ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第1150話 ガイア、発狂モード

「レコン、コマチ、ちょっといいか?」

 

 ハチマンが最初に行ったのは、シルフ軍に加わっている、レコンとコマチを呼ぶ事だった。

 

「はい、ハチマンさん」

「お兄ちゃん、どうしたの?」

 

 呼ばれてこちらに来た二人に、

ハチマンは先ほどクリシュナとユイと話し合った事を説明した。

 

「………なるほど、その可能性はありますね」

「どうすればいい?」

「とりあえず対策としては、ガイアのその攻撃………、

まあ発狂モードの時の可能性が一番高いと思うんだが、

その時に出来るだけ味方を遠くまで離しつつ、

ヒーラー全員に、継続回復もしくはでかい範囲回復魔法を使って貰う。

同時に各自でポーションを使ってもらって、後は誰かに耐えてもらってる間に、

頑張って体勢を立て直す、くらいかな」

「確かにそれくらいしか無いかもですね」

「もしかして、ランダムに複数を死亡させられちゃったらどうする?」

「基本は同じだな、とにかく建て直しが最優先だ」

「分かった、それじゃあそんな感じでみんなに伝達しておくね」

「悪い、頼むわ」

 

 さすが、二人はベテランなだけあって話が早く、

ハチマンの意図を正確に仲間に伝えてくれるだろう。

それが行き渡った時点でハチマンは、

ガイアとヘカトンケイルのHPを同時に削りにいく作戦に出た。

 

「キリト、とりあえずガイアのHPを半分まで削る。

その間にヘカトンケイルを一発で削りきれる状態にして、

そこからガイアを発狂モード直前まで持っていってからヘカトンケイルを倒すぞ」

「オーケー、それじゃあ人員を二手に分けるよ」

 

 HPが二割ごとにどう攻撃が変化するかを見極めつつ、

ガイアとヘカトンケイルのHPは順調に削れていった。

ヘカトンケイルは攻撃の威力が上がった他に特に変化はなく、

敵の手数が増えなかった為、近接陣によって順調に削りを行えている。

対してガイアは八割、六割になった時点で手数がとんでもなく増えた為、

しっかりタンクで挟んだ上で、とにかくスイッチによる一撃離脱戦法が行われる事となった。

さすがはイベントの最終ボスなだけあって、その攻撃の激しさはかなりえげつない。

だが一度に前に出る者が減ったせいもあり、

ヒーラーがダメージをくらった者も即座に癒していった為、

ここまでは特に死者を出す事もなく、戦闘は順調に推移していった。

 

「残り時間は一時間、まあ問題ないか」

「そうね、まあ順調だと思うわ」

 

 ずっと回復を行ってきた為、少し休憩する事にしたのだろう、

アスナと交代で休憩していたユキノがハチマンにそう返事をしてきた。

アスナは前衛でいる時は特にMPを使う事もない為、

そのMPは有り余っており、ヒーラーの交代要員としては最適なのであった。

 

「ハチマン、順調みたいだね」

 

 そこにやってきたのはここまで何もしてこなかった、フレイヤである。

 

「フレイヤ様、暇なんですか?」

 

 ハチマンは笑いながらフレイヤにそう言い、フレイヤは気を悪くするでもなく、

ハチマンに微笑み返した。

 

「そうなのよ、ハチマン達が強いから、楽が出来るわ」

「それはお役に立てて良かったです」

「まあ何かあったら私も戦うから、大船に乗ったつもりでいてね」

「はい、その時はお願いします」

 

 そんな社交辞令のようなやり取りを交わした後、フレイヤは元の場所に戻っていった。

 

「………おいユキノ、今の、どう思う?」

「私達が強いから楽が出来るわって、微妙な言い方ではないかしら」

「だよな、おいクリシュナ、ちょっといいか?」

 

 そこでハチマンはクリシュナを呼び、三人は今のフレイヤの言葉について、検討を始めた。

 

「………って訳なんだが」

「確かに引っかかるわね、それに私も見てたけど、

フレイヤ様が動いたのって、ガイアのHPが丁度半分になった瞬間だったわよ」

「え、マジでか?さすがはタイムキーパー………」

「時間は関係ないけどね、でも確かにそのタイミングだったわ」

「何か警告してくれてるのかな?」

「かもしれないわね、この後、私達がピンチになるような事が起こるのかしら」

「まあ俺達には、警戒する事しか出来ないけどな」

「まあそうよね………」

「とにかくこのまま戦闘を進めてみましょう」

「だな………」

 

(まったく嫌なフラグを立ててくれたな、あの女神様)

 

 ハチマンはそう思いながら、ヘカトンケイルに目をやった。

そのHPは残り三割ほどであり、複数のソードスキルを重ねれば、

一気に削りきれるであろうくらいには削りが進んでいた。

 

「………よし、そろそろか。とりあえずヘカトンケイルの削りはここまでだ、

後はガイアのHPを残り三割くらいまで削りにかかってくれ」

 

 その言葉に従い、今度はガイアの削りが開始された。

そして順調にそのHPが残り三割になった頃、ハチマンはヘカトンケイルを倒す事にした。

 

「よしキリト、メンバーを選抜して、ヘカトンケイルを一気に削っちまってくれ」

「了解、それじゃあユウキ、ユージーン、それにアスナとラン、こっちに来てくれ」

 

