二人から話を聞いたハチマンは、頭痛を覚えたのか、こめかみを揉み始めた。
「………何だそりゃ」
「戦いの流れはまあ、こんな感じっぽいんだけど、ハチマンはどう思う?」
「そうだなぁ………まあ敢えて言うなら、
最後の決戦の所でルシパーにも作戦の説明をしておくべきだった、くらいか?
とはいえどう考えても後付けの理屈だけどな」
「やっぱりそうですよね………」
落ち込むアスタルトの肩を、ハチマンとアスナがポンと叩いた。
「それはお前のせいじゃない」
「そうだよ、そこまで読めるのなんて、私が絡んだ時のハチマン君くらいだよ」
うふふ、と微笑みながらアスナはそう言い放ち、シノン、ラン、ユウキは呆気にとられた。
「………ちょっと、ナチュラルに惚気てきたわよ」
「さすがは正妻………」
「ボク達には真似出来ないよね………」
そんなアスナを見ながらハチマンは苦笑した。
「いや、さすがの俺もそこまでは無理だろ、お前はよくやったさ」
「自分でもよくやった、とは思ってるんですけど、ね。
どうしても喉に骨が刺さったみたいな感じが抜けないんです」
「本当にタルト君が気にする事じゃないってば」
「はい………」
アスモゼウスもアスタルトを宥めたが、アスタルトは暗い顔をしたままであった。
「まあそれはとりあえず置いておこう。で、七つの大罪はこれからどうなるんだ?」
その問いに、最初に喋り出したのはユキノであった。
この場に残っていたのは、ユイとキズメル、そしてフレイヤを除けば、
ヴァルハラではキリト、ユキノの二人だけであり、
他にはこの事態を受けてユキノが呼び出したらしい、
スプリンガーとファーブニル、ヒルダの三人がいた。
「そうね、アスモゼウスさんが正式に抜けて色欲が不在になって、
アスタルト君が抜けて軍師が不在になって、七つの大罪はかなり戦力ダウンしたわ。
でもさすが、SDSよりは個人の力に秀でていたから、今は拮抗している感じかしら」
「よく他の奴らが残ったよな」
「まあそれなりに長い付き合いだし、そもそもあいつらは馬鹿だから」
アスモゼウスがそう言い放ち、肩を竦めた。
「我に返ったルシパーが、メンバーに土下座してリーダーを降りたのよ。
それでまあ、次は無いって条件で許してあげた人が多いみたい。
私はもう御免だけど、正直ハチマンと知り合ってなかったら、残ってたかもしれないわね」
「ルシパーも奴なりに、人望があったって事か」
「僕はそういうノリはついていけないんで、もう限界です」
「ははっ、それが普通だって」
キリトはそう言いながらアスタルトの背中をバシバシ叩いた。
「でもまあシグルドは、絶対に七つの大罪を許さないよな。
結局エキスキャリパーもルシパーが持つ事になったんだろ?性能はどんな感じだったんだ?」
「今持ってる武器より多少いい程度だったみたい。
まあ持ってるのが恥ずかしいような名前の武器だから、
今回のやらかしを忘れないように、敢えて持つ事にしたみたいよ」
「へぇ、あいつは本当に反省してるんだな」
「どうでしょうね、まあしばらくは大人しくしてるでしょ」
続けてスプリンガーとファーブニル、それにヒルダがこちらにやってきた。
「ハチマン君、七つの大罪は、アルヴヘイム攻略団から離脱する事になったよ」
「ああ、やっぱりそうなりますか………で、次のリーダーは誰に?」
「えっと、一応僕になりました」
そう言いながら前に出てきたのはファーブニルだった。
「へぇ、それじゃあこれからはライバルだな」
「友好的に進めるところは一緒になると思いますけどね」
「まあそうだな、常に戦争状態ってのは、ライバルとは言えないからな」
ハチマンはそう言って笑い、ファーブニルも釣られて笑った。
「それでハチマンさん、お願いがあるんですが………」
「おう、何だ?」
「アスタルト君を、しばらくうちに預けてもらえませんか?
