ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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日曜日が仕事になってしまったので、次の投稿は火曜日予定になります、申し訳ありませんorz


第1094話 レイ

 八幡達が仕事でフランシュシュときゃっきゃうふふしていた頃、

キリト達はアルンに集まり、先ずは近場からの情報収集に励んでいた。

 

「よし、それじゃあ班ごとに、

クエストクリアで何か変化したNPCがいないか調査に入ろう」

 

 その指示に従い、ヴァルハラA、ヴァルハラB、

スリーピングナイツ、アル冒の四チームがアルン中に散り、

片っ端からNPCに話しかけ、その反応をチェックしていた。

そんな事をすれば当然噂になるが、

有名税だと思い、キリトはそういったプレイヤーの視線は完全にスルーしていた。

 

「おい、ヴァルハラの連中、久々に見たな」

「邪神広場にはいなかったよな?」

「年末からこっち、一体どこにいたんだろうな………」

「あの感じ、もしかしてもう敵を二万匹倒したんじゃないか?」

「かもしれないな、さすがだよなぁ………」

 

 こんな声が大きくなれば、当然それはルシパー達七つの大罪の耳にも入る。

 

「ぐぬ、奴ら、一体どこで狩りをしてやがった………」

「うちより高効率とかありえないよな」

「でも実際終わらせているっぽいぞ」

「くそ、死ぬ気で追いついてやる!」

 

 そんな仲間達を、アスモゼウスは冷ややかな目で見ていた。

 

(こいつら、もっと頭を使おうとか思わないのかしら、

結局検証するって言いながら、昨日のフェンリルの言葉もスルーだし)

 

 そう思いながらもアスモゼウスは、今回のイベントで特に欲しい装備も無い為、

ニコニコと笑顔を振り巻き、仲間の為に必死でヒールを繰り返していた。

 

 

 

「何か情報はあったか?」

「はい、データベースと比較して、いくつか巨人の場所を示してると思われる文言が………」

 

 データベースとは、ヴァルハラのメンバーページにあるNPCデータベースの事である。

ここには今回のイベントに備え、事前にレコンが調べてあった、

アルンの全NPCの名前とセリフが網羅されているのである。

こういった地道な努力が、ヴァルハラの勢力を支えているのは間違いない。

 

「それじゃあデータベースを更新しつつ、

調べ終わったら全員で該当するNPCを回ってみよっか」

「了解!」

 

 さすが攻略慣れしているキリトとアスナは、的確な指示で効率よく作業を進めている。

その姿はハチマンの不在を全く感じさせない。ヴァルハラが強い訳である。

 

「アスナ、今のうちに地図に目的地っぽい場所をチェックしておこうぜ」

「あっ、そうだね、午後にハチマン君が来る前に済ませちゃおうか」

 

 正確な位置が分かるわけではない為、二人はNPCのセリフに出てきた地形周辺に、

大雑把に丸を書いていった。

 

「こうして見ると、これってほとんどが巨人の領域だな」

「そうだね、まあ当たり前なのかもしれないけどね」

「ん、ここだけ邪神領域の中にあるな、他から場所も離れてるし」

「でも逆にここからは近そうだね、う~ん、特殊な何かがあるのかな?」

「お昼まで時間があるし、ちょっと何人かで様子を見に行ってみるわ。

アスナはこっちの取りまとめを頼む」

「分かった、気をつけてね」

 

 SAO時代には、ハチマンが情報を収集し、アスナがそれを分析し、

キリトが実際に動くというパターンが多かった。今回もそのパターンを踏襲した形である。

そしてキリトはユキノ、ユイユイ、ユウキ、コマチ、クリシュナの六人を選抜し、

揃って移動を開始した。

 

「この六人がいれば、何があってもまあどうとでもなるよな」

「フィールドボスクラスでも多分いけるわね。

さすがにフロアボスクラスはきついでしょうけど」

「まあそんな敵はさすがに出してこないだろ」

 

 一行はコマチを先頭に目的地へと向かい、現地に着くと、

怪しい地形がないか、NPCが追加で配置されていないか、チェックを開始した。

 

