ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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明日は帰りが遅くなるのでお休みします!


第1121話 アレス戦~壊滅、七つの大罪

(くそっ、くそっ、こんなはずじゃなかったのに、

個人としてもギルドとしても、俺は負けるのか………)

 

 ハチマンに追い詰められながら、ルシパーは腸が煮えくり返る思いであった。

おそらく隣で戦っているサッタンも似たような感じなのだろう、

その表情は、とても悔しそうに見えた。

 

「ハチマンよ、そろそろ終わらせよう」

「だな、どうやらあっちは終わったみたいだしな」

「なっ………」

 

 ルシパーが気配を探ると、確かに後方の戦闘の気配が無くなっていた。

更に女性達の喜び合う声も聞こえ、ルシパーはショックを受けつつも、

逆に開き直り、無心で剣を振るい続ける事となった。

 

「お?ルシパー、何か動きが良くなったんじゃないか?仲間がやられた事で開き直ったか?」

 

 その問いに対し、ルシパーは無言を貫いたが、

内心ではそんな自分の変化をあっさり見抜かれた事に一瞬驚いた。

 

(こいつ、どこまで………)

 

 ルシパーはそう思いつつも、ソレイユとシノンがこちらに来ればもう負けが確定な為、

逆にその心はどんどん冷えていった。そのせいか逆に周りを観察する余裕が出来、

ルシパーは、サッタンがかなりエキサイトしている事に気が付いた。

事実後方部隊が全滅した事で、サッタンがかなり熱くなっていたのは間違いない。

 

(サッタンの奴、かなり大振りになってるな、そうなると多分………)

 

 ルシパーはハチマンに意識を向けたまま、ユージーンの事を考えた。

 

(この状況だと、必ずヴォルカニック・ブレイザーが来るはずだ)

 

 ルシパーはそう確信し、守勢に回りながら慎重にそのタイミングを待った。

そしてその予想通り、サッタンが戦斧を大きく振りかぶった瞬間に、

ユージーンが自身の最強の技を繰り出した。

 

「ヴォルカニック・ブレイザー!」

 

(ここだ!)

 

 その攻撃をまともに受けたサッタンは一瞬で残りのHPを削られたが、

それにより、ハチマンの意識が一瞬ルシパーから離れた。

その隙を待ち望んでいたルシパーがすぐに動く。

 

「くらえ!」

 

 ルシパーが待っていたのは、ヴォルカニック・ブレイザーの後のユージーンの硬直だった。

そのタイミングで攻撃すれば、確実にユージーンに大ダメージを与える事が出来、

更に上手くいけば倒す事が出来る。そうすれば自分はハチマンに倒されるかもしれないが、

少なくとも自分のランキングが上がる可能性は十分残るだろう。

ルシパーはそう考え、サッタンを犠牲………という訳でもないのだが、

その死を上手に利用する事で、自分の利益を追求しようとしたのだった。

劣勢の中、実にしたたかだと言えよう。だがそのルシパーの攻撃は、何故か空を切った。

剣筋から突然ユージーンが姿を消したのである。

 

「うおっ………」

「ハチマン、いきなり何をする!」

 

 否、ユージーンは姿を消したのではなく、

後方で尻餅をつきながらハチマンに悪態をついていた。

そしてルシパーが見たのは、ユージーンが元いた場所に向け、

蹴りを放った体勢で止まっているハチマンの姿であった。

 

「ハ、ハチマン、貴様、どうして………」

「お前がユージーンの方をちらちら気にしてるみたいだったんでな、

多分大技のタイミングでユージーンを狙うって思ったんだよ。だから蹴った」

「そういう事か………助かったぞ、ハチマン」

 

 ユージーンはそれで素直に矛先を収め、

自分の狙いが完全に見抜かれた事を理解したルシパーは、

屈辱のあまり、ハチマンに斬りかかった。

 

「くそっ!」

 

 ガキン!

