ミニライブが終わり、
一度目のカーテンコールで某焼き鳥一番鳥飯二番なお店のCMソングを披露し、
それでは物足りないと行われた二度目のカーテンコールを終えたフランシュシュは、
控え室に戻り、八幡に泣きながら拍手され、戸惑いつつも喜びを感じていた。
「お前ら最高だ、ナイスバード、鳥で満足!」
「あはははは、もう真似はいいから!」
「そうそう、幸太郎さんには幸太郎さんなりの良さがあるんだから、
八幡さんは八幡さんなりの良さを追及すればいいんですよ」
「あれ、でも八幡がマネージャーをやってくれるのって今日で終わりなんじゃ………」
「確かそうでありんしたな」
「え~?もっとやってよぉ!」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、さすがにそれはなぁ………」
八幡とて、マネージャー業務は思ったよりも楽しく、
可能ならたまには参加したいという気持ちもあったが、
やはり本職のようにはいかない為、フランシュシュの事を考えると、
安易にやりたいと言う訳にはいかなかった。
「う~………」
「いっそ、幸太郎はんを暗殺せんと」
「それだ!」
「冗談………だよな?」
この時病院から家に戻っていた幸太郎は、背筋が寒くなったという。
だが当然そんな事は行われず、次の日から普通に幸太郎がマネージャーに復帰する事となる。
「さて、それじゃあお疲れ様!今日はゆっくり休んでくれ」
「「「「「「「お疲れ様でした!」」」」」」」
本来なら打ち上げをやるべきなのかもしれないが、
フランシュシュのライブはいつも全力投球な為、
正直メンバーにそんな体力は残っていない。
事実帰りの車の中では、ほとんどのメンバーが寝てしまっていた。
そしてソレイユ・エージェンシービルに着いた後、
八幡は唯一起きていたゆうぎりに手伝ってもらい、
一人ずつメンバーを起こし、まとめて部屋まで引率していった。
「八幡、それじゃあまた明日ALOでね」
「おう、またな、愛」
「八幡さん、おやすみなさい」
「今日はぐっすり寝てくれよな、純子」
最後まで八幡から離れようとしなかった二人もさすがに限界だったのか、
そう言って大人しく自分の部屋に戻っていった。
そして八幡は、最後まで付き合ってくれたゆうぎりにお礼を言った。
「ゆうぎりさん、ありがとな」
「………どうして八幡はんは、年下のわっちに、さん付けするんでありんすか?」
「いや………まあ、その、何となく?」
「何となく………」
ゆうぎりは八幡をジト目で見た後、いきなり八幡に平手打ちをしようとした。
「八幡はん!歯を食いしばりなんし!」
「え、やだよ」
八幡はそう言ってゆうぎりの手首を掴み、その平手打ちをあっさり防いだ。
「いきなりだな」
「くっ、ならば右の頬を出しなんし!」
「いやいや、それ言っちゃ駄目な奴だろ」
八幡はゆうぎりの左手をもあっさりと止め、
二人は向かい合って両手を繋いでいるようなおかしな状態になった。
「やるでありんすな」
「というか、何でいきなり平手打ちだよ」
「八幡はん、わっちの事は、今後は呼び捨てにしなんし」
その問いを無視し、ゆうぎりは八幡にそう迫った。
「いや、まあそうしろって言うならそうするけどな、ゆうぎり」
八幡に名前で呼ばれたゆうぎりは、柔らかな笑顔を見せ、手から力を抜いた。
「ふう」
「わっちが叩けなかったのは八幡はんだけ、
つまり八幡はんは、わっちの初めての人になりんした」
「誤解を招くような発言はよせ」
「まっこと、つれないでありんすなぁ」
「いや、俺は普通だからね?」
「とりあえずお茶を用意しんす、わっちの部屋で少し休みなんし」
「何か命令みたいに聞こえるんだが」
「女に恥をかかせるもんじゃありんせん」
「だからその言い方は誤解を招くからやめようね?
