ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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長く休んでしまって大変申し訳ありません、本当はいけないのでしょうが、バファリン神を過剰に消費しつつ我慢していた結果、多分ですが、歯の神経が勝手に死んでくれました(滝汗)暑さに負けて数日は投稿出来ない日があるかもしれませんが、今日からまたしっかり書いていきたいと思いますので今後とも宜しくお願いします!


第1114話 アレス戦~嵐の前

「ユージーン!こっちこっち!」

 

 誰が相手でも態度が変わらないシノンが、ユージーンに向けてそう声をかける。

それに気付いたユージーンは、一応周囲を警戒しながら仲間達と共にこちらにやってきた。

 

「む、シノンか、やっぱりいたな。一応聞くが、まさか敵じゃないよな?」

「あなたがハチマンからのアドバイスを無視していなければ、そうね」

「そんな事あるはずがないだろ、ちゃんとジャイ………巨人ともお別れしてきたさ」

 

 二人はセブンスヘヴンランキング九位と十位として普段からライバル意識を持っているが、

その仲はもちろん悪くはなく、こういった場面では、

実力が近い相手としてお互いを尊重し合っていた。

 

「ジャイ………………何?」

 

 訝しげにそう尋ねてくるシノン相手に、

まさか正直に、巨人に名をつけていたなどとは言えず、

ユージーンは誤魔化すかのように、露骨に話を逸らした。

 

「それはいい、で、状況は?敵はどこだ?」

「多分この城の中」

 

 シノンはそう言いながら、コンコン、と閉ざされた扉を叩いた。

 

「ほう?シノン達はここで何を?他のみんなはどうしたんだ?」

 

 サクヤのその問いに、シノンは肩を竦めながら答えた。

 

「敵の罠にはまって分断されちゃったのよ、で、中に戻ろうとしてたんだけど」

 

 そう言いながらシノンは、開かない扉をゴン!と叩いた。

 

「この扉をどう開けようかなってね。不壊属性じゃないみたいなんだけど」

「なるほど、そういう事だったか」

「それならユージーン君がいるじゃない、ユージーン君ならいけるよね?ね?」

「さすがにそれは………」

 

 アリシャがユージーンを持ち上げ、ユージーンは躊躇うそぶりを見せたが、

シノンの後ろにウズメとピュアがいるのを見てハッとし、ドンと胸を叩いた。

 

「い、いや、やる、やってみせる!」

 

 そう、ユージーンはフランシュシュの大ファンであり、

ハチマンが度々、この二人が本人であると仄めかすような事を言う為、

この二人の前で活躍出来そうなこのチャンスを逃す訳にはいかなかったのである。

 

「さっすがユージーン君、それじゃあお願いね!」

「おう、任せろ」

 

 そうは言ったものの、ユージーンはこの扉をぶち破れるという確信をまだ持てておらず、

若干自信無さげに構えをとっていた。

 

(くっ、この重厚な扉が俺に破れるか………?)

 

 迷うユージーンがチラリとウズメとピュアの方を見たのに気付き、

アサギは、ははぁ、と思い、ウズメとピュアにこう囁いた。

 

「ねぇ二人とも、ユージーンさんにもっと声援を送ってあげて」

「あっ、うん、そうだね、ユージーンさん、頑張って!」

「応援してますから!」

 

 その声が、毎晩聞いているフランシュシュのアルバムの声とダブり、

ユージーンはカッと目を見開いた。

 

(ま、まさか、アイドルから生声援をもらえるとは!俺はやる、やってやるぞ!)

 

 その全身からまるでオーラが迸っているかのように、裂帛の気合いが放たれる。

 

「うおおおおお!ヴォルカニック・ブレイザー!扉よ、あっつくなぁれ!」

 

 ユージーンは、ウズメとピュアにいいところを見せるべく、

ここでグラムを失ってもいいというつもりで躊躇いなく剣を振りぬいた。

そしてソードスキルのエフェクトが収まった後、その扉にピシリとヒビが入った。

だがそれ以上、扉に変化は訪れない。

 

「おお?」

「惜しい?」

「ううん、いけたみたい」

 

 シノンがそう言って、その扉にヤクザキックを放つ。

その瞬間に扉が崩れ、奥へと続く通路が姿を現した。

実に女の子らしくない仕草だが、ハチマンがここにいないからだというのは言うまでもない。

そしてもしハチマンがここにいたら、シノンはしれっと他の誰かに同じ事をやらせ、

自分はあくまで大人しくしていただろう事もまた間違いない。

 

「やった!」

「さっすがユージーン君!」

「ふう………俺にかかればまあこんなもんだ」

 

(危なっ………)

 

 内心はヒヤヒヤながらも、こうして城への突入口は、無事確保された。

 

「フン、それじゃあ行くとしようか」

 

 精一杯格好をつけつつ、ウズメとピュアにアピールしたユージーンの前で、

その時二人がまるで、こちらとハイタッチをするかのように手を上げた。

 

(こっ、これは………夢にまで見た芸能人と触れ合うチャンスなのでは………!?)