「う~ん………」

「何も無いね………」

「そんなはずは無いんだけどなぁ………」

「あれ?ちょっと待って、みんな、あれ!」

 

 その時ユウキが上空を指差した。見ると確かに上の壁面に階段のような物が見える。

だがその階段はどこにも繋がっていない。

例えて言うならこちらがいる場所はペットボトルの底であり、

階段はペットボトルのフタのネジ部分(内外が逆ではあるが)のような状態である。

 

「むむ………」

「ここ、飛行禁止区域だよね?」

「って事は、トンキーを呼べって事だな!」

「今トンキーは?」

「ねぐらで石に擬態してもらってる、まあ一日中昼寝してるようなもんだな」

「それじゃあ何人かでトンキーを呼ん………」

 

 キリトがそう言いかけたのを、ユキノが止めた。

 

「ちょっと待って、キリト君」

「ん、他に何か案があるのか?」

「ええ、これよ」

 

 そう言ってユキノが取り出してきたのは、

トラフィックスイベントでゲンブから入手した、ウォールブーツであった。

 

「あ、ああ~!」

「ユキノン、ヒッキーから預ってたんだ?」

「ええ、『もしかしたら使う機会もあるかもだしな』って渡されていたのよ、

深い考えがあった訳じゃなさそうだったけど、今回はラッキーだったわね」

「だねぇ」

「それじゃあキリト君、はい」

「う………」

 

 ハチマンがいない以上、当然ここはキリトの出番となる。

 

「わ、分かった、やってみる」

「大丈夫よ、もし落ちたら私がフォールン・コントロールをかけてあげるから」

「悪いクリシュナ、宜しく頼むわ………」

 

 キリトはビクビクした顔でそう言うと、深呼吸をし、壁を歩き出した。

 

「………おお?何ていうか、重力が足の方に向いてるから、

普通に地面を歩くのと同じ感じだな」

「なら良かったわ、上に何があるか分からないから気をつけて!」

「おう!やばかったらそのまま飛び降りるから助けてくれよな、クリシュナ!」

「ええ、任せて!」

 

 そしてキリトはずんずんと壁面を登っていった。

 

「よし、階段に到着っと」

 

 そのまま頂上に着くと、そこには一本の剣を抱え、

目を瞑って蹲る、黒髪の女性の姿があった。

その女性はドーム状のバリアーのようなフィールドで覆われている。

 

「おお………?」

 

 キリトは虚を突かれたように足を止め、どうすればいいのかしばし考えた。

そして賢明な事に、何もしないまま階段まで戻り、下に向かって叫んだ。

 

「ユキノ、ちょっとこっちに来てくれ!クリシュナ、フォールン・コントロール!」

 

 キリトはそのままウォールブーツをぽいっと下に落とす。

何とも乱暴なやり方だが、確実な受け渡し方法である。

そしてブーツはふわりふわりと落下し、ユキノの手に渡った。

 

「どうやら上で何かあったみたいね」

「キリト君が判断に悩むって事は、戦闘になりそうな感じじゃないんでしょうね」

「まあ敵がいるという訳ではなさそうね。

もし敵がいたのなら、今頃ここにはその死体が降ってきていたはずだものね」

 

 ユキノはそう怖い事を言い、クリシュナにお礼を言って、

スカートがめくれないように気を遣いつつ垂直に壁を歩き始めた。

そして階段まで到達し、キリトがユキノを出迎えた。

 

「ユキノ、悪いな」

「一体何があったの?」

「まあこっちに来てくれ」

 

 ユキノはキリトと共に目的地へと向かい、まだそこに蹲ったままの少女を見て目を細めた。

 

「………なるほど、あの子に下手に懐かれるとリズが怖いものね」

「さすが鋭いな、リズの事はともかく、そういう可能性はあるよな?

