ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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すみませんまた暑さに負けましたorz
今日明日はこちらは多少涼しそうなので、順調に書けると思います!


第1117話 アレス戦~外の戦い

音速突撃( ソニックラッシュ)

 

 そうアサギが叫んでいきなり突撃してきたのが想定外だった為、

ルシパー達は咄嗟に戦闘体勢もとれず、こちらに向かってくるアサギ達を、

まるでフィクションの登場人物か何かのようにぼ~っと眺めていた。

ルシパー達からすれば、とにかくマークしていたのはキリトやアスナなどの幹部達であり、

そちらにまったく動きが無い以上、このままヴァルハラは大人しく縮こまり、

遠くに見える守備側の仲間らしき者達と自分達の連合軍に、

蹂躙される運命でしかないと思いこんでいたからだ。

 

 ガツン!

 

 と、衝撃が来るまでは一瞬であった。

それでやっと今何が起こっているのか理解したルシパーは、慌てて仲間達に指示を出した。

 

「む、迎え撃て!」

 

 だが次の瞬間、ルシパーは再び衝撃を受け、後方へとぶっ飛ばされた。

 

「なっ………」

 

 これでもルシパーは、セブンスヘヴンランキング十六位の強者であり、

いくら不意を突かれたからといって、そう簡単にこんな状態にされる事はない。

だが実際ルシパーは今、仲間達と共に尻餅をついてしまっている。

それを成したのは、『私はヴァルハラ最弱のタンクですから』が口癖のアサギである。

だがヴァルハラ最弱であるはずのタンクは、見事にルシパーを後方に飛ばし、

部屋の外に出させる事に成功した。

 

(私、確実に強くなってる!)

 

 アサギは喜びに身を焦がしながらも決して油断する事はなく、

近場にいる敵の幹部連に盾を叩きつけていた。

 

「突撃!」

「突撃!」

「突撃!」

 

 そしてコマチとリオンがすぐ後ろから、

アサギの盾の攻撃を受けて体勢が崩れた敵を、更に後方へ、後方へとぶっ飛ばし、

シノンはどさくさ紛れにアスモゼウスを()()()()へと投げた。

 

「きゃっ!」

「邪魔よ」

 

 シノンは敢えてそう言い、アスモゼウスにウィンクした。

こうしてアスモゼウスは、七つの大罪のメンバーの中でただ一人、

ボス部屋内に取り残される事となったが、

味方の目が無くなったせいで、ヴァルハラと戦わなくて済む為、

その心の中はシノンへの感謝でいっぱいであった。

そしてやや遅れたウズメとピュアも、

修行中の音速突撃( ソニックラッシュ)もどきを敵にかましていく。

そのままウズメはその場に留まったが、さすがにヒーラーのピュアはすぐ後方へと下がった。

その横を、今度は三種族の連合軍が駆け抜ける。

 

「ここは通さん!」

「そういう事なんで、宜しくぅ!」

「お前らごときが俺に勝てると思ったか!」

 

 体を張って敵を外に押し出すその行為により、七つの大罪は室内から完全に駆逐され、

その直後にシステムアナウンスがこの場に響き渡った。

 

『ボス戦が開始されます、以後、室内に入る事は出来ません。

フィールド全体も外から封鎖されます』

 

 そして扉は閉ざされ、七つの大罪はアスモゼウスを除き、ボス戦から完全に排除された。

目標を達成するのと同時に貴重なヒーラーであるアスモゼウスをもこの場から排除する、

これはこの後の戦闘の事を考えても、アサギ達のあげた大きな成果だといえよう。

 

「き、貴様ら、ふざけるな!」

「おいルシパー、とりあえず立て直そう」

 

 そのルシパーの叫びを、ロールプレイしている余裕がなくなったのか、

サッタンが受けてそう言い、ルシパーの頭は少し冷えた。

 

「悪かった、おいサッタン、俺達二人であいつらが立ち上がるまでの時間を稼ぐぞ」

「おう!」

 

 ルシパーとサッタンは積極的に前に出て、アサギの前に立つ。

 

「悪いが倒させてもらう」

「望むところよ」

「待て待て待て~い、アサギさん、お手伝いします」

「カゲムネさん!」

 

 ここで足が遅く、やや遅れ気味だったカゲムネが前線に追いついてきた。

 

「邪魔をするな!」

「こちとらそれが仕事なんでね」

 

 カゲムネはそう叫ぶと、サッタンの激しい攻撃を見事に防いでいく。

途中転向組ながら、他のプレイヤーとは一線を画すステータス構成になっているカゲムネは、

タンクとしてはヴァルハラの四人に続き、完全にトッププレイヤーの仲間入りをしていた。

アサギもアサギであのルシパーを相手に互角に戦っており、

ヴァルハラとその仲間達のタンクのレベルの高さを存分にアピールする事となった。

 

「ちっ、厄介な」

「ルシパーさん、ここは俺達が!」

「任せて下さい!」

「立て直せたか、それじゃあここはお前達に任せ、俺達は敵の数を減らしてくるとしよう」

「任せたぞ、お前ら!」

「「「「「はい!」」」」」

 

