ハチマン達は、必勝の確信を持ってガイアと戦っていた。だが何か様子がおかしい。
「ハチマン君、ガイアのHPが全く削れてなくない?」
「だな、これはどういう事だ?」
「防御力が凄まじく上がっているのかな?」
「ハチマン君、魔法も効かないわ」
そうしている間にも、時間は刻一刻と過ぎていく。
ここにいられる残り時間はあと十五分ほどとなっていた。
「どうする?」
「まあやりようはあるさ、無敵って事はないだろうから、
とりあえず強制的にダメージが入る状態にもってってやろう」
ハチマンは自信満々でそう言うと、ホーリーの隣に立った。
「おや、ここで真打ち登場かい?」
「まあそういうこった」
そんなハチマンに、ガイアが嘲笑を浴びせてくる。
『ふふん、そう簡単に妾に傷をつけられると思わぬ事じゃ。
今の妾の防御力は、並大抵ではないからのう』
「へぇ~、そりゃ凄いな」
ハチマンは無表情でそう言った後、ホーリーに言った。
「何本かこっちに回してくれ」
「………なるほど、そういう事か」
ホーリーは言われた通りに触手の攻撃を何本かスルーし、
ハチマンはその触手にカウンターをくらわせた。
「キリト、今だ!」
「あっ、そうか!」
即座にキリトは攻撃を放ち、その攻撃はクリティカルヒットとなって、
ガイアに普通にダメージを与えた。
『何じゃと!?』
「いくら防御力が高かろうとも、
カウンターをくらわせた後は完全に無防備になる」
『そ、そんな方法で………』
「まあ弱体化の方法が他にあるのかもしれないが、今はそれを探してる時間が惜しい。
という訳でみんな………やっちまえ」
「「「「「「おお!」」」」」」
それからはガイアにとって地獄のような時間が始まった。
いくら攻撃してもすぐに弾かれ、直後にダメージがどんどん与えられていってしまう。
残念な事に、多段のソードスキルは初段しか攻撃が入らなかったが、
単発ソードスキルを使う事で、通常よりも大きなダメージを与える事が出来、
その繰り返しによって、あれほど手こずったこの戦いは、
あっさりと終わりを迎える事になった。
『ま、まさか妾がこんなに簡単に………』
「まあ楽しかったわ、色々学ぶ事も多かったしな」
『き、貴様さえ、貴様さえいなければ………』
「そんな仮定に意味があるかよ、俺は常にヴァルハラと共にあり、だ」
『く、くそおおおおお!』
「それじゃあはい、さよならっと」
最後にハチマンがカウンターを決め、そのままガイアの体に剣を突き入れた。
それでガイアのHPは全損し、宙にいつもの如く、
『CONGRATULATIONS』の文字が躍る事になったのだった。
観客達は、あれよあれよという間にハチマンが体勢を立て直していき、
あまつさえケルベロスがアスタルトに完全服従しているのを見て、
その展開の凄まじさに大盛り上がりであった。
「あはははは、何であそこから立て直せるんだよ!」
「まさかケルベロスをペットにしてる奴がいたなんてな………」
「俺見たぜ!確かに前の狩りの時、あいつ、白い犬を連れてやがった!」
「俺も見たわ、まさかあれがケルベロスだったなんてなぁ………」
「ザ・ルーラーって、やっぱり持ってるよなぁ………」
「いやあ、いいもん見せてもらったわ、これでイベントも全部終わりか、お疲れさん!」
「おう、お疲れ~!」
「乙乙~!」
同じく結果を見届けた七つの大罪の幹部連は、大笑いしていた。
「あはははは、やっぱりこうなりやがったか!」
「まさかあれがケルベロスだったなんてな」
「ちょっと前までうちのメンバーだったアスタルトを戦闘に連れてった、
ハチマンの決断力ったらよう………」
「フン、俺も負けてられんな!しかし今回の戦闘は実に参考になった!」
「俺達もあれを参考にして、もっと強くなろうぜ」
「とりあえずSDSとの戦争に勝たないとな!」
「戦争か………」
そう呟きながらルシパーは、遠くで佇んでいるシグルドの方をチラリと見た。
シグルドもこの戦いを見て何か感じるものがあったのか、
仲間達としきりに何か話していた。
「………とりあえず詫びを入れてみるか」
「ん、ルシパー、何か言ったか?」
「いや、何でもない。ただ………、
今の俺達に、戦争なんかしてる暇があるのかなって思っちまってな」
「お前が言うな!」
「ははっ、違いねえ」
この数日後、ルシパーはSDSのメンバーに頭を下げ、
七つの大罪とSDSは、再び協力関係を取り戻す事となる。
その時点では完全に和解出来た訳ではなかったのだが、
少なくともそれ以降、どちらもお互いを裏切るような事はせず、
いつしかその関係は、良好なものへと変わっていったのだった。
そして最後にハチマンの部屋では、早くも祝勝会の準備が行われていた。
「うおお、凄い凄い!」
「勝ったね!やったね!」
「愛ちゃんと純子ちゃん、最後は死んだままだったね」
「まあ仕方ないって、勝てば良かろうなのだ!」
「本当に格好良かったどすなぁ」
「そうだ、勝利のお祝いをしないと!」
「あっ、それじゃあ私、買い出しに行ってくるね!」
