「貴方………強いのね」
呆気にとられているレイに、ハチマンは平然とこう答えた。
「人型の敵は得意なんだ」
「そう………貴方が敵じゃなくて良かったわ」
「とりあえず初めましてだな、
俺はハチマン、ヴァルハラ・リゾートのリーダーをやらせてもらってる」
「私はレイ、宜しく」
レイはそう言ってハチマンに手を差し出してきた。
ハチマンはその手をしっかりと握り、二人は握手を交わす。
(さて、どう言えばヒントがもらえるかな)
ハチマンはそう考え、先ほどレイが放った言葉を思い出した。
「ところで
(あれが何なのかは知らないけどね)
「あ~!」
レイはどうやらその事をすっかり忘れていたようで、
慌ててアウルが消滅した位置へと走っていった。
「………無い、無いじゃない!何で!?」
「そりゃあ………」
ドロップ品は直接地面に落ちたりしないだろ、と言おうとして、
ハチマンは目をパチクリさせた。
(あ………もしかして俺達の誰かにそのアイテムがドロップしてるのか?)
他の者達も同じ事を考えたようで、全員がコンソールを操作し始めた。
そしてハチマンも同じように操作を始め、
アイテム欄の中に見慣れないアイテムが入っている事に気がつき、思わずこう口に出した。
「俺かよ!」
「えっ、何が?」
「あ、いや………」
ハチマンはレイにアイテムを渡す前に、どんなアイテムなのか確認しようと、
アイテムの説明文に素早く目を走らせた、
『鷹の羽衣』
『鷹に変身して空を飛ぶ事が出来る。プレイヤーには装備不可』
「鷹の羽衣か」
「えっ、どうしてその名前を?もしかして持ってる?」
「ああ、今………」
今渡す、そう言いかけたハチマンだったが、その言葉は他ならぬレイによって遮られた。
「そっちに行っちゃってたかぁ、それじゃあ、んん~っ」
そう言ってレイが、ハチマンの唇に向け、自身の唇を突き出してくる。
「「「「「「ああ~!」」」」」」
ユキノ、ユウキ、セラフィム、シノン、ウズメ、ピュアの六人が、
そのまさかの展開に驚愕し、慌てて止めに入ろうとしたが、
次のハチマンの言葉を聞いて足を止めた。
「え、何それ、新手の美人局?」
「そんな訳ないじゃない!」
(美人局の意味は知ってるのか、どんなAIだよ)
ハチマンはそんなズレた感想を抱いた。
「欲しい物があったらこうすればもらえるんだよ!」
「え………」
ハチマンのみならず、六人の女性陣も、その言葉の意味が分からない。
「どういう事だ?」
「どういう事も何も、そういうものなの!私はずっとそうやって生きてきたんだから!」
「………は?」
「とにかくそれを頂戴!そうすれば一つ封印が解けるから!」
「お、おう………」
ハチマンはレイの勢いに押され、鷹の羽衣を実体化させた。
「羽衣なんてアイテム、初めて見たな………」
ハチマンはそう呟きつつ、鷹の羽衣をレイに差し出した。
レイは慣れた手付きで鷹の羽衣を羽織り、その瞬間にレイの体が光を発した。
「おお?」
そして光が収まった後、そこには成長したレイ、といった感じの一人の女性が立っていた。
そのスタイルは明らかに良くなっている。
(むぅ………これはプロポーションが、
シノンからアスナになったような感じか………)
ハチマンがそう考えた瞬間に、後方から殺気が飛んできた。
チラリとそちらを伺うと、シノンが凄い目でこちらを睨んでいる。
「な、何だよ」
「今凄く私に失礼な事を考えてなかった?」
「い、いや、そんな事はない。被害妄想が過ぎるだろ」
「フン、それならいいけど」
(やばいやばい)
ハチマンは、こういう事にシノンを引き合いに出すのはやめようと決意した。
シノンなら、手が滑ったなどといいつつ、
本気で狙撃するくらいは平気でやりそうだと思ったからである。
「ふう、まあこんなものじゃの」
その時レイがそんな事を言った。レイは口調まで完全に変化しており、
その身から発せられるプレッシャーも増大しているように感じられる。
「お前………いや、貴方は………」
「うむ、妾の名はレイヤじゃ、愛しい人よ、そなたに感謝を」
「いいっ!?」
ハチマンは、これはまさか少し前に聞いた、
レイと出会った当初のキリトとユキノの懸念そのままじゃないかと思い至り、
焦った顔でユキノの方を見た。
そのユキノは深いため息をつきながら、もう手遅れだとでも言うように首を横に振った。
「うぅ………」
ちなみに他の者はといえば、セラフィムはNPCだから何の問題もないと思っているのか、
ハチマンを応援するように拳を前に突き出している。
ユウキはランがいないせいでよく分かっていないのか、
