ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第113話 集結の日~その名はメビウス~

 そのサンタの口は笑った形で固定され、時々不気味な笑い声を発していた。

ハチマンの脳内でどう処理されているのかはわからないが、その目は左右別々に動いていた。

そのサンタはガニ股で、足を交互に踏みしめながら飛んでいた。

その動きのままスーッと狙った獲物に近付くので、狙われた者は遠近感が掴めず、

簡単に接近を許してしまっているようだった。

そんな感じでサラマンダーは一人、また一人とたて続けに撃墜されていった。

サラマンダー軍はその不気味さに大混乱に陥り、まったく統制がとれていない状態になった。

一度こうなると、ユージーンが指揮をしなくてはどうしようもないのだが、

そのユージーンはキリトと睨み合っていたため動けなかった。

 

「そのサイズの大剣で二刀流とはな、どうやらハッタリじゃ無さそうだな」

「俺に合う重さの剣が、このサイズしか無かったんでね」

「今まで会った二刀流の使い手は、ただ武器を二本持っているだけの奴ばかりだった。

お前はどうなんだ?俺をちゃんと楽しませてくれるのか?」

「あんたの期待に答えるためにも、全力でいかせてもらうさ」

 

 そして呼吸を合わせたかのように、唐突に二人の戦いが始まった。

まずユージーンが、キリトの首を横なぎにしようとした。

キリトは剣を立ててそれを防ごうとしたが、魔剣グラムは攻撃の際に、敵の剣を透過する。

ユージーンの攻撃は、キリトが立てた剣をそのまま透過し、そのままキリトの首に迫った。

 

「もらった!」

 

 ユージーンはそう叫んだが、既にキリトの首はそこには存在しなかった。

キリトは剣の位置は変えないまま下に飛んでおり、

次の瞬間もう一本の剣がユージーンの胴に迫った。

だがユージーンもそれを読んでいたのか、すぐに後方へと飛んでいた。

 

「まずは軽い挨拶といったところか。実に面白いな」

「あんたも中々やるじゃないか。今のは絶対ヒットしたと思ったんだがな」

 

 キリトはそう言うと、今度は自ら攻撃を仕掛けた。

ユージーンはキリトの二刀の攻撃をさばきながら、隙を見て反撃に転じてきた。

それをキリトは避けて攻撃する、そしてまた避ける。

受けるユージーンと避けるキリトの戦いは、どんどん激しさを増していった。

 

 

 

 一方その頃ハチマンは、好き放題に敵を蹂躪していた。

既にサラマンダー軍は、ハチマンの手によって七割近くまで数を減らされていた。

だがそのハチマンにも、ついに限界が訪れようとしていた。

それを最初に察知したのは、ハチマンの状態をモニターし続けていたユイだった。

ユイはハチマンの残りMPを把握した上で、残りの変身していられる時間を計算すると、

ハチマンの下を離れてユキノの下へと飛んでいった。

 

「ユキノさん、パパがあの姿でいられるのは、あと一分が限界です。

多分元の姿に戻った瞬間に一瞬意識が混濁して、隙が出来てしまうと思います。

そのタイミングで、パパのフォローをお願いします」

「わかったわ。みんな、ハチマン君の下に向かう準備をして!リミットは一分よ!」

 

 ユキノ達はそのままハチマンの下へと向かおうとしたが、そこで思わぬ邪魔が入った。

目端のきく、地上に避難していたサラマンダーのパーティが、

このタイミングでユキノ達に攻撃を仕掛けてきたのだった。

それは偶然とはいえ賞賛されるべきタイミングであった。

そして時間は無情にも過ぎていき、ハチマンの変身が解け、

一瞬意識の混濁したハチマンは、そのまま落下を始めた。

 

「お兄ちゃん!」

「コマチさん、ハチマン君の所に行ってちょうだい!」

「ここは私達に任せて!」

「コマチちゃん、先輩をお願い!」

「はいっ」

 

 パーティの中で一番すばしっこいコマチが、

単独で戦闘から抜け出し、ハチマンの下へと向かった。

だが悪い事は続くものだ。ハチマンが元の姿に戻った事で、

落ち着きを取り戻しつつあった何人かの敵が、

目の前で落下していくハチマンに向けて攻撃魔法を放った。

コマチの目の前で、今まさにハチマンは、魔法攻撃を一身に受けようとしていた。

 

「お兄ちゃん!」

 

 コマチは泣きそうになりながらも、諦めずに全力で飛び続けた。

そんなコマチを嘲笑うように、魔法はハチマンに全弾命中した……ように見えた。

実際当たったのだが、それは光輝く防御壁に全て防がれていた。

 

「これは……防御魔法?しかもかなり高位の……」

 

 コマチはわけがわからなかったが、そのまま飛び続けてハチマンをキャッチし、

そのまま後方へと一気に後退した。

その目の前を、いつの間に現れたのか、見た事もないプレイヤーが三人通り過ぎていった。

その三人は、ノーム、ケットシー、そして……サラマンダーだった。

 

