ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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すみません、ちょっと難産でした(汗


第1141話 煽るトリックスター

 ハチマン、アスナ、シノン、ラン、ユウキの五人は、

息せききってヴァルハラ・ガーデンに駆け込むと、

そこで皆の到着を待っていたキリトと合流した。

 

「で、何があったんだ?」

「詳しい事は当事者に聞いてくれ。お~いアスモ、アスタルト、ハチマンが到着したぞ」

 

 キリトはリビングの奥に声を掛け、そこにいた二人のプレイヤーがこちらにやってきた。

 

「ハチマン、遅いわよ………」

「悪い悪い、ちょっと旅館のゲームコーナーで遊びすぎたわ」

 

 アスモゼウスは珍しく、かなり焦燥しているように見えた。

 

「あっ、その………ハチマンさん、お世話になってます」

 

 対してアスタルトは、礼儀正しくハチマンに頭を下げた。

こちらはアスモゼウスと比べて冷静さを保っており、表情も普通に見える。

 

「アスタルトか、まともに話すのは初めてだな」

「は、はい、今回はご迷惑をおかけして本当にすみません」

「いや、迷惑なんて事はないから気にしないでいい。

というか、二人がここにいる事で、うちも何かに巻きこまれたりするのか?」

 

 このハチマンの言葉、前半はアスタルトに、後半はキリトに向けて言ったものであった。

 

「どっちも今はそれどころじゃないさ、ガチでやり合ってるみたいだからな」

「それだ、二人とも、何があったのか話してみてくれ」

「うん」

「は、はい!」

 

 こうして二人はこの日のボス戦の顛末を語り始めた。

 

 

 

 アスモゼウスはこの日、集まってくる情報を纏め、

隣でその情報を分析しているアスタルトと共に、堅実に攻略を進めていった。

 

「タルト君、マモーンが現地に着いたけど、何も無かったって」

「分かりました、とりあえずその場で待機してもらって下さい」

「オーケー、伝えるわ」

「あっ、サッタンは当たりみたい、奥に進む通路があったって」

「それじゃあマモーンさんの部隊をそちらに移動で、

二チームで探索にあたってもらって下さい」

「なるほど、その為にマモーンに待機させてたのね」

 

 こうして一緒になってみて分かったのだが、アスタルトの事務処理能力はかなり高い。

アスモゼウスはおどおどしながら指揮をとるアスタルトの姿しか知らなかった為、

そういった彼の姿を意外に思いつつも、自分の負担が減るのは大歓迎だった。

そして今回は、オブザーバー扱いで、グウェンも手伝ってくれている。

これはもちろんグランゼの意向によるものだが、

ヴァルハラのスパイとなったグウェンにとっては願ってもない申し出であった。

 

「どうやら順調みたいね」

「ええ、このままだとルシパーさんの要求通り、今日中にボス戦が出来そうですね」

「正直気が進まないわ、無理に無理を重ねてるし、

私としては、もっとだらだらして過ごしたいわね」

「あはははは、それじゃあ色欲じゃなくて怠惰ですね」

「ベルフェノールとポジションを代わってもらおうかしら」

「そ、それはやめて下さい、色欲のベルフェノールさんとかちょっと気持ち悪いです………」

 

 アスタルトは心底嫌そうにそう言い、アスモゼウスはころころと笑った。

 

「さて、そろそろ最終目的地が見えてきた?」

「そうですね、多分もうすぐ………」

 

 クエストの進行具合と集まったNPCの言葉に関する情報から考えると、

もうすぐボス戦のフィールドが解放されるだろうとアスタルトは考えていた。

そしてその考え通り、すぐにルシパーから連絡が入り、

最終目的地が解放された事が確認された。

戦闘はレイド戦で行われるらしく、七つの大罪とSDSのみで事足りるらしい。

 

「やりましたね、何とか間に合いました!」

「ええ、まあそれがいい事かどうかは分からないけれど………」

 

 アスタルトはそのアスモゼウスの言葉が気になったが、

今の自分はやるべき事をやるしかないと考え、その事について尋ねる事はしなかった。

 

「それじゃあSDSと摺り合わせして、準備を始めましょうか」

「そうね、こういう事はあいつらは出来ないものね」

「それじゃあ私は必要な物資を仕入れてくるね」

「うん、グウェンちゃん、お願い」

 

 三人はそのままボス戦の準備に奔走し、夕方までに全ての準備を終える事が出来た。

もちろんグウェンの手によって、ここまでの状況は全てキリトとユキノに把握されている。

 

「グウェン、手伝いありがとうね」

「問題ない、私にとっても都合がいい」

「タルト君もお疲れ様、あとは戦闘に勝つだけだね」

「はい、必ず実績を示して移籍の弾みにしてみせます。

そのためにも最後の奉公だと思って力を尽くします」

 

