ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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ガイア戦で今週いっぱいかかります、もちろん毎日投稿で!


第1147話 ガイアとフレイヤ、女の戦い

 その日の夜、八幡と明日奈と共に、愛、純子が横たわるその横に、

優里奈、栞、萌郁の他、フランシュシュの残りのメンバー達が集合していた。

 

「ア、アイドルに囲まれてる………」

「コヨミさん、緊張しすぎですよ」

「ナユさんは落ち着きすぎだってば!」

「いや、まあ私はほら、普段からアイドルまがいの人達と一緒にいますからね………」

 

 優里奈は隣にいる萌郁に同意を求め、萌郁もその通りだという風にうんうんと頷いた。

 

「しかし旅館にこれほどの設備を持ち込んじゃうなんて、ソレイユ恐るべし………」

 

 この部屋は今、ネット回線を強化され、大型モニターが持ち込まれていた。

かなりお金もかかったようだが、

今後、こういった旅館に対してのVR設備の拡充という観点から、

この部屋をそのモデルケースとする事で、しっかり元はとるつもりらしい。

 

「あっ、どんどん人が集まってきたね、みんな強そう………」

「強そうというか、強いですよ。ここにはALOの最高戦力が集まっていますから」

 

 その横で、フランシュシュのメンバー達も、ウズメとピュアを見て大盛り上がりだった。

 

「うわ、愛ちゃんも純子ちゃんも格好いい!」

「本当に凛々しいどすな」

「今日はボス戦なんだよね?」

「らしいな、愛、純子、フランシュシュの代表としてしっかり戦うんだぜ!」

「愛ちゃん、純子ちゃん、頑張れ!」

 

 一同は優里奈と萌郁に解説してもらい、この戦いを特等席で見物する事となった。

 

 

 

 さて、時間になり、広場にヴァルハラの幹部連が入場してきた。

先頭のハチマンの隣にはアスナが並んでおり、皇帝と女帝の雰囲気を醸し出している。

少し遅れてキリトとソレイユが並び、ユキノ、サトライザーが最後方を固める。

その六人を迎えるのはホーリー、セラフィム、ユイユイの三人のタンクである。

アサギは残念ながら、急な仕事で今日は参加出来ていない。

三人が芝居がかった様子でその場に跪くと、後ろにいたメンバー達も同様に跪いた。

 

「そんな事をする必要はない、俺達は対等な仲間だからな」

 

 その言葉を受け、一同は立ち上がった。

これはヴァルハラのメンバーが固い絆で結ばれているという対外的なアピールであったが、

それは見事にはまり、見物客達は、やんややんやと喝采した。

ハチマンは軽く手を上げてそれを制し、続けて友好ギルドの面々が前に出てきた。

 

「共に戦ってくれるみんなも、今日は宜しくな」

「三種族連合軍、今日は宜しく頼む」

「スリーピング・ナイツ、今日もぶちかますわよ!」

「アルン冒険者の会です、今日は勉強させてもらいます」

「ソニック・ドライバー、たった二人だが、宜しくな!」

 

 ちなみにノリはさすがに昨日の今日では参加出来ず、ランの視点でこの光景を見ている。

プリンとベルディアも、スプリンガーの視点でこの戦いを見物する事になっており、

今頃は自宅でくるすちゃんに解説してもらい、興奮しながら見ている事だろう。

 

「戦いの様子はここのモニターで中継されるはずだから、みんなも今日は楽しんでくれ!」

 

 ハチマンのその言葉に、観客達は、おおおおおおおおおおおおお!と叫び声を上げた。

まるで地響きが感じられるような、凄まじい盛り上がりっぷりである。

 

「よし、それじゃあ出発だ!」

 

 その言葉を受け、仲間達が次々と飛びたっていく。

ヴァルハラが、三種族連合軍が、スリーピング・ナイツが飛びたっていき、

そしてアルン冒険者の会の最後尾で飛びたとうとしたアスモゼウスとアスタルトは、

広場の隅の方に、六人に減った七つの大罪の幹部連が壁に寄りかかっているのを見つけた。

 

「タルト君」

「アスモさん」

 

