ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第1104話 フカ次郎の勘働き

 ハチマンは、はじまりの街は広すぎる為に後回しにし、

最前線の街から順に調べていく事にした。

クックロビンとユキノと分担して各街を回ろうという目論見であったが、

クックロビンがそれを止めた。

 

「待って待って、それじゃあ私の勘が生かせないよ!」

「まあ確かにそうだな………どうすればいいと思う?」

「それなら三人一緒に順番に各街に飛んでみればいいのではないかしら。

無駄足になる可能性もあるけれど、もしロビンが何かに反応したら面白いじゃない」

「それがいい!」

 

 ロジカルなユキノにしては珍しい発言である。

だがユキノも長いALO生活の中で、例え理屈に合わない選択をしても、

それが正解に繋がる事もあると実感させられており、今回のイベントに関しては、

勘頼みというのも面白いんじゃないか、などと思っていたのである。

 

「よし、二人がそう言うならそうしてみるか」

「決まりだね!それじゃあ行こっか!」

 

 三人はそのまま転移門に移動し、その中に消えていった。

 

 

 

 一方キリト達は、人数の多さを生かして十人ずつの三チームに分かれ、

門の周辺地域を、二時間と時間を区切ってしらみつぶしに探索していた。

そして二時間後に再集結したものの、めぼしい情報が得られたチームは一つも無かった。

 

「何もないみたいだね」

「だなぁ、これは外れだな」

「よし、方針変更だ、ケルベロスを探して倒す事にしよう」

 

 キリトは即座にそう決断した。

確信などもちろん無いが、キリトの勘が、これが正解だろうと囁いていた。

 

「みんな、片っ端から知り合いに、ケルベロスを見なかったか聞いてみてくれ」

 

 このところ、あちこちに姿を見せていたせいか、

ケルベロスの目撃情報はかなり多く集まった。

それをクリシュナに頼み、時系列順に並べていった結果、

ケルベロスの行動範囲が一定の円の中に収まっている事が分かった。

その中心は、予想に違わず今一同がいるこの場所であった。

 

「やっぱり中心はここの門ね、キリト君、どうする?」

「このデータから、大体今どの辺りにいるか、予想出来るか?」

「やってみるわ」

 

 クリシュナはリオンを呼び、二人は行動順に何か法則が無いか検討を始めたが、

それ以外の要素に関するデータが少なすぎるせいか、残念ながら特定は出来なかった。

 

「ごめんなさい、さすがに条件が厳しいわ」

「そもそもが俺の無茶ぶりなんだ、謝らないでくれ。

まあまだ策はある。ユキノ………はいないのか、ユイユイ………あ、そうか、アスナの所か」

「キリト、どうしてその二人なの?」

 

 リズベットが首を傾げながらそう尋ねてきた。

 

「いや、ユキノは犬がまだ苦手だろ?

だからユキノが行きたがらない所にケルベロスがいるんじゃないかなって………」

「ま、まさかユイユイはその逆!?」

「ああ、ユイユイが行きたいって思う所にケルベロスがいるんじゃないかなって」

「あ、あんたねぇ………」

 

 リズベットは呆れ、シリカはクスクスと笑った。

そこに横から話に参加してきたのはフカ次郎である。

 

「そういう事なら私に任せて!」

「お、フカ、いけるのか?」

「ふふん、私の名前は今は亡き我が愛犬からとったんだ、犬に関してはエキスパートだよ!」

 

 フカ次郎は自信満々にそう言うと、地図を放り出し、自らの目で周囲を見回した。

 

「………うん、こっちな気がする」

「よし、みんな、出発だ!途中でトンキーも拾っていこう」

 

 何の根拠も無いのにキリトはフカ次郎の言葉を信じ、

一同もそれに同調して移動を開始した。

途中で少し回り道をし、トンキーと合流しつつ、

フカ次郎は一同を案内するかのようにずんずん進んでいった。

 

「なぁレン、フカは大丈夫だと思うか?」

 

 道中でたまたま隣に来たレンに、キリトがそう問いかける。

 

「う~ん、どうだろ」

 

 レンは困ったような顔でそう答えた。

 

「フカは調子に乗るとたまに凄いけど、駄目な時は本当に駄目なんだよね」

「今はどうなんだ?」

「調子に乗ってる」

 

 レンは笑いながらそう答えた。

 

「ならいけるか」

「かもね」

 

 その時フカ次郎が足を止めた。

 

「むむむ」

「フカ、どうした?」

「なんかわんこが自分からこっちに向かってきてる気がする」

「マジか、よし、待ち伏せるか」

「確かもう少し進むと広場があるはずよ」

「よし、そこで待ち伏せよう」

 

