ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

1156 / 1227
第1146話 藍子と木綿季のやり直し

 優里奈によってコヨミが倒れたのを見て、八幡は慌ててコヨミを抱き起こそうとした。

さすがに人目も多く、早くコヨミを復活させないといけないと考えたからである。

 

「優里奈、さすがにやりすぎだろ」

「いいんです、見てて下さい、直ぐに復活しますよ」

「そういう訳にもな………」

 

 そう言って八幡がコヨミに手を伸ばした瞬間に、コヨミががばっと体を起こした。

 

「おはようございます!って、あれ、ここは………」

 

 そのままコヨミはきょろきょろと辺りを見回し、

今まさに自分を起こそうとしてくれていた八幡と目が合った。

 

「………えっと、あれ、どちら様ですか?」

「………」

「………」

「………えっ?」

「………えっ?」

 

 どうやらコヨミはつい先ほどの記憶が飛んでいるらしく、

初対面の者を相手にするような視線を八幡に向けてきた。

 

「あ~………俺は比企谷八幡だ、よろしく」

「あ~!ハチマンさんだ!初めまして、私はコヨミ、暦原栞です!」

「ああ、コヨミさんって苗字の方だったんだな」

「うん!」

 

 コヨミの本名は、どうやら暦原栞というらしい。

 

「栞さん、お会い出来て嬉しいです、私がナユタこと、櫛稲田優里奈です」

「わっ、リアルナユさんだ~!」

 

 栞は優里奈の胸を見ながらそう言い、再び優里奈に飛びかかろうとしたが、

その行動は、横から割って入った明日奈によって防がれた。

 

「コヨミさん、私は結城明日奈、アスナだよ」

「アスナさん!?うわ、リアルでも美人さんだねぇ!」

 

 それに合わせて他の者達も栞に自己紹介した。

 

「私は朝田詩乃、シノンよ」

「私は初めましてかしら、紺野藍子よ」

「ボクは紺野木綿季、宜しくね!」

「………桐生萌郁です、宜しく」

「うわぁ、美人さんがいっぱいだ!」

 

 その一連の流れで栞も落ち着いたのか、優里奈の胸に執着する様子は見せなくなった。

さすがは明日奈、伊達に八幡の正妻を名乗ってはいない。

 

「という訳で、今日は宜しくな」

「昨日ナユさんからメールをもらって行きたい場所は教えてもらったから、

案内は私に任せて!この辺りはよく来るから私の庭みたいなものだからね!」

 

 栞はその薄い胸を張りながらそう言った。

栞の身長はおおよそ百四十センチくらいであり、その姿はどう見ても中学生にしか見えない。

 

「あの、栞さんって何歳なんですか?」

「コヨミでいいよ、ナユさん。えっとね、二十三かな?」

「と、年上だと………!?」

 

 その栞の答えに八幡は呆然とした。

 

「あはぁ、よく言われるけど本当なんだよねぇ、ほら!」

 

 そう言って栞は八幡に免許証を見せてきた。

無防備極まり無い行動だが、八幡達を信頼してくれているという事なのだろう。

 

「うわ、マジだ………」

「えっへん!」

「コヨミさんって私より、六つも年上だったんですね」

「………えっ?」

 

 今度は栞が愕然とした顔で優里奈の方を見た。

そして優里奈の胸に目をやった後、栞は自分の胸に手を当てた。

 

「………ナユさん、十七歳?」

「え、ええ」

「そっかぁ、そうなんだぁ………」

 

 そんな栞に、誰も声をかける事は出来なかった。

だが栞はこういう事は慣れているのだろう、自力で復活をはたし、

明るい笑顔で一同に言った。

 

「それじゃあ行こっか!」

「そうだな、行こう行こう」

「冬の京都、楽しみだねぇ」

「コヨミさん、私と手を繋ぎましょう」

「えっ、いいの?やったぁ!」

 

