「まさかあんな事になるとはなぁ………」
「そういえばうちのフェンリルはどうなったのかな?」
「倒されたって話は聞かないよな、上手くやってるんじゃないか?」
「それならいいんだけどな」
そんな話をしながら一同はぞろぞろと教会へと入っていった。
「………北欧神話って教会だっけか?」
「まあその辺りは日本人的なアレでいいんじゃないか」
「う~ん、まあそれもそうか」
そして四十人以上のプレイヤーが祈りを捧げ、
しばらくして、各プレイヤーの目の前に小さいモニターが表示される。
「お?」
そのモニターは一つに集まっていき、大きなモニターとなった。
「多分個人で来ると、その人にしか見えない小さなモニターのままなんだろうな」
「大勢で来るとこうなるのか」
ちなみに同じクエを受けていない者にはこのモニターは見えないようになっている。
『よくぞ使命を達成してくれました、我が愛しき妖精の子らよ』
そしてそのモニターに映し出された三人の女性のうち、
中央にいた女性がそう話し始めた。
「これって返事をしたら、受け答えしてくれるのか?」
「どうだろうね………」
『もちろん聞かれた事には答えますよ、愛し子よ』
「はっ、失礼しました!」
こうなると、代表でハチマンが受け答えをする事になる。
その横に、スッとフェイリスが並んできた。
「こういうのはフェイリスに任せるのニャ」
「え~………」
「大丈夫大丈夫、安心してニャ」
「ちっとも安心出来ねえんだが………」
そして一同に対し、その女性は語り始めた。
『我が名はウルド、我と我が二人の妹達からそなたらに頼みがあります』
『我が名はヴェルダンディ、今この世界は、他の神話世界から侵略を受けています』
『我が名はスクルド、妖精達よ、どうか我らに力を貸して下さい』
「それはもちろんですが、その侵略者というのは………」
ハチマンの問いに、ウルドは頷いた。
『オリンポスの古き神、ガイア。
そしてウラノスとガイアの間に生まれた巨人、ギガンテスです』
『ギガンテスは我ら神の力では殺せないのです』
『ギガンテスを倒せるのはそなた達だけ』
『ギガンテスの背後にいるガイアが全ての元凶です』
『ガイアはこの地の巨人と組み、このアルヴヘイムとヨツンヘイムを支配下に収め、
ニブルヘイムの霜の巨人達と共に、我らとオリンポス神軍を滅ぼそうとしています』
そこまで聞いて、フェイリスがハチマンに何か耳打ちした。
「………という事は、今の新しきオリンポスの神々は味方なのですか?」
『いいえ、オリンポスの王ゼウスは、
この状況が彼らに都合がいい為、今はこの行いを黙認しています』
『それどころかこの地に尖兵を送り、我らが宿敵たる巨人族の後押しをし、
我が眷属たる邪神族を妖精達が狩るように仕向けています』
『おそらく漁夫の利を狙い、我らが滅びた後にガイアを討伐するつもりなのでしょうが、
ガイアはそんな生易しい相手ではありません』
『アルヴヘイムを、そしてヨツンヘイムを、彼らの侵略から救って欲しいのです』
『その為に、そなた達に用意した剣は、各地に沸いた巨人達に奪われてしまいました』
『どうか剣の力を結集し、ギガンテスを倒してこの地を救って下さい』
ここで再びフェイリスが、ハチマンに耳打ちした。
「………現状妖精達は、ゼウスに騙されている者の方が多いのですが、
彼らについてはどうすればいいですか?」
『討伐なさい、そんな愚か者達の事は気にする事はありません』
「おおう………」
ハチマンは、随分苛烈な神なのだなと少し驚いた。
『ですが、可能なら味方に引き込みなさい』
『彼らの味方となっている巨人を、彼らの手で倒させるのです』
『さすればその巨人が集めた我が眷属の力が解放され、
彼らは正道に立ち戻る資格を取り戻します』
「つまりそう仕向けろと………」
『もしそれが叶えば、我らが直接出向いて我が子らに真実を伝えます』
『巨人と仲間でいるうちは、我らは子らの近くに顕現出来ないのです』
『どうかこの世界を救って下さい』
ここで三人は一旦言葉を止めた。
ここぞとばかりにフェイリスが、ハチマンに質問をさせる。
「ええと、神々の協力は得られますか?」
『今我らの神は、その多くが各地に封印されています』
『これもゼウスの差し金なのです』
『彼らを解放出来れば、大きな力になってくれる事でしょう』
「ふむ………」
そしてフェイリスが再びハチマンにぼそぼそ囁いた。
「他にクリアの為に倒さなくてはいけない敵は存在しますか?」
『地獄の門番ケルベロス』
『ケルベロスは四つの命を持っています、油断なきよう、気をつけて下さい』
『ヘカトンケイルとキュクロプスは、こちらに来ている可能性があります』
『彼らはガイアの子なのです』
『その全てを討伐出来ればこの戦いは我らの勝利に終わります』
『この美しい世界をどうか………』
そして三女神は消えていき、ハチマン達は、その余韻に浸りながらも、
これからどうすればいいのか相談を始めた。
