ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第1128話 ケルベロスの置き土産

 戦利品についての話が終わった後、その場にはヴァルハラの幹部クラスに加え、

スリーピング・ナイツからランとユウキ、スモーキング・リーフからはリョク、

それにソニック・ドライバーのスプリンガーとラキアが残っていた。

アルン冒険者の会のファーブニルとヒルダも同席している。

要するに主なギルドの代表が集まって、今後の攻略について話をしようという事である。

一応給仕役という名目で、ウズメとピュアも残っていた。

これはどうやらハチマンに何か話があるらしいのだが、

話が終わった後でいいと遠慮した結果、こういう事になったらしい。

当然ユイとキズメルも給仕としてこの場に参加している。

 

「………という訳で、最後にアレスがこう言ったんだ。

『ケルベロスの置き土産を探せ、そして必ず処分するのだ』ってな」

「遺産じゃなく置き土産、か。多分悪い意味でって事なんだろうな」

「遺産は多分、ユミーのカドゥケウスだろうしね」

「ケルベロスとやり合った所に何か残ってるって事なのかしら」

「やはりこれは、もう一度現地に行く必要があるね」

「だよなぁ………まあ問題は、残ってるかどうかなんだが………」

 

 一同は、ううむと考え込んだ。

 

「でももしそんな物があって、誰かが拾ったってなら、話題にくらいなってそうじゃない?」

「確かになぁ」

「でもそんな話を聞かないって事は、多分まだ誰も見つけてないじゃん」

「むふぅ」

「よし、今から有志で見に行く事にしよう。

でもその前に、ウズメとピュアから話を聞いておきたいから、出発はちょっと後な。

二人とも、俺に何か話があるんだろ?」

「う、うん」

「という訳で、みんなはそれまで自由にしててくれ」

 

 そういう事で話は纏まり、ウズメとピュアの話は、どうやら他人に隠す事でも無いらしく、

二人はそのまま話し始めた。

 

「えっと、今日の戦利品に、『拡声マイク』が二つと、『浮遊光源ユニット』があったよね?

それをしばらく私達に使わせてもらえないかなって」

「それは別に構わないが、何に使うんだ?」

「えっと………ALOでもゲリラライブ?みたいな?」

「ですです、自分勝手な理由で申し訳ないんですが、

私達の知名度をちょっとでも上げておきたいな、なんて」

「「「「「「おお~!」」」」」」

 

 もちろんその頼みに反対するような者はおらず、

大企業の主として、こういう事にそれなりに関わっているスプリンガーとラキアが残り、

アイテムの詳しい使い方、有効活用方法について検証する事となった。

 

「よし、結果は後日教えてくれ。スプリンガーさん、ラキアさん、宜しくお願いしますね」

「おう、任せときな、立派に演出出来るように色々やってみるからよ」

 

 ラキアは相変わらず無言だったが、鼻息を荒くして胸を張った。

 

「よし、それじゃあ俺達は行ってきますね。

おいシノン、ついでに『オティヌス・ボウ』の検証もしてみてくれ」

「私?もう、仕方ないわね、まったくどうしてハチマンは、

いつも私に頼ってばかりいるのかしら。これはもう愛ね、うん、愛だわ」

「いや、この中で弓使いはお前しかいないだろ………」

 

 ハチマンは呆れた顔でそう言ったが、シノンは華麗にスルーである。

他の者達はそれを見て、クスクスと笑うのみであった。

 

「さて、それじゃあ行けるのは、俺、キリト、アスナ、ユキノ、シノン、リョク、ヒルダか」

「ごめんねぇ、私は明日、早いのよ。ノリちゃんの手術の事で、ちょっと京都に出張だから」

「その護衛の仕事があるんで、僕もここで失礼するよ」

「すまない、頼むわ姉さん、サトライザー」

 

 ソレイユとサトライザーはそう言ってログアウトしていった。

 

「ごめん兄貴、俺達今日は、ノリの景気付けの為に、壮行会をやりたいんだよね」

「そうなのか、もし間に合うようなら俺も後で顔くらい出すわ」

「えっ、兄貴、いいの?」

「妹分の為なんだから、それくらいどうって事ないっての、

ノリ、手術の当日は俺もずっと付き添うから、頑張るんだぞ」

「う、うん」

 

 乙女なノリは、もじもじしながら嬉しそうにそう言った。

そしてスリーピング・ナイツも落ちていき、残された者達は、ヨツンヘイムへと出発した。

 

「それじゃあハチマン、こっちだ」

 

 一同はキリトを先頭に、ヨツンヘイムの空を飛んでいく。

 

「確かキュクロプスとも同時に戦ったんだよな?」

「ああ、それなりに手強かったかな」

「これで残る敵は三柱だね………」

「ハチマンさん、残りの敵は全部空中宮殿にいるんですかね?」

「どうだろうな、だがその可能性は高いだろうな」

「腕が鳴るぜ!」

 

 一同はそうのんびりと会話していたが、アスナがふと思いついたようにこう尋ねてきた。

 

「そういえば、フェンリル、ケルベロス、アレスの遺産が無いと、

空中宮殿には入れないんだよね?」

「そうらしいな」

『我の遺産というのは、もちろん我の事だ』

 

 ハチマンのかぶる王冠の眼が妖しく光り、そこからフェンリルの声が聞こえてきた。

 

「まあそうだよな、っていうか、なぁフェンリル、

この王冠、要するにお前なんだが、普段から装備しておくのはちょっと恥ずかしいんだよ。

で、物は相談なんだが、お前って、他の形になれたりしないか?」

『問題ない、どんな姿になればいいのだ?』

「マジか!」

 

