ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第1129話 スリュムとミョルニル

「何も見つからないね………」

「だな………」

「そもそもケルベロスの置き土産って何なんだろ」

「フェンリルは何か知らないか?」

『すまぬ、置き土産とやらが何なのかは分からないが、

ケルベロスらしき気配はまったく感じられないから、

おそらく本体との繋がりが全く無い何かなのだろう』

「まあさすがにネタバレ仕様にはなってないよな………」

 

 かつてケルベロスの居場所を完璧に察知していたフェンリルがそう言うのだ、

おそらくここには何も無いのだろう。

 

「とりあえず近場を少し探索してみるか」

「そうだね、ちょっとふらふらしてみよっか」

「今の戦力なら、何が出てきても負ける事は無いだろうしな」

 

 このメンバーだとハチマンが擬似的にタンクをする事になるが、

おそらくボスクラスの敵が相手でも、余裕で勝ててしまうだろう。

事実、先ほどから出てくる敵モンスターは、全て瞬殺されている。

 

「シノン、それ、調子はどうだ?」

「悪くないわね、敵を面制圧するなら最高ね」

「私のテンタクル・ライフルにちょっと似てるね」

 

 リョクが興味深げにそう言い、ハチマンは頷いた。

 

「ああ、確かにな。まあとりあえず、それはシノンがそのまま持っててくれ、

他に使える奴もいないしな」

「あら、それならこれ、ロビンに持たせるといいんじゃないかしら」

「ロビンに?ああそうか、あいつなら使いこなせそうだ」

 

 クックロビンはGGOでは、色々な武器を使い分けて戦っている。

確かにあいつならこれを上手く使えるかもしれない。

ハチマンはそう思い、シノンのその意見に同意した。

 

「いいかもしれないな、よし、そうするか」

「うん、それがいいと思う」

「しかし何も見つからないな………」

 

 ここまでの探索は、全て空振りに終わっていた。

 

「ケルベロスを倒してからそれなりに時間が経っちまってるしな………」

「くそっ、厄介な事にならなければいいんだがな」

「ハチマン君、これからどうしよっか」

「ハチマン、それなら私、空中宮殿とかいうのを見てみたいじゃん」

「ん、リョクはまだ見た事が無いんだったか?」

「うん」

「それなら散歩がてら、ちょっと見にいってみるか」

 

 一同はそのままヨツンヘイムの奥へと向かい、

初めて宮中宮殿を目にしたリョクは、大興奮状態となった。

 

「わっ、わっ、何あれ、ちょっと記憶の葉に似てるじゃん!」

「いや、まったく意味が分からないからな」

「ハチマン、早く行こう!」

「俺の突っ込みはスルーですね、分かります」

 

 そんな二人を微笑ましく見ていた一同であったが、

空中宮殿の入り口に着いた直後にその表情は一変した。

 

『アレスの遺産が確認されました、入り口が解放されます』

 

「………へ?」

「アレスの遺産って、ティルフィングじゃないの?」

「何だ?何かあったか?」

「もしかして………これ?」

 

 シノンがオティヌス・ボウを取り出し、一同は顔を見合わせた。

 

「もしくはこれか」

 

 続けてハチマンが、看破の瞳を取り出す。

 

「っていうか、三つの遺産が揃って初めて扉が開くんじゃないのかよ!」

「まさか単独とはね………」

「って事は、扉は三つあったりするのかな?」

 

 その時ユキノがハッとした顔をした。

 

「これってもしかして、この扉が開きっぱなしになってしまうのかしら?」

「それはまずいな、ちょっと中に入ってみよう」

 

 一同はそのまま中に入ったが、扉が閉まる気配はまったく無い。

 

「………仕方ない、とりあえず行ける所まで行ってみるか」

 

 一同はそのまま奥へと足を踏み入れた。

しばらく進むとそこには、左右がガラス張りになった階段が上へと続いており、

景色が綺麗な他は、しばらく何も無かった。

 

「ひたすら上へ、か」

「さて、何が出てくるやら」

「ハチマンさん、どうやらあそこが終点みたいですね」

 

 ヒルダがそう言って上を指差した。確かに階段はそこで終わっている。

 

「どれ………」

 

 何かあるのかと慎重に歩を進めた一同であったが、

そこからは洞窟のようになっており、特に何も無かった。

 

「結構奥まで行けるんだな」

「まあここまで何も無いけどね」

「いや、あれを見てみろ」

 

 見ると通路の奥に、鉄格子のような物がある。

そこまでは一本道であり、道はその鉄格子を潜るように続いていた。

 

「何か牢屋に入るみたいで嫌だな………」

「まあでも道はここしか無いんだし、行くしかないね」

「だな………」

 

 鉄格子を潜ると、そこは天井から何本かのツタが垂れ下がっていた。

よく見るとそのツタは、地面からピン!と張られているように見える。

 

「ハチマン、あれって………」

「ん、なるほどな、みんな、ちょっとそこで見ててくれ」

 

 ハチマンはそう言って前に出ると、

アイテムストレージからいかにも安物に見える剣を取り出し、

その剣でコンコンと地面を叩いた。

その瞬間に地面から輪になった縄が現れ、その剣を縛るかのように跳ね上がり、

ハチマンが剣を離すと、その剣は上へと引っ張り上げられ、天井からだらんとぶら下った。

 

「もしかして罠?」

「だな、よくある動物を捕獲する為の罠みたいな奴だ」

「一定の場所を踏むと足が縛られて木とかにぶら下げられちゃう奴?」

「正解だ、ここまであからさまだと引っかかる奴はいないだろうが、

まあみんな気をつけてな」

 

