ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第1108話 ゲルミル親子

 ルグルー回廊は多少枝分かれはしているが、基本は一本道のようなものであり、

全長距離もそれほどではない為、その探索にそれほど苦労する事はなかった。

 

「………というか、ここか」

「ハチマン君、ここがどうしたの?」

「あ、いや、前にキリトが暴れたのがここなんだよ」

「あ~そっか、ここでなんだ」

 

 アスナは苦笑しながら辺りを見回した。

そこは橋になっており、その脇に城のような建物がある。

その城の入り口に、八人で突入する為の入り口が口を開けていた。

 

「ここだな、間違いない」

「結構簡単に見つかったね!」

「一体は私とハチマン君が抑えるから、残りを早めにみんなで倒してもらう感じかな」

「敵は二体だけなのかな?」

「多分な、でももしもって事もあるだろうから、

その場合はコマチ、何とか敵をマラソンしてくれ」

「うん、やってみる!」

「よし、それじゃあやってやるか」

 

 こうして大雑把ではあるが、敵の情報が無い以上、他に作戦の立てようがない為、

軽い打ち合わせだけ済ませた後、一同は戦場となるインスタンス・エリアへと突入した。

 

「さて………」

 

 遠くに二体の巨人が見える。どちらがどちらなのか分からないが、

片方は大きく片方は小さい。

 

「大きい方を俺達が抑える、小さい方をなるべく早く倒してくれよな」

「了解!」

 

 そしてユイユイは、ハロ・ガロを展開した。

 

「お願い、ハロ・ガロ!」

 

 その言葉がキーワードとなり、ユイユイの両手に剣と盾が装備される。

 

「行っくよぉ!」

 

 そしてユイユイは、ハチマンと並んで敵に向けて突撃を開始した。

 

『妖精共か………』

『よくここが分かったな!我が名は………』

「どうでもいい」

 

 ハチマンはそう言ってその巨人の膝を蹴って上へと飛び上がり、いきなりその首を狙った。

 

『うおおおお!』

 

 巨人はまるで人間のように慌てふためき、体を反らしてその攻撃を何とか回避した。

 

『いきなり何をする!』

「首狩り」

『妖精王はここまで好戦的なのか………』

 

 それで相手も警戒したのか、待ちの体勢になる。

ハチマンの目的はまさにそれであり、その目論見は見事に達成された。

あとは敵二体をもっと離して、出来ればお互いの状況が見えないように出来ればベストだ。

ユイユイもそう考えたのか、どんどん敵を引き離していく。

その事には気付かず、相手はハチマンに名乗りを上げた。

 

『我が名はベルゲルミル、父であるスルーズと共に貴様らを葬る者なり!』

「へぇ、それが正式な名前なのか、お前の方がデカいんだな。

って事は、親父の正式名はスルーズゲルミルか?」

『ああ、その通りだ』

「で、爺いがアウルゲルミルか」

『祖父の事を知っているのか?』

「もちろんだ、俺達が倒したからな」

 

 その言葉にベルゲルミルはきょとんとした後、一瞬で激高した。

 

『貴様らあああああああ!』

「お前も爺いと同じ運命を辿らせてやる、我らの土地が簡単に手に入ると思うなよ」

 

 ハチマンは、ノリノリでロールプレイをしつつ、ベルゲルミルにそう告げた。

 

『ふん、この剣の錆にしてくれるわ!』

「やってみろ、出来るならな」

 

 そう言ってハチマンはベルゲルミルの剣を受け流し、ぬるりとその懐に入った。

 

『ぬっ』

「その首置いてけ!」

 

 ハチマンはそう言ってベルゲルミルの首を狙ったが、

その瞬間にベルゲルミルが首に下げていたペンダントが光り、ハチマンは後方に飛ばされた。

 

「うおっ!」

「ハチマン君!」

 

 即座にアスナがフォローに入り、ハチマンにヒールが飛ぶ。

 

「危ない危ない、何だあれ」

「もしかしてあれが、ブリシンガメンって奴なんじゃない?」

「ああ、かもしれないな………厄介な」

 

 ハチマンはそう言いながら立ち上がると、再び武器を構えた。

 

「全然効かねえな」

 

 それを聞いたベルゲルミルは、ニヤリと笑うと、真っ直ぐハチマンに剣を向けたのだった。

 

 

 

「向こうは随分楽しそうね」

「だねぇ」

 

 ユキノのその言葉に、ユイユイはそうのんびりと答えたが、

その状況でもユイユイは、敵の激しい攻撃を完璧に防いでいた。

 

『くっ、貴様、何という堅さだ』

「お褒め頂き光栄です、って言えばいい?」

「そうね、礼儀正しくていいと思うわ」

「ありがとうユキノン!」

 

 そんな二人の余裕ぶりに、付き合いの長いコマチとイロハは呆れていた。

 

「まったくこの二人は………」

「相変わらずだよねぇ………」

 

 その横でクックロビンとランが、スルーズゲルミルに激しい攻撃を加えていく。

 

「あはははは、あはははははは」

「このラン様の攻撃は甘くないわよ!」

「あっちはあっちで………」

「う~ん、相変わらずだよねぇ………」

 

 だが頼もしい事に変わりはない。敵は順調に削れていき、

全部で四本あるHPバーのうち、一本は問題なく削る事が出来た。

 

『ぬおおおお!』

 

