「よっしゃ~!」
「やったね!」
「お兄ちゃん、よく咄嗟に思いついたね!」
「おう、まあな」
そしてフィールドから排出された後、ハチマンはアイテムストレージを確認し、
いくつかのアイテムを取り出した。
「これがブリシンガメンか」
「綺麗………」
「ちょっと欲しいけど、プレイヤーは装備出来ないんだよねぇ」
「まあそうだな」
そして続けてハチマンは、ストレージから一本の刀を取り出した。
「それは?」
「『ムラサメ』らしいぞ」
「あっ、名前だけ出てたんだっけ!」
「ここにあったんだねぇ………」
ランはじっとムラサメを見つめ、ハチマンに手を伸ばした。
ハチマンはムラサメを黙ってランに渡し、
ランはそのままムラサメの性能を確認すると、黙って首を振った。
「これだと『スイレー』とほぼ変わりないわね」
「そうか、ならやっぱりこれはクライン行きだな」
「それがいいと思うわ」
ランはニッコリと笑い、そして一同はそのまま帰還する事になった。
「これでレーヴァテインにまた一歩近付いた?」
「だな、でもなぁ………」
ハチマンはそう言って表情を曇らせた。
「どうしたの?」
「いや、これでレイヤがフレイヤ様に変身するんだろ?それが心配でな………」
「「「「「「「あっ」」」」」」」
相手は何せ、
いくらALOとはいえ、その基本的な性格まで変えているとは思えない。
というか、レイヤの段階でその兆候があったのだから、おそらくフレイヤになった後、
その奔放さが増すのは確実であろう。
「まあいいんじゃないかな?
どうせそこまでストレートな表現は出来ないでしょ、NPCなんだし」
アスナが寛容な態度でそう言った。こうなるとハチマンとしては安心である。
アスナのお墨付きが出た以上、何があっても誰かに怒られる事はないからだ。
「まあそうだよな」
「さて、戻ったらアレス戦だね」
「そうだな、キリト達ももう戻ってるみたいだしな」
そう言いながらハチマンは、地面が揺れているような感覚を覚えた。
「むっ………」
「ハチマン君?」
「あ、あれ………」
そのまま仲間達の姿が横倒しになっていく。そこでハチマンはやっと気が付いた。
「あ、倒れてるのは俺か………」
「ハチマン!」
「ヒッキー!」
「ハチマン君!」
そのままハチマンは倒れたが、意識は辛うじて残っている。
「わ、悪い、どうやら敵の動きに集中しすぎたせいで、想像以上に消耗してたみたいだ」
「大丈夫、私が背負ってあげるからね」
そう言ってアスナはハチマンを背負った。
現実ではこんな事は無理だろうが、ここでは簡単だ。
「ハチマン、大丈夫?」
「おう、ちょっと休めば直るさ」
「とりあえずアルンに戻ったら休憩だね」
「だねぇ」
ハチマンはそのままアスナに運ばれ、無事にアルンへと到着した。
途中でハチマンがうっかりアスナの胸を掴んでしまうという事故があったが、
アスナは逆に、背負ってたのが私で良かったなどとぬけぬけと言い、
コマチ以外の者達がぐぬぬ状態になるという出来事もあったが、道中は概ね平和であった。
そしてアルンでは、キリト達が心配そうにハチマンを出迎えた。
「ハチマン、大丈夫か?」
「悪い、ちょっと集中しすぎちまった、まあ大丈夫だ」
「アスナ、代わるか?」
「う~ん」
アスナはこのままで大丈夫と言いかけたが、それはハチマンが止めた。
「俺はもう大丈夫だ、自分の足で歩けるさ」
「本当に?」
「………まあちょっとつらいが、
ヴァルハラのリーダーがそんな情けない姿を他の奴らに見せられないだろ」
そう言われると、他の者達は何も言えなかった………ただ一人を除いて。
「別にいいじゃない、それなら私が背負ってあげるわ」
そう言ってきたのはシノンであった、さすがである。
「いや、だからいらないからね?」
「そう言わないで、ほら、
実は私とデキてるって、周りに思わせるいいチャンスなんだから遠慮しないの」
「お前、本音がだだ漏れすぎだろ………」
ハチマン達はそのままヴァルハラ・ガーデンへと向かっていったが、
その間にもハチマンとシノンの間で言葉の応酬が繰り広げられていた。
「ちょっとくらいいいじゃない、ほら、先っぽだけだから」
「お前さぁ、女子高生なんだからさぁ………」
((((((強い………))))))
仲間達はシノンを見て、改めてその事を思い知らされた。
そして拠点に到着した後、これまでどんな状況だったのか、お互いの摺り合わせが始まった。
「それじゃあブリシンガメンは無事に手に入ったんだな」
「おう、これで色ボケ女神様も完全覚醒だ。あとはどこにいるか見つけるだけだな」
「で、アルンにアレスって奴がいやがると………」
「でもどこにいるんだろ、そんなのがあったらさすがに噂になってるよね?」
「そうだな、人がまったく寄りつかない場所か………」
「う~ん………」
こうなると、一同の目は自然とレコンに向く。こういった情報に一番詳しいのは、