 二人はお互いそう声を掛けあうと、そちらに向かって深々と頭を下げた。

その態度に、傲慢の座にこそ残ったが、リーダーを降りたルシパーが、

フン、と言いながら軽く拳を掲げる。

新リーダーに就任したサッタンは、両手で拳を握りながら、ぶんぶんと腕を上下させている。

エヴィアタン、ベルフェノール、マモーン、ベゼルバブーンの四人は、

普通にこちらに手を振ってくれ、二人はそちらに手を振り返しながら飛びたっていった。

この事で、道こそ違えたが、こうしてわざわざ見送りに来てくれた、

かつて仲間だった者達に無様な姿は見せられないと、二人は奮起する事となったのである。

 

「ルシパー、これで良かったのか?」

「ああ、俺はあまりいいリーダーにはなれなかったからな、

せめてあいつらの晴れ舞台くらいは、ちゃんと見送ってやりたかったんだよ」

「ひゅうぅ、これでもう悪魔は卒業ってか?」

「いや、こういうのは今日が最初で最後だ。

これからもっと精進して、まともにヴァルハラとやり合えるくらいには強くなってやる」

「そうこないとな!」

「ガハハハハ!俺様に任せろ!」

「頼むぜ新リーダー」

「任せておけ!」

 

 六人はこの戦いだけはきちんと見届けるつもりのようで、そのままモニターに目を向けた。

少し離れた所にはシグルドもいたのだが、

さすがのシグルドも、この状況で戦いを仕掛けてくるつもりは無いらしく、

この戦闘が終わるまでは、暗黙の了解で、七つの大罪とSDSの戦争も休戦となるようだ。

 

 

 

 それから三十分後、ヴァルハラ連合軍は目的地へと到達していた。

 

「それじゃあみんな、初見だから作戦も立てられないが、

いつも通り、無理せず堅実に戦おう」

 

 現在の仕様だと、レイド戦は八人×八パーティの、六十四人編成となる。

第一パーティは、ハチマン、ユキノ、ユイ、クリシュナ、ホーリー、セラフィム、

ユイユイ、ピュアの、司令部とタンク部隊を兼ねたパーティ。

第二パーティは、キリト、アスナ、リズベット、シリカ、フカ次郎、

クライン、リーファ、キズメルのガチンコ近接タイプのパーティ、

第三パーティは、ソレイユ、サトライザー、ユミー、イロハ、

シノン、リオン、レヴィ、レンの遠隔タイプのパーティ、

第四パーティは、ユージーンとカゲムネ率いるサラマンダー軍とクックロビンだ。

第五パーティは、サクヤ率いるシルフ軍に、レコンとコマチが加わっている。

第六パーティは、アリシャ率いるケットシー軍に、フェイリスが参加しており、

第七パーティは、スリーピング・ナイツにソニック・ドライバーを加えた八人であり、

第八パーティが、アルン冒険者の会にウズメを加えたパーティとなる。

 

「よし、行くか」

 

 ハチマンを先頭に、仲間達は粛々と戦場へと足を踏み入れていく。

中に入ると遠くには、上半身は女性だが、

下半身はまるで土くれのようになっている敵の姿が見えた。

 

「あれがガイアかな?」

「地面と一体化してるみたいな?」

「ほええ、あれじゃあ全然エロさが足りないね!」

「ロビンはちょっと黙ってような」

 

 そしてその横に、五十の頭と百の腕を持つ巨人………ヘカトンケイルであろう、と、

一つ目で巨大な棍棒を持つ巨人………ギガンテス、が並んでいた。

 

「敵が三体以上ってのは確定か」

「助けになってくれるって言ってた巨人達は、結局見つけられなかったね」

「まあいずれメインシナリオに絡んでくるだろうさ」

「さて、それじゃあフレイヤ様、これからどうすればいいですか?」

 

 その言葉でローブを被った女性が一人、前へと進み出た。

さすがに広場でその姿を現すのは躊躇われたのだが、

ここで合流したという体で、登場してもらう事にしたのだった。

 

『開戦の狼煙は私()が上げるから任せて。ロキ、どこ?』

『ここだよここ、まったく待ちくたびれたよ』

 

