ルグルー回廊は多少枝分かれはしているが、基本は一本道のようなものであり、
全長距離もそれほどではない為、その探索にそれほど苦労する事はなかった。
「………というか、ここか」
「ハチマン君、ここがどうしたの?」
「あ、いや、前にキリトが暴れたのがここなんだよ」
「あ~そっか、ここでなんだ」
アスナは苦笑しながら辺りを見回した。
そこは橋になっており、その脇に城のような建物がある。
その城の入り口に、八人で突入する為の入り口が口を開けていた。
「ここだな、間違いない」
「結構簡単に見つかったね!」
「一体は私とハチマン君が抑えるから、残りを早めにみんなで倒してもらう感じかな」
「敵は二体だけなのかな?」
「多分な、でももしもって事もあるだろうから、
その場合はコマチ、何とか敵をマラソンしてくれ」
「うん、やってみる!」
「よし、それじゃあやってやるか」
こうして大雑把ではあるが、敵の情報が無い以上、他に作戦の立てようがない為、
軽い打ち合わせだけ済ませた後、一同は戦場となるインスタンス・エリアへと突入した。
「さて………」
遠くに二体の巨人が見える。どちらがどちらなのか分からないが、
片方は大きく片方は小さい。
「大きい方を俺達が抑える、小さい方をなるべく早く倒してくれよな」
「了解!」
そしてユイユイは、ハロ・ガロを展開した。
「お願い、ハロ・ガロ!」
その言葉がキーワードとなり、ユイユイの両手に剣と盾が装備される。
「行っくよぉ!」
そしてユイユイは、ハチマンと並んで敵に向けて突撃を開始した。
『妖精共か………』
『よくここが分かったな!我が名は………』
「どうでもいい」
ハチマンはそう言ってその巨人の膝を蹴って上へと飛び上がり、いきなりその首を狙った。
『うおおおお!』
巨人はまるで人間のように慌てふためき、体を反らしてその攻撃を何とか回避した。
『いきなり何をする!』
「首狩り」
『妖精王はここまで好戦的なのか………』
それで相手も警戒したのか、待ちの体勢になる。
ハチマンの目的はまさにそれであり、その目論見は見事に達成された。
あとは敵二体をもっと離して、出来ればお互いの状況が見えないように出来ればベストだ。
ユイユイもそう考えたのか、どんどん敵を引き離していく。
その事には気付かず、相手はハチマンに名乗りを上げた。
『我が名はベルゲルミル、父であるスルーズと共に貴様らを葬る者なり!』
「へぇ、それが正式な名前なのか、お前の方がデカいんだな。
って事は、親父の正式名はスルーズゲルミルか?」
『ああ、その通りだ』
「で、爺いがアウルゲルミルか」
『祖父の事を知っているのか?』
「もちろんだ、俺達が倒したからな」
その言葉にベルゲルミルはきょとんとした後、一瞬で激高した。
『貴様らあああああああ!』
「お前も爺いと同じ運命を辿らせてやる、我らの土地が簡単に手に入ると思うなよ」
ハチマンは、ノリノリでロールプレイをしつつ、ベルゲルミルにそう告げた。
『ふん、この剣の錆にしてくれるわ!』
「やってみろ、出来るならな」
そう言ってハチマンはベルゲルミルの剣を受け流し、ぬるりとその懐に入った。
『ぬっ』
「その首置いてけ!」
ハチマンはそう言ってベルゲルミルの首を狙ったが、
その瞬間にベルゲルミルが首に下げていたペンダントが光り、ハチマンは後方に飛ばされた。
「うおっ!」
「ハチマン君!」
即座にアスナがフォローに入り、ハチマンにヒールが飛ぶ。
「危ない危ない、何だあれ」
「もしかしてあれが、ブリシンガメンって奴なんじゃない?」
「ああ、かもしれないな………厄介な」
ハチマンはそう言いながら立ち上がると、再び武器を構えた。
「全然効かねえな」
それを聞いたベルゲルミルは、ニヤリと笑うと、真っ直ぐハチマンに剣を向けたのだった。
「向こうは随分楽しそうね」
「だねぇ」
ユキノのその言葉に、ユイユイはそうのんびりと答えたが、
その状況でもユイユイは、敵の激しい攻撃を完璧に防いでいた。
『くっ、貴様、何という堅さだ』
「お褒め頂き光栄です、って言えばいい?」
「そうね、礼儀正しくていいと思うわ」
「ありがとうユキノン!」
そんな二人の余裕ぶりに、付き合いの長いコマチとイロハは呆れていた。
「まったくこの二人は………」
「相変わらずだよねぇ………」
その横でクックロビンとランが、スルーズゲルミルに激しい攻撃を加えていく。
「あはははは、あはははははは」
「このラン様の攻撃は甘くないわよ!」
「あっちはあっちで………」
「う~ん、相変わらずだよねぇ………」
だが頼もしい事に変わりはない。敵は順調に削れていき、
全部で四本あるHPバーのうち、一本は問題なく削る事が出来た。
『ぬおおおお!』