 

 直後に鈍い音と共に、ルシパーはハチマンにカウンターをくらった。

この状況でもハチマンは、ルシパーの攻撃にしっかり備えていたようだ。

 

「て、てめえはどこまで………」

「こういう時に油断してたら、死ぬ可能性が()()()からな」

 

 死ぬ可能性がある、ではなく、あった。

その表現の微妙な違いにルシパーは気付く事はなく、そのままハチマンに倒された。

 

「さて、残りはお前達だな」

 

 ハチマンは残る四人、

エヴィアタン、マモーン、ベゼルバブーン、ベルフェノールに向けてそう言った。

 

「くそ、よくもルシパーとサッタンを!」

「もうどうでもいい、全員でハチマンにかかれ!」

 

 四人は口々にそう叫んだが、そんな彼らの背後からこんな声がした。

 

「そんな事、させる訳ないじゃない」

「そうですよ、ありえません」

「とりあえずさっさと死んどきなさい」

「ブタ野郎共はもう退場しなよ」

 

 いつの間にか四人の背後には、ウズメ、ピュア、シノン、リオンがいた。

そして武器を振るい、ヒーラーがいない為、ここまでまったくHPを回復出来なかった、

七つの大罪の残り四人の幹部連に止めを刺した。

 

「くそ、ほとんど女じゃねえか、羨ましいんだよハチマン、地獄に落ちろ!」

「まったくだ、この精神的苦痛に対して慰謝料を請求する!」

「はぁ、もう十分だ、飯にしようぜ」

「だっる、はい、解散解散~」

 

 四人はそう、いかにもそれらしき事を言いながら消滅し、

遂にボス部屋外の守備側勢力は、全滅する事となった。

 

「さて、それじゃあアスナ達が出てくるのを待つか」

「大丈夫かな?」

「ん?余裕だろ?うちの副長四人に加え、ランキング内だとラン、ユウキだろ?

それにリーファ、クライン、エギル、リョウ、マックス、フカ、ラキアさんまでいるんだ、

残りの連中も実力的には大差無いし、むしろどうやったら負けられるのか知りたいぞ」

「た、確かに………」

「そ、そう言われるとヴァルハラの戦力って………」

 

 畏れおののくユージーンとサクヤに、ハチマンは思い出したようにこう尋ねた。

 

「そういえばアリシャさんはいないのか?」

「ああ、アリシャはユージーンをかばって倒された」

「すまん、武器の耐久度に気を配らなかった俺のせいだ」

「そういう事か………おいユージーン、これはでかい借りになったな」

「う………」

「確かにな、あのアリシャの事だ、とんでもないものを要求してきそうだ」

 

 アリシャの事を一番良く知るサクヤにそう言われ、ユージーンはどよんとした表情をした。

 

「あはははは、ドンマイ、ユージーン」

「お、おう、まあ善処する。それとこの武器、本当に助かった。

予備の武器だとかなり戦闘力が落ちちまうからな」

「おう、まあそれも貸しな、貸し」

「う………わ、分かった、そちらも善処する」

 

 もっともハチマンがユージーンに何か要求するはずもなく、これはただの冗談である。

 

「しかしただ待ってるのも暇だな、何か無いか?」

「ここって外とは繋がらないんだよね?」

「ああ、こういうフィールドだと、不正があるとまずいから、

外とは一切連絡も通信も出来ないようになってるな」

「あっ、それじゃあ、私達が歌おうか?」

「おっ、いいなそれ!」

「うわぁ、生歌が聞けるなんて感激!」

「本当にいいの?」

「もっちろん!それじゃあピュア、何を歌おっか!」

「最初はもちろん『あっつくなぁれ』ですかね?」

 

 その後、二人は三曲ほどフランシュシュの歌を披露する事となった。

この場にいた者達が拍手喝采する中、ユージーンは一人、感動のあまり号泣していたが、

その後、ウズメとピュアがハチマンにべったりだった為、

心の中で血の涙を流す事となったのだった。

 

 

 

 ここで少し時間は遡る。ハチマンとソレイユ、ハリューがフィールドに突撃した直後、

フィールドが完全に閉鎖された瞬間にそれは起こった。

それまで漠然と攻撃側、守備側の人数だけを表示していたモニターの画面が変わったのだ。

そこに表示されていたのはアレスの残りHPに加え、

ボス部屋内、ボス部屋外の、各勢力の生き残りの人数と、

そこで戦闘をしている中で、有力と思われるプレイヤー数人の名前であった。

 