 その声は頭上から聞こえ、同時に人影が上から降ってきた。

先の戦闘の途中で逃げ出した神ロキは、どうやらここでずっと待機していたようだ。

 

「神ロキ、お久しぶりです」

『うん、危うくプレイヤーに殺されちゃうところだったけどね、

トールを犠牲にして何とか逃げ延びたよ』

 

 ロキはニヤニヤしながらあっけらかんと、ハチマンにそう答えた。

さすがのハチマンも、その答えには苦笑する事しか出来なかった。

この時観戦していたルシパー達が、ロキに憎々しげな視線を向けたが、

当然それがここまで届く事はない。

 

『さて、準備はいいかな?』

「はい、みんな、いいよな?」

 

 そのハチマンの呼びかけに、仲間達は武器を上げて答えた。

 

「オーケーです」

『それじゃあフレイヤ、お願い』

『オーケー』

 

 そう言ってブリシンガメンを掲げたフレイヤの姿が光に包まれていく。

その光が消えた後、そこに立っていたのは美しいドレスを身につけた、

露出過多な神々しい女神であった、

 

『我が名はフレイヤ!大地母神ガイア、さっさと自分の巣にお帰りなさいな』

 

 その言葉を受け、ガイアの瞳に光が灯る。

 

『フン、少しばかり美しいだけの小娘が、我らに敵うとでも思っておるのか?』

『間違ってるわよ、お・ば・さ・ん?私は全世界、全宇宙で一番美しいのよ!

年増は年増らしく、私の美しさにとっとと尻尾を巻いて逃げるといいわ!』

『誰が年増じゃ!そなただって年増じゃろうが!』

『いいえ、私は永遠の十八歳!その証拠にほら、うちの子はみんな、私にメロメロよ?』

 

 そう言ってフレイヤはハチマンにしなだれかかった。

 

『ねぇハチマン、あなた、私の事、エロ美しくて素敵だって思ってるわよね?』

 

 言動はまるでお子様だが、確かにフレイヤのその動作のはしばしからは、

そこはかとないエロさが感じられる。

 

「あっ………は、はい」

 

 途端にハチマンは周りの女性陣から睨まれたが、

ここでフレイヤに逆らう訳にもいかない為、

ハチマン的には勘弁してくれという気持ちでいっぱいであった。

 

『ほら見なさい!』

『ぐぬぬ………』

 

 ガイアの周りにはプレイヤーはおらず、

まさかヘカトンケイルやギガンテスにしなだりかかる訳にもいかない為、

ガイアとしては、唸る事しか出来ないようだ。

 

『よし、それじゃあトドメよ。ハチマン、私を抱き上げなさい?』

「えっ?あ~………わ、分かりました」

 

 ハチマンはフレイヤからの圧力に耐えられず、

アスナに目で謝りながら、フレイヤをお姫様抱っこした。

 

『ほら、私の周りには、私にメロメロなかわいい子が沢山いるのよ、どう?羨ましい?』

『羨ましくなどないわ!ギリシャに帰れば妾にもそれくらい………』

『だから帰りなさいって言ってるじゃない!』

『ぐっ………ああ言えばこう言う………その口、実力で閉じてやるわ!』

 

 ガイアはそう言って体を揺らし、ヘカトンケイルとギガンテスが前に出た。

 

『ふっふ~ん、私、大勝利!それじゃあハチマン、後は頑張ってね!』

「分かりました、神フレイヤ、ありがとうございます」

『もう、お固いなぁ………私の事、フレイヤって呼び捨てにしてもいいのよ?』

「は、はは………フ、フレイヤ、が、頑張りますね」

 

 このガイアとフレイヤのやり取り、そしてハチマンを困らせるシーンは、

AIにしては人間臭すぎると評判になり、

某動画サイトで凄まじい再生数を稼ぎ出す事となった。

同時にこの風景を観戦していたプレイヤー達も、困るハチマンというのは珍しい為、

その光景を存分に楽しむ事となったのだった。

 

 こうしてガイア戦は、女神同士の女の戦いから幕を開ける事となった。


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