ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第112話 集結の日~二人の援軍~

 リーファがいない間、一同はさっきのキリトの姿について話していた。

 

「ねえキリト君、さっきのあなたの姿って、何かモデルがあるのかしら?」

「あー、ハチマン、俺って今回も【グリームアイズ】の姿になってたのか?」

「そうだぞ」

「やっぱりそうなのか……俺の中ではやっぱりあいつが一番心に残ってる敵なんだな」

「前、陽乃さんを【グリームアイズ】と比較してたくらいだしな」

「と、いうわけで【グリームアイズ】があの姿のモデルだな。SAOの七十四層のボスだな」

「七十四層……確か、とある団体のせいで少人数で挑む事になったボス、だったかしら」

「よく覚えてるな」

「私としても、印象に残る話だったのよね」

「私、全然覚えてないや……」

「コマチはお兄ちゃんのピンチの話は全部覚えてますよ!」

「私はなんとなくそんな話も聞いたかも、くらいですかね」

「まあそんなわけで、印象に残る敵だったんだよ。一歩間違えたら死んでたしな。

ちなみにハチマンが何に変身するかは、後のお楽しみだな。

まあ次の戦闘で嫌ってほど見れるはずだから、期待して待っててくれ」

「一体どんな姿になるのかしらね……」

「ちょっと怖いかも」

「まあ、それも含めてお楽しみって事で」

 

 そんな話をしているうちに、どうやらリーファが戻ってきたようだ。

 

「お、おかえりリーファ」

「ただいま!今レコンに話を聞いてきたんだけど、

やっぱり同盟の締結場所を襲う計画みたい。シグルドが裏切ったんだって」

「シグルドは、やっぱり信用ならない男だったわね」

「うん。ちょっと複雑な部分もあったけど、そういう事なら話は別よ。絶対に許さない」

「とりあえずサクヤさんに、あと十分だけ耐えるようにとメッセージを送るわ」

「もう襲われてるかもしれないし、急ごうぜ」

「十分か、全力飛行だな、ハチマン」

「ユキノ、俺達二人が先行する。案内はユイに任せる」

「わかりましたパパ!ユキノさん、場所を教えて下さい!」

「あなたたち、そんなに速く飛べるの?」

「少なくとも私よりは速かったよ」

「リーファさんより速く……わかったわ。二人ともお願い、サクヤさん達を助けてあげて」

「ああ、任せろ!」

「大船に乗った気でいてくれていいぞ。いきなり変身して暴れるからな」

 

 一同は頷きあうと、目的地目掛けて飛び立った。

ハチマンとキリトは、徐々に他の者を引き離し、先行していった。

その頃サクヤとアリシャは、既にサラマンダーの大軍勢に襲われていた。

シルフ軍が十人、ケットシー軍も十人なのに対して、

サラマンダー軍は百人近い人数を動員していた。

 

「くそっ、どこから情報が漏れたんだ。尾行されないように慎重に進んできたはずなんだが」

「多分私達の中に裏切り者がいるね。無事帰れたら、徹底的に洗い出そう」

「ああ、無事に帰れたら、な」

 

 シルフとケットシーの連合軍は、崖を背に円陣を組んで、何とか敵の攻撃に耐えていた。

 

「まだ何とかなってはいるが、あの男が参戦してきたら、

いよいよ全滅する覚悟をしなくてはならないだろうな」

「ユージーンね」

「私とアリシャの二人がかりでかかっても、相打ちがやっとというところかな」

「最悪負けるかもしれないよ、サクヤちゃん」

「しかし、ここで同盟締結を邪魔したとしても、時間稼ぎにしかならないと思うんだがな」

「多分、その間にグランドクエストをクリア出来る自信があるんじゃないかな」

「なるほど……だがここであっさりやられるのも癪だな。

せめて精一杯抵抗してやろうじゃないか」

「そうだねサクヤちゃん、私達にも意地ってものがあるしね」

「ん、待てアリシャ、ユキノからメッセージだ」

 

