ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第1139話 もう一人の家族

 アスモゼウスは、朝からクエスト攻略に引っ張り出されて辟易していた。

 

「はぁ………私も京都、行きたかったな………」

 

 もっとも八幡の家族カテゴリーに入らない出海が京都旅行に参加出来るはずもないのだが、

少なくとも気の乗らないクエスト攻略に参加するよりは、自費ででもそちらに参加した方が、

精神衛生的にもよほど健全だったと思うのだ。

 

「まあ仕方ないかぁ、タルト君の応援もしたいしね」

 

 アスモゼウスは将来また同僚になるかもしれないアスタルトの事を考え、

彼と比べて立場が確約されている自分に若干後ろめたさを感じ、

出来るだけアスタルトに協力しようと改めて心に誓った。

 

「さて、また情報を纏めて精査しますか」

 

 他の大罪達には出来ないその仕事にアスモゼウスは積極的に取り組み、

各人に指示を出す事で、七つの大罪はラスボス戦に向けて確実に前進していったのだった。

 

 

 

「知盛さん、お疲れ様でした」

「ありがとう、まあ楓ちゃんの時よりは緊張しなかったよ」

「あの時は無理させてしまって本当にすみません」

「いやいや、こんな余裕がある方がおかしいからね、

今回は本当にいい条件が揃ってて凄く助かったよ、八幡君」

「そう言っていただけると」

 

 今回の手術は、当然なのだが完璧に成功した。

まだ美乃里は薬で眠っていた為、一同は祝福のメッセージをカードに書いて残す事にした。

 

「さて、次だ」

 

 そしてその後、一同が向かったのは、

たまたまログアウトして検査を受けているという、シウネーこと安施恩の病室であった。

 

「シウネー、いるか?」

「あっ、兄貴!それに皆さんも!

さっきノリの手術が成功したって聞きました、やりましたね!」

「ああ、無事成功して良かったよ。次はシウネーの番だな」

「はい、幸い新しい薬の効果がちゃんと出てて、数値がかなり良くなりました。

このままいけば、もうすぐ元気な体に戻れるみたいです」

「おお、やったね!」

「おめでとう、シウネー」

「ありがとうございます、こんな日が来るなんて夢みたいです」

 

 これでスリーピング・ナイツでまだ闘病生活を送っているのは残り三人、

ジュンとテッチとタルケンだけとなった。

その三人の病気についてもメリダとクロービスのおかげである程度の目処が立っており、

二年以内に治す事が出来るかもしれないという所までこぎつけている。

 

「で、ノリにも聞いたんだが、シウネーは病気が治った後、どうするつもりなんだ?」

「はい、私は医学の道に進んで、私達と同じような境遇の人達の助けになりたいと思います」

「………そうか」

 

 八幡は無意識に施恩の頭を撫でた。

奇しくも美乃里と施恩の答えが同じだった事を、微笑ましく思ったからだ。

 

「あ、兄貴、嬉しいんですけど、藍子と木綿季の視線が痛いです………」

 

 施恩にそう言われ、八幡は二人の方をじろっと睨んだ。

藍子は両手を前に出してぶんぶん首を振り、木綿季は鳴らない口笛を吹きながら顔を背けた。

 

「………お前らの頭は絶対に撫でてやんないからな」

 

 八幡はそう言いながら、見せつけるように施恩と、ついでに優里奈の頭を撫でた。

 

「そ、そんな!ひどいわ八幡!」

「うぅ………ボクは別にそういうつもりじゃ………」

 

 藍子と木綿季は落ち込んだが、これは自業自得なので仕方ない。

明日奈と詩乃は気の毒そうな目で二人を見ていたが、

自分達の方に飛び火してくるのを恐れているのか何も言おうとはしない。

そして八幡は、美乃里にしたのと同じ提案を施恩にも切り出した。

 

「えっ、いいんですか?是非お願いしたいです!」

「そうか、それじゃあそういう事で話を進めておくからな」

「はい、私もノリと一緒に頑張りますね」

「俺も出来るだけいい環境を整えられるようにするから、しっかりな」

 

 施恩はこの後、再びメディキュボイドを使用してALOにログインするようで、

八幡達はこの日のやる事を終え、とりあえず旅館に戻った。

ホテルではなく旅館を選んだのは、京都の雰囲気を堪能したかったからである。

 

「さて、これでもう安心だな、ここからは観光のターンって事で」

「食事はどうなってるの?」

「せっかくだし、俺達の部屋に全員分運んでもらう事にしたわ。

楽な格好に着替えたら集合な」

「分かった、それじゃあみんな、準備しましょっか」

 

 部屋割りは当然の事ながら、八幡と明日奈が同じ部屋であり、

優里奈と詩乃、藍子と木綿季が同じ部屋という事になっている。

部屋に戻った八幡と明日奈は、特に相手の目を憚る事なく平然と浴衣に着替え始めた。

館内は十分暖められており、特に寒さを感じないのがとても助かる。

 

「冬に浴衣ってのも中々乙なもんだな」

「暖かい部屋の中でアイスを食べるみたいな感じだね。

あ、八幡君、浴衣の帯を取ってもらっていい?」

「あいよ、ほい」

「ありがとう!」

 

 丁度その時部屋の外から詩乃の声がかかった。

 

「八幡、入るわよ」

「ほい、どうぞ」

「お邪魔します」

 