 一同は手際良く戦闘準備を始め、広場の外周にある岩陰に身を潜めた。

 

「来たぞ、よし、攻撃………」

 

 果たして奥の通路から、一匹の獣が姿を現した。その獣の首の数は………一つだった。

 

「あっ、やべっ、待った待った!」

 

 キリトは直ぐに反応し、その獣~フェンリルの前に飛び出した。

そのせいで仲間達が今にも攻撃しようとしていたその手を止める。

 

『むっ、お主は確か………』

「悪い、間違えてそっちに攻撃する所だったわ」

『なるほど、あの駄犬と間違えたか』

 

 フェンリルはそう言って笑うと、キリトの下にとことこと歩いてきた。

 

「うぅ………ごめんなさい」

 

 犬違いだった事で、フカ次郎は申し訳なさそうにフェンリルにそう謝ってきた。

 

「なるほど、そなたが間違えたのか、まあ気にするな。

今の駄犬と我は同格だからな、間違えるのも仕方がない事だ」

「そうそう、何かがいるってのは当てたんだ、引き続き気になる方向を探してくれ」

「う、うん………」

 

 フカ次郎は改めてあちこちをきょろきょろと見始め、とある方向で目を止めた。

同時にフェンリルがその方向に対し、警戒態勢をとる。

 

「むむっ、ねぇフカ三郎、どう思う?」

 

 フェンリルはキョトンとした後、フカ次郎にこう尋ねてきた。

 

『………もしかしてそのフカ三郎というのは我の事か?』

「こら、フカ!」

「あっ、しまった、こっそりそう呼んでたのがバレちゃった!」

 

 フカ次郎は、てへっという顔でそう言った。

 

『………まあ別に構わん、お主にとってはとても大切な名前のようだしな』

 

 フェンリルにそう言われた瞬間に、かつての愛犬の事を思い出したのか、

フカ次郎の表情がくしゃっと歪んだ。

すぐにレンがフォローに入り、フカ次郎の頭を抱え、撫で始める。

 

「よしよし」

「こらレン、こ、子供扱いすんな!」

 

 その声は、だがしかし涙声になっており、そんなフカ次郎にフェンリルも寄り添った。

 

「………ありがとう、優しいんだね」

『まあこれくらいはな』

「ふう、もう大丈夫」

 

 フカ次郎はレンとフェンリルの優しさに触れて立ち直ったのか、

キッとした顔をして顔を上げた。

その顔を見たフェンリルは、改めてフカ次郎に問いかけてきた。

 

『シルフの少女よ、それでは先ほどの続きといこう』

「うん!」

『我はあの駄犬だけではなく、もっと禍々しいものがここに近付いてきていると思うのだが』

「うん、私もそんな気がする」

「どういう事だ?」

「おそらくケルベロスと一緒に強い敵がこっちに向かってる」

「ほう?」

『もしかしたら、我を追いかけてきたのかもしれんな、生意気な』

「そうか、それじゃあ一戦交える事になるな。

みんな、本気の戦闘になりそうだ、宜しく頼む!」

 

 キリトはそう言って仲間達の方を向いた。仲間達はその呼びかけに武器を掲げて応える。

 

「フェンリルも一緒に戦ってくれるか?」

『ああ、もちろんだ、あの駄犬を今度こそ滅ぼしてくれるわ』

 

 フェンリルはやる気満々でそう答え、その瞬間にフェンリルがパーティに入った。

 

「それじゃあ待ち伏せを続けるか」

『ならば我は小さくなっておこう』

 

 そう言った瞬間に、フェンリルが子犬くらいのサイズになり、

そのままフカ次郎の胸元に飛び込んだ。

 

「おお~!」

「そんな事も出来るんだ!」

『ああ、我はあの駄犬とは違うからな』

「かわいい~!」

「しかももふもふ!」

 

 女性陣がフェンリルに殺到し、

フェンリルは撫でられまくったが、特に不愉快な様子はない。

それからしばらくして女性陣が落ち着いた頃、フェンリルはフカ次郎の胸の中に戻り、

一同は身を潜めて敵の到着を待った。

 

『………来るぞ』

 

 そして奥の入り口からケルベロスが姿を現した。その尻尾は九つに分かれており、

その立ち姿からは風格すら感じられる。そしてその後ろから、巨大な影が姿を現した。

その顔はかなり長く、豊かな髭に覆われている。

 

『むっ、あれはキュプロクスか』

「お、敵の首魁の一人か?」

『ああ………どうだ、いけるか?』

「俺達は何が相手でも負ける気はない」

『問うまでもなかったな、いい気迫だ』

 

 こうしてキリトチームはフェンリルと共に、強敵相手の戦闘に突入する事となった。


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