ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第1134話 ランキングの行方

 こうしてフレイヤがヴァルハラ・ガーデンに滞在する事が決まったが、

頭の上にNPCマークがついており、あからさまに女神然としているフレイヤが、

ヴァルハラ・ガーデンに入る姿を多くのプレイヤーに見られるのはまずいと思ったのか、

ハチマンはこれでもかというくらいフレイヤに頭を下げ、

一層で初心者用のフーデッドケープを購入し、装備してもらう事を承諾してもらった。

 

『仕方ないなぁ、ハチマンの頼みだから聞いてあげるんだからね』

 

 頬を赤く染め、もじもじしながらそう言うフレイヤに、イロハが突っ込んだ。

 

「あざとい………」

「お前が言うな!」

 

 当然ハチマンから突っ込みの二の矢が飛んでくる。

 

「え~?別に私はあざとくなんかないですよぉ?」

 

 頬に人差し指を添えながら、小首を傾げてそう言うイロハに、三の矢が飛んでくる。

 

「それそれ、そういうとこだぞ」

「だからそんな事………ハッ!?まさかあざとさのかけらもない私をあざと認定する事で、

こいつは俺の前でだけこんな態度をとるんだぜ風に、私を俺の物扱いするつもりですか!?

そういうのは公衆の面前で絶対言い訳出来ない状況でお願いします、ごめんなさい」

「あざとさのかけらもないって時点で信憑性の欠片もないから、

そこで聞くのをやめました、ごめんなさい」

「謝罪に謝罪を被せないで下さい!

もう、たまには私の言葉の意味をじっくり考えてくれてもいいじゃないですかぁ!」

『ハチマン、あまり女の子に恥をかかせちゃ駄目だよ?』

 

 そのフレイヤの、ガチ正論に聞こえるが実はハーレムを助長するような発言に、

ハチマンは思わず謝りそうになり、必死で自制した。

こういう時に便利なのが、ハチマン得意の愛想笑いである。

 

「ははっ」

「あ~!フレイヤ様、先輩ってば、いつもこうやって誤魔化すんですよ!」

『まったくハチマンは、もっと沢山の女の子を受け入れて、幸せにしてあげないと駄目だよ?

例えば私とかイロハとか、アスナ、ユキノ、セラフィム、シノン、フカ次郎に、

リオン、クックロビン、レヴィ、ユイユイ、ユミー、ウズメ、ピュア?』

「………ははっ」

『あとはそう、ラン、ユウキ、ノリ、シウネー、レン、シャーリー、メビウスだね!』

「………………ははっ」

 

 ハチマンはとにかく愛想笑いを返す作戦に出たが、

フレイヤがあまりにも的確に、例えばコマチやクリシュナ、リーファらを排除してきた為、

内心ではこんな疑いを持っていた。

 

(フレイヤ様のAIって、まさか事前にアルゴとか、

姉さん辺りの意向が反映されてるんじゃないだろうな。

まあログインしてないアルゴはともかく、

ソレイユって名前が出てこないのがアリバイ作りに思えてならん。

絶対に会った事がないメビウスって名前も出てきたしな)

 

 ハチマンはそう考え、フレイヤの発言には気をつけようと心に誓った。

後になって、実はこういう事でしたぁ!と、

おかしな言質をとられる訳にはいかなかったからだ。

 

「ほらフレイヤ様、もうすぐ店に着きますよ。

おいイロハ、フレイヤ様に似合うフーデッドケープを一緒に選んでやってくれ」

『私はハチマンに選んで欲しいんだけど?』

「あっ、すみません、俺はそういうセンスは本当の本当に皆無なんで、

そういうのが得意、むしろそういうのしか得意じゃないイロハで今回は我慢して下さい」

「私だって、お菓子作りとか他に得意な事はありますってば!」

 

 そう言いつつも、女神に似合う地味な服、というお題を出された事に燃えたのか、

イロハは積極的にフレイヤを店内に誘い、二人は買い物を始めた。

 

「ふぅ………はぁ」

 

 フレイヤから解放されたハチマンは、やっと一息つけたとばかりに深く深呼吸をした。

 

「おっと、俺も顔を隠しておかないとか」

 

 ここでおかしな囲まれ方をするのは避けたい為、

ハチマンはそう呟きつつ自身もフーデッドケープを纏った。

と、その前を、多くのプレイヤーが走っていく。

そのすれ違いざまに、ハチマンの耳にこんな言葉が飛び込んできた。

 

「そろそろランキングが更新されるぞ!」

「どうなったかな、早く見に行こうぜ!」

 

(ああ、もうそんな時期か)

 

 ここで言うランキングとは、当然セブンスヘヴンランキングの事である。

その更新は季節ごとに年四回となっていて、今日がその日だったようだ。

そこに無事買い物を終えた二人が合流し、激しい人の流れに気付いたのか、

ハチマンに説明するように促してきた。

 

「先輩、これ、どうなってるんですか?」

『何?お祭りでもあるの?』

「いや、これはセブンスヘヴンランキングの更新を見に行く奴らですね」

「あ~、今日でしたっけ」

『私達も見にいきましょう』

「そうですね、行ってみますか」

 

