、ゾンビ・エスケープを体験させてくるわ」

「ご武運を!」

「あはは、お試しだから、一番下のランクの無双クエストをやるだけだって」

「なるほど、撃って撃って撃ちまくれ!」

「そんな感じだな」

 

 三人は笑い合い、優介と公人は、キットの自動運転に送られて自宅へと戻っていった。

二人の寮の部屋はもう手配してあるが、さすがに正月は業者も動かず、

入居出来るのは来週以降になってしまうのである。

 

「さて、俺達はゾンビ・エスケープに殴り込みかな。

まあただ銃の引き金を引くだけの簡単な仕事だから、みんな気楽にな」

 

 その言葉に一同は、おう!と拳を上げた。

そしてレッスン中に特急で用意されたアミュスフィアを渡された一同は、

集合時間までにログイン出来るように、入浴などの色々な準備を済ませ、

一時間後にゾンビ・エスケープの広場へと集合したのだった。

 

 

 

「………いや、まあこうなるとは思ってたけどな」

 

 ロビーにいたのは現実でのフランシュシュのメンバーと、寸分違わぬキャラ達であった。

今回は八幡は、キャラ作りから拠点の構築まで、

交代で出勤している開発陣の一部に丸投げしたのだが、

その開発陣は妙な情熱を持って、フランシュシュのメンバー達の姿を再現したらしい。

愛と純子に関しても、このキャラはコンバートなのだが、

その外見はALOと全く一緒で、リアルとそっくりになるように調整されていた。

 

「ここじゃ目立っちまうな、とりあえずこっちだ」

 

 八幡はそう言って、一同を教えられていた新設の拠点へと案内した。

そこはソレイユ関係の者達がこういった時に利用する為のもので、

千葉デストロイヤーズの持つ装備やらの資産関係も、ここに移動させられていた。

その為以後、千葉デストロイヤーズもここを使う事になる。

ちなみに特別な拠点であるという事以外、特に優遇はされていない。

ただ単に、プライベートが守られるというくらいである。

 

「よ~し、それじゃあ早速やってみるか」

「よっしゃあ、腕が鳴るぜ!」

「撃って撃って撃ちまくればいいんだよね?」

「そんな感じかな、それじゃあパーティを組むから誘いを受けてくれ」

 

 愛や純子は他の者よりは慣れているのでスムーズに、

他の者達もおっかなびっくりながら、無事にパーティを組む事が出来、

そのままそのチーム『フランシュシュ』は、廃墟と化した市街地へと転送された。

 

「うわぁ、リアルですね」

「あの遠くに見えるのがゾンビかな?」

「近くで見ると結構グロそう………」

「こんなピコピコもあるんですね」

 

 七人は楽しそうにそう言いながら、八幡の後に従い、進んでいった。

 

「来るぞ、みんな、構えてくれ!」

 

 遠くから敵が近付いてくるのが見え、八幡はそう指示を出した。

フランシュシュのメンバー達はその声に従い、銃を構える。

 

「それじゃあみんな、遊びだと思って好きなように撃て!」

 

 そう言いながら八幡は、左右に気を配り始める。

そして正面の敵に向け、一同は銃撃を開始した。

 

「おらおらおら!特攻隊長様のお通りだ!」

「バババババババ」

「これは思ったより気持ちいいでありんすな」

「快………………感」

 

 思ったより楽しかったのか、

このステージを三回もおかわりしたフランシュシュのメンバー達は、

最後に八幡にゾンビ・エスケープ内の施設の説明をされ、

すっかりはまってしまったらしい。

 

「普通に買い物もここで出来るんだ、凄いね」

「実際に手にとって実物を確認出来るのはいいね」

「私、癖になりそうです」

「ランクが上がれば優遇してもらえるんだね、息抜きでたまに来よっか?」

「まあたまにみんなで遊ぶのはアリだろうな」

 

 こうしてゾンビ・エスケープデビューを果たしたフランシュシュは、

このゲームの事をもっと宣伝しようという気になり、

CMに対しても、熱心に取り組む事となったのだった。

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