ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第1126話 アレス戦~ロスタイムの探索

 どうやらこのイベントは、自動的に外に出される類のものではないらしく、

外に出るかどうかは選択制になっているようだ。

もちろん時間的な限界はあるが、表示によると、まだ三十分ほど残されているようだ。

その時間を利用して、ハチマンとキリトは情報交換を行っていた。

 

「………へぇ、七つの大罪を全滅させたのか、さすがソレイユさんとハチマンだな」

「お前達こそ、よくもまあそんな決着になったもんだと感心するよ。

しかしまさか、サポート専門のボスが出てくるとはなぁ………」

「むふぅ」

「まあ面白い神だったよアレスは。

今度もし機会があれば、ガチでやり合ってみたいもんだよ」

「で、報酬がその………」

「ティルフィング、性能的にも中々のもんだよ」

「それだけではなく、どうやら参加者全員に、

何かしらのアイテムやお金が報酬として出ているようね」

 

 そんな二人の会話にユキノが割り込んできた。

 

「ん、そうなのか?………お、本当だ」

「まあ大したアイテムではないみたいね」

「もらえるものはもらっておこうぜ」

「ええ、そうね」

 

 自分のストレージの中を確認したハチマンは、きょろきょろしながら続けてこう呟いた。

 

「しかしボス戦にプレイヤーを絡めたところとか、かつてない敵の挙動、

無駄に凝ったこの城、何から何まで今までとは違うよなぁ」

「まあアルゴさんも、色々試しているのではないかしら」

「そういえばボス戦の後、外に出されずにこんなにのんびりしてるのは………」

 

 そう言いかけてハチマンはピタリとその動きを止めた。

そして何かを探すようにきょろきょろと辺りを見回し始める。

その態度は落ち着きが無い事極まりない。

 

「ハチマン、どうかしたか?」

「いや、ちょっと思い付いた事があってな」

「何か気になる事でも?」

「今俺が言ったように、ここにはあと二十五分くらいいられるだろ?」

「うん」

「ええ」

「でもそんな仕様にする必要はないよな?」

「いや、まあ………」

 

 キリトはハチマンが何を言いたいのか分からないようだ。

だが聡明なユキノは何か思い付いたのか、息を呑んだ。

 

「………あっ」

「気付いたか?」

「ええ、これは少し急がないといけないわね、もう何人か落ちてしまったのだし」

「ど、どういう事だ?」

「こういう事だキリト、この城は無駄に凝ってる、で、ボス戦が終わったのにも関わらず、

排出されるまでに三十分もの時間がある。って事は、ここにはまだ何かあるのかもしれない」

「あっ!」

「それが何かは分からないが、残り時間が微妙だ、手分けして探索に出る必要がある」

「オーケー、お~いみんな、ちょっと集合してくれ!」

 

 そのキリトの呼びかけで、残っていた仲間達がこちらに集まってきた。

ハチマンが残っている以上落ちるはずもないアスナは、

スモーキング・リーフの六姉妹のうち、残っていたリナとリョクと遊んでいたらしく、

二人を伴ってこちらに来た。ハチマン達の近くに控えていたのはキズメルを始めとして、

セラフィム、レコン、フカ次郎、ハリュー、レン、

そしてまだビクンビクンしていたクックロビンであったが、七人は黙って立ち上がった。

シノン、リオン、ウズメ、ピュアもハチマンがいる間に落ちるはずもなく、

少し離れたところからこちらに歩いてきた。アル冒は、ヒルダだけが残っている。

ランとユウキも健在であった。スプリンガーはもう落ちていたが、

ラキアは実は、ここまでずっとハチマンの背中に負ぶさっていた為にまだここにいる。

あとは、ユージーンがまだここに残っていた。もちろんウズメとピュアが残っているからだ。

 

「実は今思い付いた事がある。

このフィールド、まだ排出されないだろ?その理由についてだ。

もしかしたら、ここにはまだ何かあるのかもしれない。

無いかもしれないが、探してみて損はないと思うんだよな」

「もしかしてお宝とか!?」

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないな」

 

 驚くフカ次郎に対し、ハチマンはそう言いながら頷いた。

その時フカ次郎が付けている、フェンリルの目が淡く光る。

 

『いい判断だ、私もここにはまだ何かあると感じる』

「んっ」

「フカ三郎!?本当に?」

『ああ、だが時間が無い、ハチマンよ、急ぐのだ』

 

 そのフェンリルのアドバイスを受け、ハチマンは素早く指示を出した。

 

「とりあえず何隊かに分かれて探索を始めてくれ。

各自、何か見つけたら、詳しく調べなくていいからとにかく所有権を確保するんだ、

そうすれば外に持ち出す事が可能になるはずだ」

「「「「「「「「了解!」」」」」」」」

 

 そしてアイテムに対して鼻がきくリナと、

どうしてもハチマンに付いていくと言って聞かなかったシノン、ウズメ、ピュア、リオンの、

ボス部屋外チームの四人がハチマンの同行者となり、

他の者達もアスナとキリトの仕切りで何チームかに分けられ、城内の探索が開始された。

 

 

 

「フカ、リナちゃんに負けないように頑張ってね!」

「ハードル高えなおい!だが任せろ、この私の物欲センサーに死角はない!」

「それって駄目な奴じゃ………」

 

 先頭を行くレンとフカ次郎の会話にアスナは苦笑した。

 

「アスナ、こういう時は、そういう勘に頼るのも大事」

 

