ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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すみません、一話書くのにかなり時間がかかってしまいました。
強めの鎮痛剤でも痛みが消えきらない為、まったく筆が進みませんでした、申し訳ありません。
次の投稿は三十日で、そこからは痛みも無くなるはずなので普通の更新に戻せる予定です、宜しくお願いします!

ーー三十日追記ーー
昨日の治療後、歯の根を思いっきり削った結果、一時的に鎮痛剤が効かないほどの激痛に見舞われている為、更新は少し遅くなりそうですすみませんorz


第1112話 アレス戦~突入

『BATTLE START』

 

 空にそんな文字が表示され、遂にアレス攻略戦が開始された。

最終的に、攻撃側の人数は約百人、守備側は約四百人という戦力差となっている。

参加人数の上限に達している為にこれ以上プレイヤーが中に入る事は出来ないが、

死んだ者は二度とここには入れない為、時間内であれば、

死者が増えるごとに再び新たなプレイヤーが突入してくる事だろう。

 

「何となく守備は嫌だったから攻撃の方に参加してみたけど………」

「これはさすがにやばくないか?」

「ああっ、くそっ、素直に守備側に入っときゃ良かった!」

 

 開始早々にして、攻撃側のプレイヤー達の士気は限りなく下がっていた。

それも当然だろう、さすがにこれだけ戦力に差がつくと、

普通は攻撃側が勝つ事などありえない。

そう落ち込む彼らの耳に、何とも気楽な感じの会話が飛び込んできた。

 

「お?結構増えてるな」

「誰もいない可能性もあるかなって思ってたんだけどなぁ」

「まあ私はどっちでも良かったけどねぇ」

 

 何事かと思い、そちらを見た攻撃側プレイヤーの目に飛び込んできたのは、

ヴァルハラ、アルン冒険者の会、そしてソニック・ドライバーの連合チームであった。

 

「お、おい、あれ………」

「ヴァルハラ?」

「ヴァルハラだ………」

「え、マジで?ヴァルハラは討伐クエストをクリアしてたはずだよな?」

「まさかの邪神側のクエスト!?」

「そんなのあったのか………?」

 

 一般のプレイヤー達は戸惑っていたが、そんな彼らをよそに会話は続く。

 

「戦力差は四体一、更にボスが相手の味方ってか?」

「おまけに向こうはお城付きみたいな」

「これ本当にクリアさせる気があるのかな?」

「まあうちが少数なのはいつもの事じゃん」

「そうそう、いつも通りやればいいんだって」

「はいみんな、そろそろ静かに」

 

 ユキノがそう言ってパン!と手を叩き、場はシンと静まった。

そしてキリトが一歩前に出て、一般プレイヤー達に声をかけた。

 

「という訳で、宜しく」

 

 何とも軽い挨拶であったが、直後に一般のプレイヤー達から大歓声が上がった。

 

「うおおおお!」

「ヴァルハラ!ヴァルハラ!」

「くっそラッキー!これで勝つる!」

「守備側に参加しなくて本当に良かった………」

 

 そんな彼らに笑顔を向けながら、キリトは号令をかけた。

 

「よ~し、それじゃあ行こうか!」

「「「「「「「「おう!!!!!」」」」」」」」

 

 ヴァルハラの登場により攻撃側の士気は急速に回復した。

ホーリーを中心に、ユイユイとセラフィムが左右を固めて進軍し、アサギが殿を努める。

そのまま敵の城が見える位置まで移動した一同は、

城壁の上に凄まじい数の銃口を認め、閉口した。

 

「この中を進むのはさすがに面倒だな………」

「せめて飛べればねぇ」

「まあ飛べたら城の意味が無くなっちまうし、仕方ないよな」

 

 このフィールドではどうやら飛べないらしく、既に確認済である。

 

「城門は………開いてるのか」

「遠くにお城の内部も見えるね、そっちの入り口も開いてそう」

「でもそこに行くまでにかなりダメージをくらっちゃいそうだね」

「タンクに前に出てもらうとしても、さすがに城壁が高すぎだよなぁ」

「統率もとれてるみたいね、シグルドも変わったという事かしら」

 

