ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

1128 / 1227
第1118話 アレス戦~追い詰められる

「リオン、今のうちにぶちかますわよ!」

「うん、分かった!」

 

 この時点でこちらに有利な部分が一つだけあった。それはタンクの数の問題である。

先ほどユージーンが頑張ってくれたおかげで、敵のタンクは数人が死亡、

残る二人もまだ前線に復帰出来ていない。それが何を意味するかというと、

要するに敵の遠隔攻撃に対する備えに大きな差が出るのである。

現時点での敵の選択肢は、前衛陣がこちらに突撃し、

同時に敵の弓使いや魔法使いが()()()()()()()牽制する意味で遠隔攻撃を放つ事である。

お互いの距離が遠いからといって、遠くから遠隔攻撃を撃ち合う選択肢は存在しない。

何故なら弓の攻撃は全てアサギとカゲムネ、魔法攻撃はリオンに防がれてしまうからだ。

そして反撃の手段として、こちらにはシノンとリオンがいる。

シノンはALO最強の弓使いであり、リオンは魔法攻撃に関しては、

敵の魔法を吸収出来る環境ならほぼ無限機関である。

なので守備側の混成軍としては、多少の犠牲を払う事になろうとも、

一刻も早く接近戦に持ち込む以外の選択肢が無いのだ。

 

「総員突撃!」

「「「「「「「「おお!」」」」」」」」

 

 それ故に戦いの序盤は、遠隔攻撃を浴びせかけるヴァルハラ陣営と、

それを避けつつこちらに突撃する七つの大罪陣営という図式から開始された。

 

「ペネトレート・アロー!」

 

 こうなると最初はシノンの独壇場である。

ペネトレート・アローの矢は実は物理攻撃ではなく魔法攻撃扱いであり、

敵の防御力の強弱に関わらず、敵を貫通してそのまま抜ける。

必殺の威力がある訳ではないが、多くの敵にダメージを与える事が出来る技である。

似た技に『メテオ・アロー』という範囲攻撃があるが、

こちらは威力がある分リキャストタイムが長めに設定されており、

今のような場合だと一発撃っただけで、

一分近い硬直によって敵が接近してくるまで何も出来なくなってしまう。

それに対してペネトレート・アローのリキャストタイムは二秒と短く、

ガンガン連射が出来るというアドバンテージを誇っている。

 

「エネルギー充填百二十パーセント!」

 

 そしてリオンである。相変わらず今日もノリノリだ。

高校時代とはその性格からして根本的に変化しているようだが、

それくらい、今の生活が楽しいという事なのだろう。

 

「ロックオン………一番から四番、軸線に乗った!」

「リオンちゃん、ぶちかましちゃって!」

「任せて!ロジカル・ビーム!」

 

 四色の光が渦を巻いて飛び、敵の直前で四つに分かれて着弾する。

さすがに幹部クラスには避けられるが、雑兵連中には効果てきめんな攻撃である。

 

「ひるむな、行け、行け!」

 

 ルシパーが声の限りにそう叫び、六人の幹部連は走る足を緩めない。

その六人を迎え撃つのは、アサギ、カゲムネ、ユージーン、サクヤ、アリシャの五人である。

 

 ガッ。

 

 ルシパーが振り下ろす剣をアサギが鉄扇公主で完璧に防ぐ。

同時に他の四人も接敵し、六人と五人は完全に交戦状態に入った。

その隙をシノンは見逃さない。

 

「今のうちに私達は突撃よ!回りこんで走って!」

 

 シノン、リオン、ウズメ、ピュア、そしてコマチと共に、

三種族連合軍の生き残りの三人が敵に斬り込む。

敵の数は三十人ほどに減っていたが、それでもこちらの倍以上の戦力を誇っている。

普通なら勝敗は明らかだが、少なくとも味方の中で、コマチとシノンは普通ではない。

そしてシノンがコマチに向けて叫ぶ。

 

