ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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お待たせしました、やっと鎮痛剤が効く程度には落ち着きました(泣)

8/4追記
全然落ち着いてませんでした、毎晩苦しんでおります、もうしばらくお待ち下さいorz


第1113話 アレス戦~城門の攻防

「アサギさんから離れろ!」

 

 アサギとは長い付き合いであり、とても仲がいいリオンはキレていた。

アサギに無骨な男共が群がり、傷つけようとしているのはとても不愉快だったからだ。

 

「くそっ、相手は二人だ!せっかく罠が成功したんだから、確実に仕留めろ!」

 

 今回の敵は、それなりにやるらしい。

そう思ったリオンは、だが激情の赴くままにロジカルウィッチスピアを乱射し、

アサギの周りから敵を排除する事に成功した。

その分リオンに対して魔法攻撃が集中したが、幸い弓使いがいなかった為、

リオンは余裕を持って敵の魔法攻撃を吸収し、

永久機関よろしく、戦闘継続能力を維持し続ける事に成功していた。

だがここまでに二人が倒せた敵の数はゼロであった。敵は戦いを慎重に進めており、

無理せずアサギへの細かいダメージを積み重ねる事に腐心していたからだ。

ここまでアサギへのヒールはつたないながらもリオンが行っていたが、

攻撃はロジカルウィッチスピアで吸収し続けているMPを使用しているので問題ないものの、

ヒールに関してはリオンの自前のMPを使っている為、

その残量は徐々にゼロに近付いてきている。もしリオンのMPが切れたとしても、

アサギは自前で回復アイテムをそれなりに所持している為、

多少の間なら戦闘を継続する事が可能だが、

それによって勝利を手繰り寄せられる可能性はゼロである。

 

「リオン!」

「アサギさん!」

 

 二人はそう声をかけあう事でその認識を共有し、

こうなったら死ぬ気で出来るだけ多くの敵を倒すしかないと、目を目で頷き合った。

直後にアサギが動く。

 

「鉄扇公主、モード、デストロイ!」

 

 その言葉に反応し、鉄扇公主の扇骨が伸び、刃を形成する。

 

「うがっ!」

 

 敵の一人がそれに虚を突かれ、まともに攻撃をくらう。

リオンはそのチャンスを逃さず、攻撃をその一人に集中した。

 

「まず一人!」

 

 二人の連携によって、その敵が消滅する。

 

「くそっ………」

「落ち着け!このままじわじわと削るんだ!」

「ロジカルウィッチは魔法を吸収するぞ、あっちに魔法を撃つな!」

 

 その言葉を聞き、リオンは歯軋りをした。

元々リオンは集団戦でこそ活躍出来るプレイヤーであり、

こういった個人の勇が要求される戦闘には不向きである。

それを改善する為に色々試してはいるが、まだ実になっていない現状、

この状況は非常にまずい。

 

(でもやるしかない!)

 

 リオンがそう覚悟を決めた瞬間に、背後から足音がした。

 

(まさか………伏兵!?)

 

 そうドキリとし、後方の城門に目をやったリオンの視界に飛び込んできたのは、

シノン、コマチ、ウズメ、ピュアの四人であった。

 

 

 

 アサギとリオンが孤立させられ、焦っていたキリト達は、

敵と交戦しながら、ユキノの指示に従い、城門の裏側に当たる位置を徹底的に調べていた。

 

「キリト君、これ………」

 

 そんな中、アスナが説明が書かれたハッチのような物を発見した。

そこにはこう書いてあった。

 

『城門上ルート(四人用)ただし一方通行』

 

「四人………?」

「どうやら敵にもある程度制約があるようね、

好きに城内にプレイヤーを配置出来る訳ではなさそう」

 

 近くには同じようなハッチがあったがそこについているランプは使用済という事なのか、

赤く点灯しており、開く気配はない。

唯一アスナが見つけた少し分かりにくい所にあるハッチのみが通行可能のようで、

その色は青く輝いている。

 

「よし、二人を助けにいくメンバーを………」

「それなら私が行くわ、城門から弓を射掛けるのは定番でしょう?」

 

 シノンがそう志願し、続いてウズメが手を上げる。

 

「わ、私も行く!アサギさんを助けたいから!」

 

 同じ事務所で仲良しである為、この志願はまあ当然といえば当然だ。

 

「………でもウズメは近接アタッカーだ、

もし向こうが戦闘になってたら城門から降りないといけないし、

そうするとアサギさんがいるとはいえ、敵の数によっては死ぬかもしれないぞ?」

 

 ウズメの身を心配してそう言うキリトに、ウズメはきっぱりとこう答えた。

 

「私は私の失敗で死ぬ事を全然駄目だと思わない。それって絶対次に繋がることだし、

そういうの全部踏み越えた先に、誰にも負けない私がいるって思うから、

だから私自身の為にも行かせて欲しい!」

「大丈夫、私がフォローしますから」

 

 横からピュアが微笑みながらそう言い、キリトはそんな二人に頷いた。

 

