ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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すみません、昨日は思いっきり暑さに負けましたorz


第1116話 アレス戦~三転

「おっ、シノン、それに三種族連合軍!?」

「ふっ、助けに来てやったぞキリトよ、感謝するがよい」

 

 シノン達に気付いたキリトが驚いたような声を上げ、

若干調子に乗った感じでユージーンがそれに答えたが、

そんなユージーンをスルーし、キリトはサクヤとアリシャに駆け寄った。

 

「二人とも、助かるよ」

「気にするな、友達だろう?」

「うんうん、友達友達!」

「おいいいい!俺を無視するな!」

 

 ユージーンはもちろん本気ではないのだろうが、そんなキリトの態度に怒りを見せた。

 

「あれ、ユージーン、いたのか?」

「いるに決まってるだろ!」

「そうかそうか」

「反応薄いなおい!」

「どうどう、落ち着け落ち着け」

「これが落ち着いていられるか!」

「「っ………」」

 

 その時後ろから息を呑む気配がし、ユージーンはそのまま固まった。

振り向かなくてもユージーンには分かる、今のはウズメとピュアの気配であった。

 

(し、しまった、怖い人だと思われてしまったかもしれん!)

 

 ユージーンはそう思い、ことさらに笑顔を作りながらキリトの肩に手を回した。

 

「ははっ、冗談が過ぎたな親友」

「え、いきなり何だよ、気持ち悪い」

 

 キリトはそんなユージーンに若干引きながらそう言い、

ユージーンは再びイラっとしたが、それを表に出さないように必死に耐えた。

 

「どうしたんだキリト、それじゃあまるでハチマンみたいじゃないか。

やっぱり仲がいいと似るって事なのかな、ははっ。

まあこれから一緒に戦うんだ、俺達もいつもみたいに仲良くやろうぜ」

「………………」

 

 キリトはうさんくさい物を見るような目でユージーンの顔を見つめた。

 

(これはまさか、からかいすぎておかしくなったかな………………ん?)

 

 だがその時キリトはユージーンの意識が後方に向いている事に気が付いた。

今ユージーンの背後には、ウズメとピュアが佇んでいる。

 

(あっ、こいつもしかして、フランシュシュのファンなのか?)

 

 そこでキリトはピンときた。キリトはこういう事に関しては案外鋭いのだ。

 

(なるほどなるほど、でもあの二人はどう考えてもハチマンに………、

いや、まあいいか、これをネタに今日はユージーンをこき使おう)

 

 キリトはそんな黒い事を考えつつも、ユージーンに何と言おうか迷っていた。

と、その視界の隅に何かが映り、その瞬間にキリトはユージーンを突き飛ばした。

 

「なっ………」

「ユージーン、後ろだ!」

 

 そう言いながらキリトは剣を構え、今まさにウズメとピュアに向けて飛来した矢を、

その手に持つ剣で叩き落とした。

 

「「きゃっ!」」

 

 まだ初心者の域を脱したばかりのウズメとピュアは、

さすがに咄嗟に対応する事が出来ない。

そんな二人を守るようにキリトが仁王立ちし、ユージーンもその横に並んだ。

 

「おいキリト、あれは………」

「ああ、まさかここであいつらが介入してくるとはな」

 

 後方から現れた者達の着ている装備に付いているのは特徴的な七芒星のマーク、

そして今矢を放った者の後ろから、七人のプレイヤーが姿を現す。

それはまさかの七つの大罪であった。

 

「ちっ、防がれたか」

「あんた達、いきなり何すんのよ」

 

 七つの大罪達から一番近い所にいるシノンが、

腕組みしながらじろっとそちらを睨みつけた。

その隣では、何かあったらすぐ盾になれるように、アサギが身構えている。

 

「ふん、補充で入ったら丁度お前らがいたから撃たせただけだ」

「こっちは討伐数が足りなくてイラついてんだよ、キレんぞ!」

「わざわざ相手をしに来てやったんだ、金を払え」

「とりあえず飯、飯を食わせろ!」

「あ~だりぃ………さっさと終わらせて帰ろうぜ」

「お~お~、噂のアイドルをはべらせやがって、羨ましいんだよコラ!」

「あはぁん、くれぐれも踊り子さんには障らないで下さいねぇ」

 

 六人がいつも通り、好き勝手な事を言い始めたが、

アスモゼウスだけが若干焦ったような口調でそう言った。

同時にアスモゼウスはしきりにキリトにウィンクをしてくる。

要するに、『これは不幸な事故だから、お願い、私だけは見逃してね!』という、

キリトに対するアピールという事だろう。

 

(はいはい、分かってるって)

 

 キリトはそう思いながら、アスモゼウスに小さく頷いた。

 

「キリト君、どうする?」

 

 そしてアスナが真剣な顔でそう話しかけてきた。

 

「まあ確かにこれはちょっと厄介だよなぁ………」

 

