休憩すると言ってログアウトした八幡は、少しでも仮眠をとって頭を休ませようと、
次期社長室のソファーで横になっていた。
「ん………」
そのままぐっすり寝てしまった八幡だったが、しばらく経った頃、
何かいい匂いがするなと思い、八幡は自身の意識が急激に覚醒していくのを感じた。
(何だ………?俺は確か、ソファーで仮眠を………)
そして薄っすらと目を開くと、そこにあったのは視界一面の肌色。
(っ………誰だ!?)
八幡が慌てて目を開くと、そこにあったのは、
目を瞑り、こちらに口を突き出している陽乃の姿であり、
八幡は慌ててその額に手を当て、ぐいっと押し返した。
「………おい馬鹿姉、何をしてやがる」
「えっ、あっ、ちょっと八幡君、何で普通に防いでるのよ!」
「意味が分からん、というか俺の寝込みを襲うような事をすんな」
「してないわよ!それじゃあ八幡君が体を起こした時に、
そっちから私にキスしたっていう体裁が保てないじゃない!」
「………その為に、大ボスは五分間、ずっとその体勢で耐えてましたよ」
横から蔵人の声がし、八幡は呆れたような顔でそちらを見た。
「え、マジで?この馬鹿姉、ずっと寸止め状態で我慢してたって事?」
「ですです、全く凄い根性だと感心しちゃいましたよ」
「っていうかお前、見てたなら止めろっての」
「そんなけなげな社長を止められる訳ないじゃないですか」
「けなげ………?」
八幡はうさんくさいものを見るような目で陽乃を見つめ、
陽乃はその視線を受け、顔を赤くした。
「もう、やんやん!」
「乙女ぶってんじゃねえよ、ってか姉さんもハリューもどうしてここに?」
「仕事がひと段落したから、ログイン中の八幡君の体にいたずらしようかなって………」
「正直だなおい、そこはもう少しオブラートに包めよ!ってか後でお仕置きな」
「俺は美乃里嬢の手術の日取りが決まったんで、そのご報告に」
「お、マジか、やっとノリの手術の日が決まったんだな」
「ええ、これでまたボスの嫁が一人増えるって訳です」
「俺の嫁は一人だけだっての」
「あはははは、ナイスジョーク!」
八幡はそんな蔵人を無視し、体を起こして伸びをした。
時計を見ると、あれから一時間近い時間が経っていた。
「ふう、もうこんな時間か、それじゃあもう一度ALOにログインするかな」
「そういえば本当なら今は普通にALOをプレイしてる予定だったわよね?
昨日徹夜でもして体調が悪かったとか?」
「いや、ちょっと戦闘で集中しすぎて頭痛が………」
こめかみを抑えながらそう言う八幡を、蔵人が賞賛した。
「なるほど、例え遊びでも限界以上の全力投球とは、さすがボス」
「それがいい事かどうかは分からないけどな」
八幡はそう言いながらアミュスフィアを取り出したが、
何故か陽乃が八幡の向かいのソファーに座り、同じくアミュスフィアをかぶりはじめた。
「ん、姉さんもインするのか?」
「うん、まだ時間はあるし、たまには顔を出しておかないと、
普段えらそうに出来ないと思うしね」
「まあ違いないな」
「それじゃあ俺もお供しましょう、今日はまだ休憩をとってないですしね」
「せっかくの休憩時間なんだし、普通に休んでくれてていいんだぞ?」
「いやいや、体は休まるから問題ないですって、それにこっちの方が面白そうだ」
「まあお前がいいならいいけどな」
こうして八幡は、陽乃と蔵人と共に、ALOにログインする事となった。
「で、他のみんなは?」
「今は多分、アルンでアレス戦に挑んでるはずだ」
「へぇ、そうなんだ」
そしてかつてのグランドクエストの間の前の広場に行ってみると、
そこは予想外に多くの人でごったがえしていた。
「ハチマン君、これは?」