うちもユキノさんみたいな軍師役がいなくて困ってたんですよ」
「お?」
その申し出はハチマンの意表をついた。
「そう言われても、それは俺が決める事じゃないしな」
「ああ、実はハチマン、少し前にさ」
そう横から言ってきたのはキリトである。
キリトはアスタルトがいずれヴァルハラ入りしたいという意思を示している事を説明し、
ハチマンはなるほどと頷いた後、アスタルトに言った。
「まあ全部お前に任せる、俺としては、お前がいつうちに来てくれても歓迎するつもりだ」
「あ、ありがとうございます!」
アスタルトはハチマンに認めてもらった事を喜びつつ、真面目な顔でハチマンに言った。
「僕は………ファーブニルさんの所に行こうと思います。
今回の戦闘に関しても、まだまだ足りなかったって思いますし、
言い方があまり良くないと思いますが、
もう少し武者修行してから改めてヴァルハラ入りを目指したいと思うんです」
「そうか、頑張れよ」
ハチマンは微笑みつつアスタルトに頷き、
こうしてアスタルトがアルン冒険者の会に加入する事が決まった。
「で、お前はどうするんだ?」
続けてハチマンは、アスモゼウスに問いかけた。
「私ももうしばらくタルト君に付きあうわ。
今ヴァルハラに入れてもらっても、まだ自分が納得するようなプレイが出来ないと思うもの」
「いいんじゃないか?確かにお前はまだまだ未熟だしな」
「タルト君より扱いが悪い!」
「当たり前だろ、どう見てもお前はヒルダ以下だ」
「やぁん、ハチマンさんったら!」
ハチマンにあっさりそう言われ、ヒルダは照れながらハチマンの背中をバシバシ叩き、
アスモゼウスはそれを見て悔しそうな顔をした。
「パパ、お客様ですよ」
その時ユイが横からそう話しかけてきた。
「ん、誰だ?」
「グウェンさんです」
「グウェンか、ここに案内してくれ」
「はいパパ!」
それから少しして、グウェンが中に入ってきた。
もちろんGWENではなくGWENNの方である。
「おう、どうした?」
「小人の靴屋にちょっと動きがあって、報告した方がいいかなって」
「ほう?」
この状況で小人の靴屋に何があったのか、ハチマンは興味を持った。
「えっとね、グランゼはどうやら、七つの大罪とSDSの戦争を止めて、
その二つに小人の靴屋を加えて一つのギルドとして再編して、
ヴァルハラに対抗出来る大きな組織を作りたいみたいなの」
「え、この状況でか?グランゼってそこまでお花畑なのか?」
「ルシパー達と比べると、シグルドの方がまだ話が分かるから、
七つの大罪が株を下げたこの機会にって事みたい」
「逆転の発想か………それはありなのか?」
ハチマンのその問いに、キリトはこう答えた。
「まあしばらくは無理だろうけど、ライバルが味方になるのは定番だからなぁ」
「将来的にはありうるのか」
「あるだろうな」
「それほど遠い事じゃないんじゃないかな?」
そう答えたのはアスナである。
「SAOの時も、職人さん達にはかなり助けられたじゃない?
だから、そっちから頼まれたら、最終的にはどっちも折れるしかないと思うんだよね」
「そうか、職人ギルドが中心だと、普通よりも纏まり易いか」
「うん、そう思うんだよね」
「なるほどなぁ」
ハチマンはここまで仲間達に色々話を聞いて、今日の戦闘で何があり、
今後のALOはどう動くか、漠然としたイメージを掴む事が出来た。
「まあ、そうなるといいよなぁ」
「だな」
「だね」
「そうね」
ハチマンのその呟きに、キリト、アスナ、ユキノも同意する。
彼らに今必要なのは強力なライバルであり、
それこそが彼らのALOライフを充実したものにしてくれると思っているからだ。
「よし、それじゃあ今日はこんなもんか、みんな、これからどうするんだ?」
「俺は落ちるよ、明日は夕方くらいからインしてボス戦の準備をしとく」
「私もそんな感じね、そういえばハチマン君、ノリさんの手術は成功したのよね?」
「あっと、そうだった。喜べ、大成功だ」
ハチマンは珍しくガッツポーズをし、他の者達もそれに乗った。
「そうか、やったな!」
「本当に良かったわ」
そんな彼らを見て、事情を知らないアスタルトもお祝いの言葉を述べた。
「僕はよく知らないですけど、えっと、
「おう、サンキュー」
ハチマンはアスタルトの語尾の違いに気付いていたが、
多分リアルだとそんな感じの話し方なんだろうなという感想を抱いただけで、
特に突っ込む事はしなかった。
「アスタルトとアスモも準備を忘れるなよ」
代わりにハチマンは、最後に二人にこう言った。
「えっ?」
「何の準備?」
「気付いてないのか?アルン冒険者の会に入ったって事はつまり、
ガイア攻略戦に参加するって事だぞ?」
「「あっ!」」
二人はそれで初めてその事に気が付いたようで、若干慌てた。
「そ、そっか、そうなんだ………」
「アスモちゃん、同じヒーラーとして担当をどうするか、明日相談しようね?」
「え、ええ、分かったわ」
そしてこの日は解散となり、皆それぞれ順にログアウトしていった。
「ふう、今日はまさかあんな事になるなんて、絶対に予想出来ね~っすわ………」
ALOからログアウトした後、アスタルトこと比嘉健は、
ベッドの上で頭をかきながらそう呟いた。
「ガイア戦かぁ………夜は卒論をやるつもりだったけど、
頑張って昼に全部済ませないとかぁ………でも録画したアニメも見ないとなぁ」
そう言って卒論の束を手に取った健は、とりあえずシャワーを浴びようと思い、
書きかけだったそれをテーブルの上に置くと、
着ていたアニメのTシャツを脱いでシャワールームへと向かった。