ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第1148話 ガイア戦、開幕!

「ホーリー、ガイアを抑えろ!」

「心得た」

 

 ハチマンのその指示を受け、ホーリーがガイアに向けて走っていく。

 

「セラフィムはヘカトンケイルを、ユイユイはギガンテスを!」

「分かりました、ハチマン様!」

「オッケー、任せて!」

「カゲムネは、三人のフォローを頼む!」

「はい!」

 

 最初は様子見とばかり、敵とこちらのタンクのぶつかり合いから戦いは始まった。

フレイヤは後方に控えて絶賛観戦中であり、ロキはどうやら前回の戦いと同じく、

空中をふわふわと飛びながらこちらを強化してくれるようだ。

 

「キリト、しばらく様子見な!」

「あいよ」

「姉さん、初手は遠隔攻撃だ!

残りの部隊もしばらく様子見をして、敵の攻撃パターンを探ってくれ!」

「はぁい!」

 

 ハチマンが矢継ぎ早に指示を出し、仲間達はそれに従っていく。

どうやらガイアは下半身と一体化している土部分を操り、

それをムチのようにしならせて攻撃してくるようだ。

ホーリーにとってはそれを防ぐのはどうという事もないだろう。

ヘカトンケイルは確かに手の数は多いのだが、

武器を振るえるのはそのうちの六本だけらしく、

六種類の武器を、交互にセラフィムに叩きつけてきた。

これを防ぐのは結構大変だが、危ない場面ではカゲムネがフォローに入る事で、

二人はヘカトンケイルの侵攻を上手く防ぐ事が出来ていた。

ギガンテスは一撃が重く、ユイユイですらよろめかされる事があったが、

その攻撃スピードが遅い為、問題なく体勢を立て直す事が出来ていた。

そのまましばらく戦闘の様子を眺めていたハチマンは、

遠隔攻撃も問題なく通っているのを確認すると、ここで改めて近接陣に指示を出した。

 

「近接アタッカーはギガンテスに攻撃を集中だ、先ずあいつを落とすぞ!」

「了解!おいユージーン、出番だぜ!」

「おう、このティルフィングのデビュー戦を飾ってやるわ!」

「ラン、ファーブニル、そっちはお前達の判断に任せる!」

「およ?」

「は、はい!」

 

 その指示を受け、ランとファーブニルはアスタルトを交え、急遽話し合った。

 

「アスタルトはどう思う?」

「このまま突撃しても平気だとは思いますが、

安全マージンは残しておいた方がいいかもしれませんね、初見の敵ですし」

「確かにそうね、それじゃあどうすればいいと思う?」

「僕達はパーティごとに交代で前に出ればいいと思います。

そうすれば何かあっても問題なく対応出来ますしね」

 

 そのアスタルトの提案に、ランは大きく頷いた。

 

「そうね、確かにその通りだわ。それじゃあ私達はそうしましょうか」

「はい、分かりました」

「それじゃあ最初はうちが行くわ」

「何かおかしな兆候が見えたらすぐ声をかけますね」

「うん、お願い」

 

 そしてスリーピング・ナイツは突撃し、アルン冒険者の会はとりあえずこの場に残った。

アスタルトはじっとギガンテスを観察している。

 

「アスタルトは慎重だな」

「うん、いいと思うわ」

 

 ユキノはタンクへのヒールを行っている為、

そのハチマンの言葉に答えたのはクリシュナであった。

 

「うちは猪突猛進タイプが多いからなぁ、

あいつみたいなのがいてくれると助かるかもしれないな」

「いずれはヴァルハラ入りしてもらわないとね」

「そうだな、俺達にリアルを晒す事が平気なら、そうしよう」

 

 ヴァルハラはリアル繋がりを重んじる為、

ハチマンはアスタルトの入団に関しては、本人の意思を尊重するつもりのようだ。

 

「ハチマン、そろそろギガンテスのHPが八割!」

「オーケー、各パーティ、そろそろギガンテスが二割削れる、一応警戒!」

 

 ハチマンはクリシュナのその読みを受け、そう大声を上げる。

こういう場合のクリシュナの読みの精度は凄まじく、

味方の攻撃による敵のHPの減少度から、キッチリ十五秒前にハチマンに告知してくれる。

それを心得ている為、キリトは自分達だけがその場に残り、他の部隊を下げた。

 

「一旦下がれ!攻撃パターンが変化するぞ!」

 

 その数秒後、ギガンテスのHPが八割になった瞬間に、

その手に持つ棍棒が、まるで放電でもしたかのように光を放った。

 

「今のは………みんな、飛べ!」

 

