グランドクエストの間の前の広場に集まった野次馬達は、
若干緊張しながら、攻撃側人数とアレスのHPの数値を注視していた。
「まさかあのメンバーで負けないよな?」
「むしろこれで勝てなかったら俺は開発の正気を疑うね」
「それもそうだな」
「でもあのボスのHP、さっきから全く動かなくないか?」
「中は一体どうなってるんだろうな」
その言葉通り、ボスのHPはまったく動かず、ただ時間だけが過ぎていく。
「これってまさか………」
「敵のHPを全く削れないまま、
死なないまでも、ヴァルハラのメンバーがどんどんダメージを受けていってる状態?」
「他に説明出来ないよな?」
「もしこれで剣王様達が負けた場合、ザ・ルーラー様の出番が来るのかな?」
「って事は、剣王様を出待ちするべき?」
「死神様は中と外、どっちにいるんだろ?」
「私はサムライマスター様を………」
「「「え~?それはない!」」」
どうやらクラインは、やはりオチ担当として定着しているようだ。
(う~ん、それにしても本当に遅くない?一体どうなってるんだろ?)
アリシャですらそう心配し始めた時、いきなり事態は急変した。
アレスのHPがいきなりガツンと減り、ゼロになったのだ。
「「「「「「「「えええええええ?」」」」」」」」
直後にアナウンスがゲーム中に響き渡る。
『CONGRATULATIONS』
『アレスが討伐されました、攻撃側の勝利です』
『参加した全てのプレイヤーに、報酬が与えられます、ストレージをご覧下さい』
そして広場中に大歓声が巻き起こった。
「うおおおおおお!」
「何今の、一体何事!?」
「ヴァ~ルハラ!ヴァ~ルハラ!」
「いやぁ、いいもん見させてもらったわ」
(ふううううう、まったく心臓に悪いよ)
そう思いつつ、アリシャはのんびりと壁にもたれかかり、
親友が出てくるのを待つ事にした。
戦闘を終え、外に出たサクヤは、アリシャの事を心配し、その姿を探した。
「アリシャ!」
「サクヤちゃ~ん、こっちこっち!」
落ち込んでいるのではないかと心配していたサクヤだったが、
全くそんな事はなく、アリシャは元気よくこちらに手を振ってきた。
「良かった、いつも通りだな」
「え~?何が?」
「いや、何でもない」
サクヤはそう言って微笑んだ。
「それよりサクヤちゃん、中で一体何があったの?」
「うむ、それがとんでもない話だったんだが………」
サクヤからボス戦のあらましを聞いたアリシャは大爆笑した。
「あはははは、あはははははは、何それ、意味分かんない!」
「だよな………まあでもそういう事だったんだ。あとハチマン君から伝言だ、
可能な者は、休憩を挟んで一時間後にヴァルハラ・ガーデンに集合だそうだ」
「うわぁ、ヴァルハラ・ガーデンに入れてもらうのも久しぶりだね?」
「だな、あそこに入れてもらった事のある者は、
完全に身内であるヴァルハラ・ウルヴズ、スリーピング・ナイツ、
あとはスモーキング・リーフのメンバーを除けばそうそういないと思うし、
実に名誉な事ではあるな」
「だね!」
二人はそんな会話を交わしながら、
ヴァルハラのメンバー達が外に出てくるのを眺めていた。
ソレイユ、ユイユイ、イロハ、ユミー、コマチ、クリシュナ、エギル、クライン、
サトライザー、ホーリーや、スプリンガー、ファーブニルらが続々と姿を見せ、
観客達は大いに盛り上がる。だが全体の半数程度が現れた後、
ピタっと誰も姿を見せなくなり、観客達だけではなく、
サクヤ、アリシャ、更には他ならぬヴァルハラのメンバー達も、戸惑いの表情を見せた。
「あれ、ハチマンの奴、何してるんだ?」
「話が盛り上がってるとか?」
「それにしてもな………」
「くそ、まだ中と連絡はとれないみたいだぜ」
「う~ん………」
そして一同の目が、自然とクリシュナに向いた。
「え、な、何?」
「いやぁ、実験大好きっ子のクリシュナちゃんなら、こういう時に的確な予想をして、
実験で証明してくれるんじゃないかなって」
「それ、実験うんぬんのくだりはいりませんよね?」
クリシュナはソレイユに控えめに抗議しつつ、真面目に今何が起こっているのか考えた。
そしてさすがながら、すぐに正解にたどり着く。
「………ええと、こういう戦闘って普通、終わったら数分で強制排出ですよね?」
「ええ、まあそうね」
「それじゃあ今回の三十分っておかしくないですか?」
「そうね、珍しいわね」
「って事はもしかしてハチマンの奴、まだ中にお宝なりなんなりが眠ってるって予想して、
残った人達に探させてるのでは?」
「あ~!」
「なるほど、筋は通ってるな」
「というか、それしかないよね」
「そういう事ならいずれ報告があると思うし、ここで待っている必要性も薄いと思うから、
予定通り、一時間後にヴァルハラ・ガーデンに集合って事で」
ソレイユがそうまとめ、仲間達は散っていった。
「アリシャ、私達はどうする?」
「私はまああと二十分くらいだし?ユージーン君が出てくるのを待って、
そこから集合時間まで、何か美味しいものでも奢ってもらおうかなって思ってるんだけど。
助けてあげたんだからそれくらいいいよね?」
「むしろその程度でいいのかと思うがな」
「この程度な訳ないじゃん、命だけじゃなく、
多分ランキングの順位も守ってあげたんだよ?