「分かった、でもまあ出来れば死なないようにな、ハチマンが悲しむと思うから」

「うん!」

「頑張ります!」

「まあもう一人行けるんだ、え~と………それじゃあコマチ、頼む。

ウズメとお互いの背中を守って戦ってくれ」

「うん、任せて!」

「あっ、コマチさん、これを持っていって」

 

 その時ユキノがコマチにウォールブーツを差し出してきた。

 

「これがあれば………ね?」

「ああ!さっすがユキノさん!」

 

 ユキノはコマチに何か耳打ちし、

こうして選抜された四人は、そのままハッチを潜って城門上に飛び出したのであった。

 

 

 

「みんな!」

「リオン、状況は?」

「私はそろそろМPがきつくなってきたところだった、アサギさんは無事だけど………」

 

 リオンはアサギから目を離さないように気をつけながら四人にそう答えた。

 

「オーケー、それじゃあさっさと敵を片付けましょうか」

 

 そう言って弓を構えるシノンに、コマチが待ったをかけた。

 

「待って待って、さっきユキノさんがこう言ってたの。

とりあえず合流したら、ウォールブーツを使ってアサギさんを城門の上に引っ張り上げて、

上から一方的に攻撃すればいいと思うわ、って!」

「なるほど………それじゃあ敵を牽制して、その間にアサギさんを」

「それなら私達に!」

「任せて下さい!」

 

 ウズメとピュアがそう言って説明を始め、四人は目を大きく見開いたのであった。

 

 

 

「………ん?何か聞こえないか?」

「これは………歌!?」

「な、何でこんな時に………」

「おい、あれ!」

 

 突然戦場に歌が響き渡り、守備側のプレイヤー達は辺りを見回して、

城門の上で歌い踊る二人のプレイヤーの姿を見つけた。

 

「あれって噂の………」

「フランシュシュの二人に似てるっていうあれか?」

「くっそ、本人じゃないはずなのにマジで歌が上手え………」

「それにあのダンス、つい目があっちに向いちまう………」

 

 そこではウズメとピュアが、

ライブさながらにフランシュシュの曲を踊りながら歌っていた。

七人分の役割を二人でこなすのは大変だったが、

二人はいずれ、ALO内で二人でゲリラライブをするつもりだった為、

既に練習済なのであった。

 

「凄え………」

 

 攻撃をくらう可能性を全く無視し、二人はこのパフォーマンスに全力投球していた。

そのせいか、攻撃を受ける事もなく、下にいるプレイヤー達はそんな二人に見入っていた。

その隙を突いて、ウォールブーツを装備したコマチが壁面を走る。

 

「アサギさん、こっち!」

「っ………コマチさん!」

 

 アサギは上に援軍が来ている事を認識しつつも、

敵から目を離さないように警戒を続けていたが、

ここに来てコマチから直接声をかけられた事で、初めて振り返った。

そこにはこちらに手を伸ばすコマチの姿があり、アサギはその手を躊躇いなく掴んだ。

その瞬間にアサギの体はぐいっとコマチに引き寄せられ、

そのままコマチに抱えられてどんどん壁面を上へ登っていった。

 

「………まさか女の子にお姫様抱っこをされる日が来るなんて」

「あはははは、お待たせしましたアサギさん、助けに来ましたよ!」

「ありがとう、コマチさん」

 

 それで下のプレイヤー達は状況に気付き、ハッとしたが、時既に遅し、

アサギは既に安全圏に去っており、そしてシノンからの攻撃が始まった。

 

「さて、それじゃあ死になさい」

 

 そこからシノン一人で射っているとはとても思えない数の矢が降り注ぎ、

プレイヤー達は右往左往しながら城門に沿って逃げ出し始めた。

どうやってもこちらからの攻撃はシノン達には届かないのだ、これは当然であろう。

 

「くそっ、化け物め………」

「必中のシノン、セブンスヘヴンランキング十位だったか?」

「足を止めるな!引け、引け!」

 

 その逃げる方向を見て、コマチが首を傾げた。

 

「ん~?ねぇ、どうしてあっちに逃げるのかな?

逃げるなら普通、このお城から遠ざかろうとするんじゃない?」

「そういえば確かに………」

「もしかしてあっちにお城の中に通じる道があるとか?」

 

 その言葉に一同はハッとし、慌てて追撃を始めた。

 

「ウォールブーツがあるから最悪上るのは何とかなる、とりあえずみんな、下へ!」

 

 リオンがそう冷静に指示を出し、一同は城門から飛び降りた。

そのまま逃げる敵を追撃していくと、城の裏手に確かに中へ通じているような扉があった。

 

「あった!」

「まずい、間に合わない!」

 

 だが敵もさるもの、最初から逃げに徹したのが功を奏したのか、

六人に追いつかれる前に扉に飛び込み、中に逃げ込んで扉を閉める事に成功した。

 

「くっ………」

「困ったわね」

「どうやって中に入ろう………」

 

 扉は重厚であり、叩こうが何をしようがびくともしない。

その時背後から大勢の足音とざわめき声が聞こえ、六人は身を固くした。

 

「また敵の援軍?」

「しつこいわね………」

「待って、あれって………」

 

 遠くに見えたのは、特徴のある赤い鎧。

そう、そこにいたのはユージーン、サクヤ、アリシャ達の軍勢であった。


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