「うおおおおおおお!」
「ふざけんな!ふざけんな!」
「きゃああああ!」
「ルーラー様!」
「ハチマン様!」
ハチマンに赤い光が迫るのを、観客達は悲鳴を上げながら眺めていた。
「ハチマンさん!」
「うわぁ、やばいやばい!」
「まずい、まずいって!」
同じく優里奈達も、この光景に悲鳴を上げていた。
だが直後に画面が白く光り、ハチマンが額に装備していた鉢金から、
何かが飛び出してくるのを優里奈は確かに見た。
「………えっ?」
「………犬?」
「大きなわんこだ!」
「これって味方どすえ?」
「これでハチマンさんが助かるかも!」
「いけ~、いけ~!」
ハチマンはまだ気付いていなかったが、観客達もその光景を目の当たりにし、
それが以前散々自分達を襲っていた、フェンリルである事に気が付いた。
「お、おい、あれ………」
「フェンリルだよな?」
「おおおおお、まさかのフェンリル登場!?」
「前は嫌いだったけど、今は好きだ!」
「神降臨!」
それから画面には映っていなかったが、
ハチマン以外にフカ次郎も生き残っていた事が確認され、観客達は別の意味で驚いた。
「えっ、あれ………フカ次郎?」
「おいおいおい、剣王や絶対暴君まで死んでるのに、何であいつが生きてるんだ?」
「よく分からないが、凄えなあいつ!」
その時フカ次郎の、こんな言葉が画面から聞こえてきた。
『リ、リーダー!リーダーが愛してやまないフカちゃんはここですよ!』
『俺が愛してやまないフカ次郎ちゃんなんて奴はこの世に存在しない、お前は誰だ』
『こんな時にボケなくていいですから!ごめんなさい冗談ですから!』
「お、おい………」
「大物だなあいつ………」
「生き残った事といい、本当に凄えな………」
こうして本人の知らない間に、フカ次郎の株が上がる事となった。
「でもここからどうするんだ?」
「まあ、ザ・ルーラーなら何とかするだろ」
「俺は全てを支配する!」
「敵は一体なんだし、お手玉すりゃ良くね?」
どうやら考える事は皆同じのようである。その直後にフレイヤが画面に登場した。
「あっ、見ろ!」
「フレイヤ様だ、フレイヤ様来た!これで勝つる!」
「三人まで蘇生?なるほど、こういうイベントかよ」
「でも十分は厳しいよな」
「いやいや、さっきも言ったけどお手玉で………」
観客達はこんな感じで盛り上がっていたが、八幡の部屋は別の意味で盛り上がっていた。
『ふふっ、自分の男の頼みを聞くのは当然の事よ』
その言葉に優里奈がピクリを頬を振るわせた。
「年増が八幡さんを誘惑しようだなんて百万年早いです!」
「ゆ、優里奈はん、落ち着いておくれやす」
「そうだよそうだよ、相手はゲームのキャラなんだしさ?」
「そ、そうでした、すみません」
「優里奈、かわいい」
「も、萌郁さん、からかわないで下さい!」
こちらでは、フレイヤのセリフに優里奈が過剰反応したのであった。
だがそんな和やかな雰囲気もそこまでだった。
「あっ、もしかして、助けを呼ぼうとしてる?」
「眷属って、まずいんじゃない?」
「かもしれません、フカさんの回避力って多分そこまで高くないはずですし………」
だが召喚された子犬を見て、優里奈達は常識的な思考を経て安堵する事となった。
「あっ、かわいい!」
「何だ、あれなら平気そうじゃない?」
「ですね」
その直後にフカ次郎が壁を走り出し、一同のみならず、外の観客達も驚愕する事となった。
「何だあれ、あんなアイテムあったのか?」
「壁を走ってやがるな………」
「やっぱりヴァルハラって凄えなおい!」
それによってフカ次郎が完璧にガイアを抑え込む事に成功し、
フカ次郎の評判は更に上昇する事となった。
