ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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すみません、昨日は更新出来ませんでした><


第1102話 勝負の一日

 夜も更けた頃、ヴァルハラ・ガーデンを訪れる、四人のフード姿の者達がいた。

その顔にはグロス・フェイスマスクが装着されており、

誰が誰なのか、その正体は分からないようになっている。

 

「さすがにこの時間は誰もいない………か?」

「この頃はここの混雑もかなりましになったみたいね」

「確かに一時と比べるとさすがに減ったっすね、まあ助かるっすけど」

「そろそろ約束の時間………」

 

 その時ヴァルハラ・ガーデンの扉が開き、中からハチマンが顔を出した。

 

「お前達、こっちだ」

 

 その声に従い、四人は走ってヴァルハラ・ガーデンに駆け込んだ。

 

「ふう、セーフ!」

「誰もいなくて良かったね」

「まさか俺達がここに入れるなんてな………」

「胸が高鳴るぅ!」

 

 その四人とは、アスモゼウス、グウェン、ヤサ、バンダナであった。

ハゲンティとオッセーのままだと七つの大罪の者達に居場所がバレてしまう為、

二人はわざわざこちらのキャラで入りなおしていた。

こちらなら、その居場所が分かるのは、元ロザリアの部下の残り五人だけであり、

その五人は既にログアウトしているのを確認済だったからだ。

 

「うおおおおおお!」

「凄え、まるでお城っすね!」

「おう、結構頑張ったからな」

 

 中に入ると、ヤサとバンダナは興奮しながらそう叫び、ハチマンは自慢げにそう答えた。

 

「ハチマン、客が到着したのか?なら私がお茶を入れよう」

「おお、悪いなキズメル、頼むわ」

 

 そんな一同に、キズメルが声をかけてきた。

その顔には黒アゲハのマスクは装着されておらず、

ヤサとバンダナは、初めて見たそのキズメルの素顔の美しさに感動した。

 

「あ、兄貴、こちらはまさか………」

「ん?ああ、お前達にとっては黒アゲハって言った方が分かり易いか?」

「お、おお………」

「言葉も出ないぜ………」

 

 キズメルは、二人が自分の顔を見ながら震えているのを見て、きょとんとした。

 

「ん?私の顔がそんなにおかしいか?」

 

 その言葉に二人はぶんぶんと顔を横に振る。

 

「違います、あまりの美しさに感動してるっす!」

「そ、そうか、それはありがとう」

「こちらこそありがとうございます!」

 

 そこまで劇的な反応を見せた訳ではなかったが、アスモゼウスもグウェンも、

キズメルの素顔を見るのは初めてだった為、ぽ~っとした顔でそちらを見ていた。

 

「ダークエルフって、ここにしかいないわよね?」

「うん、多分」

「綺麗よねぇ………それにあのスタイル、憧れるなぁ」

「うん………」

 

 そのまま奥に進み、リビングに近付くと、そこには四人のプレイヤーが控えていた。

アスナ、キリト、ユキノ、サトライザーの副長達である。

 

「みんな、いらっしゃい!」

「こ、こんばんは!」

「本日はお招き頂き………うっ」

 

 かつて痛い目に遭わされたキリトを見て、

緊張のあまり反射的に固まってしまったヤサとバンダナだったが、

キリトが鷹揚な態度で微笑んでくれた為、その緊張はすぐにほぐれたようだ。

既に二人は身内扱いであり、当然キリトも今は二人を好意的に見ている。

 

「それじゃあ話を聞こうか」

「はい!」

 

 そしてヤサとバンダナは、今日あった事を報告し始めた。

 

「兄貴、実は明日、シグルドがギルドを立ち上げるみたいです」

「クエストの残りがあと二千体になったんで、

頃合いだと見て後は独自にクリアするつもりだとか」

「本当はイベント開始に合わせてって話だったんすけど、

ほら、邪神広場の狩りがああなったじゃないですか、そのせいで、

七つの大罪よりも大きいギルドがそこに参加するのはまずいって事になって、

それで今まで様子見をしてたんですよね」

「それが遂にその気になったって事か」

「はい、正直邪神広場にいたのって、

初期にいた小規模ギルドはさすがに正月は人数が揃わなかったのか、、

最後の方は、小規模ギルドに偽装してうちのメンバーがほとんどだったんで、

明日はあっちはかなり人数が減ると思います」

「そうなると、うちは明日中にはクエストをクリア出来ないかもしれないわね」

 

 そこまで聞き、アスモゼウスが難しい顔をしながらそう言った。

その言葉通り、邪神広場に集まっていたのは最近はほとんどがシグルド一派だった為、

それが明日来ないとなると、明日の狩りに参加するプレイヤーの人数は、

いいところ六十人といった所で、一日で二千体を討伐するのはかなり難しくなるだろう。

 