 キリトがそう指示を出し、仲間達は敵の攻撃に合わせて飛んだ。

同時にユキノがユイユイに状態回復魔法を飛ばす。

 

「こっのぉ………きゃっ!」

 

 ユイユイがその攻撃を盾で受けた瞬間に、

ユイユイの体がまるで感電したかのように一瞬硬直した。

だがその硬直はユキノの魔法によってすぐに癒される。

 

「一旦後退!」

 

 その攻撃を見事に読み、飛んで回避したキリトは、

地面に着地した瞬間に、即座にそう指示を出し、

同じく回避に成功した仲間達は、ユイユイ一人を残して即座に後退した。

 

 

 

「おお!」

「凄い、よく避けたね!」

「愛ちゃん、必死だったね」

「それは言わないお約束よ、さくら」

 

 観戦していた者達は、その戦術の見事さにやんややんやと喝采していた。

同じく広場も大盛り上がりであり、あのルシパーでさえも、目を見開いていた。

 

「これは参考になるな、サッタン」

「だな、みんなで縄跳びでもやるかぁ?」

「あはははは、でもまあ咄嗟に指示通り動けるようにはしないとな」

「そうなると、敵の動きをしっかり見ておく奴も必要だな」

 

 どうやらこの戦闘は、七つの大罪にとって、いい見取り稽古になっているようである。

 

 

 

「ハチマン、どうだった?」

「着弾から円形に雷が走ってたな、多分その範囲にいると、強制的に硬直させられるはずだ」

 

 キリトの問いに、ハチマンが即座にそう答える。さすがは場数を踏んでいる事もあり、

この辺りのハチマンとキリトのコンビネーションは抜群だ。

 

「了解、みんな、ヒット&アウェイ!敵の攻撃がどこかに触れた時、

その半径三メートル以内に入らないようにしてくれ!」

 

 即座にそう指示が飛び、アスタルトはその指示の早さに感嘆した。

 

「凄いですね、距離まですぐに………」

「あ、何かヴァルハラは、歩数で距離を測る訓練をみんながやってて、

こういうのの距離は、すぐに割り出せちゃうみたいよ」

「そんな事まで………さすがですね」

「ええ、そういう地味な部分がヴァルハラの強さに繋がっているんでしょうね」

 

 アスモゼウスの説明を受け、アスタルトは更にヴァルハラへの尊敬を強めた。

ちなみにこの会話も丁度中継されており、一部のギルドが同じ訓練をする事を決め、

そのおかげでギルドとしての総合力が明らかに上がった為、

距離読みがALOの上級者の必須技能として、スタンダードになっていく事となる。

 

「お~い姉さん、ヘカトンケイルのHPを八割まで減らせるか?」

「そうね、三十秒後にいけるわ」

「了解、そのままやってくれ。マックス、三十秒後にヘカトンケイルが八割だ」

「了解、少し離します!」

 

 これは他の敵と戦っている味方を巻きこまない為の措置であったが、

こういう部分の戦術の練りは、他のギルドには真似出来ない部分であろう。

 

「ユミーちゃん、次の魔法はちょっと抑え目で、レンちゃんは攻撃止め、

他はそのままでいって!」

 

 ソレイユの指示で、遠隔陣は攻撃速度を調整し、

ピタリ三十秒後、今度はヘカトンケイルのHPが八割へと到達した。

その瞬間にいくつかの手が拳を握りこみ、武器の攻撃と同時に地面に拳が叩きつけられる。

 

「………ほう?」

「今のは………近くにいるプレイヤーに、ランダムに攻撃が飛ぶのかしらね」

「っぽいな、とりあえず危険度は低いか」

「とりあえず今度はギガンテスのHPを六割まで削ってみましょう」

「そうするか、あっちの方がやばそうだしな」

 

 ハチマンとクリシュナは即座にそう結論付け、遠隔陣は一旦攻撃を止めた。

そしてキリトにハチマンから指示が出される。

 

「キリト、六割まで頼む!時間制限もあるし、出来れば早めにな!」

 

 こういう戦闘の場合、今の仕様だと、制限時間は二時間とされているのだ。

 

「了解、だってよアスナ」

「それじゃあ手っ取り早く行こうか、ユウキ、ちょっとこっちに来て!」

「ん、どしたのアスナ」

「敵のHPを一気に削りたいの、それでね」

 

 二人は素早く言葉を交わし、ユウキがあんぐりと口を開けた。

 

「うわ、本当に?」

「うん、私とユウキなら出来るよね?」

「ま、まあ出来ると思うけど………」

 

 やや躊躇いを見せるユウキに、アスナが満面の笑みを向けた。

 

