ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第1103話 三チーム、いざ攻略へ

 ログアウトした後、八幡は各チームからの報告を改めて纏めていた。

 

「キリトの予想した、ALOにいる神が交代する可能性………あるかもしれないな」

 

 八幡が最初に考えていたのはその事であった。

落ちる間際にキリトが雑談めかしてこんな事を言ってきたのである。

 

「なぁハチマン、このクエストってもしかして、俺達のクリアが遅れたら、

ALOを統べる神が交代する事になるんじゃないか?」

「ん?と言うと?」

「だってさ、ALOの神々は北欧神話がベースだろ?

そこにギリシャ神話の神々が喧嘩を売ってきたんだ、

もし俺達が負けたら、今度はギリシャ神話の神々が、

この世界のベースの神って事になるんじゃないか?」

「そこまでは考えてなかったな………」

 

 ハチマンのみならず、仲間達がその言葉の意味を熟考し始め、

そして出た結論は、有り得る、であった。

 

「確かにあるかもしれないわね」

「うん、あると思う」

「これは益々一番にクリアしないといけなくなったな」

「だな、燃えるぜ!」

「そうだな………おいキリト、とりあえず空中宮殿への突入一番乗りは頼むぞ」

「おう、絶対に条件を満たしてみせるさ」

 

 キリトが言うには、空中宮殿の近くの山の麓で、それらしき入り口は発見できたらしい。

その前にいたウルドから、確かに『氷宮の聖剣』のクエストも受けられたのだが、

いざ中に入ろうとすると、その入り口らしき門が開かないらしい。

その事をウルドに尋ねると、返ってきたのはこんな言葉だったらしい。

 

『おそらくどこかに門番がいるのでしょう』

 

 時間も遅い為、キリトはそこでこの日の探索を終え、戻ってきたと、まあそんな訳である。

なので明日は、その門番に当たるNPCを探す為、周辺を探索する事となっていた。

 

「門番ねぇ………神話に何か該当する神でもいたっけか………?」

 

 八幡はそう思い、何となく『ギリシャ神話』『門番』で検索をかけた。

その画面に映ったのは、最近何かと縁があった名前であった。

 

「ケルベロス………まさかケルベロスの討伐がトリガーなのか?」

 

 確かにケルベロスは地獄の門番と言われている。

 

「可能性は高そうだ、これは明日は戦闘になるか………」

 

 八幡はそう考え、やはり明日のキリトチームの編成は分厚くしようと考えた。

 

「ユージーン達がケルベロスを倒したらしいし、これであの駄犬も最終段階か………」

 

(逆に考えると、敵側のクエストだと、

フェンリルが門番に指定されてるのかもしれないな)

 

 八幡は同時にそんな事を考えつつ、続けてアスナからの報告について考え始めた。

 

「おつかいクエストに、まさかアインクラッドが絡んでくるとはな………」

 

 八幡は今回のクエストの舞台に、アインクラッドが使われる事は無いと考えていた。

実際ここまでアインクラッドはまったく絡んで来ず、

地名などの由来からして、アルヴヘイムとヨツンヘイムのみがクエストの舞台となると、

八幡は思い込んでしまっていた。だがどうやらそれは間違いだったらしい。

アスナ達のクエストの移動先に、アインクラッドが数回登場していたのだ。

 

「ここまで俺達は、スルーズやベル、ヘパイストスに関しては手がかりすら掴めていない。

もしかしてその情報は、アインクラッドにあるのか………?」

 

 だがあまりにも見つけにくいところに対応するNPCを配置するとは思えない。

街の中のそれなりに見つけ易いところに、NPCが配置されているのが普通だろう。

 

「明日俺達は、アインクラッドを中心に探索してみるか………」

 

 今回のイベントでは、例えば特殊クエらしいレーヴァテインのクエストの、

メイン受注者はハチマンだが、同じギルドのメンバーなら、

NPCの頭の上のクエストマークの有無は確認出来るようになっていた。

ただ話しかけた時に相手が反応しないだけだ。

 

「アスナ達はおつかいクエストを続けてもらうとして、

後は参加者リストを見ながら編成するだけか」

 

 八幡はう~んと伸びをしつつ、うんうん唸りながらその作業を終え、

今日はそのまま寝る事にした。

 

「リーダー、まだ起きてたの?」

 

 そんな八幡に話しかけてくる者がいた、美優である。

 

「おう、明日の編成をちょっとな」

「あっ、決まったんだ、私達はどこ?」

「明日はキリトチームに合流してくれ、もしかしたらやばい戦闘があるかもしれないからな」

「オーケー、任せて!」

 

 そう言いながら美優は、八幡の隣に腰を下ろした。

 

「眠くないのか?」

「う~ん、眠いは眠いんだけど、ほら、私達って明後日には北海道に帰らないとじゃない?