 シグルドは連合や同盟の体たらくを雌伏の時によく観察していた。

それによってシグルドが得た教訓は、

個人の力ではヴァルハラには絶対に勝てないという事であった。

その為シグルドは、部下達には徹底して集団戦術を学ばせていたのである。

 

「それなら私が何とか出来ると思うわ」

 

 そう言って一歩前に出たのはユキノである。

ユキノがその手に持っていたのは………ウォールブーツだった。

 

「ああ~!」

「その手があったか!」

「とりあえずこれで私が敵の足止めをするわ。みんなはその間に門の中に突入して頂戴」

「了解」

 

 ユキノはレコンの助けを借り、姿を消して密かに城の側面へと回り込む。

その間キリトは正門前に姿を見せ、いかにも正面突破するぞというアピールを続けていた。

 

「お、おい、あれ………」

「ヴァ、ヴァルハラだ!」

「何であいつらが攻撃側に………」

「敵なのは間違いない、とにかく撃て、撃て!」

 

 当然キリトに魔法銃の攻撃が集中するが、その攻撃はキリトが全て叩き落とした。

その脇ではリオンがこっそりロジカルウィッチスピアで攻撃を吸収している。

魔力補充のチャンスだと見たのだろう。

それを陽動代わりとし、ユキノはレコンにブーツを渡し、

レコンが姿を隠したまま壁を登っていく。ユキノはその足にブランとぶらさがりながら、

同じくレコンの魔法によって姿を消したまま、上へ上へと運ばれていく。

これがもしハチマンが相手なら、ユキノは確実にお姫様抱っこを所望しただろうが、

レコン相手では当然そんな事にはならなかった。

 

「ふっ!」

 

 城壁の上に手が届くようになると、ユキノはそこに手をかけ、

自らの力によって体を引き上げ、城壁の上にヒラリと舞い降りた。

その姿は実に華麗であり、誰からも姿が見えないのが実に残念である。

 

「さて、始めましょうか」

「はい!」

 

 そしてユキノは長い長い詠唱を始め、城壁上の敵を確実に魔法の範囲に収めていく。

同時にレコンはアスナにメッセージを入れ、

それを受けたアスナは、仲間達に突撃の準備をするようにテキパキと指示を出していく。

程なくしてユキノの詠唱が終わり、レコンも戦闘体勢をとった。

 

「さて、あの人達を城壁から叩き落とすわよ。アイスエイジ!」

 

 ユキノがそう叫んだ瞬間に、城壁を伝うように氷が広がっていき、

今まさにヴァルハラ目掛けて攻撃しようとしていた者達は、

盛り上がる氷に弾かれ、そのまま城壁の下へと落下していった。

 

「何だ!?」

「うおおおお!」

「こ、氷!?絶対零度………!?」

 

 同時にアスナが混乱する敵に向け、攻撃の合図を出す。

 

「今がチャンスだよ!突撃!」

「「「「「「「「おう!!!」」」」」」」」

 

 先頭を走るのはタンク三人衆とラキアであった。

三人は、落下して地面に叩きつけられた者達には目もくれず、

並んで今まさにこちらに殺到してこようとする、城門内の敵を牽制する。

城の入り口まではまだ五十メートルくらいあり、

そちらから激しい遠隔攻撃も飛んでくるが、

三人はそれを難無く防ぎ、仲間達は無事、城門の内部へと侵入を果たした。

その間に先行して突っ込んだラキアが、その手に持つ巨大な斧を、

落ちてきた衝撃でスタン状態になっている敵に容赦なく振り下ろしていく。

他の者達もすぐにその攻撃に加わり、

壁上に陣取っていた五十人ほどのプレイヤー達は、またたく間に殲滅された。

それを見ていたユキノは、城壁の内部に上り下りする為の階段が城壁内に無かった為、

仕方ないといった表情でヒラリと飛び降り、優雅に着地を決める。

 