「もし出来たらきっとハチマン君が褒めてくれるよ」

「やる!余裕余裕!」

 

 ユウキは途端にやる気を出し、アスナはユウキから見えないようにニヤリとした。

 

「ユウがいいように操られてるわね、さすがはアスナ………」

「アスナ嬢ちゃんも案外黒いな………」

「むぅ」

 

 そのランの言葉にスプリンガーとラキアが同意する。

そしてアスナはまったく見当違いの離れた場所へと歩いていき、

ユウキは一人でユイユイの後ろへと歩いていった。

 

「ユイユイ、一気に削るね」

「分かった、備えとく」

 

 そしてユウキはセントリーを構え、最大威力の攻撃を放った。

 

「マザーズ・ロザリオ!」

 

 同時にアスナが暁姫を構えて走り出す。まさかのフラッシング・ペネトレイターである。

轟音と共にユウキのマザーズ・ロザリオが着弾した瞬間に、敵のHPが六割を切り、

硬直しているユウキ目掛けて敵が棍棒を振りおろす。

その攻撃はもちろんユイユイが防ぐのだが、

同時に放たれる電撃は硬直中のユウキを直撃するはずだ。

 

「ユウキ!」

「アスナ!」

 

 だがその硬直するユウキのお腹の部分をアスナが抱き、そのまま高速で走り抜けていく。

フラッシング・ペネトレイターを攻撃ではなく移動に使う、アスナの得意な戦法だ。

 

「ぐはっ!」

「ごめん、耐えて!」

「だ、大丈夫」

 

 そのままアスナはユウキ共々走り抜けていき、その直後にユイユイを巻き込んで、

先ほどよりも大分広くなった電撃が円形に広がった。

 

「アスナの奴、無茶しやがる」

 

 その様子を見ていたハチマンは、苦笑しながらキリトに言った。

 

「キリト、五メートル!」

 

 それはつまり、今まで三メートルだった電撃の範囲が五メートルになったという事である。

 

「マジか、結構増えたな」

「さすがに一撃ごとにそれはきつい、キリト達はとりあえずこっちに!

ユージーン、残りの近接陣を率いてヘカトンケイルを削ってくれ!」

「分かった、配置転換だな」

「そういう事だな、姉さん、そっちはギガンテスを頼む!」

「分かったわ、任せて」

 

 こうして素早く配置転換が行われ、集まってきたキリト達にハチマンが相談を持ちかけた。

 

「さてハチマン、俺達はどうするんだ?」

「それなんだがな、今ちょっと迷ってるんだよ、ガイアの削りについてな」

「ガイアの?ああ、そういう事か………」

「ああ、確かにそれはね」

 

 ハチマンの悩ましげな顔に、キリトとアスナが同意するように頷いた。

 

「ねぇリーダー、どういう事?」

 

 フカ次郎が代表して、そんな三人に問いかけてくる。

 

「いや、こういう場合な、敵を倒す順番も重要だが、

どれをどのくらい削っておくかも重要なんだよ」

「………というと?」

「例えばこのままガイアを一切削らずにヘカトンケイルとギガンテスを倒すとするだろ?」

「ふむふむ」

「そうすると、その瞬間にガイアの攻撃が激しくなって、

そのやばい状態のままガイアを削りきらないといけなくなる事があるんだよな」

「ふむぅ………」

「で、逆にガイアを発狂モード寸前まで削ってから二体を倒すとするだろ?」

「うん」

「その場合、残りHPの少なさで敵が思いっきり強化されたり、

残りHPと反比例して大ダメージを全体に放ってくるとか、そういった場合もある訳だ」

「あ、ああ~!そういう事かぁ」

 

 フカ次郎はその説明に納得した。

ボスクラスの多くの敵を、SAOで初見で葬ってきた三人が言うのだ、

おそらくそういった何か困るような事は、確実に起きるのだろう。

 

「問題はどっちが被害が少なそうか、だよな」

「どうする?」

「出来るだけガイアを削っておけば、

まあどうなっても最後は力押しでいけるんじゃないか?」

「HP全開よりも、そっちの方がリスクが少ないか………」

「多分ね。まあもし全滅しても、もう一回やり直せばいいよ。

何せこの戦闘は、他の人達は入れないんだからさ」

「言われてみれば確かにそうか、ならそれでいくか」

「もしくはギガンテスを倒してみて、それで決めるとか?」

「なるほど、それでガイアが強化されるのを見るのも手だな」

「うん!」

「よし、それでいこう」

 

 例え僅かな可能性でもそれを潰しながら、こうしてヴァルハラは着々と攻略を進めていく。


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