ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第1092話 三女神からの依頼

「まさかあんな事になるとはなぁ………」

「そういえばうちのフェンリルはどうなったのかな?」

「倒されたって話は聞かないよな、上手くやってるんじゃないか?」

「それならいいんだけどな」

 

 そんな話をしながら一同はぞろぞろと教会へと入っていった。

 

「………北欧神話って教会だっけか?」

「まあその辺りは日本人的なアレでいいんじゃないか」

「う~ん、まあそれもそうか」

 

 そして四十人以上のプレイヤーが祈りを捧げ、

しばらくして、各プレイヤーの目の前に小さいモニターが表示される。

 

「お?」

 

 そのモニターは一つに集まっていき、大きなモニターとなった。

 

「多分個人で来ると、その人にしか見えない小さなモニターのままなんだろうな」

「大勢で来るとこうなるのか」

 

 ちなみに同じクエを受けていない者にはこのモニターは見えないようになっている。

 

『よくぞ使命を達成してくれました、我が愛しき妖精の子らよ』

 

 そしてそのモニターに映し出された三人の女性のうち、

中央にいた女性がそう話し始めた。

 

「これって返事をしたら、受け答えしてくれるのか?」

「どうだろうね………」

『もちろん聞かれた事には答えますよ、愛し子よ』

「はっ、失礼しました!」

 

 こうなると、代表でハチマンが受け答えをする事になる。

その横に、スッとフェイリスが並んできた。

 

「こういうのはフェイリスに任せるのニャ」

「え~………」

「大丈夫大丈夫、安心してニャ」

「ちっとも安心出来ねえんだが………」

 

 そして一同に対し、その女性は語り始めた。

 

『我が名はウルド、我と我が二人の妹達からそなたらに頼みがあります』

『我が名はヴェルダンディ、今この世界は、他の神話世界から侵略を受けています』

『我が名はスクルド、妖精達よ、どうか我らに力を貸して下さい』

「それはもちろんですが、その侵略者というのは………」

 

 ハチマンの問いに、ウルドは頷いた。

 

『オリンポスの古き神、ガイア。

そしてウラノスとガイアの間に生まれた巨人、ギガンテスです』

『ギガンテスは我ら神の力では殺せないのです』

『ギガンテスを倒せるのはそなた達だけ』

『ギガンテスの背後にいるガイアが全ての元凶です』

『ガイアはこの地の巨人と組み、このアルヴヘイムとヨツンヘイムを支配下に収め、

ニブルヘイムの霜の巨人達と共に、我らとオリンポス神軍を滅ぼそうとしています』

 

 そこまで聞いて、フェイリスがハチマンに何か耳打ちした。

 

「………という事は、今の新しきオリンポスの神々は味方なのですか?」

『いいえ、オリンポスの王ゼウスは、

この状況が彼らに都合がいい為、今はこの行いを黙認しています』

『それどころかこの地に尖兵を送り、我らが宿敵たる巨人族の後押しをし、

我が眷属たる邪神族を妖精達が狩るように仕向けています』

『おそらく漁夫の利を狙い、我らが滅びた後にガイアを討伐するつもりなのでしょうが、

ガイアはそんな生易しい相手ではありません』

『アルヴヘイムを、そしてヨツンヘイムを、彼らの侵略から救って欲しいのです』

『その為に、そなた達に用意した剣は、各地に沸いた巨人達に奪われてしまいました』

『どうか剣の力を結集し、ギガンテスを倒してこの地を救って下さい』

 

 ここで再びフェイリスが、ハチマンに耳打ちした。

 

「………現状妖精達は、ゼウスに騙されている者の方が多いのですが、

彼らについてはどうすればいいですか?」

『討伐なさい、そんな愚か者達の事は気にする事はありません』

「おおう………」

 

 ハチマンは、随分苛烈な神なのだなと少し驚いた。

 

『ですが、可能なら味方に引き込みなさい』

『彼らの味方となっている巨人を、彼らの手で倒させるのです』

『さすればその巨人が集めた我が眷属の力が解放され、

彼らは正道に立ち戻る資格を取り戻します』

「つまりそう仕向けろと………」

『もしそれが叶えば、我らが直接出向いて我が子らに真実を伝えます』

『巨人と仲間でいるうちは、我らは子らの近くに顕現出来ないのです』

『どうかこの世界を救って下さい』

 

 ここで三人は一旦言葉を止めた。

ここぞとばかりにフェイリスが、ハチマンに質問をさせる。

 

「ええと、神々の協力は得られますか?」

『今我らの神は、その多くが各地に封印されています』

『これもゼウスの差し金なのです』

『彼らを解放出来れば、大きな力になってくれる事でしょう』

「ふむ………」

 

 そしてフェイリスが再びハチマンにぼそぼそ囁いた。

 

「他にクリアの為に倒さなくてはいけない敵は存在しますか?」

『地獄の門番ケルベロス』

『ケルベロスは四つの命を持っています、油断なきよう、気をつけて下さい』

『ヘカトンケイルとキュクロプスは、こちらに来ている可能性があります』

『彼らはガイアの子なのです』

『その全てを討伐出来ればこの戦いは我らの勝利に終わります』

『この美しい世界をどうか………』

 

 そして三女神は消えていき、ハチマン達は、その余韻に浸りながらも、

これからどうすればいいのか相談を始めた。

 