 その時サクヤの下に、ユキノからメッセージが届いた。

サクヤはすぐに、メッセージを確認した。

 

「ユキノ達に護衛を依頼してたんだっけ?」

「ああ。本当はここまでの道中も護衛を頼みたかったんだが、用事があるらしくてな、

でもまあ本来なら、そろそろここに到着する予定だったんだ。

おっ、喜べアリシャ!あと十分ほどでここに到着するらしいぞ!」

「これで四人戦力が増えるね。それでも多勢に無勢だけど」

「いや、リーファも一緒らしい」

「おっ」

「さらに、本当か嘘かは分からないが、最強クラスのプレイヤーが二人一緒にいるらしい」

「最強クラスって、あそこにいるユージーン並に強いって事?」

「分からん……そんなプレイヤーにはまったく心当たりがないな。

だがあのユキノが言うんだ。ここは一つ期待して待とうじゃないか」

「希望が見えてきたね!ここはしっかりと守り抜こう!」

「ああ」

 

 一方その頃ユージーンの下にも、カゲムネから連絡が入っていた。

 

「何だと……」

「何かあったんですか?ユージーン将軍」

「カゲムネの部隊が、ユキノ達のパーティによって全滅させられた」

「全滅するのが早すぎませんか?敵の四倍の兵力を動員した上で、勝てればよし、

もし勝てないまでも、時間稼ぎに徹する予定だったはずでは」

「恐ろしく強いスプリガンの二人組にやられたらしい」

「スプリガンにもそんな強者が?それにしても四倍の兵力は……」

「まずいな、ルグルー回廊からここまでは、十分くらいの距離だ。

正直こういうなぶり殺しのような戦いは好かんので部下に全部任せていたが、

さすがにこうなったらそんな事は言ってられんな。

犠牲を覚悟で、一気に力押しするぞ。例え何人かやられたとしても、

残りの人数でかかれば、どれほどユキノ達が強くとも問題なく倒せるだろう」

「将軍もいますしね」

「よし、全軍に突撃命令を出せ。一気にあいつらを殲滅する」

「はっ!」

 

 こうしてサラマンダーの全軍が動き出した。先頭はもちろんユージーンだった。

 

「アリシャ、どうやらあちらにも、ユキノ達の接近の情報が伝わったようだ」

「いきなりのあの動きは多分そうだね。どうする?」

「とりあえずMPの事は気にせず、全力で弾幕を張ろう。あとは信じて待つだけだ」

「オーケー!弾幕といえば、あのセリフも一度は言ってみたかったけど、

さすがに今はそんな事してる場合じゃないね」

「気持ちはわかるが、私達も詠唱でいっぱいいっぱいだしな。掛け声だけで我慢してくれ」

「それじゃいくね。みんな!ユキノ達がもうすぐ到着するわ!

それまで何としても耐えるのよ!魔法攻撃開始!全力で弾幕を張れ!」

 

 ユキノの名前が出ると、連合軍の間から大歓声が上がった。

そしてアリシャの掛け声と共に、連合軍は全力で弾幕を張った。

これにはさすがのサラマンダー軍も、停止して防御せざるを得なかった。

弾幕には思わぬ副産物があった。ハチマンとキリトが、遠くからそれを視認したのだ。

 

「おいハチマン、見えるか?」

「ああ。察するに、魔法攻撃で弾幕を張ってなんとか耐えているって感じだな」

「あの分だとすぐにMPが尽きるだろうな。急ごう」

「キリト、すまんが敵とすれ違いざまに幻惑範囲魔法を頼む。

俺はその隙に乗じて変身し、敵を出来るだけ倒す」

「お前があの姿で暴れたら、多分敵は大混乱に陥るだろうな」

「おい、俺は一体何に変身するんだよ」

「SSくらいとっといてやるから後で自分の目で見てみろって」

「……了解」

「まもなく到着だな。やってやろうぜ!」

「おう!」

 

