午後になり、フランシュシュと共にVRレッスンスタジオの稼動試験を終えたハチマンは、
ウズメとピュアを伴ってALOにログインし、
今まさに、キリトからレイの事について報告を受けていた。
「ほう?レイ、ねぇ………で、俺の名前を教えたと」
「そのうちコンタクトしてくるかもしれないから宜しく頼む」
「見た目はどんな感じなんだ?」
「それなら私が写真を撮っておいたわ」
さすがユキノは抜け目が無く、ハチマンに撮影したスクリーンショットを見せてきた。
ハチマンはそれをしげしげと眺め、ユキノに頷いた。
「オーケー覚えた、もし会う事があったら色々聞いてみるわ」
「何かヒントをもらえればいいんだけどね」
「その手に持ってる剣もかなりやばかったぞ。多分エクスキャリバークラスだと思う」
「確かに強者感に溢れてるよな、何て名前の剣なんだろうなぁ」
それでレイについての報告は終わり、今どうなってるかの詳細を聞いた後、
今日参加している者達を四チームに分け、
分担してクエストNPCが指し示す場所を回る事となった。
さすがに一月の八日ともなると、参加者数もぐぐっと減り、学生が主体となっている。
ハチマンチームはハチマン、ユキノ、ユウキ、セラフィム、シノン、ウズメ、ピュア。
アスナチームがアスナ、ラン、ユイユイ、イロハ、コマチ、キズメル。
キリトチームがキリト、シリカ、リズベット、リーファ、レコン、そしてまさかのホーリー。
サトライザーチームがレン、フカ次郎、シャーリー、ヒルダ、
ジュン、テッチ、タルケン、ノリ、シウネーである。
他と比べてサトライザーチームの攻撃力が若干落ちる為、人数を厚めに配置してあるようだ。
「よし、それじゃあこんな感じで一つ宜しく頼む」
「それじゃあ何かあったら連絡するね」
「久々の冒険だね!」
「さて、何があるのかなぁ」
一同はそんな事を言いながら、わくわくした顔で出発した。
狩りもいいが、やはりRPGの醍醐味は冒険なのだ。
「さて、俺達も行くか」
「まだ足を引っ張っちゃうかもしれないけど、私達が二人一緒でいいの?」
「大丈夫、その分うちのメンバーは強力だからな」
「残りの全員が二つ名持ちで、
セブンスヘヴンランキングの上位にいるから問題ないと思うわ」
「二つ名?」
「それって何ですか?」
ウズメとピュアが首を傾げながらそう尋ねてきた。
「他のプレイヤーに認知されてる、そのプレイヤーの別の呼び方だな」
「ああ~、東洋の魔女とかフジヤマのトビウオみたいな奴ですね!」
「え、何それ………」
「ハチマン、ピュアに突っ込んじゃ駄目!絶対昭和なんだから!」
「あ、ああ、そうか」
「た、確かにそうですけど………」
ピュアはウズメに拗ねた顔を向け、ウズメはピュアにごめんなさいをした。
なんだかんだ、やはりこの二人は仲良しである。
「ハチマン君の二つ名は、『ザ・ルーラー』『覇王』ね。私は『絶対零度』、
ユウキさんは『絶剣』、セラは『姫騎士イージス』、シノンは『必中』よ」
「うわぁ、何か強そう!」
「今日はお世話になります」
「まあそんな訳で、戦闘に関しちゃ問題ないからとりあえず移動開始だな。
俺達の目的地は邪神広場の奥の方だから、ついでにちょっと様子を見ていくとするか」
「そうね、先日フェンリルに襲われたみたいだし、今どうなってるか見ていきましょうか」
「え、そうなのか?」
「その時巨人も何体か倒されたらしいです、ハチマン様」
「へぇ、まあ行ってみよう」
それから十数分後、一同は邪神広場が見える位置まで移動していた。
もうすぐクエストのクリアが近いせいか、
邪神広場はかなりの数のプレイヤーでごった返している。
「おお、多いな」
「ここはメジャーな狩り場扱いになってしまったものね」
「巨人の数はあまり変わってないな、
サイズは小さくなってる気がするから多分補充したんだろうな」
「でしょうね。それにしても巨人を盾にして、上手く戦っているわね」
「そうね、指示を出してる人が優秀なのかしら」
その通り、七つの大罪の軍師役であるアスタルトは、かなりやり手である。
その時休憩していたプレイヤーがこちらに気がついたのか、どよめきが広がっていった。
「おい、ザ・ルーラーだぜ!」
「うわ、二つ名持ちがあんなに………」
「連れているのは噂のフランシュシュの二人か?本当にそっくりだな………」
「あのレベルまでキャラを作り込んだって事だよな、凄え………」
ヴァルハラが討伐クエストをクリアしたらしいという噂は既に街に広がっており、
こうなった以上、もうこそこそしたりする必要はないだろうという事で、
ハチマン達は、普通に顔を晒して戦いを見学していたのである。
ウズメとピュアに関しては事情がまた異なるが、
ハチマンやユキノが一緒である以上、何か問題が起こる可能性は皆無な為、
二人もフードなどは被っていないのである。
「あの人達に見られてると、ちょっとやりづらいな………」
「気にするなって、別にこっちの戦闘に口出しとかしてくるような人達じゃないだろ」
「まあそれもそうか」