 

 ユージーンはドキドキしながらそう思い、二人の方に一歩を踏み出しかけた。

だがその目の前で、ウズメとピュアはお互いの手の平を打ち合わせ、ハイタッチをした。

 

「イェ~イ!」

「これで皆さんと合流出来ますね!」

「それじゃあみんな、早くキリト達と合流しましょう」

 

 シノンがそう言って扉を潜り、他の者達もその後に続いて中へと入っていった。

ユージーンは中途半端に手と足を上げたまま固まっていたが、

さすがにかわいそうだと思ったのだろう、アサギが通りすがりにその手をパン、と叩いた。

 

「むっ………」

「ふふっ、ドンマイ」

「な、何がだ!?俺は別に………」

「いいからいいから、ほら、行きましょうよ」

「お、おう、そうだな」

 

 それで気を取り直したユージーンは、次の機会にまた頑張ろうと思い、

心の中でアサギに感謝しつつ、その後をついていった。

自分が芸能人と、生まれて初めて触れ合ったという事には気付かないまま。

 

 

 

 一方キリト達は、城内が狭い上に複雑な構造になっていた為、

隊をいくつかに分けざるを得ず、行く先々で敵の待ち伏せにあい、苦戦していた。

とはいえ突破が不可能だったとかではなく、

単に事故で味方が死亡し、人数が減るという事態を懸念したのである。

 

「くそ、開けた場所で戦えればどうって事ないのにな」

「さすがにこれだけ敵がまとまってると厳しいわね」

「でもまあこいつら中々やるよなぁ、正直なめてたわ」

「どうする?」

「ん~、一旦引こう。戦力を分けるのはやめて、

比較的広い場所を狙って全員で突破を狙った方が良さそうだ」

「了解、連絡を回すね」

 

 キリト達はそのまま引いていき、SDSのメンバー達は歓声を上げた。

そしてシグルドは、部下からその事について、勝利扱いとして報告を受ける事となった。

 

「………といった感じで、敵を撤退させる事に成功しました。我がギルドの勝利です!」

 

 その報告に、シグルドは満足そうに目を細めた。

 

「それで、何人の敵を倒せたんだ?」

「それは不明ですが、どちらが優勢とも言えない状況だったのに敵は引いていきました。

おそらく混戦の中で、敵の何人かが倒れたのではないかと愚考致します!」

 

 もしここにハチマンがいたら、そんなものは報告とは認めなかっただろう。

何故ならそこには事実が何一つ無いからだ。

だがやっと自分のギルドが持てた事で上機嫌だったシグルドは、

いかにも曖昧でふわっとしたその報告に対し、鷹揚に頷いた。

 

「………そうか、よし、この後も頼むぞ」

「は、はい!」

 

 実はシグルドも内心では、情報の正確性に問題があるな、などと思っていたが、

それ以上にヴァルハラ相手に互角に戦えている事の喜びの方が大きく、

部下達も同様にその事を喜んでいるようだった為、

この点には今日は目を瞑り、今後徐々に部下を教育していこうと考えていた。

何せ今日はこのギルド、SDSのデビュー戦なのだ、

正直ヴァルハラ相手に勝てるとは思っていなかったが、

出来るだけ善戦して少しでもギルドの名声を高めたい、

そしていずれはヴァルハラを超えたい、それがシグルドの一番の目的であった。

要するに他者からの承認欲求である。

その気持ちが大きすぎるが故に、前述のように問題がある事を自覚していたものの、

シグルドは戦いが互角で推移している事を重視し、

部下達の配置について、特に新たな指示を出すような事はしなかった。

その受身の姿勢のせいでシグルドは、ここから最後まで後手後手に回る事となる。

 

「よし、引き続き各所の防御に専念してくれ。だが決して無理はしないでいい。

あくまでも、最終決戦地はここだからな」

「は、はい!」

 

 シグルドは部下にそう伝えた後、背後に鎮座している巨大な像を見た。

 

「………その時が来れば、この神とやらも動き出してくれるだろうしな」

 

 そこに立っていたのは神アレスの像である。

このクエストの名前がアレス討伐戦である以上、おそらくシグルドの予想通り、

敵がこの広場に踏み込んできたらアクティブ化してくれるだろう。

 

「まあとりあえず、今は防御だ」

 

 シグルドはそう呟き、神像の前に座って腕組みすると、戦闘の再開報告を待つ事にした。

 

 

 

 一方ヴァルハラである。

 

「それじゃあ突破を狙うならここか」

「ええ、構造的にもおそらくここがボス部屋に通じていると思うわ」

「敵はここまででどのくらい倒せてる?」

「全部合わせて二十人というところかしら。

コマチさんからの報告も合わせると四十人ほどになるかしらね。

もっともプレイヤーは補充されるのだから、意味のない数字ともいえるでしょうけど」

「って事は、敵は分散させたままにして、遊兵の数を増やした方がこっちには有利って事か」

「そうね、出来れば敵プレイヤーの集結前に、一気に敵のボスまで倒してしまいたいわ」

「オーケー、それじゃあみんな、ヴァルハラの力をとことん思い知らせてやろう」

「出来たてのギルドが相手なんだから、苦手意識を植え付けてやらないとねっ!」

 

 ヴァルハラのメンバーだけではなく、ラキアとスプリンガー、

そしてアルン冒険者の会のメンバー達や、スモーキング・リーフの六姉妹は、

その言葉に獰猛な笑顔を見せたのだった。

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