 ハチマンは喜び、どうしようかと悩み始めたが、何かに気付いたのかハッとした顔をした。

だがそれも一瞬であり、ハチマンはフェンリルにこう答えた。

 

「とりあえずブレスレット辺りになってもらえるか?」

『分かった、今変化する』

 

 フェンリルはシンプルなシルバーのブレスレットに姿を変え、

ハチマンはそれを嬉しそうに左手に付けた。

 

「ふう、これであの恥ずかしい格好から解放されたぜ」

『そう言われると、我としては若干複雑な気分になるのだが』

「悪い悪い、別に悪い意味で言ってるんじゃないから勘弁してくれ」

『分かっている、ほんの冗談だ』

「ついでに後でちょっと試して欲しい事があるから付き合ってくれ」

『ふむ、分かった、まあ目的地も近いし、また後でな』

「おう、また後で」

 

 もうキュクロプスとフェンリルと戦った広場はすぐ目の前であった。

だが広場に入る直前に、いきなりキリトが停止した。

 

「おわっ、ちょ、待った!」

「キリト、どうした?」

「参ったな、プレイヤーの集団が狩りをしてやがる………って、七つの大罪だ」

 

 見ると確かにルシパーら、幹部連の姿が見える。

そしてその後ろで指揮をとっているアスタルトの足元には何故か子犬が居り、

その愛らしさにハチマンは思わず顔を綻ばせた。

 

「何だあの子犬」

「えっ?あっ、本当だ、かわいい!」

「犬か、いつか飼いたいんだよなぁ………」

「家が出来て、引っ越したらかな?」

「そうだな、そうするか。さて………」

 

 そう言ってハチマンは問いかけるような視線を仲間達に向けた。

それを受け、キリトがこう答える。 

 

「そういえば、シグルド達のせいで、あいつらまだクエストの討伐数が、

クリアに届いてないって言ってた気がするな」

「ああそうか、でも別に今日じゃなくてもいいだろうに………」

「今日の負けがよっぽど悔しかったんじゃないですかね?」

「ああ、まあ確かに今日の七つの大罪はいいところが全然無かったよね」

「とりあえずあそこにアスモゼウスさんがいるから、コンタクトをとってみたらどうかしら」

「そうだな、そうするか」

 

 ハチマンはそう言ってコンソールを開いてメッセージを送ろうとしたのだが、

すぐにそれを閉じた。

 

「どうしたの?」

「いや、多分休憩なんだろうが、あいつがこっちに歩いてきてる」

 

 その言葉通り、アスモゼウスが無駄に色気を振りまきながら、

こちらに歩いてきているのが見えた。

 

「それは丁度いいじゃんね」

「よし、それじゃあこれを………」

 

 ハチマンは、足元に落ちていた小石を広い、アスモゼウス目掛けて軽く放った。

その小石は見事な放物線を描き、アスモゼウスの頭に命中した。

 

 コツン。

 

「痛っ………え、何!?」

 

 アスモゼウスはそう言ってきょろきょろし、手招きをしているハチマンの姿を見つけた。

 

「あっ………」

 

 そのままアスモゼウスはそろりそろりとハチマンの方に移動し、

顔だけは狩りをしている仲間達の方を向いたまま、

休憩してる風を装って、一同が隠れている通路の横の岩の上に腰掛けた。

 

「忙しいだろうに、悪いな」

「それは別にいいけど………何?何でこんなところに来たの?」

「それはこっちのセリフでもあるんだがな」

「う………私だって、ボス部屋でリタイアを選んだ後、直ぐに落ちるつもりだったのよ。

でもよっぽど悔しかったんでしょうね、

ルシパーがもう少し狩りに付き合ってくれって言って、私達に頭を下げたのよ。

あのルシパーがよ?」

「ほう、それは珍しい………のか?」

「まあ軽く頭を下げる程度ならたまにはやるけど、本当に深々と頭を下げてきたのよ。

それにびっくりしちゃって、みんなルシパーに付きあう事にしたって訳なの」

「へぇ」

「で、そっちは?」

 

 その問いに、ハチマンはアレス戦であった事を話した。

 

「へぇ、私がいなくなった後、そんな事があったんだ。

あ~、そっかそっか、それがここなんだね」

「まあそういう事だ。で、質問だ。

今日に限らず、ここ最近で、それっぽいアイテムを誰かが拾ったりしてなかったか?」

「何か………何か………」

 

 アスモゼウスはしばらく考え込んでいたが、やがて首を振った。

 

「ううん、そういう報告は何も上がってなかったよ」

「そうか、それじゃあ人がいなくなったら探してみるわ。

あと、アスタルト………だったか?あいつの足元のあの子犬は何なんだ?」

「あ、あれ?最近テイムしたらしいよ、

でも戦闘の役にはまったく立たないんだよね、あの子犬」

「そうなのか?」

「うん、だからまあ、うちのアイドルみたいなものなのかな」

「ほう、いいなそれ、初めて七つの大罪に負けたような気分だわ」

「あはははは、とりあえず私達ももうすぐ目標達成だから、もうちょっと待ってて!」

 

 そう言ってアスモゼウスが戦場に戻った後、

先ほどの言葉通り、十分ほどで目標が達成出来たのか、七つの大罪は歓声を上げ、

街に戻って祝杯を挙げようなどと話しながらこの場を去っていった。

 

「よし、それじゃあ辺りを調べるか」

 

 こうして広場の捜索が始まった。だがいくら探しても、そこには何も無かったのである。


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