ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第1120話 アレス戦~アスタルトの挑戦

「ハ、ハチマン!」

「ユージーン、グラムが壊れるまで頑張ってくれたんだな、

グラムは後でリズに頼んでタダで直してやるから、今はその剣を使うといい」

「すまんハチマン、世話になる」

「いいっていいって、それじゃあやろうぜ」

「おう」

 

 ハチマンが到着した事で、サクヤは後方に下がり、ヒーラーに専念する事となった。

そしてアサギとカゲムネの両側にハチマンとユージーンが立つ。

 

「ハチマン、ここでお前を超えてやる!」

「はっ、お前に出来るのか?」

「出来るかどうかじゃない、やるんだ」

 

 ルシパーの目は燃えていた。ここで戦意を燃やせるあたり、

ルシパーもまた、超一流という事なのだろう。

 

「行くぞ!」

「おう!」

 

 いきなり横薙ぎに振るわれたルシパーの剣を、

だがハチマンはあっさりとかわしてその懐に飛び込む。

そのままカウンターに繋げようとしたハチマンだったが、

ルシパーはそんなハチマンに蹴りを放ち、懐から排除した。

 

「足癖が悪いな、ルシパー」

「ふん、お前と言えば、剣によるカウンターだからな、警戒しない方がどうかしている。

逆に言えば、それだけ警戒しておけば、お前などものの数ではない」

「へぇ、じゃあとりあえずもう一度だ」

「ぬっ」

 

 ハチマンはそう言って、再びルシパーの剣を掻い潜って前に出る。

それを足で止めたルシパーだったが、

今度はハチマンを排除する事が出来ず、その体がぐらりと揺れた。

 

「なっ………」

 

 ルシパーは先ほどとは違って、今度は自分の足を、

ハチマンの足が蹴っている事に気が付いた。

 

「俺のカウンターが、剣じゃないと出来ないとでも?」

 

 ハチマンはルシパーの足に、自らの足でカウンターを決め、

口以外は動かせないルシパーに対し、思いっきりその剣を振るった。

その威力は、クリティカルである事を差し引いても、

ルシパーの全力を余裕で超えていると思えるほどに強力であり、

そのままルシパーは、ありえない勢いで後方へと飛ばされる事となった。

 

「ぐっ………」

「お前は何位だったか?俺は一応三位なんでな。

カウンターだけで一桁台になれると思ったら大間違いだって事を、今から教えてやろう」

 

 ハチマンはそう言って、凄まじい勢いで倒れたルシパーに迫った。

それを咄嗟に剣で防いだルシパーだったが、

撃ち合わさった剣がぐんぐん押されている事に、ルシパーは驚愕した。

 

「お、お前のどこにこんな力が………」

「まだだ、まだだぞぉ、ルシパー」

 

 ハチマンはそのままルシパーを、力で圧倒していった。

 

 

 

 一方ユージーンは、サッタンと正面から斬り結んでいた。

 

「魔剣グラムに頼りっぱなしだったお前に何が出来る!」

「そうだな、その通りだ。なので今は、純粋に剣技だけで勝負させてもらう」

「ぐっ………」

 

 魔剣グラムの呪縛から開放されたユージーンは、純粋に戦いを楽しんでいた。

この剣は敵の防御を貫通する事はないが、その分余計な事を考える必要はなく、

ユージーンはALOを始めた頃の気持ちに戻り、

存分に今まで培ってきた技術を披露する事が出来ていた。

 

「てめえ、グラムを使ってた時より強くなってないか?」

「それは最高の褒め言葉だな」

 

 サッタンの巨大な斧の攻撃を、雷丸はその細身な刀身で見事に受け止めてくれる。

そもそも単純な力だと、見た目がいかついサッタンよりも、

キャラとしてはどちらかというと細身の範疇に入るユージーンの方が上をいくのだ。

魔剣グラムが有名すぎる為に、先ほどまでは、ある程度対策をとられてしまっていたが、

純粋に小細工無しの戦闘となれば、当然ユージーンの方が上である。

こちら戦いも、その実力通り、徐々にユージーンが優勢になっていった。

 

 

 

「カゲムネさん!」

「おう!」

 

 並んで戦う二人は、共に敵を二人ずつ相手どっていた。

先ほどまでは、自分達が敵を倒さねばという意識を持っていた為、

若干押される場面もあった二人だが、

今はハチマンが到着してくれた事により、精神的にも若干余裕が出来ており、

とにかく敵の攻撃を防ぐ事だけに集中出来ていた為、

その相手をするエヴィアタン、マモーン、ベゼルバブーン、ベルフェノールは、

二人がいきなりその実力を増したかのように感じていた。

 

「な、何でお前ら、さっきまでは確かに………」

「もっと弱かったって?確かにそうかもなぁ!」

「タンクとしての仕事に専念出来てるだけなんだけどね」

「何でそれだけでこんなに違うんだよ!」

「そりゃまあ………なぁ?」

「ええ、ハチマンさんが来てくれたんだもの、

耐えていれば私達が勝つに決まってるじゃない」

「くそっ、くそおおおお!」

 