 詩乃と一緒に優里奈、藍子、木綿季も入ってくる。

お腹が減ったのか、四人は頑張って早く着替えたようだ。

対して八幡はまあ着替えを終えていたが、明日奈は思いっきり前をはだけた状態であった。

 

「あっ、みんな、早いね。待って、後は帯を締めるだけだから」

「「「「………………」」」」

 

 だが四人はそんな明日奈に対し、無言を貫いていた。

 

「あれ、みんな、どうしたの?」

「いや、明日奈のその格好………」

「あ、うん、ごめんね、ちょっともたもたしちゃって」

「いや、そういう事じゃなくて、

思いっきり八幡に裸を見られちゃってるんじゃないかなって」

「「えっ?」」

 

 八幡と明日奈はその指摘を受け、顔を見合わせた。

確かに今の明日奈は下着一枚に浴衣を羽織っただけで、八幡からは色々丸見えである。

 

「き、きゃぁ!八幡君のえっち!」

「わ、悪い」

 

 取り繕うようにそう小芝居をする二人に、四人はジト目を向けた。

 

「今更遅いわよ!」

「もう、見せつけてくれてくれるわね!」

「私、前に同じようなシーンをマンションで目撃しました!」

「ボクも同じような話を前に小町さんから聞いたかも!」

 

 八幡と明日奈は今まで何度も同じ事をやらかしている為、心当たりがありありである。

 

「ち、違うの、これは違うから!」

「はいはい、何が違うのかしら?」

「まあ当然見慣れてますよね………」

「仕方ない、ここはボクが脱ぐよ!」

「ユウはもう少し成長してからね」

「むき~!アイは一言多いから!」

 

 そんな喧騒の中、明日奈は何とか帯を締め、身だしなみを整える事に成功した。

その直後に料理が部屋に到着し、明日奈はすました顔で仲居さんにお礼を言った。

 

「ありがとうございます、とても美味しそうですね」

 

 その明日奈の変わり身の早さに一同は唖然としたが、

同時にこのくらいの強メンタルじゃないと、八幡の正妻は務まらないのだと妙に納得した。

もっとも明日奈のメンタルが強いのはあくまで後天的なものであり、

本来の明日奈は意外と繊細で、細かい事をかなり気に病む子であったのだが、

今はまったくそんな事はないのである。

 

「それじゃあ食事にしよう」

「うん、いただきます!」

「「「「「いただきます」」」」」

 

 そこから楽しい食事が始まった。

美乃里の手術が無事成功したお祝いなのだ、本人が不在なのは残念だが、

場は希望に満ちた雰囲気に包まれていた。

 

「「「「「「ごちそうさまでした」」」」」」

 

 一同が食事を終え、食器が片付けられた後は、のんびりと雑談タイムである。

 

「そういえば七つの大罪とSDSの攻略はどうなったのかな?」

「さあな、まあ正直言えば、成功して欲しいところではあるけどな」

「成功させちゃって問題ないの?」

「ああ、報酬も別みたいだし、プレイヤー同士で競うのはアレス戦くらいらしいからな」

「今回のイベント、色々と試験的な要素が強いわよね」

「だなぁ、まあ強いライバルが現れてくれればそれで文句は無いさ」

「あはははは、ボク達、ちょっと強すぎるもんね」

「何か動きがあったら連絡が来るはずだし、そしたら様子見くらいはしに行くか」

 

 今の所、誰からの連絡も無い為、まだおそらくラスボス戦は始まってないと推測される。

 

 コンコン。

 

 その時再び部屋がノックされ、八幡は鷹揚にそちらに声をかけた。

 

「は~い、どうぞ」

 

 その返事に合わせてスッと扉が開く。と、そこにいたのは萌郁であった。

 

「お、萌郁、仕事はもう終わったのか?」

「うん、明日明後日は休みにしてもらった」

「そうか、それなら明日は一緒に回れるな」

「………凄く楽しみ」

 

 その会話で一同は、萌郁もこの旅行のメンバーに入っていた事を知った。

 

「萌郁さんも参加メンバーに入ってたんだね」

「ああ、萌郁もうちの子になる予定だからな、もちろん参加だ」

「家って単位で考えると、私だけが別枠なのよね」

 

 そう言ったのは詩乃である。心を病んでいるとはいえ、詩乃はまだ親が存命である為、

八幡が今リフォームしてもらっている家に入る予定は今のところ無いのである。

他の四人、明日奈は妻ポジションだから別として、

優里奈、萌郁、藍子、木綿季は四人とも天涯孤独な為、八幡の作る家に入る事は確定だ。

 

「まあ細かい事は言いっこなしだ、学校でのお前の保護者は俺なんだからな」

「うん、お世話になってます」

 

 詩乃は珍しく丁寧な言葉でそう言うと、大きく伸びをした。

 

「夕食も消化出来たみたいだし、軽く運動したい気分ね」

「それじゃあゲームコーナーにでも行ってみる?」

「いいね、確か卓球とかビリヤードがあったよ」

「本当に?やろうやろう!」

「俺は構わないが………萌郁、夕食は?」

「済ませてきた」

「なら問題ないか、それじゃあ軽くやってみるか」

「うん」

「行こう行こう!」

 

 こうして一同は卓球をやる事となり、部屋を出た。

その際八幡は携帯を忘れてしまった為、和人からの連絡を受けるのが遅れ、

ボス戦の驚くべき結果を知るのが少し遅れる事となった。




八幡と明日奈がやらかしたのは、他にもあるかもですが、607話や702話とかです。
萌郁が八幡の買う家に入る事になったのは、1005話ですね。
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