まだ思いついてないだけで、思いついたら色々たかるつもり」
「………さすがというか」
サクヤはアリシャのその言葉に苦笑した。
「ではあと少し、のんびりと待つか」
「だね!」
それから二十分後、ハチマン達が一気に姿を現した。
やはり熱狂的なファンというのはいるもので、
これだけ時間が経った今でも、多くの
ハチマンの下に、一気に押し寄せた。
「おわっ!」
「はい、ストップ!」
それを止めたのは、ハチマンの正妻であるアスナである。
「それじゃあこれから、ザ・ルーラーの握手会を始めます、希望者は順番に並んで下さい!」
「へ?」
戸惑うハチマンにアスナが目配せし、ハチマンはそれ以上何も言えなかった。
(まあ確かにその方が穏便に事が進むか)
ハチマンはそう考え、強化外骨格を駆使して希望する女性達と握手していった。
「………何だこれ」
「気にしない気にしない、ハチマンがあんたの盾になってくれてる部分もあるんだから、
逆に感謝しないと」
「ああ、確かにそういうのもあるか………」
もちろんキリトの周りにも多くの女性が集まっていたが、ハチマンの周りほどではなく、
リズベットの仕切りで問題なく解散させる事が出来ていた。
その間にキリトがやっていたのは、その女性の名前をきちんと呼びつつ、
これからも応援宜しくと言って、微笑むだけであった。
ちなみにユージーンは、当然ながら、既にアリシャに連行されている。
「よ~し、それじゃあヴァルハラ・ガーデンに戻るか」
「ハチマン、アスナ、頑張れ~!」
「って、ウズメとピュアが列に並んでるぞ………」
「しっ、フカとロビンも並んでるけど、まあ放っておきましょう」
「あいつらも懲りないな………」
この後、ウズメとピュアは普通に握手してもらえたが、
フカ次郎は頭に拳骨をくらい、クックロビンは笑顔で微笑まれただけであった。
「みんな、今日はお疲れ!」
ヴァルハラ・ガーデンでは、ユイの手によって料理と飲み物が準備されており、
参加出来た者達は、存分に寛ぐ事が出来ていた。
「先ず最初にアレスからドロップしたティルフィングだが………」
ハチマンはそう言って仲間達を見回した後、ユージーンをじっと見つめた。
「む?」
「これはユージーンに使ってもらおうと思う」
「………えっ?」
この戦いで、ユージーンは魔剣グラムを失っていた。
もちろん修理は可能なのだが、さすがにそのクラスとなると、
色々なアイテムを必要とする為、すぐには修理出来ない事が判明している。
「「「「「「「「異議無し!」」」」」」」」
「す、すまん、恩に切る」
「いや、お礼を言うのはこっちのほうだ。今回は助かった、ありがとな」
ハチマンはユージーンにお礼を言い、こうしてユージーンは新たな武器を手に入れた。
魔剣グラムの修理が終わったら、ユージーンは二刀流の使い手になるかもしれない。
「さて、それじゃあ今回のボス戦で入手出来たアイテムの詳細を報告する」
とりあえず事務的な作業を終わらせてしまうつもりなのだろう、
ハチマンはそう言い、アイテムの説明を始めた。
「『看破の瞳』、『拡声マイク』が二つ、『浮遊光源ユニット』、『オティヌス・ボウ』、
『収納拡張バッグ』、『発煙筒』、『結界コテージ(大)』、『アレスの槌』、
あとは回復アイテムの類とハイエンド素材がそれなりに、か。
それじゃあいくつか分かりにくいアイテムの説明をする」
ハチマンの説明だと、看破の瞳は近くに姿を隠している敵、
もしくはプレイヤーがいた時に教えてくれるものらしい。
拡声マイクは一定範囲にだけ声が大きく聞こえるが、
その範囲を超えると声が一切聞こえないという、まるで会議に使うような代物のようだ。
浮遊光源ユニットはどうやらスポットライトのような物で、
同時に何ヶ所かに光を当てる事が出来る。
「オティヌス・ボウはクロスボウタイプの弓で、
魔力を使えば撃った後の矢が増えるらしい。一人で弾幕が張れるな」
「弾幕薄いぞ、何やってんの!」
「フカ、うるさい」
「てへっ」
「これの行き先はちょっと保留だな、みんなで適当に使ってもらって、
しっくりくる奴に使ってもらう事にしよう」
そしてハチマンは、アレスの槌を取り出し、ノリに差し出した。
「えっ?」
「ノリはもうすぐ手術だろ、これは前祝いだ」
「兄貴、い、いいの………?」
「丁度他に槌の使い手もいないしな、まあほら、遠慮するなって」
「ありがとう兄貴!私、手術頑張るね!」
「おう、早く元気になるんだぞ」
同時に仲間達から頑張れよ!という声が上がり、
ハチマンはノリの頭を撫で、ノリは満面の笑みを見せた。
「みんな、ありがとう!」