「コマチ、任せたわ!私達義姉妹の力を見せてやりましょう!」

「どさくさまぎれに義姉妹扱い!?」

「もちろん私が義姉よ、理由は分かるわよね?」

「うっ………この圧力、何故か反論出来ない………」

 

 コマチはそうぼやきつつ、単独で速度を上げ、敵陣へと突っ込んだ。

 

「なっ………」

「一人でだと?」

「なめるな!」

「誰が誰をなめてるって?これでも私、ハチマンの妹なんだけど?」

 

 その言葉通り、敵陣の中で、コマチという暴風が吹き荒れた。

普段はもっと上の連中と共にいる為に目立たないが、コマチとて歴戦の勇士である。

その上釣り役として、多くの敵を相手にする経験はヴァルハラでもハチマンに次いで多く、

この程度の相手なら、ノーダメージとはいかないが、余裕でこなせる技量を誇っている。

その後ろをフォローするかのように、ウズメが敵に飛び込んだ。

 

「コマチさん、お、お義姉ちゃんがフォローするからね!」

 

 ウズメは顔を赤くしながらそう言った。確実にシノンの影響を受けたのだろう。

それを聞いたコマチは戦いながら、うわぁ~という顔をした。

 

「コマチにアイドルのお義姉ちゃんが増えた………、

アスナお義姉ちゃんごめんなさい、それでもコマチはちょっと嬉しいかもしれません………」

 

 コマチの脳裏で微妙そうな顔をするアスナに謝りつつ、

コマチは背中をウズメに預け、一人奮戦する。

それでも細かなダメージは蓄積していくが、

それはピュアのヒールによって、たちどころに癒されていく。

 

「か、回復はお義姉ちゃんに任せて!」

「アイドル二人目………もう深く考えるのはよそう、

お兄ちゃんの周りはこういうものなんだよ、うん」

 

 そんなコマチの視界にこちらを狙う魔法使い達の姿が映った。

 

(あっ、やばっ!)

 

 混戦のせいで、勝手に魔法攻撃は無いと思い込んでいたコマチだったが、

他ならぬコマチ自身の攻撃力の高さのせいで、今コマチの周りには空白地帯が出来ている。

こうなると、敵からは当然遠隔攻撃が飛んでくる。

 

「させない!」

 

 だがその攻撃は、飛び込んできたリオンによって防がれた。

ロジカルウィッチスピアを展開して矢を防ぎつつ、同時に敵の魔法をも吸収する、

対遠隔攻撃に関しては最強に近い防御力を誇るリオンの本領発揮である。

だがコマチは助かったと思うのと同時に、リオンの笑顔を見て、嫌な予感を覚えていた。

 

「だ、大丈夫?お義姉ちゃんが守ってあげるからね」

「リオンもか!」

 

 コマチは思わずそう絶叫したが、リオンはその叫びに平然とこう答えた。

 

「リ、リオンお義姉ちゃんって呼んでもいいからね」

「………………………あっ、うん」

 

 元々前からこういった兆候はあったが、

どうやらウズメの積極さに当てられ、みんなが危機感を持ったのではないか。

コマチはそう分析しつつ、先程考えたように、深く考えるのをやめた。

 

「よし、このままみんなで頑張って敵を全滅させよう!」

「うん!」

「ですね!」

「だね!」

 

 そのまま戦闘は続けられ、コマチ達は敵勢力を、ほぼ駆逐する事に成功した。

残るは後方にいる、アスタルトと数名のヒーラーのみである。

 

「ま、まさかそんな………」

「アスタルトさん、どうします?」

「だ、大丈夫、まだこっちには手があるから」

 

 だがアスタルトはおどおどしながらも、自信ありげにそう言った。

 

「あら、強気じゃない。今の戦闘で私達もかなり疲弊したけど、

それでもあなた達三人くらいならどうとでも出来るわよ?」

 

 シノンのその言葉に、アスタルトはだが毅然とこう答えた。

 

「そっちには残念だけど、ギリギリ間に合ったみたいだね」

「間に合った?何がかしら?」

「こ、こっちの援軍だよ」

「!?」

 

