ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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このところお待たせしてしまって申し訳ありません(汗


第1142話 たまるストレス

 ロキの言葉に怒り狂ったプレイヤー達は、

ルシパーの戦闘開始の合図と共にロキ目掛けて突撃を開始した。

 

「畜生、馬鹿にしやがって!」

「てめえは絶対泣かせてやっからな!」

「死ね!死ね!」

「あっ、みんな!ちょっ………待っ………」

 

 アスタルトが慌てて仲間達を止めようとしたが、もちろん彼らは止まらない。

その理由は簡単である。単にアスタルトの声が小さく、仲間達の耳まで届いていないからだ。

 

「ま、まずいまずい!このままじゃ………」

 

 当然アスタルトは激しく焦ったが、この暴走めいたプレイヤー達の行動は、

まさかのまさか、思いっきりトールとロキの虚をつく事となった。

 

『な、何故アタッカーが突っ込んでくるんだ!』

『えっ?えっ?何この子達、馬鹿なの?』

 

 先日トールとロキは、ヴァルハラの戦闘を目の当たりにしており、

そこでの学習から、当然敵は整然とタンクを軸に攻撃を仕掛けてくると考えていた。

だが七つの大罪とSDSのアタッカーは、

タンクを差し置いてトール目掛けて突っ込んできた。

それが運良くはまり、プレイヤー達は先手を取る事に成功した。

 

「くらえ!」

「なめんじゃねえよ!」

「エクスキャリパーとか、ネタ武器かよ!」

「こっちは負け続きでイライラしてんだよ!」

 

 ただの八つ当たりという噂もあるが、トールはこの攻撃をまともに受けてしまい、

ロキもただ呆然と、その光景を見ている事しか出来なかった。

特にロキは、煽るだけ煽っておいてこれはいただけない。

 

『ト、トール、防御!』

『はっ………そ、そうだった、ええい貴様ら、離れろ!』

 

 トールはミョルニルを振りまわし、プレイヤー達は慌てて後方へと跳んだ。

 

「皆さん、落ち着いて下さい!もう十分です、一旦下がりましょう!」

 

 アスタルトが根性を出して、そう大声を上げる。

それで冷静さを取り戻したのか、アタッカー達がタンクの後ろまで下がる。

 

「す、すまん、つい我を忘れちまった」

 

 先頭きって突っ込んでしまったサッタンが、珍しく殊勝にアスタルトに謝った。

 

「いえ、ファインプレーです、結果オーライです、この調子でどんどんいきましょう!」

「そ、そうか?」

「はい、ナイス突撃でした!」

 

 アスタルトは士気を維持する方が重要だと判断し、サッタンにそう答えた。

それは効果覿面だったようで、サッタンは褒められて気を良くしたのか、豪快に笑う。

 

「そうかそうか、さすが俺様、わはははは!」

「それじゃあルシパーさ………あれ、どうしたんですか?」

 

 アスタルトは()()()()()ルシパーに、

攻撃部隊をまとめてもらおうと振りかえったのだが、

ルシパーは悔しそうに唇を噛みながら、しばらく無言だった。

 

「………ルシパーさん?」

「ん、お、おう、すまん、どうした?」

「いえ、あの、これから体制を立て直しますので、

ルシパーさんにはそうなった後、味方を率いて突撃してもらえたらと」

「お、おう、任せろ、あいつらに目にものを見せてやる」

「すみません、お願いします」

 

 アスタルトは再び前を向き、タンクに指示を出し始めた。

そのせいでアスタルトは気付かなかった、

ルシパーがアスタルトの背中を凄まじい目で睨んでいた事を。

これはまったくの誤解の産物であるのだが、

ルシパーは今のアスタルトの言葉を曲解してしまったのだ。

つまりどういう事かというと、要するにルシパーは、

トールとロキと同じくタンクが先に前に出ると思い、後方で待機してしまったのである。

活躍せねばと気負うあまり、とにかく戦闘を上手く進めよう、

進めようと自分に言い聞かせていたルシパーは、

ある意味正しい選択をしている為、アスタルトも当然その事については何も言わない。

そもそも最初のこの攻撃成功はあくまで偶然の産物であり、

突撃した者が別にえらい訳ではない。だがルシパーは先ほどのアスタルトの言葉で、

敵に突撃しなかった自分が責められているような気分になってしまったのだ。

サッタンが褒められたせいで、その気持ちは更に増幅されている。

 

(くそっ、文句があるなら正面から言えばいいじゃねえかよ………)

 

 そんな事を考えてしまうくらい、

ルシパーは冷静さを欠いた状態から戦闘に臨む事となった。

 

『ふぅむ、これはちょっと面白い事になってるかもしれないなぁ』

 

 そんなルシパーのおかしな様子をロキは見逃さない。

 

『それじゃあちょっと引っ掻き回してみますかね』

 

 こういう時に、自分が楽しめればそれでいいと、勝敗度外視で思ってしまう所が、

ロキのロキたる所以であろう。

 

「アスモゼウス、今日も魔砲の事は任せたぞ。上手く運用しろ」

「うん、分かってる」

 