というか現役アイドルの部屋に、のこのこ俺が入る訳にはいかないだろ」
「なら玄関でドアを開けたままという事で妥協しんさいな」
「………分かった、世話になる」
何度も往復したせいもあり、八幡は確かに疲れていた為、ゆうぎりに甘える事となった。
「最初はこちらのぬるめのお茶を、次はこちらの熱めのお茶を飲みなんし?」
「おお、気が利くな」
八幡は美味そうに二杯のお茶を飲み、そんな八幡を、ゆうぎりは嬉しそうに眺めていた。
「そんなにじろじろ見るなって、俺なんか見てても別に楽しくないだろ?」
「楽しいでありんすよ?」
ゆうぎりはそう言って八幡の隣に座り、その肩にそっと頭を乗せた。
「お、おい………」
「今日はお疲れ様でありんした、どうか、これからもわっちらを見守っていておくんなまし」
「それは任せてくれ、みんなの居場所は俺が守る」
八幡はそう言って立ち上がり、振り返ってゆうぎりに微笑んだ。
そんな八幡をそれ以上引きとめようとはせず、ゆうぎりは優雅に一礼したのだった。
「ふう、ゆうぎりにも困ったもんだが、今日は楽しかったな」
八幡は達成感に包まれつつ、久々にマンションに戻った。
「あっ、リーダー、お帰り!」
「八幡君!」
「八幡さん!」
そんな八幡を、美優、舞、香蓮の三人が出迎えた。
「今日のライブはどうだった?」
「おう、楽しかったぞ、実に貴重な体験が出来たわ」
「いいなぁ、今度私も見に行きたいな」
「行くならチケットはとってやるぞ、それより狩りの調子はどうだ?」
「あっ、こっちはね………」
八幡は三人から狩りの話を聞き、休んでいた分明日からまた頑張ろうと心に誓った。
新学期は十一日からであり、あと六日ほど休みが残っている。
その間に出来るだけ多くの敵を狩り、八幡は出来れば学校が始まる前に、
今受けているクエストをクリアしたいと思っていた。
「おい美優、今日で二千体狩れたなら、そろそろ本気を出しても平気だと思うか?」
「う~ん、他のギルドも慣れてきたみたいだし、平気じゃないかな?」
「そうか、なら明日、思いっきり稼いでみるか」
「うん!」
「待って待って、一応どんな感じの狩りになるか教えて?」
香蓮が不安そうにそう言い、八幡と美優は、
いつものヴァルハラの狩りのやり方を説明した。
「そうだな、先ず適当に敵を釣ってくるだろ?」
「う、うん」
「で、タンクを並べて敵を一ヶ所に集めて足止めして」
「そ、それで?」
「範囲攻撃を中心に、片っ端から倒す。その頃には次の敵が到着してるって寸法だ」
「よし美優、舞さん、今日は寝ようすぐ寝よう今すぐ寝よう」
八幡の説明だととても簡単に聞こえるが、実際はそんな事はまったくないという事を、
香蓮はここまでの戦闘を見ていて理解していた。
「そうだな、明日はハードになるだろうから、早めにぐっすり寝た方がいいと思うぞ」
「だよね」
「え~?私はもっとリーダーとお話したい」
「美優、今日は我慢しなさい!八幡君だって疲れてるはずなんだからね」
「あ、そっか、それじゃあリーダー、コヒーが背中を流すから、お風呂に入っちゃいなよ」
美優がそう提案したが、香蓮は当然冗談だと理解している為、スルーである。
「ん、悪いな香蓮、それじゃあ頼むわ」
だがそれではつまらないと思ったのだろう、八幡が美優の言葉に乗った。
「えええええええ?」
「なんだ、嫌なのか?」
「い、嫌じゃないよ?」
香蓮は勢い良くそう言ったが、その時見た八幡の顔は、この上なくニヤニヤしていた。
「あっ!もう、もう!」
これは明らかにからかわれていると理解した香蓮は、
八幡をぽかぽか叩き、拗ねたような顔で言った。
「いいもん、それじゃあ私は先に入って待ってるから」
香蓮はそう言ってスタスタと浴室へと向かい、残された三人は呆気に取られた。
「ちょ、コ、コヒー!」
それを慌てて美優が追う。そして浴室から、美優の悲鳴が聞こえてきた。
「コヒー、脱ぐの早すぎ!
っていうかこのままだとリーダーに隅から隅まで見られちゃうよ、いいの?」
「別にいいもん!ふんだ!」
「いやいやいや、そんなのコヒーらしくないって、
コヒーはいつもはもっともじもじしてるだろ?」
「私だってやる時はやるんです!」
その会話に八幡と舞は顔を見合わせた。
「えっと………」
「どうやら香蓮はかなりきてますね」
「だな………悪い、頼めるか?」
「任せて下さい、私が引っ張り出してきます」
「えっ?」
舞は八幡が止める間もなく浴室に入っていき、
そのまま力ずくで香蓮を引っ張り出しにかかった。
「香蓮、とりあえず落ち着いて」
「舞さん、離して!」
「いいえ、離さないわよ!美優、このまま香蓮を寝室に連行するわよ」
「がってん承知!」
「あっ、ちょ、ちょっと!」
この会話を聞いた瞬間に、八幡はやばいと思った。
直後に肌色の物体が視界に入り、八幡は慌てて目を背けた。
「み、見られちゃう、八幡君に見られちゃうってば!」
「今まさに自分から見せようとしてたじゃないかよ!」
「た、確かにそうだけど!やっ、は、恥ずかしいから!」
「大丈夫、リーダーは目を逸らしてくれたはずだから、ちょっとしか見られてない」
「見られてるんじゃない!」
八幡は気まずい思いをしながら目を背け続け、
香蓮は八幡がこちらを見ていないかチラチラと確認しつつ、そのまま寝室へと運び込まれた。
「もういいよ、リーダー」
「八幡さん、ミッションコンプリートです」
「サ、サンキュー、それじゃあ俺は風呂に入っちまうわ」
「うん、ごゆっくり!」
「あっ、ちょっ、待っ………」
「コヒー、往生際が悪い!」
「違うんだってば!」
寝室からそんな声が聞こえた為、八幡はとにかく手早く温まろうと思い、
急いで脱衣所に入り、直後に慌てて外に飛び出してきた。
「み、美優!」
「ほい?」
その呼びかけに対し、美優がほいっと寝室から顔を出す。
「だ、脱衣所の片付けを頼む………」
「片付け………?あっ!」
美優は八幡が何を言いたいのかすぐに理解し、
脱衣所に飛び込んで、香蓮の服と、下着一式を回収して出てきた。
「ごめんリーダー、すっかり忘れてたよ」
「頼むぞマジで………」
それから八幡はゆっくり入浴し、
風呂から出た後に、気まずそうな表情の香蓮を慰める事となった。
結局ミニライブの後、こうして八幡は二人のお姉さんキャラに翻弄されまくったのであった。