(くそっ、くそっ、こんなはずじゃなかったのに、
個人としてもギルドとしても、俺は負けるのか………)
ハチマンに追い詰められながら、ルシパーは腸が煮えくり返る思いであった。
おそらく隣で戦っているサッタンも似たような感じなのだろう、
その表情は、とても悔しそうに見えた。
「ハチマンよ、そろそろ終わらせよう」
「だな、どうやらあっちは終わったみたいだしな」
「なっ………」
ルシパーが気配を探ると、確かに後方の戦闘の気配が無くなっていた。
更に女性達の喜び合う声も聞こえ、ルシパーはショックを受けつつも、
逆に開き直り、無心で剣を振るい続ける事となった。
「お?ルシパー、何か動きが良くなったんじゃないか?仲間がやられた事で開き直ったか?」
その問いに対し、ルシパーは無言を貫いたが、
内心ではそんな自分の変化をあっさり見抜かれた事に一瞬驚いた。
(こいつ、どこまで………)
ルシパーはそう思いつつも、ソレイユとシノンがこちらに来ればもう負けが確定な為、
逆にその心はどんどん冷えていった。そのせいか逆に周りを観察する余裕が出来、
ルシパーは、サッタンがかなりエキサイトしている事に気が付いた。
事実後方部隊が全滅した事で、サッタンがかなり熱くなっていたのは間違いない。
(サッタンの奴、かなり大振りになってるな、そうなると多分………)
ルシパーはハチマンに意識を向けたまま、ユージーンの事を考えた。
(この状況だと、必ずヴォルカニック・ブレイザーが来るはずだ)
ルシパーはそう確信し、守勢に回りながら慎重にそのタイミングを待った。
そしてその予想通り、サッタンが戦斧を大きく振りかぶった瞬間に、
ユージーンが自身の最強の技を繰り出した。
「ヴォルカニック・ブレイザー!」
(ここだ!)
その攻撃をまともに受けたサッタンは一瞬で残りのHPを削られたが、
それにより、ハチマンの意識が一瞬ルシパーから離れた。
その隙を待ち望んでいたルシパーがすぐに動く。
「くらえ!」
ルシパーが待っていたのは、ヴォルカニック・ブレイザーの後のユージーンの硬直だった。
そのタイミングで攻撃すれば、確実にユージーンに大ダメージを与える事が出来、
更に上手くいけば倒す事が出来る。そうすれば自分はハチマンに倒されるかもしれないが、
少なくとも自分のランキングが上がる可能性は十分残るだろう。
ルシパーはそう考え、サッタンを犠牲………という訳でもないのだが、
その死を上手に利用する事で、自分の利益を追求しようとしたのだった。
劣勢の中、実にしたたかだと言えよう。だがそのルシパーの攻撃は、何故か空を切った。
剣筋から突然ユージーンが姿を消したのである。
「うおっ………」
「ハチマン、いきなり何をする!」
否、ユージーンは姿を消したのではなく、
後方で尻餅をつきながらハチマンに悪態をついていた。
そしてルシパーが見たのは、ユージーンが元いた場所に向け、
蹴りを放った体勢で止まっているハチマンの姿であった。
「ハ、ハチマン、貴様、どうして………」
「お前がユージーンの方をちらちら気にしてるみたいだったんでな、
多分大技のタイミングでユージーンを狙うって思ったんだよ。だから蹴った」
「そういう事か………助かったぞ、ハチマン」
ユージーンはそれで素直に矛先を収め、
自分の狙いが完全に見抜かれた事を理解したルシパーは、
屈辱のあまり、ハチマンに斬りかかった。
「くそっ!」
ガキン!