「おお?」

「動画じゃなく数字の羅列………?」

「動画じゃないのか?」

「いや、プレイヤー同士の争いならともかくよ、

ギルドごとに、他にあまり知られたくない特別な戦術とかもあるだろうし………」

「ああ、確かにな」

「まあこれはこれで、想像力がかきたてられるっていうか?」

「お、見てみろよ、ボス部屋のトップはヴァルハラの副長が勢揃いだぜ!」

「絶剣もいやがる!」

 

 現在ボス部屋内、攻撃側として名前が表示されていたのは、

キリト、アスナ、ユキノ、ユウキの四人であった。

防御側はシグルドはともかく、知らないプレイヤーの名前が表示されており、

観客達は、そちらにはほとんど興味を示さなかった。

むしろ観客達の興味を引いたのは、ボス部屋外のめまぐるしい数値の変動であった。

 

「おいおい、随分差がついてるな」

「表示されてる名前は攻撃側がシノン、ユージーン、サクヤ、アリシャ?」

「守備側は七つの大罪の連中だな、あいつらボス戦に間に合わなかったのかよ」

「それよりも何でシノン?シノンだけ置いてかれたのか?」

「よく分からないな………」

 

 観客達は、ああだこうだと言い合っていたが、

そんな中、野良で参加していたプレイヤーが何人か排出され、

観客達に請われて中の状況を説明し始めた。

 

「実は俺達よ、ヴァルハラをはさみうちにした状態で、

ボス戦に突入するつもりだったんだけどよ………」

「いきなりヴァルハラの一部と、サラマンダー、シルフ、ケットシーの連合が、

こっち目掛けて突撃してきやがって………」

「その勢いが凄くて、俺達はまんまとボス部屋から締めだされちまったんだよ!」

「で、突撃してきた奴らと外で戦闘になってよ、多分今、ガッチガチにやり合ってるぞ」

 

 その説明で事情を把握した観客達は、大いに盛り上がった。

七つの大罪の名前は変化が無かったが、そちら側の人数はガンガン減っていき、

その間にヴァルハラサイドの人数も七人ほど減る事となった。

 

「減り方が違うとはいえ、これ、ヴァルハラやばくね?」

「残り十六人か、敵は全部で八十人超え、正直一人当たりの重みが全然違うよな」

「うおっ、何だ!?」

 

 その瞬間に、守備側の人数がいきなり二十人ほど減った。

 

「な、何があったんだ?」

「お、おい見ろ、プレイヤーの名前が………」

 

 見ると先程とは違い、プレイヤーの名前の表示が、

ソレイユ、ハチマン、ユージーン、シノンに変化していた。

 

「こ、これって………」

「きゃ~!ザ・ルーラー様が戦場に着いたのよ、絶対そうに決まってるわ!」

「絶対暴君も一緒か………これは決まったな」

 

 その推測を補強するかのように、

一人無念の戦死を遂げたアリシャが観客達の前に姿を現す。

 

「くぅ、死んじゃった………」

 

 そんなアリシャは、他の観客達に、ハチマンとソレイユの名前が登場した事を知らされた。

 

「って、え?本当に?私が死んだ後、ハチマン君達が来たの?

くぅ、もうちょっと耐えられてれば………」

 

 そしてアリシャから直前までの状況と、その後の動きの推測を聞いた観客達は、

改めてヴァルハラの勝利を確信した。

 

「七つの大罪の連中も気の毒に、ボス戦にも参加出来ず、外で全滅とか」

「まあざまぁみろだな、あいつら調子に乗りすぎなんだよ!」

「あっ、数値が変わり始めたぞ」

 

 この間、攻撃側の人数は十二人まで減少したが、

守備側の人数は凄まじい勢いで減っていき、残り六人から一人減り、また一人減り、

そして遂に生き残りがゼロになった瞬間に、観客達から大歓声が上がった。

 

「七つの大罪、ざまぁ!」

「ヴァルハラ最強!」

 

 その光景をじっと眺めていたアスタルトは、

仕方ない事だと思いつつ、果たして自分はこのままでいいのかと、自問自答していた。

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