ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第1132話 ミョルニル

『遂に本来の姿に戻る事が出来たわ、みんな、ありがとう』

 

 フレイヤは軽い感じでそう言ったが、一同は背筋がピンと伸びるのを感じた。

これが神のオーラというものなのだろうか。

レイヤモードから、口調は逆にフランクなものに戻っていたが、

それでもそこから感じられるプレッシャーはレイヤの比ではない。

 

『ところで報酬は何かもらったの?』

「あっ、報酬………みんな、何かドロップしたか?」

 

 だが残念ながら、誰にも何もアイテムはドロップしておらず、

ハチマンはその事をフレイヤに伝えた。

 

「ええっ!?トールの奴、何やってんのよもう!」

 

 フレイヤは怒りのこもった表情でそう言うと、何か呪文のような物を唱え始めた。

その瞬間に、フレイヤの目の前に、もやもやした闇のような物が現れ、

フレイヤはそこに手を突っ込み、何かを取り出した。

 

「そ、それは………」

「ミョルニル!?」

 

 それは確かについ先ほどトールの手に戻ったミョルニルであった。

 

『それじゃあはい、これ、あげるね』

「あ、ありがとうございます」

 

 ハチマンはその場に跪き、ミョルニルを恭しく両手で受け取った。

 

『ま、待てい!フレイヤ、いきなり何をするのだ!』

 

 その時、闇のもやの中からトールが顔を出したが、

フレイヤは即座にトールの顔に裏拳をかまし、

トールが衝撃でもやの中に引っ込んだ瞬間にそれを消した。

 

『さて、これで良しっと』

「それでいいの!?」

「これってシナリオのうちなんだよな?」

「トールと敵対とか嫌すぎる」

『気にしないでいいわよ、もしそうなったら私があいつを折檻するから』

 

 そんなトールにとってご褒美に違いない光景を想像し、ハチマンはぶんぶんと頭を振った。

 

「まあそうなったらなったで今度はトール戦が楽しめるからいいだろ」

 

 ハチマンは事もなげにそう言い、フレイヤは目を輝かせた。

 

『うんうん、男の子はやっぱりそうじゃないとね!』

 

 そのままフレイヤは、ハチマンの腕を自らの胸に埋もれさせた。

アスナは複雑な表情でそれを眺めているが、空気を読んで、何も言ったりはしない。

 

「あ、あの、フレイヤ様、俺達そろそろ奥に行きたいんですが」

『奥?そっちにはガイアと、それを守るギガンテスとヘカトンケイルがいるだけだよ?』

「うげ、全員同時に戦闘ですか」

『まあ私も一緒に戦ってあげるから、何とかなるでしょ。

もっとも今は戦力が全然足りないみたいだから、一度出直した方がいいかなぁ?」

「そうですね、戦力は何とかします、任せて下さい。

あとフレイヤ様、敵側についたプレイヤー………妖精達はどうなるんですか?」

 

 ハチマンは、邪神サイドのシナリオの事も気になっていたのか、フレイヤにそう尋ねた。

 

『うちの主神のところに誘導されるはずだよ』

「ああ、そっちのラスボスはオーディン様でしたか」

『でもそうなったらちょっとまずいかも?

そっちにはロキとトールが守りについてるけど、ミョルニルを取り上げちゃったから、

もしかしたら負ける可能性もあるわね』

「マジですか………」

 

 ハチマンは顔を青くし、ミョルニルをフレイヤに差し出したが、

フレイヤはそれを受け取ろうとしない。

 

『大丈夫大丈夫、それ、ヘパイストス君に頼んで御魂を分けてもらえば増えるから』

「「「「「「「「えええええ?」」」」」」」」

 

 そのまさかの説明に、一同は驚愕した。

 

『まあ今回は特別だから、他の武器で同じ事は出来ないからね?

あと複製したミョルニルの名前は変えてね、ミョルニルは同時に二つは存在出来ないからさ。

という訳で、早速ヘパイストス君の所に行こう!』

「あっ、はい」

 

 場は完全にフレイヤのペースである。

このまま先に進めば他のプレイヤーが奥に行けるようになるというリスクもある為、

ハチマン達はそのまま引き返し、アインクラッドにいるヘパイストスの所に向かう事にした。

フレイヤはそのままハチマンの隣にいたが、ふと顔を上げると、アスナに声をかけた。

 

『そこの妖精王、あなた、ハチマンの伴侶だよね?』

 

 その、伴侶、という言葉はアスナの脳内をぐるぐると回った。

 

「は、はい!私、伴侶です!」

 

 アスナは力いっぱいそう返事をし、仲間達は苦笑した。

 

『それじゃあ私はこっちをもらうから、あなたはあっち側を歩くといいよ』

「あっ、はい!」

 

 二人に挟まれる格好になったハチマンは、何だかなと思いながら、仲間達に指示を出した。

 

「………よしみんな、それじゃあ今日は戻るとしよう」

 

 そして歩き出した後、キリトが前からハチマンに質問してきた。

 

「なぁハチマン、ロキと何を話したんだ?」

「ああ、その辺りの説明がまだだったな、それじゃあ………」

 

 そのままハチマンは、今回の戦闘開始前の経緯について話す事にした。

 

「みんなも疑問に思った通り、ブリシンガメンを渡していない段階で、

レイヤさんがフレイヤ様になる事はありえない。

それに戦闘前に、あのフレイヤ様っぽいのが、妾のミョルニルを返せ!って叫んだよな?」

『うんうん、ミョルニルは別に私のじゃないからね』

 