 七つの大罪クラスのギルドに背後をとられ、

同時に正面のSDSとアレスを相手にするのはいくらヴァルハラでもさすがに厳しい。

キリトは内心の苦悩を表に出さないようにしつつ、意見を求めるようにユキノの方を見た。

その視線を受け、ユキノがキリトにアドバイスをする。

 

「………部屋が封鎖されるまであと少しよ。幸いSDSはまだかなり遠くにいるのだし、

その時点で上手く七つの大罪を部屋の外まで下がらせられれば戦いから閉め出せるわ」

「なるほど、それはいいな」

「その役目、私がやるわ!」

 

 そう一番に志願してきたのはシノンであった。

シノンはウズメとピュアと一緒に行動するうちに、二人と完全に打ち解けていたようで、

先ほど二人が不意打ちで狙われた事にかなり憤っていたのである。

 

「もちろん私も」

 

 アサギが、さも当然という風にシノンの隣に並ぶ。

 

「わ、私も!」

「借りは自分で返さないとですしね」

 

 ウズメとピュアも立ち上がり、その列に参加する。

 

「という訳で、ここは私達別働隊がそのまま受け持つね」

「ブタ野郎共の始末は任せて」

 

 最後にコマチとリオンがそう纏め、これによって、城門にいた六人が、

そのまま七つの大罪の相手をする事となった。

 

「分かった、任せる。でもさすがに六人だときついだろうから、他に………」

「待て待て、待て~い!」

 

 ここで立ち上がったのはユージーンである。

当然立ち上がったウズメとピュアをゴリゴリに意識した行動だ。

もちろん二人が狙われた事に対する怒りもある。

 

「六人ではないぞ、キリト!今回は特別にこの俺が………」

 

 助けてやろう。ユージーンはそう言おうとしたが、

その横からサクヤとアリシャが飛び出し、シノン達の手を取った。

 

「その意気やよし、私達も微力ながら協力しよう」

「老舗としては、新興勢力に簡単に負ける訳にはいかないもんね!」

「サクヤさん、アリシャさん、ありがとうございます!」

 

 キリトは二人に丁寧にお礼を言い、『ほら、格好つけてないでさっさと続きを言えっての』

といった感じの視線をユージーンに向けた。

ユージーンは、完全に出遅れてしまい、まずいと思ったのか、

強気な態度は控え、あくまで好感度を意識しながらこう言った。

 

「キリトよ、こちらの事は俺達に任せてくれ。今こそ我らの結束を示す時だ!」

「そうか、それじゃあ頼むぜ、ユージーン」

 

(まあユージーンがいれば安心だな、ウズメとピュアを出汁にするみたいで悪いが、

ハチマンがいない分、ユージーンには死ぬまでしっかり働いてもらおう)

 

 キリトはそう黒い事を考えつつ、しれっとした顔でそう答えた。

これでお互いの戦力差は二十対二十のほぼ互角な状態となる。

 

「何をごちゃごちゃ言ってやがる、もうすぐボス戦が始まるんだろ?

そこでさっさとケリをつけようぜ!」

「ケリ?ケリってのは対等な相手同士でつけるものでしょう?

あんた達じゃ完全に役者が足りてないわね」

「はっ、そういうセリフは実際に俺達に勝ってから言えっての!」

「「「「「あはははははは」」」」」

 

 アスモゼウス以外の残りの五人の幹部が、そのルシパーの言葉に合わせて大笑する。

その態度を身の程知らずと批判する者もいるだろうが、

ヴァルハラと七つの大罪がまともにぶつかるのは確かにこれが初めてであった。

 

「ユージーンさん、こっちは相手が調子に乗っているこのチャンスに、

あいつらをこの部屋から叩き出すつもりよ」

「む、アサギ、何かするつもりか?」

音速突撃( ソニックラッシュ)

 

 そのアサギの短い答えにユージーンは唸った。

 

「あれか………すまん、多分俺達の練度だと、ついていくのが精一杯だ」

「問題ないわ、こっちもウズメとピュアが慣れてないし、

人数的にも完全な音速突撃( ソニックラッシュ)にはなりえないもの」

 

 そう言いながらアサギは鉄扇公主を構えた。

 

「時間も無いし、行くわ。チェンジ、鉄槍公主!」

 

 そう叫んだ瞬間に、アサギの持つ鉄扇公主が槍へと変化した。

そしてアサギは極限まで足に力を込め、一気に敵目掛けて走りだした。

 

音速突撃( ソニックラッシュ)!」

 

 その言葉と共に、ヴァルハラの他の五人も突撃を開始した。

それを見た三種族連合軍のリーダー達も、慌てて仲間達に指示を出す。

 

「つ、続け、続けぇ!」

「みんな、ついてくよ!」

「と、突撃!」

 

 こうしてボス戦の開始直前に、戦端は開かれた。


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