ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第115話 集結の日~決着~

「さてそんなわけで、私もハチマン君のお手伝いをしに来たよ!」

「ありがとうございます、め……ビウスさん」

「あと、ハチマン君の昔の仲間を三人案内してきたからね!」

「えっ?」

 

 ハチマンはそう言われて始めて、

三人のプレイヤーがサラマンダーと戦っている事に気が付いた。

三人ともすさまじい強さを見せており、サラマンダー軍は戦意を失いつつあるように見えた。

 

「あれは……まさか……」

「姉さんが言ってた援軍みたいね」

「そうか……ははっ、あいつら来てくれたんだな」

 

 ハチマンは、涙腺が緩むのを必死にこらえながらそう言った。

 

「敵が総崩れな今のうちに、一度こちらも戦力を再編しましょう」

「その前に聞きたいんだが、俺は一体どんな姿をしてたんだ?」

 

 ハチマンがそう尋ねると、みな目を逸らしながら、口々に言った。

 

「サンタね」

「サンタだった!」

「サンタですね」

「お兄ちゃんはいつまでクリスマス気分なの?コマチ恥ずかしいよ……」

「サンタ?サンタ……まさか……確かにキリトとアレの戦闘は、

神経をすり減らしながらずっと観察してたが……」

「納得したなら、再編を開始するわよ」

「おっとすまん。コマチはリーファを呼んできてくれ。サクヤさん達はMPも無いだろうし、

そのまま警戒しつつ休んでてもらっててくれ」

「分かった!コマチ行ってくるね!」

「さて、それじゃあいつらと合流するか。お~いお前ら、一度こっちに来てくれ!」

 

 ハチマンの声が聞こえたのか、クライン達三人は敵を威嚇しながらこちらに下がってきた。

三人は満面の笑顔で、ハチマンに呼びかけた。

 

「会いたかったぜニコラス!」

「久しぶりだなぁニコラス!俺達も一緒に戦うぜ!」

「えっと……ハチマンさん、お久しぶりです!」

「俺の癒しはシリカだけだな……つーかやっぱり俺はニコラスに変身してたのか……」

 

 そんなハチマンを、三人は笑顔で見つめていた。

ハチマンはその視線に気付き、改めて三人の手をとり、感謝の言葉を述べた。

 

「三人とも、よく来てくれたな。本当にありがとな」

「仲間のピンチだっていうのに黙ってられないからな」

「アスナとリズを助け出すためなんだろ、気にすんなよハチマン」

「そうですよ、当たり前の事です!」

「やっぱりお前らは最高の仲間だよ。すまないが、しばらく俺に力を貸してくれ」

 

 四人は再会を喜び合い、その間にコマチとリーファも合流を果たした。

サラマンダーの生き残りはおよそ六十人ほどまで減っていたが、

戦意を失っているらしく、こちらに向かってこようとする者は今のところいなかった。

 

「ハチマン君、まずこの方達を、私達に紹介してもらえないかしら」

「おう、そうだな、この三人は、俺とキリトの昔の仲間だ」

「俺はクライン!以後宜しく!」

「エギルだ、宜しく頼む」

「シリカです!宜しくお願いします!」

「そしてメビウスさんは、言うまでも無いが俺達の頼りになる先輩だ」

「メビウスだよ、宜しくね!」

 

 その挨拶を受け、ユキノ達も口々に自己紹介をした。

それが終わった後、おずおずと言った感じで、リーファがメビウスに尋ねた。

 

「あの、さっきから気になってたんですけど、

もしかしてメビウスさんて、ウンディーネの領主のメビウスさんですか?」

「えっ?」

 

 それを聞いて、ウンディーネであるユキノは、きょとんとした。

 

「おいユキノ、お前ウンディーネだろ。何でお前が、えっ、て言うんだよ」

「ごめんなさい、私はゲーム開始直後からずっと、

アルンからシルフ、ケットシー領あたりで活動していたから、

ウンディーネ領の事はまったく調べていないのよ」

「ああ、そういう事か。それで先輩、本当のとこどうなんですか?」

「うん、私はウンディーネの領主だよ」

 

 メビウスはその質問に、あっけらかんとそう答えた。

 

「まじっすか……」

「でもしばらくインしてなかったから、もう解任されてるかもね」

「確かにそういう話はあったみたいですけど、まだ解任まではいってないみたいですよ」

 

 リーファはサクヤに聞いた事があるらしく、メビウスにそう言った。

 

「そうなんだ、それじゃやっぱり領主って事で合ってるね」

「まさかの展開だな……」

「それじゃ、話も済んだところでサラマンダーへの攻撃を開始しましょうか」

「それなんだが、あいつらもう戦意を喪失しているように見えないか?

まったくこっちに手出しして来ないしな。

もしかすると、キリトがあのユージーンって奴を倒せばこの戦闘は終わるんじゃないか?」

「そうね、確かにそうかもしれないわ。キリト君次第ではあるけれど、可能性は高そうね」

 

 その時クラインが、キリトの方をちらりと見て、思い出したように言った。

 

「そういえばキリトが相手してるあのサラマンダー、随分強そうな奴だったな」

「あれはユージーン将軍と言って、サラマンダーの領主の弟よ。

魔剣グラムの所有者にして、ALOで最強のプレイヤーと言われているわね」

「まじっすか!そんな強い奴なんすね!」

 

 クラインの驚きをよそに、ハチマンが言った。

 

「まあ気の毒だが、その称号も今日までだな」

 

 その意味を理解したのか、エギルが同意した。

 

「そうだな、キリトが負けるわけないしな」

「みんな、本当にキリト君の事を信じてるんだね!」

「信じてるっていうかな、そもそも疑う余地が無いんだよな」

「ハチマンも強かったけど、やっぱり俺達の中で最強って言ったらあいつだからな」

「キリト君の強さって、そこまでなのね」

「ああ」

 

 ハチマンは頷きながら、キリトに向けて叫んだ。

 

「お~いキリト、クラインとエギルとシリカが来てくれたぞ!