 八幡達もすかさずそれに合わせ、明るい笑顔でそう言った。

こうして一同は、栞の案内で京都の散策を開始する事となったのだった。

 

 

 

 最初に一同が訪れたのは、金閣寺であった。

定番中の定番だが、通常冬に訪れる事は無い為、

今回は敢えて最初に金閣寺を選んだのである。

 

「うわぁ………」

「金閣寺に雪が積もってるところ、初めて見たかも」

「思ったより混んでると思ったけど、これは見たくなるよな」

 

 雪化粧をした金閣寺はとても美しく、荘厳な雰囲気に包まれていた。

 

「それじゃあ次行こう、次!」

 

 そこから一同は、妖怪ストリートを経て京都御所へと向かった。

そこで少し滞在した後、八坂神社を経て清水寺に到着した一同だったが、

そこで八幡は、遠くで仲良く写真を撮っている二人組にどこか見覚えがあるような気がした。

 

「ん~………」

「ハチマンさん、どうしたの?」

「ああ、いや、あの女の子の二人組、どこかで見た事があるような気がしてな」

「そうなんだ?もっと近くに行ってみる?」

「いや、まあ気のせいかもだし、別にいいや」

 

 そう言いながら再び移動を開始しようとした八幡の耳に、

周りにいる観光客達の、こんな声が飛び込んできた。

 

「………ねぇ、あそこにいるのって、フランシュシュのメンバーじゃない?」

「あ~、確かそうだよ、プライベートかな?」

「変装してるみたいだし、そうじゃないか?」

「やっぱかわいいよなぁ………」

「声をかけてみたいけど、やっぱ迷惑だよなぁ………」

 

 中々に良識的らしいそのフランシュシュのファンらしき者達の言葉を受け、

八幡は改めて先程の二人組の方を見た。

 

「ハ、ハチマンさん、アイドル、アイドルだよ!」

「お、おう」

 

 フランシュシュの知名度は一般人にはそこまで高くはなく、

騒いでいたのは先ほどの者達だけだったのだが、

栞はどうやらフランシュシュの事を知っているらしく、興奮した様子でそう言った。

よく見るとそれは、水野愛と紺野純子であり、

まさか二人がここにいるとは思わなかった八幡は、驚きのあまり、思わず呟いた。

 

「あの二人、何でここに………」

「えっ?まさか知り合い?アイドルと?」

「あ~、いや、まあそんな感じかな」

「凄~い!」

 

 その栞の声を聞き、他の者達が八幡の下にやってきた。

 

「八幡君、どうしたの?」

「いや、あそこに愛と純子がいる」

「えっ、本当に?」

「あっ、本当だ」

「旅行とかかな?」

「どうだろうなぁ」

「えっ、みんな知り合い!?」

 

 他の者達が誰も驚かないのを見て、栞は驚愕した。

 

「あっ、まあ一応?」

「あの二人が所属してるのって、八幡君のいる会社だからさ」

「えええええ?まさかハチマンさんってソレイユの人?」

「一応な。う~ん、ここで無視して通り過ぎると後で何を言われるか分からないし、

一応二人に声だけかけておくか」

「あは、そうだね」

 

 そのまま一同は二人に近付き、八幡は背後から二人に声をかけた。

 

「愛、純子、こんな所で会うなんて偶然だな」

 

 いきなりだった為、二人はその言葉にビクッとしたが、

二人が八幡の声を聞き違えるはずもなく、二人は振り向いてすぐに八幡に抱きついてきた。

 

「八幡!」

「八幡さん!」

「うわっ、お、おい、ちょっとは人目を気にしろって!」

「え~?別にいいじゃない」

「そうですよ、スキャンダルの一つや二つはあった方が話題になるからいいんですよ?」

 

 二人は八幡の抗議にはまったく耳を貸そうとはせず、

栞はそれを見て開いた口が塞がらない状態となった。

 