 キリトの選抜は妥当だろう。この後何が起こっても対応出来るように、

出来るだけ多くの仲間を敵から離そうとしたのである。

後衛を選ばなかったのは、ユミー、イロハ、フェイリスも、

決して得意ではないが、一応回復魔法や蘇生魔法を使えるからだ。

そして五人はヘカトンケイルに歩み寄り、

それぞれの最大威力のソードスキルを一気に叩きこんだ。

 

「花鳥風月!」

「スターリィ・ティアー!」

「ヴォルカニック・ブレイザー!」

「マザーズ・ロザリオ!」

「ブレイクダウン・タイフォーン!」

 

 ちなみにキリトのブレイクダウン・タイフォーンは、

実は四連のオリジナル・ソードスキルとして登録に成功していた。

左袈裟、右袈裟、そして横薙ぎと続いた後、力を溜め、突進と共に放たれるその技は、

一撃一撃の重さが凄まじく、トータルのダメージではスターリィ・ティアーをも超えてくる。

ただスターリィ・ティアーと比べると、攻撃速度と連射性には劣る。

 

 

 

「おおおおお!」

「一気に決めやがった!」

「これで二体目も討伐完了か」

「でも何か慎重すぎないか?」

「初見の時はそれくらいでいいんだよ!」

 

 これには観客達も大喜びであった。

 

「凄~い!」

「派手な攻撃だねぇ」

「愛ちゃんにはああいうのはまだ無理?」

「ですね、あそこにいるのって、ALOでベストテンに入るような人達ですから」

 

 優里奈のその言葉に、フランシュシュの一同は、まあそうだねと納得した。

 

「で、後はあのオバサンを倒せば終わり?」

「ですね、でも残りHPが一割になると、発狂モードになりますから、

そこでどんな攻撃が来るかって感じですね」

「発狂………何か怖そう」

「愛、純子、ファイト~!」

 

 

 

 そしてその五人の攻撃で、ヘカトンケイルのHPは呆気なく削り取られた。

同時にユキノから五人に継続回復の魔法が飛んだが、

ガイアの攻撃には特に変化が無く、ハチマンは拍子抜けしつつも五人を一旦下げ、

残りの者達でガイアの削りを再開させたのだった。

 

「パパ、やっぱりガイアの持つエネルギー量が増加しました」

「だよな………これは発狂モードの時に最大限警戒しないとか」

「ですね」

 

 ハチマンは一応仲間を下げ、ホーリーだけをその場に残し、

残りの者達には完全に回復してもらった上で、

その位置からシノンにだけ攻撃させるという慎重策をとった。

 

「悪い、頼むわシノン」

「ふふん、やっと私の力を認める気になったのね」

「いや、それは前から認めてるけど」

「なっ………ちょっと、何その不意打ち」

「いや、そもそも俺がいつお前を認めなかったよ」

「ふ、ふふん、まあ分かればいいのよ分かれば」

「へいへい、まあ頼むわ」

「任せなさい」

 

 ハチマンとそんな言葉を交わしてから、シノンの攻撃の威力が明らかに上がった。

 

「恋する乙女の………」

 

 ハチマンの耳元で、再びユミーがそう囁いたが、ハチマンは完全にスルーである。

それからもシノン単独での攻撃は続き、

ガイアのHPは残り二割を切り、まもなく一割に達しようとしていた。

 

「そろそろか………みんな、警戒してくれ」

 

 ハチマンはそう言いながらフレイヤとロキの方を見たが、

二人が動く気配はまだ感じられない。

 

(思い過ごしならいいんだけど………な)

 

 そして遂に運命の時が来た。ガイアのHPが残り一割になったのだ。

今は全員に継続回復魔法がかけられ、防御魔法も重ねがけされている。

その瞬間にガイアの目が妖しく光を放った。

 

『ええい、鬱陶しい妖精どもが!神罰をくらうがいいわ!』

 

 それと同時にガイアの体から真っ赤な光が飛び出し、上空へ達したその瞬間に、

その光がいくつもに分裂し、ハチマン達へと降り注いだ。

 

「くそ、やっぱり範囲攻撃か!」

 

 その攻撃に全員は身構えたが、最初にその光が着弾したキリトが、

まさかのまさか、そのまま倒れていく。

 

「何………だと………」

 

 見るとキリトのHPは既にゼロになっており、

キリトはそのままリメインライトへと変化した。

 

「強制死亡とかやり方が汚ねえ………」

 

 そのまま仲間達は次々と死亡していき、遂にハチマン目掛けてその光が迫ってきた。

 

「くそっ、さすがにこれはあんまりだろ………」

 

 ハチマンは、成す術無しという風に、その光に目を瞑った。

 

 

 

 観客達は、その光景に呆然としていた。

 

「お、おい………」

「何だよあれ、ありえないだろ………」

 

 今彼らの目の前で、彼らにとっては英雄とも呼べるプレイヤー達が、

成す術もなくバタバタと倒れていっていたのである。

 

「リメインライトがあんなに………」

「くそっ、やりすぎだろ、バ開発!」

「頼む、何とかしてくれ、ザ・ルーラー!」

 

 そんな彼らの願いも空しく、ハチマンの頭上にも、その赤い光が迫っていった。

 

「くそっ、くそっ!」

「神様もいるんだろ、何とかしてくれよ!」

 

 その言葉はロキとフレイヤに向けて放たれたものだったが、

画面を見ている限り、彼らが動く気配はまったく無い。

そして遂にハチマンに、その赤い光が着弾した。

 

「うおおおおおおお!」

「ふざけんな!ふざけんな!」

「きゃああああ!」

「ルーラー様!」

「ハチマン様!」

 

 それを目の当たりにした観客達が絶叫した瞬間、モニターは光に包まれた。


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