ハチマン達に見られながらの戦闘は、やはりやりにくいらしい。
だが本人達が言っている通り、ハチマン達が戦闘に口を出す事などありえない。
そのまま戦闘を見物していると、丁度休憩のタイミングに入ったのか、
アスモゼウスが従者らしき者を二人連れてこちらにやってきた。
よく見るとその従者はハゲンティとオッセーであった。
「あらハチマンさん、うちを偵察にでも来たのかしら」
アスモゼウスは他人の目がある為、演技しつつそう言ってきた。
「いや、たまたま通りかかっただけだ、狩りの邪魔になってたらすまない」
それを理解している為、ハチマンもそう返事をする。
「ルシパーが貴方を気にしているみたいだけど、
まあ邪魔にはなっていないから安心して頂戴。
とりあえず私達も休憩したいから、隣、いいかしら?」
「ああ、別に構わない」
そこでハゲンティとオッセーが、ハチマンにこう囁いてくる。
「兄貴、俺達が盾になります」
「何か話す事があるなら今のうちに」
「おお、二人ともサンキューな」
ハチマンは、変われば変わるものだなぁと思いつつ、
ハゲンティとオッセーにお礼を言った。
(結構有能だよなぁ………どうして今までは駄目だったんだろうか)
まあ環境のせいなんだろうなと思いつつ、
ハチマンはこの二人をスカウトして良かったと思った。
「で、アスモ、調子はどうだ?」
「今のままだと明日にはクリア出来ると思うわ」
「ほう、順調なんだな」
「そっちはここに何しに?」
「さっきも言った通り、通りすがりだな。クエをクリアした後、
NPCが仄めかしてきた場所を調べに行く途中だよ」
「へぇ、何があるのかしらね」
「それはまだ分からないが、ルートが違うから、お前が聞いても無駄だろうな」
ハチマンにそう言われたアスモゼウスは複雑な顔をした。
「………失敗が分かってるルートを突き進むのって、結構くるものがあるわよね」
「お前が七つの大罪なうちは仕方ないだろ、まあ頑張れ」
「姉御、そろそろ………」
「もうそんな時間?分かったわ、はぁ………」
アスモゼウスは大きなため息をつき、三人は戦場に戻ろうと立ち上がった。
「それじゃあ私達は………」
その時ハチマンにメッセージが届いた。それを見たハチマンは三人を呼び止めた。
「む、ちょっと待ってくれ」
「どうしたの?」
「兄貴、何かありましたか?」
「今アスナからメッセージが来た。
道中でフェンリルに遭遇したらしいんだが、どうやらここに向かってるらしい」
「え………」
「マジすか………」
「やべえ………」
どうやら先日の出来事がトラウマになっているらしく、三人の表情が一気に曇った。
「そんなにやばかったのか?」
「兄貴、あれはマジやばいすわ」
「せめてセラフィムの姉御クラスのタンクがいてくれればまだ何とかなるんでしょうが、
俺達を含めてここにいる奴らじゃ正直どうしようもないっす」
「なるほど、敵を止められないのか」
「まあそんな感じね」
「俺、急用発動でログアウトしようかな………」
「俺もそうするか………」
「正直私もそうしたいわね………」
そんな三人に、ハチマンがこんなアドバイスをした。
「ならこういうのはどうだ。俺達がいる事はルシパーも知ってるんだろ?
もうすぐクエがクリアになるなら、俺達とそっちが受けたクエが同じだと思ってるだろうし、
お前達三人で、情報収集の為に俺達を尾行するって言えば、
今ならルシパーはオーケーしてくれるかもしれないぞ?」
「それよ!」
「さす兄!」
「それじゃあ早速!」
ハチマン達はそのまま立ち去る演技をし、岩陰に移動した。
そこに無事許可が取れたのだろう、三人が嬉しそうに合流してきた。
「いけました、兄貴!」
「セーーーーーーーーフ!」
「本当に良かったわ、で、フェンリルはいつ頃来るのかしら」
「アスナ達の行ってる位置からすると、多分そろそろだ」
そのタイミングで、戦場から多くの悲鳴が聞こえてきた。
「噂をすれば………」
「おおう、フェンリルの奴、巨人の首を噛み千切ったぞ、おっかねえ………」
「うわぁ、この前よりもやべえ………」
「作戦を考えてきた、みたいな感じか?」
「そんな感じっすね………」
「フェンリルのAIって優秀なのね」
何となくそのまま戦いの様子を見物していると、
おもむろにフェンリルがこちらに向かって走ってきた。
「げっ」
「よりによってこっちに撤退なのかしら?」
「チッ、ルシパー達が追撃してくると見つかっちまう、こっちも引くぞ」
ハチマン達はそのまま目的地に向かう通路に飛び込み、走り出した。
成り行きとはいえアスモゼウス、ハゲンティ、オッセーの三人も一緒である。
「あ、兄貴!フェンリルが後をついてきます!」
「まさかお前達を狙ってるとか………」
「いやいやまさか………」
その時後方から、フェンリルのものと思しき声が聞こえてきた。
『待て、愚か者ども!』
「あ、マジっぽい」
「うわああああああ!」
「ハ、ハチマン、何とかしてよ!」
「分かった分かった」
ハチマンはそこで立ち止まり、何とも軽い感じで片手を上げ、フェンリルに呼びかけた。
「よっ」