「さあ………中の様子でもモニターされてるんじゃないか?」
「それにしちゃ、何か並んでるような………」
ハチマンとソレイユが並んでそちらに近付いていくと、
そこに並んでいた者達がぎょっとした顔をし、何人かはハチマン達に道を開けた。
「ひゅぅ、さっすがボス」
「いや、っていうか本当にこれ、どうなってるんだ?」
見ると確かにモニターはあったが、そこにはただ攻撃側、守備側と書かれており、
そこに残り人数なのか、数字が表示され、増減を繰り返していた。
よく見ると数字が増えるのは、並んでいる者が消えた瞬間と同期しているように見えた。
「ああ、なるほど、援軍ありの討伐戦なんだな、これ」
「へぇ、そうなんだ?でも随分劣勢みたいね?」
「俺達が優勢だった戦闘なんてほとんど無いじゃないかよ」
「あは、確かに」
その時広場中にアナウンスが流れた。
『攻撃側がボス部屋に侵入しました。百八十秒後に部屋が閉鎖されます』
「お、アスナやキリト達、頑張ってるみたいだな」
続けて中には流れなかったが、外にはこんなアナウンスが流れた。
『新規参加も同時刻に終了となります、以後、中の様子もモニターされます』
同時に広場にいた何人かがこんな声を上げる。
「ああ~、そりゃもう間に合わないわ」
「中に入っても、ボス部屋まで遠いんだよな」
「それじゃあここで数字だけでも見物してた方がマシかぁ」
その声を聞き、並んでいた者達は全員モニター前に移動した。
意味はまったく無いと思われるが、今ならすぐにでも中に入れるだろう。
「ハチマン君、どうする?」
「そりゃ入るだろ、せっかくみんな道を開けてくれたんだ。
今後の為にも中の様子も見ておきたいしな」
ハチマンはそう即答し、ハリューは大笑いした。
「あはははは、さすがはボス、
一見して意味が無さそうな事にもしっかり意味を見出してくれる」
「そこ、笑うところか?」
「いや、嬉しいんですよ、ボスなら俺がおかしな行動をとっていても、
ちゃんとその裏に込められた意味を見抜いて評価してくれそうじゃないですか」
「あんまり奇抜すぎるのは無理だぞ」
そのハチマンの返事に、ハリューは再び大笑いした。
「その時はボスを出し抜けたって事で満足しますよ」
「おう、そうしてくれ」
「それじゃあ中に行きましょ、一体どんな戦場なんだろうね」
そしてハチマン達三人は、周りの者達の好奇な視線をものともせず、
そのまま中に侵入した。
『ボス戦が開始されます、以後、室内に入る事は出来ません。
フィールド全体も外から封鎖されます』
だが三人はそれを覚悟の上で中に入ったので、まったく動じる事はない。
「ん、これはまたでかい城だな」
「本当にね、ボスの部屋まで絶対に間に合わないって言う訳だわ」
「正門は閉じられてるな、これ、開かないか?」
「無理っぽいね、魔法でも叩きこんで突破する?」
「いや、それなら後から中に入ったプレイヤーが何人か、ここで足止めされてるはずだ。
って事は、他に入り口があると考えるのが妥当だろ?」
「確かに」
三人はそのまま城の外周を周り、運よくユージーンが破壊した扉に、すぐにたどり着いた。
「おお?何かこれ、ボロボロだな?」
「ユウキちゃんがマザーズロザリオでもくらわせたんじゃない?」
「かもな」
これは別にユージーンが軽視されている訳ではなく、
単純に強大な破壊力がある攻撃と、
ユウキのマザーズロザリオとが二人の脳内で強固にイメージ付けられているだけである。
「それじゃあ中に入ろっか」
「そうしよう」
「日本の城は色々見て回りましたけど、海外の城もこれはこれで悪くない」
ハリューがぽつりとそうこぼし、ハチマンはハリューに尋ねた。
「へぇ、そうなのか?」
「ええ、一番近いのだと松本城か犬山城ですかね、