お前ももたもたしてないで、さっさとそいつを倒しちまえよ!」

 

 そのハチマンの言葉が聞こえたのか、キリトはこちらを見ると、

嬉しそうに顔をほころばせ、剣を高く掲げた。

 

「了解、だってよ」

「それじゃあ私達は、戦わないまでも、サラマンダー軍をけん制しておきましょうか」

「もし襲ってきたら、別に全滅させてしまっても構わないだろ?」

「そうね、まあ状況次第ね」

 

 ユキノがそう言い、一同はサラマンダー軍の前面に展開した。

 

 

 

 ここで話は少しさかのぼる。

キリトとユージーンは、一対一で熾烈な戦いを繰り広げていた。

 

「おいユージーンさんよ、味方がどんどんやられてるみたいだけどいいのか?」

「くっ、お前だけじゃなくあいつも恐ろしい強さだな。

こうなったらもう一刻も早くお前を倒すしかないな」

「まあ勝つのは俺だけど、なっ!」

 

 キリトはその声と共に剣を振り下ろした。二人はしばらく斬り結んでいたが、

キリトはいつの間にか周囲から戦闘の音が消えている事に気が付いた。

 

「ハチマンの変身がとけたのか……ん、味方っぽいプレイヤーが四人増えてるな」

「たかだか四人増えたところで何が出来る」

「そういうそっちはかなり人数が減ってるんじゃないか?」

 

 それを聞いたユージーンは少し後退し、味方の人数を確認した。

確かにざっと見て戦力が六割くらいまで減少しているように見えた。

 

「くっ、四割ほどやられたか。だがもう幻影魔法を使う事は出来まい。有利なのはこちらだ」

「確かにそうだがな、あいつは普通に戦っても強いぞ。ユキノさん達もいるしな」

「それでも五倍の兵力だ。負けるはずがない」

「本当にそうか?お前の部下はもう戦意を失いかけているように見えるぞ。

ここでお前を倒せば、案外そのまま戦争が終わるんじゃないか?」

「ハッ、やれるものならやってみろ」

「もちろんそのつもりだ」

 

 二人は再び刃を交えようとしたが、丁度その時キリトは、ハチマンの叫び声を聞いた。

 

「お~いキリト、クラインとエギルとシリカが来てくれたぞ!

お前ももたもたしてないで、さっさとそいつを倒しちまえよ!」

 

 それを聞いたキリトは味方の方にちらりと視線を走らせ状況を理解し、歓喜を爆発させた。

 

「そうか、ついにあいつらが来たんだな、ハチマン!」

 

 キリトは剣を高く掲げてハチマンに答え、ユージーンに向かって叫んだ。

 

「悪いがもうお前にはまったく負ける気がしないな!行くぞ!」

「来い!」

 

 そして二人は再び、激しい斬り合いを再開した。

だが先ほどまでとは違い、明らかにキリトの方が押していた。

 

「明らかにさっきまでと違う……何だこの強さは……」

「あんたは武器に頼りすぎなんだよ。そもそもその武器のアビリティはリスキーすぎる。

敵の武器を透過した瞬間に避けられてそのまま攻撃されたら、

間違いなくカウンターで大ダメージをくらうだろ。

そもそも敵が相打ち覚悟で来たら、絶対に成功しちまうんじゃないか?」

「ぐっ……」

「それにもう、透過出来る時間は掴んだからな。一刀目が透過したら二刀目で確実に防げる。

一刀目で受け止められたら二刀目で攻撃を当てる。どっちにしろもう詰んでるんだよ」

 

 その言葉通り、キリトは確実に攻撃を当てるようになってきていた。

ユージーンは焦り、何とかしようと攻撃が大振りになってきていた。

もちろんその隙を見逃すキリトではなかった。ユージーンが渾身の攻撃を繰り出した瞬間、

多少ダメージをくらうのを覚悟で、キリトは思い切り武器を振りぬいた。

折悪くユージーンはアビリティによって武器を透過させていたので、

その攻撃はカウンターとなり、ユージーンに痛撃を与えた。

結果ユージーンの攻撃は空振りとなり、それを追撃する形でキリトは、

スターバーストストリームをなぞる形で、システムアシスト無しに連続攻撃を開始した。

 

「これで終わりだ!」

「う、うおおおおおおおお」

 

 キリトの攻撃により、ユージーンの体に命中を示すいくつもの筋が走り、

ユージーンのHPはどんどん削られていった。

そしてほどなく全てのHPを削り取られたユージーンは爆散し、

そこにはリメインライトの炎だけが残った。

 

「天晴れ!」

「キリト君すごいすごい!」

 

 サクヤとアリシャはそれを見て、大声でキリトを賞賛し、連合軍から大歓声が上がった。

ユキノはこの期を逃すまいとすぐに降伏勧告を行い、サラマンダー軍はそれを受け入れた。

こうして戦いは終わり、即ユージーンの蘇生が行われ、戦後処理が開始される事になった。


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