だからちょっとだけリーダーと話しておきたいなって」

「ああ、そういやそうだな、よし、雑談でもするか」

「うん!」

 

 それから二人は色々な話をした。そのほとんどが、まったく重要でない、

とりとめのない話ばかりであったが、美優にとってはとても楽しい時間であった。

 

「それじゃあリーダー、また明日ね!」

「おう、寝坊するなよ」

「それはこっちのセリフだし!」

 

 美優はそう言って笑いながら寝室へと入っていった。

 

「さて、俺も寝るか………」

 

 そのまま八幡も眠りにつき、そして次の日の朝、美優と舞と優里奈と朝食をとった後、

優里奈以外の三人は、まだ予定時刻にはまだ早いが、そのままALOにログインした。

 

「ん、早いなアスナ、おはよう」

「ハチマン君、おはよう!」

 

 ヴァルハラ・ガーデンでは、既にアスナがやる気満々でスタンバっていた。

どうやら楽しみで早く目が覚めてしまったらしい。

 

「子供かよ」

 

 ハチマンが冗談めかしてそう言いながら、アスナの隣に座る。

 

「アスナ、おはよう!」

「おはようございます」

「うん、おはよう、二人とも」

 

 フカ次郎とシャーリーに挨拶を返すと、アスナはハチマンに今日の編成について尋ねた。

 

「ハチマン君、今日はどうする?」

「ああ、アスナチームはクエストが継続中のはずだから、

昨日いたラン、ユイユイ、イロハ、コマチと五人でそのまま回ってくれ。

クエストに関係ないキズメルだけキリトの所に回ってもらう」

「オッケー、それじゃあ五人が集まったら行ってくるね」

「おう、頼むわ」

 

 続けてキリトがあくびをしながら登場した。

 

「おはよう、ハチマン」

「おう、それじゃあキリトは昨日のメンバーに加えて、

ロビンとユキノ以外の全員を連れてってくれ」

「え、マジか、そんなに回してもらっていいのか?」

 

 今日は日曜の為、クックロビンも参戦している。

他にも昨日はいなかったが、今日はフェイリス、レヴィ、クライン、ユミー、

クリシュナ、リオン、アサギ、ファーブニル、スプリンガー、ラキアも参戦していた。

ウズメとピュアは残念ながらレッスンがあって不参加だが、

キリトチームはセラフィム、シノン、キズメル、シリカ、リズベット、リーファ、レコン、

ホーリー、レン、フカ次郎、シャーリー、ヒルダ、サトライザー、

そしてラン以外のスリーピング・ナイツの全員と、先ほどのメンバーを加え、

総勢三十人の大軍勢となっていた。

 

「問題ない、こっちは多分戦闘は無いからな」

 

 ハチマンが事もなげにそう答える。

 

「異論があるとかじゃないんだけど、何で私がそっち?」

 

 そう尋ねてきたのはクックロビンである。

 

「お前は変態の勘で何とかしてくれそうだったから………」

「ええっ!?ふ、不意打ちすぎだよぉ………」

 

 ロビンはそう言ってビクンビクンし始めた。

その姿を横目で見ながら、ハチマンはユキノの肩を、ポンと叩いた。

 

「おいユキノ、ロビンの抑えは頼むぞ」

「………………だから私はこっちなのね」

 

 ユキノはそう言ってため息をつきつつ、苦笑した。

 

「まったく仕方のない人ね」

 

 そう言いつつも、ユキノはちょっと嬉しそうであった。

 

「ちょっと、何で私の女の勘には頼らないのよ」

 

 ここでシノンがそう絡んできた。

普段こういう時、編成には全く口を出さないシノンだが、

どうやら変態の勘とやらに対抗意識を持ったらしい。

シノンはクックロビンと仲が良く、私でも十分抑える事が出来るという意識ももちろんある。

 

「悪い、今日はキリトの方が戦闘になりそうだから、

俺が一番信頼しているシノンにはそっちにいてもらおうと思ってな」

 

 ハチマンは平然とそう答え、シノンは目を見開いた。

 

「い、一番………?ふふん、それじゃあ仕方ないわね」

 

 シノンは上機嫌な顔でそう言うと、大人しく引き下がった。

そんなシノンを見て、多くの者達が心の中でこう思っていた。

 

(チョロい………)

(チョロインだ………)

(シノノン、それはチョロすぎるよ………)

 

 ハチマンはそんなシノンに頷くと、仲間達に向けて言った。

 

「よし、それじゃあ連絡を密にして、各自出発してくれ」

「「了解!」」

 

 キリトとアスナがそう答え、仲間達と共に出発していく。

 

「それじゃあ俺達も行くか」

「ええ、行きましょう」

「スルーズとベル、それにヘパイストスに関する話を持ってそうなNPCを、

アインクラッドで探せばいいんだよね?」

「そういう事だ、多分頭の上にクエストのマークがついてるはずだ」

「オッケー!」

「アインクラッドの街を歩くのは久しぶりかもしれないわ」

 

 こうしてヴァルハラ連合軍は、勝負の一日を制するべく行動を開始した。


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