 そして三人は剣士の碑の横に設置された石版が見える位置へと移動した。

その巨大な石版の文字が、じわりと姿を変えていく。

 

 

1位 ソレイユ   2位 キリト    3位 ハチマン    4位 ユウキ

5位 アスナ    6位 ユキノ    7位 ラン      8位 サトライザー

9位 ユージーン  10位 シノン    11位 リーファ    12位 クライン

13位 ラキア    14位 セラフィム  15位 エギル     16位 フカ次郎

17位 クックロビン 18位 ルシパー   19位 リョウ     20位 レコン

 

 

「「「「「「「「うおおおおおお!」」」」」」」」

 

 その瞬間に、観客達から大歓声が上がった。ちなみにこれが前回のランキングである。

 

1位 ソレイユ   2位 キリト    3位 ハチマン    4位 ユウキ

5位 アスナ    6位 ユキノ    7位 ラン      8位 サトライザー

9位 ユージーン  10位 シノン    11位 リーファ    12位 クライン

13位 エギル    14位 リョウ    15位 セラフィム   16位 ルシパー

17位 ビービー   18位 フカ次郎   19位 サッタン    20位 サクヤ

 

「誰が消えた?」

「サッタン消えたわぁ!」

「ルシパーも二つ落ちてるな」

「リョウの姉御、落ちすぎだろ………」

「代わりに誰が入ったんだ?」

「え~と………」

「クックロビンとレコンか?」

「ラキアの上がり方がやばいな、復帰してからいきなり圏外から十三位かよ………」

 

 不動の上位陣は置いておいて、今回一番目立つのはリョウとビービーの下落である。

リョウは最近は、そこまで戦闘をしていなかった上に、

二万匹の敵打倒クエストに参加していなかった為、ここまで落ちた格好だ。

もっとも本人はこの数字の事は気にしていないようで、

むしろランキングが下がった方が、自分と楽しく戦ってくれる強者が増えると喜んでいる。

最近まったく目立っていないビービーも圏外に落ちた。

エギルは仕事の関係で、参加がまばらな為、若干落ちた格好だ。

同じくらいのログイン頻度のクラインが現状維持なのは、ムラサメを手に入れたせいである。

ランキングには入っていないが、

ユミーとイロハもカドゥケウスとミョルニルロッドを入手している為、

おそらく次のランキングでは、ルシパー、リョウ辺りをかわしてランクインすると思われる。

ちなみに今のランキングは二十一位と二十二位だ。

とにもかくにも今回のイベントで、正しい選択をした者達が上位に来たのは間違いない。

 

「「ぐわああああああああああああ!」」

 

 その時遠くから二人のプレイヤーの絶叫が聞こえた。

その聞き覚えのある声は、ルシパーとサッタンの声である。

遠い上に人が多くて姿は見えないが、まあドンマイである。

 

『ふ~ん、ハチマンの味方ばっかりだね』

「ええ、これでもうちは、最強の看板を背負ってるんで」

『最強かぁ、それ、いいわね………ねぇハチマン、ちょっと私と子作りしない?』

「ストレートすぎるだろ!」

 

 イロハはぽかんとし、ハチマンは思わず大きな声を出してしまい、

慌てて自分の口を塞いだ。幸い他のプレイヤーが大歓声を上げている為、

ハチマンに気付いた者はいないようであった………身内を除いて。

 

「ハチマン君達も来てたんだ?」

 

 そう話しかけてきたのはアスナである。

それも当然だろう、アスナがハチマンの声を聞き違える事などあり得ないからだ。

 

「お、アスナ達も来てたのか、今回は随分うちが躍進したな」

「まあ頑張ったからね、ふふっ」

「くっ、ランキングを上げられなかった………」

「まあ上はそう簡単に変わらないって」

 

 おまけでついてきたのはランとユウキ、それにユミーであった。

余り興味が無さそうに見えて、ユミーは意外とこういうのを気にするようである。

 

「くっ、届かなかったし」

「ユミーはギリギリだと思うけどな、あとイロハも」

「本当にそう思う?」

「ああ、カドゥケウスを手に入れるのがもう少し早かったら、

また違った結果になってたんじゃないか?」

「かな?うん、もっと精進するわ」

 

 ユミーはハチマンにフォローしてもらった事で機嫌を直し、

そのままの明るい顔で、イロハに質問してきた。

 

「で、イロハ、新しい武器は?」

「ここで見せるのは色々やばいんで、ヴァルハラ・ガーデンに帰ってからでいいですか?」

「へぇ、結構目立つん?」

「はい、とっても!」

「むぅ………」

 

 この後、ヴァルハラ・ガーデンに帰った一同は、

フレイヤが平然と同行してきた事に驚きつつも、それを受け入れ、

ユミーはイロハのミョルニルロッドに興奮し、

後日ハチマンにせがんでヘパイストスの所に連れていってもらい、

カドゥケウスに炎のエフェクトを付与してもらう事となった。


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