「ぽか~ん………」

「私、ぽか~んって口に出して言う人、初めて見たかも」

 

 それが明日奈の声だと認識した瞬間に、愛と純子は自然な動きで八幡から離れた。

 

「あっ、明日奈、やっほ~!」

「明日奈さんがいるなら遠慮しないとですね」

 

 二人は明日奈の事はきちんと立てるつもりらしく、今度はにこやかに明日奈に話しかけた。

 

「二人とも、どうしてここに?」

「えっと、次のPVは京都が舞台らしくって、

いい場所がないか、みんなで手分けして探してるんですよ」

「まあそんな感じかな、多分その辺りにみんないると思う」

「あっ、そういう事だったんだ、偶然だね!」

「うん、凄い偶然!」

 

 その会話に他の女子達も参加し、この場は随分と派手な感じとなった。

美少女がたむろしてキャッキャウフフしているのはとても目立つ為、

八幡は人目を気にして移動を提案した。

 

「さすがにこれは目立ちすぎる、ちょっと場所を変えようぜ」

「あっ」

「確かにそうね」

「コヨミさん、この辺りで多少静かな場所ってありますか?」

「………えっ?そ、そうね、それなら一旦ここを出よっか」

 

 優里奈の声で再起動した栞は一同を別の場所へと案内し、

多少人気の少ないそこで、八幡達はそれなりに落ち着いて話す事が出来た。

 

「………ハチマンさん」

「ん、何だ?コヨミさん」

「美少女ばっかりだね?」

「………言いたい事は何となく分かるが、別に俺が故意に集めた訳じゃないからな」

「勝手に集まってきた………と?」

「明日奈以外はまあそんな感じだな」

「刺されないように気をつけてね?」

「………お、おう」

 

 その後の会話で八幡達とフランシュシュのメンバーの泊まっている旅館が同じ事も判明し、

夜に八幡の部屋で合流する事が決まった。これは偶然かと思いきや、そういう訳でもない。

そもそも八幡達の宿も、フランシュシュの宿も、ソレイユで手配したものなので、

それが同じになるのは当たり前と言えば当たり前なのである。

 

「それじゃあ八幡、また夜に」

「八幡さん、また後で」

「ああ、夜にな」

 

 二人はまだ色々回るらしく、そのまま去っていった。

一同はそのまま京都タワーで食事をとり、

伏見稲荷大社の千本鳥居をはぁはぁ言いながら登り、その後も何ヶ所かの寺社を巡った。

 

「アイ、ユウ、どうだ?」

「凄く疲れた………けど、とても良かったわ」

「ボク達本当なら、中学の時こうやって回ってたんだね!」

 

 そう、今日のルートは実は、

順路は違えど藍子と木綿季が中学の修学旅行で行っていた場所なのであった。

二人はその頃から入院していたので当然参加出来ず、

今回は他の者達から二人の修学旅行を再現したいという意見が出た為、

こういうルートで回る事になったのだった。

 

「さて、最後に土産を物色するか」

「うん!」

「でも地元がこっちな経子さんへのお土産、どうしよう………」

「あはははは、まあ悩め悩め」

「う、うん」

 

 そのまま買い物中、たまたま話題が夜の戦闘の事へと移った時、

八幡が思い出したように優里奈と萌郁にこう言った。

 

「そういえば夜は、二人がボス戦の様子を見られるように手配しておいたからな」

「あっ、そうなんですね、それはとても嬉しいです!」

「えっ?今日何かあるの?」

「ああ、ALOでちょっとでかい戦闘がな」

「わ、私も見てみたい!」

「ん~、ならコヨミさんも俺達が泊まってる旅館に泊まるか?」

「いいの!?」

「ああ、問題ない」

 

 栞がそう言い出し、せっかくだからと詩乃が萌郁の部屋に移動する事になり、

優里奈の部屋に栞が泊まる事が電撃的に決定した。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。