 フレイヤが横からそう相槌をうつ。

 

「………まあそういう事だ、なので俺達は、

あのフレイヤ様っぽいのは本物のフレイヤ様ではないと確信した。

では誰か、もちろんミョルニルの所有権を主張するとなれば一人しかいない。トールだ」

「北欧神話に同じエピソードがあるのよね」

「で、俺達は次に、イコルについて考えた。

そもそもフレイヤ様に化けたトールと一緒に、侍女に扮したロキが、ミュルニルを取り返す。

ってのが神話に書かれている出来事でな、俺達は、イコル=ロキだと結論付けたんだ」

「へぇ、そんな話なんだ?」

「なので俺は、ロキを神話通り、侍女にしてしまおうと考えた」

「だからロキの所に行ったんだね」

「ああ、で、その時のやりとりはこんな感じだった」

 

 ハチマンはそう言って、少し前の出来事を頭に思い描いた。

 

 

 

「イコルさん、ちょっといいですか?」

『うん?何だい?』

「あなたはロキ様ですよね?」

 

 いきなりハチマンにそう指摘されたイコルは、感心したような顔をした。

 

『へぇ、よく勉強しているみたいだね、そうだ、僕はロキさ』

「あの、トール様とロキ様は、ミョルニルを取り返しに来たんだと思いますが………」

『あれがトールだという事も分かってるのか、凄いね!』

「あ、ありがとうございます。

で、あのスリュムって奴、話がまったく通じないじゃないですか?」

『そうだねぇ、困ったもんだ』

「なので俺達、あいつを背後から思いっきりどついてやろうと思うんですよ」

 

 その言葉にロキは思わず噴き出した。

 

『何が、なので、なのかは分からないが、それは楽しそうだ』

「で、ロキ様に、敵の注意を引いてもらえたらな、なんて思いまして」

『ほうほう、神サイドの話し合いにはこれ以上干渉はしないつもりだったけど、

今回は妖精たる君達の頼みだ、そういう事なら協力させてもらおうじゃないか。

で、僕はどうすればいい?』

「ええとですね………」

 

 そしてハチマンはロキに、トール=フレイヤに負けないくらい、

美しさを備えた侍女に変身してもらい、

あの好色なスリュムの視線を釘付けにしてもらえないかとロキに頼んだ。

このロキのAIは、当然神話の流れも知っていたらしく、その頼みを快諾した。

 

『オーケーオーケー、それじゃあその手でいこうか』

「後はそうですね、奴が死ぬ寸前に、『男に欲情しちゃって、ねぇ、今どんな気持ち?』

とか言ってやれば、二重に屈辱を与えられると思います」

 

 ハチマンにそう言われ、ロキはニヤニヤが止まらなくなった。

 

『いいね君、気に入った、実に面白いよ、妖精王君』

「ありがとうございます」

『それじゃあ早速行くよ、えいっ!』

 

 ロキはそのまま美しい侍女の姿に変化し、

スリュムの前に出て、女性らしさをアピールした後、トールの耳元でこう囁いた。

 

『トール、トール、妖精達が仕掛けてくれるそうだよ。

ほら、思いっきりスリュムの注意を引いて、その目を君に釘付けにしておやりよ』

『む、分かった、フレイヤには悪いが、ひと肌脱ぐとしよう』

 

 そしてトールはその言葉通り、本当にひと肌脱ぎ、

スリュムの目が釘付けになった瞬間にキリト達が攻撃を行ったのである。

ただ一つ残念だった事は、ロキがスリュムに『ねぇ、今どんな気持ち?』

と言う暇が無いままスリュムが倒されてしまった事だけである。

 

 

 

「ロキって案外話せるんだな」

「このままリーダーの事を覚えていてくれたら、

次のイベントの時とかに助けてもらえるかも?」

「ははっ、それなら楽でいいな、まあそんな事は無いだろうけどな」

『ん?私達、君達の事はずっと覚えてるよ?』

 

 その会話を聞いていたフレイヤが横からそう言い、ハチマンは目を見開いた。

 

「そうなんですか?」

『ええ、私達はいつもあなた達を見守っている。それを忘れないで』

「ありがとうございます」

 

 ハチマンのみならず、他の者達もその言葉にじんとした。

ちょっと性的にだらしなくはあるが、さすがは美の女神である。そのカリスマ性は抜群だ。

 

「そういえばハチマン君、ミョルニルはどうしようかしら」

「そうだな、うちのメンバーで、まだ武器の強化が終わってないのは………」

 

 ハチマンはそう言いながら、この場にいる者達を見回し、イロハをじっと見つめた。

 

「えっ、私ですか?でも先輩、私、敵は殴りませんよ?」

「フレイヤ様、ミョルニルって、雷の力が込められてますよね?」

『うん、そうだね』

「ならこれを魔法杖に改造してもらってイロハが持てばいい。

そうすればいずれ、姉さんを超える雷魔法の使い手になれるかもしれない」

 

 ハチマンはそう言って、ミョルニルをイロハに差し出した。

 

「あ、それは無理です、私、あんな複雑な詠唱は覚えられないんで」

 

 ハチマンのその言葉を、イロハはバッサリと否定した。

だがハチマンはミョルニルを引っ込めず、

イロハはもじもじしながらも、ミョルニルを受け取った。

 

「あ、ありがとうございます、精進しますね、先輩!」

 

 こうして道中の話は終わり、アルンに着いた後、

ハチマン、イロハ、それにフレイヤの三人だけが、

アインクラッドにいるヘパイストスの所を訪れる事となったのだった。

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