「よっ」
「むっ、うぬは………確かハチマンだったか」
「覚えていてくれて光栄だよ」
「朋友の事を忘れたりはせん。
再会を喜びたいが、とりあえずそいつらを始末してからだ。すまないがそこをどいてくれ」
「おっと悪い、実はこいつらは、俺が敵に忍ばせている間者なんだ、
なので今後も手出ししないでいてくれると助かるんだが」
「そうなのか?なるほど分かった、そなた達、名は?」
「ア、アスモゼウスです!」
「ハゲンティです!」
「オッセーです!」
「分かった、覚えておこう」
こうして三人がフェンリルに殺される心配は無くなった。
「はぁぁぁぁ………」
「マジで助かったっす………」
「兄貴、心から感謝するっす………」
「お前達、そんなに怖かったのか………」
ハチマンは三人に同情しつつ、フェンリルを誘って一緒に移動する事にした。
三人は後方から誰も来ない事から、どうやら追手は来ないようだと判断し、
ハチマンに頭を下げつつ戦場へと戻っていった。
「そういえば主ら、巨人族の討伐を終えたのだな」
「分かるのか?」
「うむ、そなた達の周りに数多くの巨人の魂が浮いておる」
「え、マジで?」
「えええええ………」
「ここにアスナがいなくて幸いだったわね」
だがしかし、後日フェンリルにその事を聞かされたアスナが、
しばらくALOにログインしてこないという事案が発生する事となる。
「で、今から次の段階がどうなってるか、調べにいくところだな」
「なるほど」
ちなみに歩きながら、ウズメとピュアがフェンリルをモフっている。
ユキノはちょっと怖いのか、少し離れた位置を歩いている。
「そっちの調子はどうだ?」
「うむ、あれからかなりの巨人を倒したが、まだ本命にはたどり着けておらん」
「本命?」
「ケルベロスという名の駄犬だ」
「ああ~、あいつなら二度ボコっておいたぞ」
「何?という事は、今あの駄犬は七尾になっているのだな」
「確かそうだったわ。あいつ、どうすれば完全に倒せるんだ?」
「九尾にした状態で倒せば二度と復活出来ん」
「九尾………あと二回か」
「だがその分パワーアップしているはずだ、油断するでないぞ」
「分かった、気をつけるよ」
ハチマンとフェンリルは、こんな感じで気安く話している。
まるで長年連れ添った友人のようだ。
「あの、フェンリルさん、ちょっといいですか?」
ここでセラフィムが、おずおずとそう問いかけてきた。
「何だ?騎士の少女よ」
「前から疑問だったんですけど、本来フェンリルさんって巨人側ですよね?
どうして今回は主神側なんですか?」
「え、そうなのか?」
ハチマンが驚いたように質問してくる。
「はいハチマン様、間違いありません」
「うむ、いい質問だ」
フェンリルはセラフィムに頷いた。
「今回の争いが、単純に内輪揉めだったのなら、我も主神の事を、我が王などとは呼ばん」
「ふむふむ」
「何故なら我は神殺し、主神を食い殺すのが我が役目だからな」
「それじゃあ何で………」
「それは今回の戦いが、我らとは違う神話体系からの侵略だからだ。
そういった場合、善神も悪神も、そして我らのような存在も、
一つとなりて敵に立ち向かわんといかん。それが我らの矜持である。
故に今だけは、本来敵である主神を我が王と呼んでおるのだ」
「一つとなりて、って割にはあんた、積極的に巨人を狩ってるよな?」
「あやつらは知能を持たぬ、敵に操られるだけの存在だからな」
「ふむ、って事は、知性があって話せる巨人はこっちの味方なのか?」
「全てではない。巨人も一枚岩ではないからな。
だがスルト、シンモラ、グリーズは確実に味方だ。
もし会う事が出来たなら、我が名を告げるが良い」
「分かった、覚えとく」
ハチマンは、後で調べてみようと思い、その名を脳裏に刻んだ。
「あ、そうだ、レイって名前の女の子って、知り合いだったりするか?」
「レイ?何者だ?」
「む、知らないのか」
「覚えはないが………どんな女なのだ?」
「ええと………ユキノ、悪いがさっきの写真をフェンリルに見せてやってくれ」
「分かったわ」
そしてユキノに写真を見せられたフェンリルは、目を細めて押し黙った。
「どうした?」
「この顔はまるで昔の………いや、だが髪の色と目の色が違う、人違いか………?」
「知り合いに似た奴がいるのか?」
「すまぬ、まだ確信が持てぬ」
「そいつの名前は?」
「それもすまぬ、おいそれと出せる名前ではないのだ」
「へぇ………」
(大物の可能性があるって事か)
「まあいいさ、とりあえず味方なのは確かなんだ、今度会った時に本人に聞くとするわ」
「役に立てなくてすまぬな」
「気にするなって、俺とあんたの仲だろ」