「おお~、やるなフカ次郎!」
「元シルフ四天王は伊達じゃないって事か!」
「あっ、おい見ろ、あれ!」
直後に画面が切り替わり、ハチマンに巨大な獣の顎が迫っていった。
「いきなり何だ!?」
「あれってさっきの犬か?」
「犬じゃねえ、あれって確か………」
「「「「「ケルベロスか!?」」」」」
そんな声があちこちから上がり、観客達はどよめき始めた。
「おいおい、ケルベロスまで復活かよ」
「もう何でもありだな」
「でもザ・ルーラーの奴、何か嬉しそうじゃね?」
「この戦いは見ものだな!」
同様に八幡の部屋では、女性陣が嫌そうな顔をしていた。
「………わんこがかわいくなくなった」
「うん、かわいくないね………」
「むしろ汚い………」
「ハチマンさん、そんな奴、さっさとやっつけちゃって下さい!」
そしてそれを見ていた七つの大罪の幹部達の感想もまた、微妙に違っていた。
「………おいあれ」
「なぁ、あれってタルトが飼ってたワンコだよな?」
「あっ、今確かに、テイムはされてたが、とか言ったな」
「でも巨人側だから問題ないって………」
「でもアスタルトの奴、今あそこにいるよな?」
「うわ、マジかよ、これってケルベロスにとっての死亡フラグじゃね?」
「あいつ、お笑い担当だったのか………」
もちろんこの予想は実現する事となる。
「かかってきやがれ!」
「言われなくとも!」
そして遂にハチマンとケルベロスの戦いが幕を上げた。
だが以前やり合った時と同じように、やはりケルベロスの攻撃は、ハチマンまで届かない。
というか、更に情勢は悪くなっていた。
『くそっ、くそっ!』
「どうやら前と、全く変わっていないみたいだな、ケルベロス」
『何故だ、何故攻撃が当たらん!』
「そりゃお前が弱いからだろ」
『ぐっ………』
「そもそも牙と爪の攻撃だけなんて防げて当然だ。おいお前、炎の攻撃はどうした?」
「そ、それは………」
ケルベロスは何も言い返す事が出来ずにいた。
さすがのハチマンも、さすがにこれは弱過ぎじゃないかと疑問を抱き始める。
そして相手をよく観察した結果、ハチマンは相手の尻尾が一本しかない事に気が付いた。
「………あれ、お前、もしかして尻尾をまた失ったのか?」
『くっ………そこに気付きおったか、我は本体の一本の尻尾から蘇った存在だ、
だから当然尻尾は一本しかないわ!』
開き直ったようにそう叫ぶケルベロスに、ハチマンは憐れみの視線を向けた。
「何だ、そういう事か、それならもう負けようが無いじゃねえかよ」
『そ、それはお前だからだ!他の奴が相手なら、そう簡単にやられはせんわ!』
「そうかぁ?」
ケルベロスはその言葉には反応せず、踵を返してハチマンから離れ始めた。
「あっ、お前、一体何を………」
『フン、お前とはもうやりあわん、他に蘇生が終わった奴を、片っ端から殺してくれるわ!』
「あっ、こら!」
丁度その時、フレイヤの蘇生が発動し、アスナ、ユキノ、ホーリーの三人が蘇った。
『ハチマン、蘇生が完了したわ!』
「ありがとうございますフレイヤ様、これで何とかなります!」
『ううん、こっちこそ遅くなってごめんね?この借りは必ず体で返すから!』
「あっ、いえ、別に貸したつもりなんてまったく無いですからそういうのは………」
そのハチマンの言葉を最後まで聞かず、フレイヤは後方へと下がっていった。
さすがのケルベロスも、フレイヤに手出しをする気配はない。
「まあいいか、とりあえずアスナ、ホーリーと二人でガイアを抑えてくれ!」
「オッケー、任せて!」
「今度こそ仕事をやり遂げてみせるよ」
二人はハチマンに頷くと、ガイアの方へと走っていった。