 二人と四人のこの戦いは、まったく互角の形勢となった。

それはいずれ二人が勝利するという事に他ならない。

それを後ろでフォローしてくれるサクヤの力もまた重要であった。

サクヤは身の危険を全く感じる事のないまま、回復役に専念出来ていた。

 

(ハチマンがいるだけでこうも違うとはな………)

 

 サクヤは改めて、リーダーの力量というものの大きさを感じ、

自分ももっと精進せねばと心に誓った。

 

 

 

「くそっ、何なんだよこれ!」

 

 この時点で幸いにも生き残っていたアスタルトは、

戦場が完全に制御不能になった事に混乱し、

仲間達がどんどん倒されていっているというのに何も出来ずにいた。

 

「こんなのどうしようもないじゃないか………」

 

 大ダメージを受けたアスタルト率いる援軍達は、

シノンとリオン、それにソレイユの、連射が可能な細かな攻撃によってどんどん削られ、

それと同時進行で、コマチとウズメに止めを刺されまくっていた。

もちろんその二人の到着前に倒されてしまう者もかなり多く、

援軍に援軍を重ねて増大していた戦力は、今や二十人を割り込もうとしていた。

 

「こうなったら後方に血路を開いて………」

 

 そう思いかけたアスタルトは、自分の考えの愚かさに気付き、頭を抱えた。

 

「馬鹿か僕は、ここは通常フィールドじゃないし、逃げる意味なんか全く無いじゃないか」

 

 もしここで戦場から逃げ出したとしても、ただ倒されないというだけであり、

そのまま排出を待つだけとなろう。

そもそもこの戦闘に関しては、デスペナルティの類は存在しない事が事前に知らされており、

報酬は明言されていないが、おそらく個人の成果次第だと思われていた。

 

「こうなったらもうソレイユさんに………」

 

 七つの大罪に何故いるのかというくらい、丁寧な性格をしているアスタルトは、

今まさにこちらを蹂躙しているソレイユをも、さん付けで読んでいた。

 

「みんな、僕はこれからソレイユさんに一矢報いようと思う!

付いて来てくれるって人は僕と一緒に行こう!」

 

 アスタルトはそう叫び、何人かのプレイヤーがそれに賛同してくれた。

残りのプレイヤーは、もう完全に心が折れており、その場から動けず、

ただ止めを刺されるのを待っているように見えた。

アスタルトはそれを残念に思いながら、賛同してくれた者達に声をかけた。

 

「突撃!」

 

 直後に敵の攻撃が着弾した為、更に何人かが倒されたものの、

アスタルテは絶妙なタイミングでソレイユ目掛けて突撃した。

ソレイユは虚を突かれたのか、次の魔法の詠唱を止め、驚いた顔で目を見開いている。

 

(僕達なんかにソレイユさんが倒せるわけないけど、せめてひと太刀………!)

 

 そう思いつつ、アスタルトは不慣れながらもソレイユに向けて剣を振るい、

次の瞬間にいきなり天地が逆転した。

 

「えっ?」

 

 そのまま背中に衝撃を受け、アスタルトは気が付くと大の字になって地面に寝転んでいた。

そしてそんなアスタルトの視界の中で、

他の仲間達が、知らない男性プレイヤーに片っ端から倒されていった。

 

「それじゃあ役目を果たしましょうかね」

 

 そのプレイヤーは、手にカラスの爪のような武器を装備し、

徒手空拳で見事な戦いを繰り広げていた。

その動きの華麗さに感嘆しているうちに仲間達は全滅し、

アスタルトの顔を、ソレイユとその男性が覗きこんできた。

 

「あんた確か、七つの大罪の軍師だよな?アスタルトとかいう」

「そうそう、確かアスタルト君、だよね?」

「あっ、はい」

 

 その呼びかけに、アスタルトは不覚ながら、若干喜んでしまった。

知らない顔だが、おそらくこの男性はヴァルハラの準メンバーか何かなのだろうし、

そんな人物と、伝説の存在であるソレイユに名前を覚えていてもらった事が、

アスタルトはたまらなく嬉しかったのだ。

 

「ねぇ、何でこっちに突っ込んできたの?敵わない事は分かってたよね?」

 

 ソレイユにそう尋ねられ、アスタルトは笑顔でこう答えた。

 

「はい、どうせ死ぬならせめてソレイユさんに一矢報いたいなって思って」

「あっ、そういう………」

 

 ソレイユは納得したように笑顔を見せ、アスタルトはその顔を、とても美しいと感じた。

 

「あの、僕は今何をされたんですか?」

「ああ、私が投げ飛ばしたのよ、合気道って奴」

「そうだったんですか、上手くいかないものですね」

 

 穏やかにそう微笑むアスタルトに、だが二人は激励の言葉を送った。

 

「ナイスファイト」

「うん、私が言う事じゃないと思うけど、頑張ったね、タルト君」

 

 二人にそう言われ、あまつさえソレイユにニックネームらしきものをつけられた事で、

アスタルトは思わず涙を流した。

 

「それじゃあ()()ね」

「あっ、はい、またです」

 

 そのままアスタルトはとどめを刺されたが、その心は満ち足りていた。


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