直後に鈍い音と共に、ルシパーはハチマンにカウンターをくらった。
この状況でもハチマンは、ルシパーの攻撃にしっかり備えていたようだ。
「て、てめえはどこまで………」
「こういう時に油断してたら、死ぬ可能性が
死ぬ可能性がある、ではなく、あった。
その表現の微妙な違いにルシパーは気付く事はなく、そのままハチマンに倒された。
「さて、残りはお前達だな」
ハチマンは残る四人、
エヴィアタン、マモーン、ベゼルバブーン、ベルフェノールに向けてそう言った。
「くそ、よくもルシパーとサッタンを!」
「もうどうでもいい、全員でハチマンにかかれ!」
四人は口々にそう叫んだが、そんな彼らの背後からこんな声がした。
「そんな事、させる訳ないじゃない」
「そうですよ、ありえません」
「とりあえずさっさと死んどきなさい」
「ブタ野郎共はもう退場しなよ」
いつの間にか四人の背後には、ウズメ、ピュア、シノン、リオンがいた。
そして武器を振るい、ヒーラーがいない為、ここまでまったくHPを回復出来なかった、
七つの大罪の残り四人の幹部連に止めを刺した。
「くそ、ほとんど女じゃねえか、羨ましいんだよハチマン、地獄に落ちろ!」
「まったくだ、この精神的苦痛に対して慰謝料を請求する!」
「はぁ、もう十分だ、飯にしようぜ」
「だっる、はい、解散解散~」
四人はそう、いかにもそれらしき事を言いながら消滅し、
遂にボス部屋外の守備側勢力は、全滅する事となった。
「さて、それじゃあアスナ達が出てくるのを待つか」
「大丈夫かな?」
「ん?余裕だろ?うちの副長四人に加え、ランキング内だとラン、ユウキだろ?
それにリーファ、クライン、エギル、リョウ、マックス、フカ、ラキアさんまでいるんだ、
残りの連中も実力的には大差無いし、むしろどうやったら負けられるのか知りたいぞ」
「た、確かに………」
「そ、そう言われるとヴァルハラの戦力って………」
畏れおののくユージーンとサクヤに、ハチマンは思い出したようにこう尋ねた。
「そういえばアリシャさんはいないのか?」
「ああ、アリシャはユージーンをかばって倒された」
「すまん、武器の耐久度に気を配らなかった俺のせいだ」
「そういう事か………おいユージーン、これはでかい借りになったな」
「う………」
「確かにな、あのアリシャの事だ、とんでもないものを要求してきそうだ」
アリシャの事を一番良く知るサクヤにそう言われ、ユージーンはどよんとした表情をした。
「あはははは、ドンマイ、ユージーン」
「お、おう、まあ善処する。それとこの武器、本当に助かった。
予備の武器だとかなり戦闘力が落ちちまうからな」
「おう、まあそれも貸しな、貸し」
「う………わ、分かった、そちらも善処する」
もっともハチマンがユージーンに何か要求するはずもなく、これはただの冗談である。
「しかしただ待ってるのも暇だな、何か無いか?」
「ここって外とは繋がらないんだよね?」
「ああ、こういうフィールドだと、不正があるとまずいから、
外とは一切連絡も通信も出来ないようになってるな」
「あっ、それじゃあ、私達が歌おうか?」
「おっ、いいなそれ!」
「うわぁ、生歌が聞けるなんて感激!」
「本当にいいの?」
「もっちろん!それじゃあピュア、何を歌おっか!」
「最初はもちろん『あっつくなぁれ』ですかね?」
その後、二人は三曲ほどフランシュシュの歌を披露する事となった。
この場にいた者達が拍手喝采する中、ユージーンは一人、感動のあまり号泣していたが、
その後、ウズメとピュアがハチマンにべったりだった為、
心の中で血の涙を流す事となったのだった。
ここで少し時間は遡る。ハチマンとソレイユ、ハリューがフィールドに突撃した直後、
フィールドが完全に閉鎖された瞬間にそれは起こった。
それまで漠然と攻撃側、守備側の人数だけを表示していたモニターの画面が変わったのだ。