その瞬間にスルーズゲルミルの攻撃パターンが変化した。
その手に持つ剣がハンマーに変化し、スルーズゲルミルはそれを地面に叩きつける。
「わっ、わっ」
「これは………地震攻撃かしら?」
「まともに立ってられないよ!」
「あら、修行が足りないわね」
そんな悪コンディションの中、ユキノは平然とバランスをとっていた。
「うわ………」
「さすがというか………」
ユイユイもアイゼンを上手く使い、何とかバランスをとっているようだ。
「くっ………」
「うぅ、普通なこの身が恨めしい………」
「どうしよ、どうしよ………」
「そうだ!」
イロハはそう言って、いきなり地面に寝転がった。
「横になったまま魔法を使えば、転ぶ心配をする事は無いよね!」
「「それだ!」」
「何言ってるのイロハ先輩………それに、それだってどれ………?」
唯一の良識人であるコマチは首を傾げたが、
そんなコマチをよそに、ランとクックロビンはいきなり四つん這いになった。
「こうね!」
「こうだね!」
「え、何それ………」
そのまま二人は四つん這いでスルーズゲルミルに突撃を開始し、コマチは呆気にとられた。
「え、な、何………?」
「うおおおおおお!」
「くらいやがれぇ!」
ランとロビンはそのまま敵に突き進み、
攻撃が届く範囲に到達した瞬間に全力でジャンプし、居合いぎみに敵に向けて攻撃を放った。
その姿はまるでバッタかカエルである。
「嘘………」
「………何て非常識な」
「あはははは、三人とも、凄~い!」
その様子を遠くて見ていたアスナは思わず大笑いし、
ハチマンは何事かと思い、振り向かないままアスナに問いかけた。
「アスナ、どうした?」
「む、向こうの戦闘が面白くてつい!」
「ほう?」
そう言われたハチマンは、ベルゲルミルの後方で戦っている仲間達に一瞬意識を向け、
その状況を把握し、アスナと同じように噴き出した。
「ぶっ………」
『隙有り!』
「無えよ」
そんなハチマンにベルゲルミルが突きを放ってきたが、
ハチマンはそれをあっさりと防いだ。
『チッ、かわいげの無い』
「俺にかわいげがあったら嫌じゃないか?」
『まあ確かにな』
その答えにハチマンは、こいつ、随分人間臭いAIを搭載されてるなと感じた。
そのまま戦闘は進み、遂にスルーズゲルミルのHPバーの二本目が削れたのか、
向こうの戦闘が一瞬停止した。
「おっ、やったか」
『ふん、親父の方が俺より先に倒れるか』
「みたいだな、助けなくていいのか?」
『必要ない、あれはただの燃料みたいなものだからな』
その冷たい言い方に、ハチマンは目を細めた。
(燃料………?もしかしてこいつら………)
ハチマンは一つの仮説を立て、その事をユキノと協議したいと考えた。
「アスナ、悪い、ちょっとだけ代わってくれ!」
「あ、うん、分かった!」
アスナはハチマンの言葉を受け、腰に差していた暁姫を抜いた。
「どのくらいもたせればいい?」
「一分くらいでいい、ちょっとユキノと話してくる」
「オッケー!」
アスナは足取りも軽くベルゲルミルの方に歩き出した。
『むっ、逃がすか!』
「あなたの相手は私だよ」
『ぬっ』
ハチマンの後を追おうとしたベルゲルミルの背中に向け、アスナはいきなり大技を放った。
「スターリィ・ティアー!」
『ぬおっ!』
完全に意識がハチマンに向いていたベルゲルミルは、その攻撃をまともにくらってしまう。
『やるな、女!』
「だから言ったじゃない、あなたの相手は私だって」
『いいだろう、相手になってやる!』
そう言いながらベルゲルミルは、ニヤリと笑った。
「ユキノ、おい、ユキノ」
「ハチマン君、どうしてここに?」
いきなりハチマンが現れた事で、さすがのユキノも驚いたようだ。
「実はちょっと気になる事があってよ」
「何かしら」
「俺が担当してるベルゲルミルの野郎な、
こっちのスルーズゲルミルの事を、燃料だって言いやがったんだよ」
「燃料………?なるほど、もしこちらを先に倒したら、
あちらがパワーアップする可能性があるという事かしら?」
ハチマンはそのユキノの相変わらずの理解力の早さに感心した。
「そういう事だ、さすがだな」
「お褒めに預り光栄よ、リーダー」
「茶化すなって、そんな訳だから、向こうを先に削っちまおうと思う」
「分かったわ、こっちは二人で支えてみせるから、向こうをお願い」
「悪いな」
「いいえ、問題ないわ」
ハチマンはアスナをフォローする為にそのまま戻っていき、
ユキノは仲間達に指示を出した。
「ユイユイ、こっちは二人で何とかしましょう。
他の人達は、先に向こうの大きい巨人を倒して頂戴!」
「むむっ」
「分かった、任せて!」
「イロハ先輩、行きましょう!」
「オーケー、向こうが優先ね」
こうして戦局は大きく動く事となった。