 その時セラフィムが横からそう言ってきた。

セラフィムもハチマンと一緒に行きたいアピールをしていたのだが、

ハチマンのチームの人数が増えすぎるはまずいと自重したのである。

さすがは大人の女といったところだろうか。

 

「むぅ、まあそうかもだけど」

「ラキアさんは何か感じます?」

「む~ん………むむ?」

 

 その隣では、ヒルダがラキアにそう尋ね、ラキアがきょろきょろと辺りを見回し、

右の通路で目を止めた。どうやらそちらが気になるようだ。

 

「アスナさん、ラキアさんが、右の通路に何かありそうだって」

「本当に?さっすが、フカちゃんとは違うね!」

「ア、アスナ、ひどい………う、うぅ、こうなったら負けてられん、

絶対にお宝に一番乗りしてやるぜ!」

「あっ、フカ、待ってってば!」

 

 右の通路の奥に走っていくフカ次郎を、レンが慌てて追いかけた。

残された者達も当然そちらに向かう。

 

「さすがは正妻様、人の使い方が上手いねぇ」

「ふふっ、まあこのくらいはね?」

 

 アスナをハリューがそう賞賛し、一同は城の奥へと進んでいった。

 

 

 

 スリーピング・ナイツは今回、単独で動いていた。

まあ純粋にギルドのメンバーだけで数が揃っているのだから当然である。

 

「ラン、どうする?」

「任せなさい、私は野性の勘には少し自信があるのよ」

「それってエロ方面にしか働かないんじゃねえの」

「そ、そんな事はない………はずよ、多分こっち!」

 

 スリーピング・ナイツもまた、ランによって城の奥へと進んでいった。

 

 

 

 そしてキリトチームは、残りの者達が集まっていた。

キリト、リョク、キズメル、レコン、それにクックロビンである。

ここには仮にクックロビンが暴走しても、

それを止められる、もしくはスルー出来る者が揃っていた。

 

「さて、どっちかな」

「キリト君、こっち、こっちな気がする!」

「ふむ………」

 

 確かにこの中ではクックロビンが一番そういう感覚に優れているだろう。

だが本人が自覚の無いままハチマンを感知している可能性は否定出来ない。

その為キリトはリョクにも意見を求めた。

 

「リョク、どうだ?」

「多分だけど、構造的にもその道であってるじゃん」

「そか、それじゃあそっちに行ってみるか」

「オッケー!レッツゴー!」

 

 

 

 そしてハチマン達は、リナに全てを任せていた。

 

「リナコ、どっちだ?」

「くんくん、うん、こっちなのな!」

「了解」

 

 ハチマンとリナの歩みは確信に満ちており、途中で迷うそぶりすら見せなかった。

だがアイテム類に関しては無類の強さを誇るリナの言う事なのだ、誰も疑問を抱く事はない。

 

「もうすぐなのな!」

「………おっ」

「ここって………」

「彫刻がいっぱい?」

「多分ギリシャ神話の神の像だな、知らんけど」

「あっ、あれ、ケルベロスじゃない?」

「大きい巨人みたいなのもあるね」

 

 そこは彫刻の森とでも表現出来そうな、大広間であった。

その雰囲気は、いかにも何かありそうといった感じである。

 

「一つ壊れてるな」

『それはアレスの像だ、ハチマン』

「そうなのか」

 

 ハチマンはその前に立ち、しげしげと像の残骸を眺めた。

その瓦礫の中に、キラリと光る物があった。

 

「ん………」

 

 それは何か筒のような物であった。

 

「とりあえず後で調べるとして、しまっておくか」

 

 よく見ると、他にも広場には色々がらくたのような物がある。

 

「とりあえずしまえる物は片っ端からしまっちまおう」

「分かった!」

「これも、それにこれも………」

「あれ、リーダー?」

 

 その時背後からそんな声がし、ハチマンは振り返った。

 

「あれ?ハチマン?」

「ハッチマ~ン!」

 

 そして更に二人の人物が姿を現した。ランとクックロビンである。

 

「何でみんなここに集まっちまうかな………、

いや、まあここが目的地で合ってるって事なのかもしれないけどよ」

 

 そこに後続の者達が追いついてきた。

 

「「あれ、ハチマン君?」」

「ハチマン?」

 

 レン、アスナ、キリトはぽかんとした顔でハチマンの顔を見つめた。

それもそうだろう、四組はまったく別ルートを進んでいたからだ。

 

「………フカ、まさか」

「………ラン?」

「おいロビン、お前まさか、ハチマンに反応したんじゃ………」

 

 当然三人は同じ疑いを持つ。

 

「ち、違うぜ親友!」

「そんな訳ないじゃない、ユウ、お姉ちゃんを信じて!」

「………リョク、どうだ?」

「多分ここにしかお宝が存在しないせい………と思うけどちょっと自信は………」

 

 その時フェンリルの目が警告を発した。

 

『ハチマン、残り五分だ、急いだ方がいい』

「おっと、よしみんな、そういう事だから、片っ端からアイテムを回収だ、急げ!」

 

 こうしてヴァルハラ連合軍は、様々なアイテムを回収する事となった。

その後、無事に排出される事となったのだが、後日の検証で、

三人がアイテムよりも明らかにハチマンに強く引き寄せられる傾向がある事が分かり、

とりあえず三人はハチマンに拳骨を落とされた。リョクとラキアは当然セーフであったが、

とにもかくにも、これでアレス戦は終わりを告げた。

残る敵は、ガイア、ギガンテス、ヘカトンケイルのみである。


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