「フェイリス、ありがとな、いい感じに話を進められたわ」
「これも前世の記憶がそうさせるのニャ、気にしないでニャ」
「敵は五体か、ガイア、ギガンテス、キュプロクス、ヘカトンケイル、ケルベロスな」
「それと今は敵側になってる他のプレイヤー達か………」
「最初に武器を集めるべきなのかな?」
「オンリーワンの武器だとすると、誰に渡すかで揉めたりしないか?」
「う~ん、性能的に、今私達が持ってる武器より強いのかな?」
「ハイエンドと比べると、誤差な気もするよな」
「まあ戦闘で手に入るなら、全員で戦ってドロップ任せにすればいいんじゃないか。
探索で手に入るなら、そのチームに委ねるって事で」
「って事は、とりあえずいくつかにチーム分けしないといけないな」
「その日参加出来る人達を、バランス良く分ければいいんじゃないかな」
「なるほど、そうするか」
ここでチーム分けするのはかなり大変な為、
数日分の参加可能リストを各人に提出してもらい、
それをリアルでチーム分けして全員に知らせる、という方法がとられる事となった。
「ついでに各敵の特徴を出来るだけ調べて、対策も練っておくべきだろうな」
「後はプレイヤー対策だが………」
「これはもうどうしようもないよな、友好チームに情報を流すくらいでいいと思うぞ」
「言っても聞かなそうなギルドも多いしな」
「むしろ積極的に敵側に回るというのも、選択としてはありでしょうしね」
「よし、それじゃあそういう事で、今日はそろそろ解散にしようか。
指定の連絡先に明日連絡を送るから、集合は朝九時くらいって事でどうだろうか」
「賛成!」
「明日からは冒険かぁ?」
「腕が鳴るねぇ」
こうしてさくさくと予定が決まり、一同はそのまま落ちていった。
「ふう………」
「リーダー、お疲れ!」
「何か凄い事になっちゃったね」
「まあ明日から頑張るってもんだな、さて、とりあえず雪乃に三日分の予定を送らないとか」
「私達は十日の午後に向こうに戻るから、最終日はちょっとお休みかなぁ」
「お土産も買わないとだしね」
「そうだな、俺も見送りに行くぞ」
「うん、ありがとうリーダー」
「今年の冬はいっぱい遊べたね」
「うん、まあ向こうに戻っても夜は遊ぶけどね!」
「それじゃあ各自で雪乃に連絡だ、こういう事はあいつに任せておけば間違いないからな」
「ヴァルハラの頭脳!」
「本当にうちは、恵まれてるよ」
八幡達はそう言って、スマホに文章の入力を始めたのだった。
その頃一人寂しく狩りに参加していたアスモゼウスは、呆然とした表情で呟いていた。
「何よこれ、何なの………」
狩りを終え、この日はここまでという事になり、
そのままログアウトしようとしたアスモゼウス達に、襲いかかってくる者がいた。
神殺しの獣、フェンリルである。
「おい、あれ!」
「お、あれが噂のケルベロスか?確か一緒に戦ってくれるんだよな?」
「そうそう、でも残念ながら今日はここまで………って、
あれ?ケルベロスって確か、頭が三つあるんだよな?」
「うん、確かそう」
「でもあれ、あいつの頭って一つじゃないか?」
「ん………」
直後にその場にフェンリルの声が轟く。
『敵に与する愚か者ども、いい加減に目を覚まさぬか!』
そう言ってフェンリルは、各パーティーの巨人達に、攻撃を加え始めた。
「うおっ!」
「迎撃、迎撃だ!」
「今、敵に与するとか言ってなかったか?」
「検証は後だ、とりあえず戦え!」
だがフェンリルは凄まじく強く、タンクでないとその攻撃には耐えられず、
プレイヤー達は一撃で葬られていく。
実はこのフェンリル、脱皮などと言う事はしない為、
ケルベロスの最終形態と同じ力を持っているのだ。
『馬鹿者どもが!』
「くそ、通路まで撤退、撤退だ!」
「巨人を囮にしてその間に陣形を整えるぞ!」
こちらの巨人も相当育っている者が多く、
フェンリルが相手でも、そう簡単にやられはしない。
『くっ、さすがに数が多いか』
フェンリルは無念そうにそう言うと、そのまま逃げに移った。
この辺りの戦闘の上手さは、ケルベロスより上かもしれない。
アスモゼウスは必死でヒールを飛ばしていたが、
その間にフェンリルは去り、辺りには大量のリメインライトが残される事となった。
「何よこれ、何なの………」
そんなアスモゼウスの肩を、ハゲンティがポンと叩いた。
「なぁ、さっきのあのセリフ、それにハチマンさん達の前の感じからして、
やっぱりこっちの間違ったルートって、かなりハードなんじゃないか?」
「そ、そうなのかな?」
その意見にオッセーが、こそこそと同意する。
「かもしれないな、でも今更どうしようもないしなぁ………」
「そうよね………ルシパーもなんかキレてるみたいだし」
遠くでルシパーが、イラついたような声を上げているのが聞こえる。
「あの犬コロ、絶対に許さん!」
こうしてタイミングが悪かったせいで、ハチマン達の言葉を、
少なくとも七つの大罪が聞く余地は無くなってしまったのだった。