 その瞬間にスルーズゲルミルの攻撃パターンが変化した。

その手に持つ剣がハンマーに変化し、スルーズゲルミルはそれを地面に叩きつける。

 

「わっ、わっ」

「これは………地震攻撃かしら?」

「まともに立ってられないよ!」

「あら、修行が足りないわね」

 

 そんな悪コンディションの中、ユキノは平然とバランスをとっていた。

 

「うわ………」

「さすがというか………」

 

 ユイユイもアイゼンを上手く使い、何とかバランスをとっているようだ。

 

「くっ………」

「うぅ、普通なこの身が恨めしい………」

「どうしよ、どうしよ………」

「そうだ!」

 

 イロハはそう言って、いきなり地面に寝転がった。

 

「横になったまま魔法を使えば、転ぶ心配をする事は無いよね!」

「「それだ!」」

「何言ってるのイロハ先輩………それに、それだってどれ………?」

 

 唯一の良識人であるコマチは首を傾げたが、

そんなコマチをよそに、ランとクックロビンはいきなり四つん這いになった。

 

「こうね!」

「こうだね!」

「え、何それ………」

 

 そのまま二人は四つん這いでスルーズゲルミルに突撃を開始し、コマチは呆気にとられた。

 

「え、な、何………?」

「うおおおおおお!」

「くらいやがれぇ!」

 

 ランとロビンはそのまま敵に突き進み、

攻撃が届く範囲に到達した瞬間に全力でジャンプし、居合いぎみに敵に向けて攻撃を放った。

その姿はまるでバッタかカエルである。

 

「嘘………」

「………何て非常識な」

「あはははは、三人とも、凄~い!」

 

 その様子を遠くて見ていたアスナは思わず大笑いし、

ハチマンは何事かと思い、振り向かないままアスナに問いかけた。

 

「アスナ、どうした?」

「む、向こうの戦闘が面白くてつい!」

「ほう?」

 

 そう言われたハチマンは、ベルゲルミルの後方で戦っている仲間達に一瞬意識を向け、

その状況を把握し、アスナと同じように噴き出した。

 

「ぶっ………」

『隙有り!』

「無えよ」

 

 そんなハチマンにベルゲルミルが突きを放ってきたが、

ハチマンはそれをあっさりと防いだ。

 

『チッ、かわいげの無い』

「俺にかわいげがあったら嫌じゃないか?」

『まあ確かにな』

 

 その答えにハチマンは、こいつ、随分人間臭いAIを搭載されてるなと感じた。

そのまま戦闘は進み、遂にスルーズゲルミルのHPバーの二本目が削れたのか、

向こうの戦闘が一瞬停止した。

 

「おっ、やったか」

『ふん、親父の方が俺より先に倒れるか』

「みたいだな、助けなくていいのか?」

『必要ない、あれはただの燃料みたいなものだからな』

 

 その冷たい言い方に、ハチマンは目を細めた。

 

(燃料………?もしかしてこいつら………)

 

 ハチマンは一つの仮説を立て、その事をユキノと協議したいと考えた。

 

「アスナ、悪い、ちょっとだけ代わってくれ!」

「あ、うん、分かった!」

 

 アスナはハチマンの言葉を受け、腰に差していた暁姫を抜いた。

 

「どのくらいもたせればいい?」

「一分くらいでいい、ちょっとユキノと話してくる」

「オッケー!」

 

 アスナは足取りも軽くベルゲルミルの方に歩き出した。

 

『むっ、逃がすか!』

「あなたの相手は私だよ」

『ぬっ』

 

 ハチマンの後を追おうとしたベルゲルミルの背中に向け、アスナはいきなり大技を放った。

 

「スターリィ・ティアー!」

『ぬおっ!』

 

 完全に意識がハチマンに向いていたベルゲルミルは、その攻撃をまともにくらってしまう。

 

『やるな、女!』

「だから言ったじゃない、あなたの相手は私だって」

『いいだろう、相手になってやる!』

 

 そう言いながらベルゲルミルは、ニヤリと笑った。

 

 

 

「ユキノ、おい、ユキノ」

「ハチマン君、どうしてここに?」

 

 いきなりハチマンが現れた事で、さすがのユキノも驚いたようだ。

 

「実はちょっと気になる事があってよ」

「何かしら」

「俺が担当してるベルゲルミルの野郎な、

こっちのスルーズゲルミルの事を、燃料だって言いやがったんだよ」

「燃料………?なるほど、もしこちらを先に倒したら、

あちらがパワーアップする可能性があるという事かしら?」

 

 ハチマンはそのユキノの相変わらずの理解力の早さに感心した。

 

「そういう事だ、さすがだな」

「お褒めに預り光栄よ、リーダー」

「茶化すなって、そんな訳だから、向こうを先に削っちまおうと思う」

「分かったわ、こっちは二人で支えてみせるから、向こうをお願い」

「悪いな」

「いいえ、問題ないわ」

 

 ハチマンはアスナをフォローする為にそのまま戻っていき、

ユキノは仲間達に指示を出した。

 

「ユイユイ、こっちは二人で何とかしましょう。

他の人達は、先に向こうの大きい巨人を倒して頂戴!」

「むむっ」

「分かった、任せて!」

「イロハ先輩、行きましょう!」

「オーケー、向こうが優先ね」

 

 こうして戦局は大きく動く事となった。


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