 連合軍は必死で弾幕を張り続けていたが、そろそろMPの限界が近付いていた。

その事に気付いて焦るサクヤの目に、遠くから近付いてくる二つの人影が映った。

少なくともサラマンダーには見えなかったので、サクヤはそれが援軍だと確信し、

味方を鼓舞するために力いっぱい叫んだ。

 

「援軍が来たぞ!みんな、もう少しだ!最後の力を振り絞れ!」

 

 一方その言葉を聞いたユージーンは、攻め切れなかった事にやや焦りを感じていた。

 

「くそっ、これだけ抵抗されるとやはり厳しいか」

 

 そう呟き後方に目をやったユージーンは、援軍がたった二人だと気が付き、

連合軍の士気を挫くために、まずその二人を血祭りにあげる事にした。

 

「敵の援軍はたった二人だ!まずあの二人を血祭りにあげろ!」

 

 ユージーンがそう叫んだ瞬間、その二人組を中心に、爆発的に黒煙が広がった。

その黒煙によって、サラマンダー軍の視界が完全に閉ざされた。

次の瞬間、ユージーンの脇を何かが通り過ぎていった。

慌てて煙を抜け出し、連合軍へと目を向けたユージーンが見たものは、

大剣を二刀流で構えるキリトの姿だった。

 

「貴様、かなりの使い手だな。何者だ!」

「そういうお前もかなりの使い手みたいだな。俺の名はキリト。今からお前を倒す男だ」

「お前は俺の事を知らないのか?俺の名はユージーン。ALOで最強の男だと自負している」

「最強ねぇ、まあこの戦闘が終わったら、お前は三番以下になるんだけどな」

「面白い事を言う奴だ、だが嫌いではないな。一対一で勝負だ。

俺は強い奴と戦うのが大好きなんでな」

「それは奇遇だな、俺もだよ、ユージーン」

「ちょっとちょっと、キリト君?だっけ?あなたはユキノの仲間って事でいいんだよね?

あ、私はケットシー領主のアリシャ。助けに来てくれてありがとね」

「ああ、ユキノさん達もまもなくここに着くぞ。よろしくな、アリシャ」

「私はシルフ領主のサクヤだ。あのユージーンの持つ武器は魔剣グラムという。

気を付けろ、あの剣の攻撃は、アビリティによってこちらの武器を擦り抜けてくるぞ」

「常時って訳じゃないんだろ?それならまあ問題ない。

残りの敵は俺の相棒が何とかする。しばらく休んでてくれていいぞ」

「何だと?」

「おっ、丁度ユキノさん達も来たようだぜ」

 

 次の瞬間黒煙を突き破って、ユキノ達五人が姿を現した。

 

「くそっ、もう着いたのか、ユキノ」

「お久しぶりね、ユージーン将軍。私が来たからには、もうあなた達の好きにはさせないわ」

「これだけ数を揃えたんだ。今回ばかりは勝たせてもらうぞ」

「おっと、お前の相手は俺だろ?」

「分かっているさ。ユキノ、お前らの相手は俺の部下達に任せる事にする。

百人近い大軍勢だ、覚悟しておくんだな」

「どうかしらね、あなたの部下達は、既に死地にいるように見えるのだけれど」

「何だと?」

「そういえば一緒に飛んできたキリト君の仲間はどこ?」

 

 アリシャが思い出したようにキリトに尋ねた。

 

「あの煙の中だ。もうすぐ見えるぞ」

 

 そのキリトの返事と同時に、サラマンダーのものと思しき悲鳴が辺りに響き渡った。

その声を聞き、ユージーンは慌てて振り返った。黒煙の中を巨大な何かが飛び回っている。

その何かが動く度に、沢山の悲鳴が聞こえてきた。そしてついに、黒煙が完全に晴れた。

 

「えっ?」

「あれってサンタクロース?」

「あの笑顔、少し寒気がするわね」

 

 煙が晴れた後、サラマンダーの軍勢は既に十人ほど人数を減らしていた。

ハチマンが変身した【背教者ニコラス】という名の死の暴風が、煙の中から姿を現した。


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