「何だお前ら!」

「こんなところに何でノームが?」

「お前、サラマンダーじゃないか!この裏切り者め!」

「んなもん知るか!俺はただ、ダチを助けにきただけだ!」

「まあそういう事だ。仲間のピンチを見過ごすわけにはいかない」

「ハチマンさんは私達が守ります!」

 

 その三人組はそう叫ぶと、そのままサラマンダー軍に襲い掛かっていった。

三人は恐ろしい強さを見せ、十分にハチマンの抜けた穴を埋めていた。

一方コマチは、ハチマンを確保した後地上に降り、ハチマンの頬を叩いていた。

 

「お兄ちゃん、起きて!朝だよ!」

「ん……すまんコマチ、一瞬意識が飛んでたみたいだ。助けてくれたのか?ありがとな」

「ううん、お兄ちゃんを助けたのは私じゃなくて、多分知らない人なの!」

「知らない人?誰だ?」

「あなたを助けたのは、私だよ」

 

 突然上から声が聞こえ、一人のウンディーネの少女が二人の横に着地した。

 

「あー、どこの誰かは知りませんが、ありがとうございました。えーと、俺はハチマンです」

「私はコマチです!兄を助けてくれて、本当にありがとうございます!」

「私の名はメビウス。危なかったね、間に合って良かったよ……」

 

 そう言ったメビウスは何故か泣いていた。

ハチマンはそれを見て焦り、メビウスに事情を尋ねようとした。

 

「あの、その、どうして泣いているんですか?メビウスさん」

「うん、やっと……君にやっと会えたからだよ」

 

 メビウスはそう言うと、ハチマンに抱きついた。

今後女性からの接触は全てガードするつもりだったハチマンも、

メビウスのただならぬ様子に、黙って受け止める事しか出来なかった。

ハチマンはコマチの顔を見たが、コマチも首をひねるばかりだった。

そこに、首尾よく敵パーティを撃破したユキノ達が近付いてきたが、

この光景を見てギョッとした。

 

「ハチマン君、一体何がどうなっているの?この女性は誰なのかしら?」

「いや、それがな……この人が俺を助けてくれたんだが、

どうやらこの人、俺の事知ってるみたいなんだよな」

「えっ?それはリアルでのあなたを知っているという事かしら」

「ああ……」

 

 リーファ以外の三人は、それを聞いて目を丸くしていた。

 

「どうやら何か事情があるみたいだし、私はサクヤ達の所に行ってるね」

「ありがとうリーファさん」

 

 リーファは何か訳有りなのだろうと思ったのか、気を遣い、サクヤ達の下へ飛んでいった。

ハチマンも気を取り直し、改めてメビウスに尋ねた。

 

「さて、ここにいるのは全員俺のリアル知り合いだけになりました。

なので今は気兼ねなく話が出来ますよ。あなたは一体誰なんですか?」

 

 その言葉で少しは落ち着いたのだろう、メビウスは泣くのをやめ、

全員の顔を見ながらこう言った。

 

「今ならここには知ってる人しかいないから、呼び方は昔通りでいいね。

そっちは雪ノ下さんに由比ヶ浜さん、一色さんに、小町ちゃんかな。

みんな久しぶり!そして比企谷君、お帰り!私今海外に留学してるから、

会いに行けなくて本当にごめんね。本当は電話すれば良かったんだけど、

やっぱり直接会ってお帰りって言いたかったの」

「海外に留学ですって?もしかしてあなたは……」

「心当たりがあるのか?」

「ええ、でもその人がALOをやってるなんて話は聞いた事が……でもまさか……」

「そのまさかだよ。私はめぐり、城廻めぐり!みんな、久しぶり!」

「城廻先輩!?」

「比企谷君、私すごく心配してたんだよ。生きて帰ってきてくれて、本当に良かったよ……」

 

 そう言うとめぐりはハチマンを抱く手に力を込め、再び泣き始めた。

ハチマンは困って他の者を見たが、四人は頷きながら、口々に言った。

 

「こういう時くらい、男らしさを見せなさい」

「ヒッキー、ちゃんとするんだよ!」

「お兄ちゃん、いつまでも女性を泣かせてちゃだめだよ!」

「そうですよ先輩!ここはバシっと決めて下さい!」

「お、おう」

 

 ハチマンはめぐりの頭を優しくなでながら言った。

 

「もうどこにも行きませんから、泣くのをやめて下さい。なんとか無事に帰って来れました。

もう俺は大丈夫ですから、安心して下さい、城廻先輩」

 

 それを聞いためぐりは、涙をぬぐいながら、ハチマンに聞いた。

 

「本当に?」

「はい」

「本当の本当に?」

「はい、約束します」

「分かった。その言葉を信じるよ!」

 

 そう言ってめぐりは、本当に嬉しそうにハチマンに微笑んだのだった。


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