これでフカ次郎も近接アタッカーとして本領を発揮する事が出来るはずで、
ヒーラーとしてアスナも機能する以上、これでガイアの抑えは完璧に安心だろう。
そしてハチマンはユキノに向かって言った。
「それじゃあユキノ、先ず最初に………」
「アスタルト君を蘇生させるのね?」
「ああ、さすが話が早いな」
「ふふっ、見ていたもの」
ユキノは直ぐに蘇生に入り、しばらくして、アスタルトを蘇生される事に成功した。
その間、ハチマンはケルベロスをバッチリマークしており、
ケルベロスは悔しそうにこちらを見ているだけであった。
「それじゃあユキノ、ユキノの判断で、ガイアを倒せるだけの戦力を整えてくれ。
残りの連中の蘇生はまあ後でもいいだろ」
「分かったわ、ケルベロスの事は任せたわよ」
「おう、余裕余裕」
そしてハチマンは、続けてアスタルトにこう尋ねた。
「さてアスタルト、事情は分かってるな」
「はい、本当にまさかでしたね」
「こっちとしては、そのまさかのおかげでマジ助かったわ」
「別にハチマンさんだったら余裕だったんじゃないですか?」
「それはそうだけど、まあ、より楽が出来るってのは大事な事だろ?」
そのハチマンの言葉にアスタルトはクスリと笑った。
「はい、そうですね」
そして二人はケルベロスに向かって歩き出した。
「くっ、二人になったからとて、我はそう簡単には捕まらんぞ」
「さて、それはどうかな?おい、アスタルト」
「はい」
そしてアスタルトが前に出ると、ケルベロスは大きく目を見開いた。
「ま、まさか………そんな………」
「
アスタルトがそう呼びかけた瞬間に、ケルベロスは弾かれるように走り出し、
アスタルトの前に座ってハッハッと嬉しそうに息を吐いた。
「よしよし」
「くぅ~んくぅ~ん………って、ハッ!?ご、ご主人、何故あなたがここに!?」
ケルベロスはハッハッと舌を出したまま、嬉しそうな表情を崩さずにそう尋ねてきた。
「うわ、トルテって喋れたんだ?」
それに対するアスタルトの反応は、実にのんびりしたものであった。
「アスタルト、そのトルテってのは?」
「あ、はい、僕の名前はタルトじゃないですか。これってフランス語読みなんですよ。
で、それをドイツ語読みにすると、トルテなんです」
ハチマンはその説明に納得し、うんうんと頷いた。
「なるほどな、それじゃあトルテ、お手!」
「フン、貴様の言う事なぞ聞かぬわ!」
「トルテ、お手」
「わんっ!」
ハチマンの言葉には従わなかったケルベロスは、
だがアスタルトの言葉には嬉しそうに従った。
それを見てハチマンは、思わずかわいいと思ってしまった。
「くっ………」
「へぇ、お前、結構かわいいのな」
「くっ、殺せ!」
「いやいや、他人のペットを殺したりなんかする訳ないだろ、
アスタルト、とりあえずこいつにガイア討伐の手伝いをさせようぜ」
「はい、分かりました」
「なっ………我はガイア様の眷属ぞ!そんな事、出来るはずが………」
「眷属とテイムした主人の命令、どっちが優先になるんだ?」
「そっ、それは………」
ケルベロスが言い淀んだ事で、ハチマンは正解を知る事が出来た。
「オーケーだ、それじゃあアスタルト、一緒にガイアを攻撃しようぜ」
「はい!」
「くっ、ご、ご主人!」
「トルテ、攻撃開始!」
「わ、わんっ!」
こうしてケルベロスはガイアへの攻撃を開始し、ガイアはその事実に驚愕した。
「ケ、ケルベロスよ、何故味方の妾を攻撃するのじゃ!」
「そ、それは………」
「それはこのおばさんが嫌いだからだよね、トルテ」
「わんっ!」
「何じゃと!この裏切り者めが!」
こうしてガイアは孤立し、
ハチマン達は遂にこの戦闘にリーチをかける事が出来たのだった。