ああいうのを見ると、昔の人は凄えなって実感しますよ」
「いいなそれ、今度案内してくれよ」
「仰せの通りに」
城が嫌いな男子などいないという事なのだろう。
そんな雑談をしながら、三人は奥へ奥へと進んでいく。
その途中でハチマンが、二人を手で制し、足を止めさせる。
「どうしたの?」
「もうボス部屋は閉鎖されたはずなのに、沢山のプレイヤーが動いてるみたいだ」
「何かあるのかしら?」
「そうだな………」
ハチマンは少し考え込んだ後、二人にこう言った。
「この広いフィールドだ、全員がボス部屋に入れた訳じゃないって事かもしれないな。
って事は、この先で敵と味方が戦っている可能性がある」
「それって意味あるの?」
「少なくともボス部屋に入れないと、何の報酬も得られないって事は無いだろうし、
結果を残しておくのは備えとしては悪い事じゃない」
「ああ、確かにそうかも」
「という訳で、先に進もうぜ」
「ですね」
三人はそのままプレイヤー達が向かっていったであろう、先に進んでいった。
そして遠くに多くのプレイヤーの姿が見え、ハチマン達はそこでまた足を止めた。
「おお?結構多いな、よし姉さん、早速あいつらの真ん中に魔法をくらわしてくれ」
「オッケー、任せて」
「このまま三人であいつらを殺りますか?」
「そのつもりだ、ハリュー、いけるか?」
「御心のままに」
「オーケーだ、誰が戦ってるのかは分からないが、俺は着弾と同時に突っ込む。
ハリューはそのまま姉さんの護衛に入ってくれ」
「了解です」
そしてソレイユの魔法が炸裂し、ハチマンはそのまま前方へと飛び出した。
が、奥に知っている顔を多数認め、ユージーンの手に持つ魔剣グラムが折れているのを見て、
反射的に手に持っていた二本に分けた雷丸のうち、片方をそちらに投げて一旦停止した。
そしてハチマンが足を止めた事で、ソレイユとハリューがハチマンに追いついてくる。
「とりあえず剣を投げてみたのはいいものの、これはどういう状況だ?」
「アスナちゃんやキリト君達の姿が見えないわね」
その後ソレイユは、小声でこう付け足した。
「って当たり前か、ボス部屋にいるんだろうし」
「だろうな」
ハチマンも小声でそう返した後、敵を威圧するかのようにこう言った。
「まあいい、どうせこいつらは全部敵なんだろ、姉さん、さっさとやっちまおうぜ」
「そうしましょっか、皆さん、初めまして、そしてさようなら」
ソレイユがそのまま詠唱を開始したが、
敵はセブンスヘヴンランキングの一位と三位の思わぬ登場で混乱しており、
その詠唱を邪魔出来る者は誰もいなかった。
「チェイン・ボム」
ソレイユが選択したのは威力はそれなりだが、
派手でなおかつ敵をノックバック出来る魔法であった。
その着弾と同時に敵が弾け、ハチマンは全力でアサギ達の方にダッシュをする。
途中でシノンとすれ違いざまに、ハチマンはこう叫んだ。
「おいシノン、さっさと働けよ」
「い、言われなくても!」
同時にシノンが硬直を警戒し、ここまで中々使えなかった大技を放つ。
「メテオ・アロー!」
その攻撃は敵に降り注ぎ、ソレイユの魔法と合わさって、敵に大ダメージを与えた。
そしてハチマン自身は七つの大罪達の幹部達の背後に迫り、
一気に六人を飛び越え、空中で体を捻ってズサァッと地面を滑りながら、
アサギの真横に見事に着地した。
「アサギさん、大丈夫か?」
「ハチマンさん、来てくれたんですね!」
「よく分からないが間に合って良かったわ。とりあえず詳しい説明は後だ。
という訳でルシパー、ここからのお前達の相手はこの俺だ」
「ハ、ハチマン………てめえ………」
これがハチマン達が援軍として駆けつけた、その顛末であった。