「それも狙いの一つみたいですね、七つの大罪を出し抜いて、先行出来ますから」

「なるほどなぁ、シグルドも中々やるもんだ。よく周りの状況を見てやがる」

「前とちょっと違う感じ?」

「昔よりは成長したのかねぇ?」

「まあ彼も苦労したでしょうし、元々それなりに能力はあったものね」

「確かに前の悪だくみも、俺達がいなかったら成就してたかもだしなぁ………」

 

 前の悪だくみとは、もちろんサラマンダーと組んで行った、シルフ領弱体計画の事である。

その頃のシグルドは品性下劣ではあったが、能力的には確かに及第点であった。

 

「ところでシグルドのギルドの名前は決まってるのか?」

「SDSらしいです、ジークフリード・ザ・ドラゴンスレイヤーの略だとか」

「うは、自分の名前をギルドに付けるのか………」

「自分の名前?」

「シグルドってのは要するにジークフリードだからな」

「ああ、なるほど!相変わらずプライドだけは高いんだな。

ちなみに人数はどれくらい集まりそうなんだ?」

「二百数十人っすかね、外面だけはいいんで」

「多いな………運用によってはいいライバルになりそうだ」

 

 ハチマンはとても嬉しそうにそう言って笑った。

 

「ハチマン君、嬉しそうだね」

「いいライバルがいるってのは幸せな事だからな」

「そうなってくれればいいんだけどな」

「まあ()()シグルドだし、どこかでボロを出す可能性は否定出来ないわね」

「ハチマン様、それ絡みで私からも報告が」

「お、そうか、それじゃあ頼むわ」

 

 グウェンが横からそう言い、続けて報告を始めた。

 

「そのSDSの立ち上げの為に、小人の靴屋も最近かなり装備を回してます。

クエストでかなり敵を倒したから、その素材と資金を小人の靴屋に回して、

それでメンバーの装備を揃えたみたいです」

「二百人以上の装備をそれで賄ったのか………」

「確かにうちも、素材だけでかなりの利益になったものね」

「あはははは、さすがに二万匹も倒すとそうなるよね」

「だな」

「シグルドの奴、どうやらまともにライバルしてくれそうだな。

ところで敵側でクエストを進めると、この後はどういう展開になるんだろうな」

 

 敵は大地母神ガイアとその眷属、そしてギリシャ神話の神々の一部、

という事は分かっているが、そこに様々な伝説級の武器がどう関わってくるかは謎であった。

 

「メインルートはこっちなんだから、二線級の武器が手に入るとか?」

「う~ん、でもハイエンドクラスの武器も案外取れたり?」

「エクスキャリバーの扱いがポイントだよな、あっちのクエにも名前は出てた訳だし」

「ふ~む、明日は一応そっちに多めに人数を回した方がいいかもしれないな」

「悪い、頼むわ」

「とりあえずサトライザーの所からキリトの所に何人か回してやってくれ」

「オーケー、後で相談しておくよ」

「こうなると、情報って点だとアスモのクリアが一日遅れるかもしれないのは困るな」

「そうよね、ごめんなさい………」

 

 そう謝るアスモゼウスを、ハチマンは笑顔で慰めた。

 

「お前のせいじゃないさ、まあ一気に攻略が進む訳じゃないだろうし、気にすんなって」

「なぁ、明日シグルド達とカチあったらどうする?」

「さすがにクリアには一日かかるだろうし、明後日になるかもしれないが、

まあそうなったらやり合うしかないだろうな、各チームの連絡を密にしていこう」

「俺達も出来るだけ情報を流すっす!」

「任せて下さい兄貴!」

「おう、頼むぞ二人とも」

「「はい!」」

 

 その後、ハチマン達は今日得た情報を元に、明日の行動方針を決めた。

ハチマン達は斥候職を中心にスルーズとベル、そしてヘパイストスの居場所を探り、

キリト達は人数を増やした上で、『氷宮の聖剣』クエストを進行させる。

アスナ達はティルフィングとフラガラッハを得る為におつかいクエストを続ける。

そしてサトライザー達は、ウコンバサラとムラサメは一旦置いておいて、

各メンバーをアスナとキリトのチームに合流させ、そちらの手伝いをする事になった。

 

「攻略を独占出来るのも明日がラストチャンスだ、何か一つくらい成果を得たいよな」

「うん、頑張ろう!」

「明日は一日中やってやるぜ!」

 

 こうしてヴァルハラは、勝負の一日を迎える事となった。


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