 ルシパーは前線に出る途中でアスモゼウスにそう声を掛け、

それを見たロキは、更に目を輝かせた。

 

『へぇ、あんな物を持ってきたんだ………』

 

 ロキは敵が持ち込んだ物にも関わらず、その使い道を真剣に考え始めた。

 

『やっぱり理想は同士討ちだよね、それにはどうすればいいかぁ』

『おいこらロキ、少しは仕事をせんかい!』

『あっとごめん、今手伝うよ』

 

 その時トールからそう声がかかり、ロキは一旦後方に下がり、トールの戦闘補助を始めた。

 

『しかしこれは存外ハードだね、中々やるもんだ』

 

 敵はタンクを三人セットで運用し、スキルの回復を待って次々に交代していた。

 

『唸れ、ミョルニル!』

 

 トールはそのフォーメーションを崩そうと、ミョルニルを振るったが、

三人のタンクは上手いタイミングでスキルを使い、

一人を瀕死にしても、またすぐ次が現れる状態で戦線を維持していた。

そして下がった瀕死のタンクは、ヒーラーに集中的に回復してもらい、

スキルのリキャストタイムが無くなるまで後方で待機するという、

まるでヴァルハラがやりそうな戦法を駆使していた。

これはもちろんアスタルトの指示である。

 

『ええい、鬱陶しい!雷槌(いかづち)!」

 

 思ったより敵が頑強で、いつまでもこちらが不利な事に業を煮やしたのか、

トールがここで行動パターンを変えてきた。それによってタンクが一人落ちてしまう。

 

「タルト君、私、蘇生に行ってくるね!」

「はい、お気をつけて!」

 

 それを見たアスモゼウスが前線へと走り出し、

同時にルシパーがタンクの代わりをしようと前に出る。

 

「俺に任せろ!」

『させないよ』

 

 トールに向けて走り出そうとしたルシパーは、だがロキに止められた。

ロキから放たれた魔法が連続してルシパーの周りに着弾し、ルシパーは動く事が出来ない。

 

「くっ、邪魔するな!」

『それが僕のお仕事だからねぇ』

 

 そこからロキは、徹底してルシパーをマークし、ほとんど仕事をさせなかった。

 

「くそっ、くそっ………俺は活躍しないといけないのに………」

 

 本来のルシパーのメンタルであれば、自分がロキにマークされている事を、

ランキングが一番高いから、もしくは自分の実力が神に認められていると判断しただろう。

だが今のルシパーは、とにかく俺が俺が状態である。

先ほどのタンクのフォローは結局シグルドが行い、見事な立ち回りを見せ、

周りの仲間達から賞賛を受けたのだが、今のルシパーは、とにかくそれが気に入らない。

ルシパーはこの戦闘において、自分だけが孤立していると感じていたのである。

 

 

 

 それから数十分、ルシパーは未だに目立った活躍は出来ていない。

トールは一応健在であったがここまで魔砲の攻撃を三回くらい、満身創痍であった。

ロキは淡々と自分の仕事を遂行していたが、

アスタルトがSDSを上手く使い、遠隔攻撃によって、そのHPはかなり削られている。

形勢は明らかにプレイヤー側が有利であり、

下馬評を覆して、このままいけば確実にこの戦いに勝利出来ると思われた。

もちろんピンチもあったが、とにかくアスモゼウスの操る魔砲の成果が大きい。

ハゲンティとオッセー、それにグウェンはアスモゼウスとアスタルトをしっかりガードし、

たまに飛んでくるロキからの攻撃をしっかり防いでいた。

 

『これは………まずいよトール』

『分かっとる、まさかあの大砲の攻撃をここまでくらうとは………』

 

 トールとロキにとってもこの結果は想定外すぎた。魔砲の攻撃をくらう事で、

擬似発狂モード的な攻撃が激しくなるHP帯を何度かスキップさせられているのだ。

間違いなく今日の戦闘の陰の功労者はアスモゼウスであり、次点がアスタルト、

そして三番目は何度か崩壊しかけたタンク陣のフォローを完璧にこなしたシグルドであろう。

四番目はルシパーがいない前衛陣を引っ張ったサッタンあたりだろうか。

 

『こうなっては仕方がない、ロキよ、お主はここから脱出せい』

『………そう、それじゃあそうさせてもらうよ、トール、頑張ってね』

『おうともよ、それじゃあまたいずれな』

『うん、またいずれ』

 

 残りHPが一割を切ろうかという時点でもう趨勢は決したと考えたのか、

ここでトールはロキを脱出させる事にしたようだ。

ちなみにトールのHPがロキのHPを上回っている限り、この状況にはならないのだが、

さすがにそこまで見切れというのは酷であろう。

 

『それじゃあみんな、楽しかったよ、またどこかでね』

 

 ロキはそう言って舞い上がり、そのまま空中で消滅した。

その瞬間にルシパーは、ロキがこちらを見てニヤリと笑った気がし、脳が沸騰した。

ロキからすれば、好敵手であったルシパーに挨拶しただけのつもりだったのだが、

今のルシパーはそうは捉えない。

そして自由になったルシパーは遂に動き出した………魔砲へと向かって。

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