そこに表示されていたのはアレスの残りHPに加え、
ボス部屋内、ボス部屋外の、各勢力の生き残りの人数と、
そこで戦闘をしている中で、有力と思われるプレイヤー数人の名前であった。
「おお?」
「動画じゃなく数字の羅列………?」
「動画じゃないのか?」
「いや、プレイヤー同士の争いならともかくよ、
ギルドごとに、他にあまり知られたくない特別な戦術とかもあるだろうし………」
「ああ、確かにな」
「まあこれはこれで、想像力がかきたてられるっていうか?」
「お、見てみろよ、ボス部屋のトップはヴァルハラの副長が勢揃いだぜ!」
「絶剣もいやがる!」
現在ボス部屋内、攻撃側として名前が表示されていたのは、
キリト、アスナ、ユキノ、ユウキの四人であった。
防御側はシグルドはともかく、知らないプレイヤーの名前が表示されており、
観客達は、そちらにはほとんど興味を示さなかった。
むしろ観客達の興味を引いたのは、ボス部屋外のめまぐるしい数値の変動であった。
「おいおい、随分差がついてるな」
「表示されてる名前は攻撃側がシノン、ユージーン、サクヤ、アリシャ?」
「守備側は七つの大罪の連中だな、あいつらボス戦に間に合わなかったのかよ」
「それよりも何でシノン?シノンだけ置いてかれたのか?」
「よく分からないな………」
観客達は、ああだこうだと言い合っていたが、
そんな中、野良で参加していたプレイヤーが何人か排出され、
観客達に請われて中の状況を説明し始めた。
「実は俺達よ、ヴァルハラをはさみうちにした状態で、
ボス戦に突入するつもりだったんだけどよ………」
「いきなりヴァルハラの一部と、サラマンダー、シルフ、ケットシーの連合が、
こっち目掛けて突撃してきやがって………」
「その勢いが凄くて、俺達はまんまとボス部屋から締めだされちまったんだよ!」
「で、突撃してきた奴らと外で戦闘になってよ、多分今、ガッチガチにやり合ってるぞ」
その説明で事情を把握した観客達は、大いに盛り上がった。
七つの大罪の名前は変化が無かったが、そちら側の人数はガンガン減っていき、
その間にヴァルハラサイドの人数も七人ほど減る事となった。
「減り方が違うとはいえ、これ、ヴァルハラやばくね?」
「残り十六人か、敵は全部で八十人超え、正直一人当たりの重みが全然違うよな」
「うおっ、何だ!?」
その瞬間に、守備側の人数がいきなり二十人ほど減った。
「な、何があったんだ?」
「お、おい見ろ、プレイヤーの名前が………」
見ると先程とは違い、プレイヤーの名前の表示が、
ソレイユ、ハチマン、ユージーン、シノンに変化していた。
「こ、これって………」
「きゃ~!ザ・ルーラー様が戦場に着いたのよ、絶対そうに決まってるわ!」
「絶対暴君も一緒か………これは決まったな」
その推測を補強するかのように、
一人無念の戦死を遂げたアリシャが観客達の前に姿を現す。
「くぅ、死んじゃった………」
そんなアリシャは、他の観客達に、ハチマンとソレイユの名前が登場した事を知らされた。
「って、え?本当に?私が死んだ後、ハチマン君達が来たの?
くぅ、もうちょっと耐えられてれば………」
そしてアリシャから直前までの状況と、その後の動きの推測を聞いた観客達は、
改めてヴァルハラの勝利を確信した。
「七つの大罪の連中も気の毒に、ボス戦にも参加出来ず、外で全滅とか」
「まあざまぁみろだな、あいつら調子に乗りすぎなんだよ!」
「あっ、数値が変わり始めたぞ」
この間、攻撃側の人数は十二人まで減少したが、
守備側の人数は凄まじい勢いで減っていき、残り六人から一人減り、また一人減り、
そして遂に生き残りがゼロになった瞬間に、観客達から大歓声が上がった。
「七つの大罪、ざまぁ!」
「ヴァルハラ最強!」
その光景をじっと眺めていたアスタルトは、
仕方ない事だと思いつつ、果たして自分はこのままでいいのかと、自問自答していた。