イベント絡みで最初に出会ったプレイヤーがホスト扱いになる、みたいな」

「そうね、可能性としては確かにそうだと思うわ」

「まあ問答無用で戦いになるかもしれないけどな」

「私達二人ならどうとでもなるわよ」

「くそっ、どうしてこういう時にハチマンがいないんだ………、

こういった面倒はハチマンの担当なのに」

「そうね、というか、むしろハチマン君がいたら、

絶対にあの子、ハチマン君に懐いてしまうわよ」

「かもな」

 

 二人は苦笑しながら前に進み、そしてユキノが一歩前に出た。

その足がバリアーのような物に触れた瞬間に、少女がスッと目を開いてこちらを見る。

その瞳の色は、吸い込まれそうな漆黒であった。

 

「ええと、あなたは………」

 

 ユキノがコンタクトしようと口を開いたが、

その少女は二人の姿を見て、慌てたようにこう言った。

 

「生き残ったのはあなた達だけ?でももう大丈夫、私が一緒に戦ってあげるから!」

「えっ?」

「へ?」

 

 キリトとユキノはその言葉の意味が分からずにキョトンとした。

 

「大丈夫、こう見えて、私、強いんだから!」

 

 そう言ってその少女は手にしていた剣を抜いた。

 

「うおっ」

「黄金の剣………」

 

 その剣は金色に輝いており、刀身にはルーン文字らしき文字が散りばめられている。

 

「さあ、敵はどこ?」

「いや、別にいないぞ」

「むしろ敵というのが何なのか、こちらが聞きたいくらいなのだけれど………」

「えっ?」

 

 その少女は驚いた顔をして走り出し、階段から下を覗きこんだ。

 

「本当だ、何もいない………えっ?えっ?」

「敵がいないのって、そんなに驚くような事か?」

「だってあなた達、仲間になった邪神の背に乗ってここに来たんでしょう?

ここには罠が張られているから、絶対その途中で敵に操られている巨人に襲われたはずよ!」

「「あ~………」」

 

 どうやら正規のルートだと、やはりこの場所は、

トンキーのような邪神族の背に乗って到達するものらしい。

もっともそうすると途中で敵に襲われるのが確定のようだ。

そう考えた二人は、気まずそうにウォールブーツをその少女に見せた。

 

「俺達はこれを使ってここに来たんだ」

「何それ?」

「ウォールブーツっていう、壁を歩けるようになる装備だな」

「壁を………登る?そっか、そのせいで………」

 

 少女は納得したような顔をし、大人しく剣を鞘に収めた。

 

「まあ少し拍子抜けだけれど、あなた達に被害が無かったなら良かったわ。

私の名は『レイ』、あなた達は?」

 

 黒髪をはためかせつつ、レイはそう言って、その黒い瞳を二人に向けた。

 

「俺はキリトだ、ギルド『ヴァルハラ・リゾート』の筆頭副長って事になってる」

「私はユキノよ、同じく『ヴァルハラ・リゾート』の副長ね」

「ヴァルハラ………?へぇ、ヴァルハラかぁ………」

 

 レイは何故か納得したように頷くと、二人に言った。

 

「まあこれから戦場で出会う事もあると思うけど、その時は宜しくね」

「え?あ、お、おう」

「よ、宜しく」

 

 その口ぶりから、やはりレイは味方のようだが、どうやらこちらに同行はしないらしい。

 

「ところで二人とも、副長って言ってたわよね、それじゃあリーダーの名前は?」

「ハチマンだ、もし会う事があったら、その時は宜しくな」

「オーケー、それじゃあ私は行くわ、またね、二人とも!」

「あ、ちょっと!」

 

 全くイベント絡みの話が聞けなかった為、キリトは慌ててレイを呼び止めたが、

レイはそれをスルーして階段から飛び降り、

いきなり少女が降ってきた事で驚くユイユイやクリシュナらに笑顔を向け、

そのまま走り去っていった。

 

「………何なんだ一体」

「これもイベントなのでしょうけど………」

 

 二人はそのままクリシュナのフォールン・コントロールで下に降り、

四人にレイの事を語ってきかせ、そのまま街へと帰還する事にした。

この日から、ヨツンヘイムを走り回るNPCらしき少女の噂が、

プレイヤーの間で徐々に広がる事となる。

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