 アスタルトはグウェンの派遣にあたって、本人から本当の事を教えてもらっていた。

アスタルトは驚きつつもそれを受け入れ、三人は結束してここまで事に当たってきた。

 

「よしお前ら、出撃だ」

「我らの力が決してヴァルハラに劣るものではない事を今日、示そう」

「「「「「「「「おおおおおおお!」」」」」」」」

 

 ルシパーとシグルドが音頭をとってそう宣言し、

七つの大罪とSDSのメンバー達は遂に進軍を開始した。

ヴァルハラ一強状態を好ましく思わない者は結構いるようで、

この二つのギルドに対して声援が上がる。

 

「まさか俺達にここまでの応援があるとはな」

「はっ、勝って帰ってこの期待に応えようではないか」

 

 一行は明るい顔で、アルンの奥地へと歩を進めていった。

 

 

 

 現地に着くと、とりあえずやらないといけないのが編成である。

 

「この洞窟か」

「ああ、途中まで行くと、突入するかどうか選ぶ事になる。ここで編成を済ませちまおう」

「分かった」

 

 ルシパーとシグルドは、努めて事務的に話を進めていく。

これは今後も共闘する事はあるだろうが、基本別行動である為、

そこまで相手に気を許していないからであった。

 

「今回は命中率が上がった魔砲を持ってきてある。

威力はそれなりだが前回よりも確実に当たるらしい。

なので余りの人員は、それ用の人材を用意してくれ」

「………ほう?」

 

 そして追加で伝えられたその言葉に、シグルドは目を細めた。

 

(前回それで死んだと聞いたが、あまり気にしていないようだな)

 

 シグルドはルシパーの豪胆さに少し関心し、

タンクと遠隔攻撃を使える者、二人をそこに配置する事にした。

七つの大罪側からは、アスモゼウス、アスタルトに加え、

以前と同様に、オッセーとハゲンティ、そしてグウェンがここに配置された。

偶然ながら、ヴァルハラの手の者達が纏めて配置された格好である。

 

「偶然なんだろうけど、こうも都合がいいと逆にバレてるんじゃないかって不安になるっす」

「気にしない気にしない、別にバレててももう問題ない」

 

 そのオッセーとハゲンティの言葉にアスタルトは目を見開いた。

 

「もしかして二人も………?」

「お、もしかしてタルト君も?」

「うん、この戦いで実績を示したら、それで最後かな」

「偶然っすね、うちらはリアルでスカウトされた口っすよ」

「リアルで!?」

「ハチマンの兄貴に一生付いていくつもりかな」

「そうなんだ………」

 

 そんな出会い?もあったが、とにもかくにもこの編成で攻略チームは突入する事となった。

そんな彼らを最初に出迎えたのは、遠くで腕組みするトールと、

宙をふわふわと浮いているロキである。

 

『おや、やってきたね、妖精達よ』

 

 そこでまさかのロキが一同に話しかけてきた。

 

「フン、悪いがその命、もらいうける」

『おお怖い怖い、こんなに反逆者が出るとはねぇ』

「………反逆者?」

 

 その言葉にカチンときたのか、サッタンがロキをじろっと睨んだ。

 

『だってそうだろ?この地の神である僕たちに攻撃するんだ。あ、自己紹介してなかったね、

僕の名はロキ、アースガルズでは名の通ったトリックスターさ。ちなみにあっちはトールね』

「これはまた有名どころが………」

 

 シグルドがその名乗りに対し、そう唸る。

 

『報酬もまがい物だってのにさ。まあ性能は悪くないんだけど、

そんなにエクスキャリ()ーが欲しかったのかい?変わってるね、君達』

 

 そのロキの煽りめいた言葉に一同はギョッとした。

 

「エクスキャリ()ー?聞いてねえぞ!?」

『最初のクエストで説明したはずだよ?人の話はちゃんと聞こうね?』

「何だよそれ、ふざけるな!」

『ふざけるなもなにも、ちゃんと説明してあったって聞いたけどねぇ』

 

 そう言ってロキは、どこからともなくNPCらしき者を()()()()

そのまま地面に向けて放り投げた。それは見る者が見れば分かったのだが、

最初に邪神を二万匹討伐せよと言ってきた、あのNPCであった。

 

『ほら、こいつさ』

「そいつは………」

『どうやら見覚えがあるようだね、まあそんな訳。それじゃあ相手をしようか。

もっともここで僕らを倒したとしても、しばらくすればまた復活するんだけどね』

「何っ!?」

『当たり前じゃないか、ここは僕達の本拠地だよ?

わざわざ本体で相手をする訳がないじゃないか。ここにいる僕達はただの影さ。

それでもまあそれなりに強いはずだから、まあ頑張ってね』

「ふ、ふざけるな!全軍、攻撃開始だ!」

 

 こうして七つの大罪とSDSの連合軍と、トール、ロキの戦闘は、

最初から波乱含みなまま開始される事となったのだった。


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