「さっすがユキノ!」

「いいえ、レコン君のサポートがあってこそよ、アスナ」

「そっか、さっすがレコン君!」

「いえ、僕なんかまだまだですよ」

 

 ユキノの後を追って飛び降りてきたレコンは、はにかむような表情でそう言い、

そのまま城の方に目を向けた。

城の内部から、敵の近接アタッカー陣がちらほらと姿を見せており、

今はタンクの三人が牽制しているものの、すぐにまた激しい戦いが行われる事になりそうだ。

ちなみに城壁から城入り口の間に配置されていた敵プレイヤーは、

タンク三人が相手では分が悪いと判断したのか、既に城内に引いている。

 

「随分統率がとれてますね」

「そういえばシグルドとまともに戦うのってこれが初めてだよな」

 

 それに対しては、シルフ領の四天王であるフカ次郎とリーファがこう答えた。

 

「まああいつは腐ってもシルフ軍のエースだったし、

戦いに関しては意外としっかりしてるよ」

「多少成長もしてる気がするよね」

「そっか、相手にとって不足なしだな」

 

 キリトは頷きながらそう言うと、全軍に前進するように伝えた。

 

「行こう!」

 

 その声を受け、ホーリーを先頭にタンクの三人が城内へと歩き出す。

その迫力に押されたのか、先ほどまでこちらを伺うように、

ちらほらと姿を見せていた敵の近接アタッカー陣が城内へと完全に引っ込んでいく。

 

「ん………」

 

 その動きに何かを感じたのか、キリトが思わずそう呟く。

 

「キリト君、どうかした?」

「いや、何となく敵の動きが不自然な感じが………」

「何かあるのかな?」

「分からないけど警戒していこう」

「うん」

 

 仲間達は次々と城の内部へと入っていく。

 

「あ、ユキノさん、今のうちにこれ、返しますね」

 

 最後尾近くを歩いていたレコンが、そう言ってユキノにウォールブーツを差し出した。

 

「あ、そうだったわね」

 

 二人はそのまま城内に入り、まだ後方にいる二人にチラリと視線を向けた。 

 

「アサギさん、そろそろ!」

「うん、今行く!」

 

 アサギは殿として、まだ城門の外で敵を警戒しており、

リオンはそんなアサギを呼ぼうとそちらに向かっていた。

その瞬間にいきなり上から鉄の扉が落下し、城門が閉ざされた………アサギを残したまま。

 

「えっ?」

「なっ………」

「まずいわね、キリト君!」

「むっ」

 

 その事態にユキノが慌ててキリトに声をかけたが、

その瞬間に、今度はユキノ達が今まさに通った城の入り口の上から鉄の扉が降ってくる。

 

「くっ………リオンさん!」

 

 ユキノは咄嗟にその手に持つウォールブーツをリオンに投げ、

リオンがそれをキャッチした瞬間にその扉は閉ざされた。

 

「これは………あっ、そうか!」

 

 今リオンは城門と城の入り口の間にいたが、城壁の上に登る手段が無い為、

そこから城門を登ってアサギのいる場所に行くのは不可能であった。

だがこれがあれば、アサギの所にたどり着く事が出来る。

リオンはユキノの機転に感謝しつつ、ウォールブーツを装備して、城壁を垂直に登った。

 

「アサギさん!」

 

 城壁の上でそう叫び、下を見たリオンは、その光景に愕然とした。

どこに隠れていたのか、城壁の外には二十人ほどの敵が姿を見せており、

城門を背にしたアサギがその敵を相手に一人で激しい戦いを繰り広げていたからである。

 

「アサギさん、今助けるから!」

「リオンちゃん!」

 

 そしてリオンは城門の上でロジカルウィッチスピアを構え、高らかにこう叫んだ。

 

「目覚めよ我が娘よ!」

 

 こうして二人の厳しい戦いが始まった。


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