他の女性陣は心の中で、どんな仲だよと突っ込んだが、ハチマンはどこ吹く風である。
この場ではそう言っておいた方がおそらく都合がいいのは確かな為、
ハチマンはフェンリルの友人ポジションを堅持し続けるのだ。
そんなハチマンの姿を見てハゲンティとオッセーは、さすあにを連発している。
「そう言ってもらえると嬉しい。今後とも宜しく頼む、妖精王よ」
「こちらこそ宜しくだな、俺達がピンチの時は頼りにしてるぜ」
「それは任せてくれ」
その後もフェンリルは、しばらくハチマン達と一緒に歩いていたが、
とある分岐で別方向からケルベロスの匂いがすると言い、単独でそちらに向かう事になった。
「大丈夫か?加勢するか?」
「問題ない、七尾のケルベロスなど我の敵ではない」
「そうなのか、それじゃあそっちは任せたぜ」
「ああ、主にも幸運があらん事を!」
「またな!」
「ああ、またな」
そう言ってフェンリルは去っていき、もふもふを失ったウズメとピュアは、
若干悲しそうな顔でフェンリルを見送った。逆にユキノはホッと一息ついている。
「さ~て、それじゃあ次の広場に入ったら、周囲の探索だな」
「ハチマン、何かいるかな?」
「どうだろうな、まあユウキが退屈しないような相手だといいよな」
「うん!」
ハチマンはユウキの頭を撫で、一同はそのまま目的地の広場に到達した。
「うおっ」
「何か戦ってる………」
「あらハチマン君、あれは例のあの子よ!」
「例のレイ、か………」
そのハチマンの言葉は女性陣には普通にスルーされた。
ハゲンティとオッセーだけが八幡に拍手してくれ、
ハチマンは顔を赤くしながらその戦いに目を向けた。
そう、その広場では、一人の少女が一対一で巨人と戦っていたのである。
「アウル、
「ふん、返して欲しくば我を倒してみよ」
どうやらレイは、アウルという巨人から何かを取り戻そうとしているようだ。
「ここを通りたければ我を倒してみよ、みたいなノリか」
「ハチマン君、のんびりした事を言ってないで指示を出して」
「おっと、悪い悪い、それじゃあとりあえずレイに加勢するとするか。
どうやら一人じゃ厳しそうだしな」
「確かにあの剣を使いこなせていないように見えますね」
「だよな、みんな、行くぞ!」
その指示を受け、一同は駆け出した。
「おいレイ、俺達が加勢する」
「えっ、誰?」
「俺はハチマンだ、俺の仲間と朝に会ったんだろ?」
「あ~!そういえばその子と朝会った!」
レイはユキノを見ながらそう言った。
「ありがとう、助かる!」
「マックス、行け!」
「はい!」
その巨大なアウルという敵の前で、セラフィムが仁王立ちする。
「展開、フォクスライヒバイテ!」
「チッ、妖精ども、邪魔をするな!」
アウルはそう言って、セラフィム目掛けて斧を振り下ろしたが、
そんな単純な攻撃はセラフィムには通用しない。
セラフィムはその攻撃をあっさりと受け止め、
その瞬間に横からハチマンがアウルの喉目掛けて雷丸を突き出す。
「ぐぬ………」
アウルは斧を引き、その攻撃を受け止めようとしたが、
斧を持つ手に力を入れた瞬間に、その斧が弾き返される。
アウルの動きを見て、更に一歩踏み込んだハチマンによるカウンターである。
「何っ!?」
相変わらず惚れ惚れするようなカウンターで、アウルの体がぐらつく。
その瞬間に、ユウキがいきなり大技を放った。
「マザーズ・ロザリオ!」
「私もいるわよ。ストライク・ノヴァ!」
同時にシノンが攻撃を仕掛け、カウンターから入った事もあり、
アウルはいきなり大ダメージを受けた。いきなりHPが三割減ったのである。
「な、何だこの力は………」
「凄い………さすがは妖精王ね。それに妖精騎士の攻撃も見事だわ」
今までの例から、妖精王は真なるセブンスヘヴンの七人を指す為、ユウキの事だろう。
妖精騎士は当然序列十位のシノンの事である。
「結構HPがあるな」
「でも一人ではね」
「しかも人型だ」
「かわいそうに………」
ユキノはこれからカウンターをくらいまくるであろう敵に同情した。
その考え通り、アウルはまともに攻撃を仕掛けてくる事も出来ず、
そのHPがどんどん減少していく。
「まあこの程度か」
「言っておくけど、このHPなら普通にボスクラスよ?」
「まあでも手ごろなサイズの人型だしな」
そのハチマンの言葉を聞き、ユキノはクスッと笑った。
「そうね、このまま完封しておきましょう」
「へいへい」
それは要するに、カウンターを決めまくって敵に何もさせるな、という事である。
ハチマンはそのユキノの命令とも言えない命令を黙々とこなし、レイが呆気にとられる中、
アウルはまったくいいところなく光の粒子となって消滅したのだった。