興味津々な目をこちらに向けているだけであった。
シノンはハチマンにジト目を向けており、ウズメはプンプン怒っている。
ピュアは手で顔を覆いながらも、指の隙間からチラチラとこちらを見ているようだ。
「妾を縛る封印はあと一つじゃ、次も宜しく頼むぞ、愛しい人よ」
「はっ、仰せのままに」
ハチマンは、これは面倒な事になったと思いつつも、
イベントを進める為には致し方なしと考え、慇懃無礼に頭を下げた。
「何じゃ、不満そうな顔じゃの?」
(ゲッ)
ハチマンは、さては見透かされたかと思い、レイヤに搭載されたAIの高性能さを呪った。
「仕方ないの、報酬の先払いを認めようぞ。ほれ、妾の体を好きにするがいい」
「ぶほっ………」
続けて発せられたレイヤの言葉にハチマンはむせた。同時に沸きあがったのは、
このクエスト、こんなんでいいのか?という純粋に心配する気持ちだった。
ALOは対象年齢からして、エロ方面はご法度である。
他の者もさすがにこれはおかしいと思ったのか、
ヤキモチを焼いたりハチマンを責めたりする事はせず、むしろ困惑顔であった。
「いえ、成功報酬で何の不満もありません」
ハチマンはとりあえずこの状態から逃れようと、レイヤにそう答えた。
「ほう?さすがは妾の心を射止めた
「もったいないお言葉、ありがとうございます」
「ちなみに妾に指一本でも触れておったら………」
ハチマンは、先ほどの言葉はどうやらトラップだったかと思い、
どんな苛烈な罰がくるのだろうかとゴクリと唾を飲み込んだ。
「もいでおったところじゃ」
「下ネタかよ!」
ここでハチマンが思わず突っ込んでしまったのは仕方がないだろう。
それくらい、今のレイヤは鋭い目をしていたのだ。
そのレイヤの目が笑いを含む物に変わり、それでハッとしたハチマンは、
慌ててレイヤに謝罪した。
「失礼しました」
「ふむ、それは良いが愛しい人よ、腕をもぐというのは下ネタなのかえ?」
「ぐっ………いいえ、もちろん違います」
「そうかそうか、妾の日本語能力がおかしくなったのかと思ったぞ、それなら良い」
(日本語能力とか言いやがって、こいつ、絶対分かってて言ってんだろ………)
ハチマンは心の中ででそう毒づいた。
同時に後方からシノンの声で、セーフ!という言葉が聞こえてくる。
「ふふふ、そなたは可愛いの」
ハチマンはその言葉に舌打ちしそうになったが、
レイヤの笑顔からは全く邪気が感じられなかった為、それで毒気を抜かれてしまった。
「別に可愛くなんかないです、それよりレイヤ様、一つ宜しいでしょうか」
「ふむ、何じゃ?」
「レイヤ様の最後の封印を解く為に、私は何をお持ちすれば?」
「ブリシンガメンじゃ」
レイヤはその言葉に即答した。
「ブリシンガメン、神をも惑わす至高の宝石。妾はそれを取り戻さねばいかん」
ハチマンはその言葉にハッとした顔をしたが、すぐに表情を戻し、短くこう答えた。
「御意」
「そして真なる報酬じゃが………」
(こいつ真なるとか言いやがった!やっぱりからかってただけかよ!)
ハチマンは若干イラっとしたが、次の言葉を聞いて、一気に頭に上った血が下がった。
「これをやろう。銘は『レーヴァテイン』という」
そう言ってレイヤは、手に持っていた剣を無造作にこちらに見せてきた。
「よろしいのですか!?」
「これはそもそも妾の所有物ではないからの、手放しても何の問題もありはせぬ」
そう言ってレイヤは無邪気に笑った。
「レイヤ様の御心のままに。で、今ブリシンガメンは誰の手にあるのですか?」
「スルーズとベルという親子の巨人が持っておる。
先ほどそなたらが倒したアウルの息子と孫じゃな」
「なるほど………覚えておきます」
「頼むぞ、奴らを見つけ次第討伐せよ!」
「はっ!」
(なるほど、武器取得クエストだったか、でもなぁ………)
ハチマンはレーヴァテインを見ながらレイヤに問いかけた。
「レイヤ様、いくつか質問する事をお許し下さい」
「うむ、許す」
「そのレーヴァテインは、片手直剣ですよね?」
「まあ杖でもあるがの」
「そうなのですか!?」
「そういう事になっておるの」
(むぅ………杖か………でもせっかくだし、剣として使いたいよなぁ………)
「実は私の武器はこれなのです」
そう言ってハチマンは、雷丸を取り出し、レイヤに見せた。
「ふむ、短剣じゃの」
「それでですね、このクエストを私が受けた場合、
レーヴァテインを誰かに譲る事は可能ですか?」
「不可能じゃ、この剣は所有者を選ぶでな」
その言葉にハチマンは天を仰いだ。