ヴァルハラのデータベースを作成していたレコンだからだ。
「レコン、どうだ?」
「そうですね、確信はありませんけど、心当たりなら一ヶ所あります」
「どこだ?」
「グランドクエストの間です」
「「「「「「「「ああ~!」」」」」」」」
長くプレイしている者達は、あそこがあったかとその答えに納得した。
確かに今、あそこを訪れるプレイヤーなど皆無である。
「なるほどなぁ、とりあえずキリトの方のクエを進める為にも、アレスは今日中に討伐だな」
「で、アスナの受けたクエも半分は終わると」
「ティルフィング、どんな武器なんだろうね」
「片手直剣だとは思うが、まあヘパイストス神が何にでも改造してくれるだろ」
「あっ、そうかもね」
「でな、ハチマン、今度はこっちの話なんだけどさ、ちょっと言いにくいんだよな………」
ハチマンはそのキリトの態度に嫌な予感を感じた。
「まさか敵を逃したとかじゃないよな?」
「ああ、ケルベロスは確かに倒した、ついでにキュクロプスもな」
「おお、やったな」
「ああ、それで………な」
「フェンリルが死んだのか?」
そのハチマンの言葉にキリトはビクッとした。
「何で分かったんだ?」
「キリトがそんな顔をするのは仲間がやられた時くらいだ、
でもここはSAOじゃない、となると答えは一つだろ」
「そっか………フェンリルから伝言だ、
あいつ、最後はハチマンの事ばっかり気にかけててさ」
そう言ってキリトは、ハチマンにフェンリルの王冠を差し出した。
「最後に会いたかったが残念だ、ハチマンに宜しく、だってよ」
「そうか………」
ハチマンはそう呟くと、ぽろりと涙を流したが、
号泣するような事はなく、すぐに気持ちを立て直したようだ。
「で、これか………」
「どんな効果があるのかな?」
「素早さと移動速度が上がるらしい」
「なるほど、フェンリルっぽいな」
ハチマンはそのままフェンリルの王冠を頭に被ってみた。
それは多少豪華な鉢金といった雰囲気であり、ただ一点、
額のところについた二つの宝石が、まるでフェンリルの目のように、紫色に輝いていた。
「ううっ、フカ三郎!」
その時横で、フカ次郎がそう言っていきなり泣き出した。
即座にレンが、フカ次郎を宥めにかかる。
「フカ、どうどう」
「だって、だって………」
「レン、フカ三郎って何だ?フェンリルの事か?」
「う、うん」
フカ次郎がフェンリルにフカ三郎と名付け、
その事をフェンリルが喜んでいたという話を聞き、ハチマンは黙ってフカ次郎の頭を撫でた。
「あいつ、いい奴だったよな」
「リーダー………う、うん!」
「まあまたいつか会えるさ、もっとも同じ人格を持ってるかどうかは分からないけどな」
「そしたらまた、フカ三郎って呼んでみる!」
「ああ、そうしてみろ」
ハチマンは穏やかな表情でそう言ったが、
その瞬間にどこからともなくフェンリルの声がした。
『ふむ、ならば世界中の我が名が載っている書物を全てフカ三郎に書き変えてしまおう』
「んな事出来るか!って、その声、フェンリルか?一体どこにいるんだ?」
「ここだここ、今はお主の額におる」
「まさか………それってインテリジェンス・アイテムなの?」
インテリジェンス・アイテム、文字通り、意思を持ったアイテムの事である。
もっとも今までALOではその存在は確認されていない。
『そういう事だ、また会えて嬉しいぞ、ハチマン、フカ次郎』
フェンリルはハチマンだけではなく、フカ次郎の名前も呼んだ。
「フ、フカ三郎!」
『我はここにいる、だからそんな顔をするんじゃない』
「う、うん!」
「まさかこんな仕掛けになっているとはなぁ………」
『すまん、我もついさっき意識を取り戻したのだ、
どうやら誰かに装備してもらわないと、意識のリンクが繋がらないようでな』
「なるほど………」
ここまで呆気にとられながら事の推移を見守っていた仲間達も、
ここで一気に盛り上がった。
「うわ、うわぁ!」
「良かった、本当に良かった………」
「やったね、フカ三郎復活!」
『うむ、心配をかけたな』
「フカ三郎、これからはずっと一緒だね!」
『それなのだがな』
フェンリルはそう前置きし、ハチマンにこんな事を言ってきた。
『ハチマンよ、その額の宝石、片方をこのフカ次郎にくれてやってくれないか?
それは片方あれば事は足りるのでな』
「そうなのか?ああ、分かった」
ハチマンはそのまま片方の目をフカ次郎に渡す。
「い、いいの?」
『もちろんだ、それをヘパイストスの所に持っていけば、
お前の武器の束の部分に付けてくれるだろう。
それで今後はずっとお前とも話が出来る。もっとも二人同時には相手は出来んがな』
「や、やった~!」
こうしてフカ次郎はフカ三郎と再会し、
キュクロプス・ハンマーとカドゥケウスの報告を受けた後、
アレスの攻略をキリトに任せ、ハチマンはログアウトして休憩する事となったのだった。