 ここで七つの大罪のタンク達が前に出てくる。

以前ルシパーがグランゼに要求した通り、高性能のタンク装備に身を包んだタンク達は、

スキル構成こそタンクには向いていなかったが、

今回はモンスターが相手ではなく対人戦である為、それなりに戦えていた。

だがそんな彼らをもってしても、どうにもならない相手がここにいた。

 

「お前らごときに俺が止められると思ったか!」

 

 アサギとカゲムネと連携し、ユージーンが一人、また一人と敵のタンクを蹴散らしていく。

セブンスヘヴンランキング一桁は伊達ではないのだ。

 

「ヴォルカニック・ブレイザー!」

 

 ユージーンがソードスキルをリキャストごとに放つ度、

確実に一人のプレイヤーが死に追いやられていく。これではたまったものではなく、

離れたところで三種族連合軍のプレイヤーを数人葬っていたルシパー達が、

さすがにまずいとこちらに戻ってくる事となった。

アサギとカゲムネに幹部が二人ずつ付いて抑えに回り、

ルシパーとサッタンがユージーンと対峙する事となったのである。

 

「まさか二対一が卑怯だとは言わないよなぁ?」

「当然だ、これは闘技場の試合ではないからな」

「おらぁ、いくぜ!」

 

 サッタンが雄叫びを上げてユージーンに斬りかかり、こうして激しい戦いが開始された。

そのおかげでサクヤとアリシャの負担が減り、幹部が目の前からいなくなったのをいい事に、

二人は一気に攻勢に出て、七つの大罪の残りのメンバー達を殲滅しようと考えた。

 

「ここがチャンスだ!一気に攻勢に出ろ!」

 

 その勢いは凄まじく、敵が一人、また一人と倒れていく。

 

「このままいけば勝てるね、サクヤちゃん!」

「ああ、いけるだろう」

 

 シノンとリオンからも支援攻撃が来ており、

このままいけば、順当に敵を殲滅出来るだろう。

事実、敵はどんどんその数を減らしている。

 

(………おかしい、敵の主要メンバーが何人かいない)

 

 だがリオンはこの時漠然とした不安にかられていた。

ハチマンの隣で指揮の補助をする事が多かったリオンは、

当然主要な敵のギルドについても詳しい知識を持っており、

この場に必ずいなくてはならない人物がいない事に気が付いたのだ。

 

「アスタルト………」

 

 そのリオンの呟きを聞き、シノンがこちらに首を傾げた。

 

「ん、リオン、どうしたの?」

「ねぇシノン、敵の軍師のアスタルトがいないの………何でかな?」

「たまたま用事があって、今日は参加してないんじゃない?」

「それならいいんだけど………」

 

 直後に敵の後方から、何か音が聞こえたような気がし、

リオンとシノンは一瞬攻撃の手を止めた。

 

「シノン、今何か聞こえなかった?」

「ええ、聞こえたわ。これはまずい事になったかもしれないわね」

 

 直後に奥の通路から、多くのプレイヤーが姿を現した。

その先頭を走るのはアスタルト、その横にシットリの姿もある。

そしてその後方には、七つの大罪のメンバーの他に、

シグルドのギルドの者と同じ服装をした者が多数いた。

 

「シノン!」

「………なるほど、敵にも別方面を探索していたメンバーがいたのね、

それでさっきのボス部屋の封鎖のアナウンスを聞いて、

締め出したシグルドのギルドの奴らと合流して、こっちに来たって感じかしら」

「サクヤさん、アリシャさん、敵の援軍!一旦下がろう!」

 

 そのリオンの言葉でサクヤとアリシャもその事に気付き、

敵を一気に押し返した後、慌てて軍を下げた。

同時にリオンがアサギ、カゲムネ、ユージーンに敵の接近を伝える。

 

「ちっ、まだ敵がいたのか」

「カゲムネさん、このままゆっくりボス部屋の扉の前まで下がりましょう」

「了解、敵に後方に回りこまれるよりはましだろうしね」

 

 そのヴァルハラの動きを見てルシパー達も一旦後方に下がり、

アスタルト達と合流した後、尊大な態度でこちらに歩いてきた。

その総数は五十人を超え、若干数を減らし、十三人まで数を減らしていたこちらの四倍近い。

 

「シノン………」

「これはさすがに厳しいわね、でも優勢だったから勘違いしちゃったけど、

元々私達は全滅上等なつもりでここに残ったのよ、

精々沢山の敵を道連れにして、派手に散ってやりましょう」

「ああ、それもそうだね」

「よ~し、やってやろう!」

「ウズメさんとピュアさんは俺が守る!」

 

 気分が高揚したのか、ユージーンがどさくさ紛れにそう言った。

 

「ユージーン、あんたやっぱりフランシュシュのファンなの?」

「うっ………わ、悪いか?」

「あっ、そうだったんですね!」

「応援ありがとうございます!」

 

 そんなユージーンの手をウズメとピュアが握る。

それはあくまでアイドルとファンとの距離感であったが、

この事により、ユージーンの戦闘力が底上げされた。

 

「うおおお、やる!俺はやってやるぜ!」

「頼んだわよ、ユージーン」

「おう!」

 

 こうしてボス部屋外の戦闘は、次の段階に移行した。


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