 ハチマンに注意され、一同はその罠ゾーンを避けるように回りこんだ。

そして反対側の鉄格子を抜けると、そこは広場となっており、

黄金のハンマーを持つ、かなり大きな巨人がそこに鎮座していた。

その向こうには、空中宮殿の入り口と同じデザインの扉があり、

おそらくその先に行くにはフェンリルかケルベロスの遺産が必要になるのだと思われた。

 

「扉があるな」

「だねぇ」

「次はどっちを要求されるんだろうな」

「というか………あれってまさかギガンテスって奴?」

 

 シノンはそう言って目を細めたが、それにはユキノが疑問を呈した。

 

「何となく違う気がするわ、あの巨人の姿は北欧風だもの」

 

 ユキノのその意見に、キリトが同意した。

 

「確かにヘカトンケイルとまったく違う系統な気がするかな」

「それじゃあいいとこ中ボスか、よし、やるか」

「オーケー」

「やってやるじゃん!」

「了解」

 

 そのハチマンの言葉で、仲間達は戦闘体勢をとった。

 

「タンクがいないから、俺とキリトとアスナで適当にやっとくか。

アスナはとりあえず下がっててな」

「うん」

「だ、大丈夫ですか?」

 

 知らないが故に、三人を心配するヒルダに、ハチマンは事も無げに頷いた。

 

「大丈夫だ、よくやってたからな」

「そういう事、それじゃあハチマン、行こうぜ」

「おう」

 

 二人はそう言って前に出ると、巨人に向け、のんびりと歩いていった。

 

「ア、アスナさん」

 

 尚も心配そうなヒルダはアスナにそう声をかけたが、アスナの反応も二人と大差無かった。

 

「大丈夫大丈夫、まあ任せてね」

 

 アスナはそう答え、暁姫を抜きはしたが、まだのんびりとその場に留まっている。

それで安心した訳ではないが、ヒルダは緊張しつつも自分の仕事を果たそうと杖を構えた。

そして遂に二人が接敵し、その巨人がギロリと目を開いた。

 

『ふむ、邪神の走狗か』

「その言い方だと、あんたは敵って事でいいんだよな?」

『その通り、我が名はスリュム、この道を通りたくば、我にフレイヤを差し出せ!』

「スリュム………?」

 

 今回のイベントに備えて北欧神話について学んでいたハチマンは、

その名前を持つ巨人の背景を良く知っていた。

 

「おいキリト、あいつが持ってるの、あれ、ミョルニルだぞ」

「え、マジで?超有名な武器じゃないかよ」

「確かあいつ、雷神トールから盗んだミョルニルと引き換えに、

フレイヤをよこせって要求したんだぜ」

「なるほど、ただのエロ親父か」

 

 その言葉にスリュムは猛抗議した。

 

『ふ、ふざけるな!我はあくまで純粋な愛をだな………』

「ああはいはい、そういうのはいいんで」

 

 そう言ってハチマンがスリュムに襲いかかる。

同時にキリトもスリュムに攻撃を開始し、こうして戦闘が始まった。

 

『このミョルニルの威力を思い知れ!』

「キリト、後退」

「あいよ」

 

 二人は即座に後方に下がり、その二人のいた位置に、雷が走った。

 

「まともにくらうとやばそうだよな」

「二人同時に前に出るのはやめとくか」

 

 そう言って最初にハチマンが後方に下がり、キリトが前に出た。

 

「アスナ、悪い、ちょっと考えたい事があるから一旦下がるわ」

「は~い!」

 

 アスナは軽い調子で前に出ると、キリトとスイッチした。

 

「キリト君、スイッチ!」

 

 キリトは返事をしなかったが、滑らかな動作で後方に下がる。

代わりに前に出たアスナは、軽やかなステップを踏みながら攻撃し、スリュムを翻弄する。

スリュムも激しく攻撃してくるが、その攻撃はアスナにかすりもしない。

まあ中ボスレベルならこんなものなのだろう。

 

「凄い………」

 

 ヒルダはその動きに見蕩れながらも、少しでも二人をフォローしようと気を張っていた。

 

「悪いヒルダ、ちょっと支えててくれ、ユキノと話がある」

「は、はい!」

 

 ヒルダの後ろでハチマンとユキノが何事か相談していたが、

戦闘に集中しているヒルダの耳にはその言葉は全く入ってこなかった。

そのまましばらく戦闘は続き、シノンとリョクが堅実に敵に攻撃を加えていた事もあり、

敵のHPはじわりじわりと減っていった。

おそらくこのままいけば、普通に戦闘に勝利出来る事だろう。

そしてやっと話が終わったのか、ハチマンとユキノがこちらに戻ってきた。

 

「ヒルダさんごめんなさい、交代しましょう」

「お願いします!」

 

 ヒルダはかなり緊張していたのか、誰も死なせなかった事にホッとした顔をした。

そしてハチマンが前に出て、キリトとスイッチした。

 

「キリト、スイッチ!」

 

 先ほどのキリトとアスナのように、二人は滑らかにスイッチする。

そして敵のHPが残り半分を切った瞬間にそれは起こった。

 

『おおおおお!ミョルニルの真の力を見よ!』

 

 スリュムはそう言ってミョルニルを天にかざし、その瞬間にスリュムのHPが全快した。

 

『我が無限の回復力を見たか!』

「無限………ねぇ、って事はパターンBだな」

 

 その直後にハチマンは、突然とんでもない指示を出した。

 

「よし、全員撤退!」

 

 ユキノ以外の者達は驚愕したが、素直にその指示に従い、

一同は即座に撤退を開始したのだった。

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