「フェイリス、ありがとな、いい感じに話を進められたわ」

「これも前世の記憶がそうさせるのニャ、気にしないでニャ」

「敵は五体か、ガイア、ギガンテス、キュプロクス、ヘカトンケイル、ケルベロスな」

「それと今は敵側になってる他のプレイヤー達か………」

「最初に武器を集めるべきなのかな?」

「オンリーワンの武器だとすると、誰に渡すかで揉めたりしないか?」

「う~ん、性能的に、今私達が持ってる武器より強いのかな?」

「ハイエンドと比べると、誤差な気もするよな」

「まあ戦闘で手に入るなら、全員で戦ってドロップ任せにすればいいんじゃないか。

探索で手に入るなら、そのチームに委ねるって事で」

「って事は、とりあえずいくつかにチーム分けしないといけないな」

「その日参加出来る人達を、バランス良く分ければいいんじゃないかな」

「なるほど、そうするか」

 

 ここでチーム分けするのはかなり大変な為、

数日分の参加可能リストを各人に提出してもらい、

それをリアルでチーム分けして全員に知らせる、という方法がとられる事となった。

 

「ついでに各敵の特徴を出来るだけ調べて、対策も練っておくべきだろうな」

「後はプレイヤー対策だが………」

「これはもうどうしようもないよな、友好チームに情報を流すくらいでいいと思うぞ」

「言っても聞かなそうなギルドも多いしな」

「むしろ積極的に敵側に回るというのも、選択としてはありでしょうしね」

「よし、それじゃあそういう事で、今日はそろそろ解散にしようか。

指定の連絡先に明日連絡を送るから、集合は朝九時くらいって事でどうだろうか」

「賛成!」

「明日からは冒険かぁ?」

「腕が鳴るねぇ」

 

 こうしてさくさくと予定が決まり、一同はそのまま落ちていった。

 

 

 

「ふう………」

「リーダー、お疲れ!」

「何か凄い事になっちゃったね」

「まあ明日から頑張るってもんだな、さて、とりあえず雪乃に三日分の予定を送らないとか」

「私達は十日の午後に向こうに戻るから、最終日はちょっとお休みかなぁ」

「お土産も買わないとだしね」

「そうだな、俺も見送りに行くぞ」

「うん、ありがとうリーダー」

「今年の冬はいっぱい遊べたね」

「うん、まあ向こうに戻っても夜は遊ぶけどね!」

「それじゃあ各自で雪乃に連絡だ、こういう事はあいつに任せておけば間違いないからな」

「ヴァルハラの頭脳!」

「本当にうちは、恵まれてるよ」

 

 八幡達はそう言って、スマホに文章の入力を始めたのだった。

 

 

 

 その頃一人寂しく狩りに参加していたアスモゼウスは、呆然とした表情で呟いていた。

 

「何よこれ、何なの………」

 

 

 

 狩りを終え、この日はここまでという事になり、

そのままログアウトしようとしたアスモゼウス達に、襲いかかってくる者がいた。

神殺しの獣、フェンリルである。

 

「おい、あれ!」

「お、あれが噂のケルベロスか?確か一緒に戦ってくれるんだよな?」

「そうそう、でも残念ながら今日はここまで………って、

あれ?ケルベロスって確か、頭が三つあるんだよな?」

「うん、確かそう」

「でもあれ、あいつの頭って一つじゃないか?」

「ん………」

 

 直後にその場にフェンリルの声が轟く。

 

『敵に与する愚か者ども、いい加減に目を覚まさぬか!』

 

 そう言ってフェンリルは、各パーティーの巨人達に、攻撃を加え始めた。

 

「うおっ!」

「迎撃、迎撃だ!」

「今、敵に与するとか言ってなかったか?」

「検証は後だ、とりあえず戦え!」

 

 だがフェンリルは凄まじく強く、タンクでないとその攻撃には耐えられず、

プレイヤー達は一撃で葬られていく。

実はこのフェンリル、脱皮などと言う事はしない為、

ケルベロスの最終形態と同じ力を持っているのだ。

 

『馬鹿者どもが!』

「くそ、通路まで撤退、撤退だ!」

「巨人を囮にしてその間に陣形を整えるぞ!」

 

 こちらの巨人も相当育っている者が多く、

フェンリルが相手でも、そう簡単にやられはしない。

 

『くっ、さすがに数が多いか』

 

 フェンリルは無念そうにそう言うと、そのまま逃げに移った。

この辺りの戦闘の上手さは、ケルベロスより上かもしれない。

アスモゼウスは必死でヒールを飛ばしていたが、

その間にフェンリルは去り、辺りには大量のリメインライトが残される事となった。

 

「何よこれ、何なの………」

 

 そんなアスモゼウスの肩を、ハゲンティがポンと叩いた。

 

 

「なぁ、さっきのあのセリフ、それにハチマンさん達の前の感じからして、

やっぱりこっちの間違ったルートって、かなりハードなんじゃないか?」

「そ、そうなのかな?」

 

 その意見にオッセーが、こそこそと同意する。

 

「かもしれないな、でも今更どうしようもないしなぁ………」

「そうよね………ルシパーもなんかキレてるみたいだし」

 

 遠くでルシパーが、イラついたような声を上げているのが聞こえる。

 

「あの犬コロ、絶対に許さん!」

 

 こうしてタイミングが悪かったせいで、ハチマン達の言葉を、

少なくとも七つの大罪が聞く余地は無くなってしまったのだった。


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