 その言葉通り、後方が騒がしくなったかと思うと、

奥の通路から、先ほど以上の数のプレイヤーが姿を現した。

 

「なっ………」

「あれってまさか………」

「シグルドの部下?」

 

 そう、アスタルトは先ほどまで一緒に戦っていたシグルドの部下達に、

残りの仲間を集めるように指示していたのである。

その甲斐あって、今このタイミングで生き残りのプレイヤー達が続々集結してきたのだった。

 

「………ピュア、残りの魔力は?」

「ちょっと心許ないかもです………」

「そうよね………でもまあやるしかないわね」

「うん、やるしかない」

「みんな、死ぬ気で戦うわよ!」

 

 三種族連合軍の生き残りだった三人は、混戦の中で倒されており、

こちらの生き残りはここにいる五人だけであった。

だがその戦意は高く、五人は一人でも多くの敵を倒そうと、武器を構えた。

だがその時想定外の事態が味方を襲う。

 

「きゃあああああ!」

「し、しまった!」

「ア、アリシャ!」

「ははははは、そんなものか、領主ども!」

 

 シノン達が慌てて振り返ると、ユージーンが地面に片膝をついているのが見えた。

その手に持つ魔剣グラムは、真っ二つに折れている。

そしてまさかのまさか、アリシャの姿がどこにも無かった。

 

「えっ?」

「どういう事!?」

「もしかしてさっき扉をぶち破ったせいで、武器の耐久力がかなり落ちてたんじゃ………」

 

 その通り、修理に出せばもちろん復活させる事は可能なのだが、

魔剣グラムは酷使しすぎたせいで、ルシパーとサッタンの攻撃に耐えられず、

遂に折れてしまっていた。

そして更に悪い事に、そんなユージーンを体を張って守ったアリシャが、

横合いから数人の攻撃を受け、HPが全損する事態に陥っていたのである。

 

「これで六対四、しかも一人は武器なしか」

「この戦い、もらったな」

 

 こうして前方も後方も、今や主導権を握っているのは、

完全に七つの大罪側となったのであった。

 

「よし、一気に決着をつけるぞ!」

「ユージーンさん、一旦後ろに!カゲムネさん、アビリティを全開です!」

「おう!」

 

 ここでアサギとカゲムネが、温存していた防御系アビを全開にし、

六対二でありながら、その戦力差を完全に埋めた。

だがそれはあくまでも一時凌ぎであり、その選択には未来はない。

 

「くそっ、ここまでか………」

「ユージーン、簡単に諦めるんじゃないわよ!

剣が無いなら拳で、それも駄目なら噛み付いてでも敵を倒しなさい!」

 

 気落ちするユージーンに、その時シノンがそう発破をかけた。

 

「だがお前とてピンチではないか!」

「確かにそうね、でも私は決して後ろ向きには死なないわよ」

「っ………くそっ、やる、やってやる!」

 

 ユージーンはそう言って立ち上がり、シノンはそれに満足し、前を向いた。

 

「とは言ったものの、さすがにどうしようもないわね」

「気にしない気にしない、本隊がアレスを倒してくれればそれでオーケーなんだから!」

「まあ確かにそうね、それじゃあみんな………」

 

 ドン!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 行くわよ、と言いかけたシノンの目の前で、いきなり敵の後方部隊が()()()

そして宙を何かが舞う気配がし、その何かはユージーンの真横に突き立った。

それは………雷丸、二つに分かれるその剣の、片割れであった。

 

「あ、あれは………」

「まさか………」

「ハチマン!」

 

 そして敵の後方から二人のプレイヤーが姿を現した。

 

「とりあえず剣を投げてみたのはいいものの、これはどういう状況だ?」

「アスナちゃんやキリト君達の姿が見えないわね」

「まあいい、どうせこいつらは全部敵なんだろ、姉さん、さっさとやっちまおうぜ」

「そうしましょっか、皆さん、初めまして、そしてさようなら」

 

 その二人のプレイヤー、ハチマンとソレイユは、そう言って武器と杖を構えたのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。