「私も付き合います!」
「ありがとう、それじゃあ行こっか!」
そして戦いの現地へと場面は戻る。
「よっしゃ、勝ったあ!」
「それじゃあみんな総出で蘇生作業といこう」
「あっ、だね!」
「っと、その前にキリト、お前は奥に向かって、エクスキャリバーを取ってこいよ。
とりあえず手の空いてる何人かはキリトについていってやってくれ」
「あっ、そうだった!」
すっかりその事を忘れていたのだろう、キリトは慌てたような顔をし、
一緒に行ってくれる仲間を募った。
「それじゃあ行けるのは………」
「私は行くわよ」
「それじゃあ私も!」
「仕方ないわね、私も行ってあげるわ」
「それじゃあ俺も付き合うとしますかね」
「私も興味あるけど、蘇生活動をしないとかな」
「いや、何かあった時にヒーラーを出来る奴がいた方がいい、
リーファもキリトと一緒に行ってやってくれ」
「あ、うん、ハチマンさん、分かりました!」
名乗り出たのはリズベット、シリカ、シノン、クライン、リーファであった。
さすがにハチマンはこの場に残って事後処理を行うようで、
アスナやユキノは蘇生活動で忙しい。他にも手が空いている者はいるにはいたが、
フカ次郎などはかなり疲弊しており、タンク連中も同様のようであった。
「まあ問題ないよな?」
「ああ、平気平気。それじゃあ行ってくる」
「吉報を頼むぜ」
「任せとけって!」
そのままキリトは奥へと向かっていった。
「ねぇ、何か地面が揺れてない?」
「まさかこの宮殿、崩壊するんじゃないだろうな?」
折りしもハチマンからキリトに連絡が入った。
ケルベロスことトルテが言うには、この宮殿は、ガイアの死後三十分で崩壊するらしい。
そして今は十分が経過している。
「………って事らしい」
「あと二十分か」
「余裕を持って、五分前行動をしたいところね」
「だな、とにかく急ごう」
そしてキリト達は宮殿をどんどん下っていき、
遂にエクスキャリバーが見える所まで到達した。
「これは………」
「あそこまで行くのは可能だろうけど、その後どうやって上に戻ればいいかな?」
「エクスキャリバーの所有権を得てから死ねば問題ないと思うぜ?」
「所有権………持てば取れるかしらね?」
「まあ行ってみるしかないだろうな」
「あっ、それなら私にいい考えがあるよ!」
リーファが突然そんな事を言い出した。
「いい考えって?」
「えっとね、ここにトンキーを呼べばいいんじゃないかなって」
「あっ、そうか!トンキーなら………」
「いいなそれ!」
キリト達はそのアイデアを採用し、トンキーを呼ぶ為に大声を上げた。
「お~い、トンキー!」
どういう理屈かは分からないが、
今まではどこで叫んでも、トンキーは必ずこちらに駆けつけてくれていた。
そして今回もその通りになり、五分ほど待つ事となったが、
トンキーが近くまで飛んできてくれた。ちなみに残り時間はあと五分ほどである。
「ギリギリ間に合ったな」
「よし、それじゃあキリト、お願いね」
「おう、任せとけって」
キリトは果敢にエクスキャリバーが刺さっている台座に飛び移ると、
エクスキャリバーを引き抜こうと力の限り引っ張った。
だがその抵抗はかなりのもので、エクスキャリバーは中々抜けない。
「キリト、どう?いけそう?」
「ちょっとずつ動いてるから、多分いける」
「時間が無いよ、急いで!」
「おう、分かってる」
キリトはそのまま全力でエクスキャリバーを引っ張り続けた。
その甲斐あってかエクスキャリバーは徐々に台座から抜けていき、
遂にキリトはエクスキャリバーを入手する事に成功した。
「おおおおおお!」
「やったね!」
「キリト、所有権は?」
「ええと………ここから持ち出さないと駄目みたいだな」
キリトは渋い顔でそう言った。どうやらストレージにしまう事もまだ出来ないようだ。
「そっか、こっちまで運べる?」
「う~ん、これ、必要な筋力には達してるんだけど、何故か凄く重いんだよなぁ」
「所有権が無いからかな?特殊な武器だもんね」
「まあとりあえずこっちに手を伸ばして!そしたら引っ張り上げるから!」
「悪い、頼むわ」
キリトに向け、リズベットが思いっきり手を伸ばす。キリトはその手を掴み、
それを支えにエクスキャリバーをトンキーの上に引っ張り上げようとした。
「くっ………これ、きついな」
「そうだ!ロープ、ロープか何か無い?」
「あ、私、あります!」
「私もあるわ、と言ってもこれ、モブを捕まえる用のロープ付きの特殊な矢だけど」
「どっちでもいいぜ、とりあえずエクスキャリバーをロープで固定して………」
その時上空から何かが落ちてきて、危機を感じたトンキーが、キリトから大きく離れた。
それは空中宮殿の欠片であった。遂に崩壊が始まったという事なのだろう。
「うわっ!」
「くっ、やばいな、キリト、もう一回だ!」
「ああ、最後まであがいてやるさ」
「キリト、手を!」
「ああ、頼む!」
だがただでさえ不安定なトンキーの上である。掴まる手すりなどがある訳でもなく、
一同はキリトとエクスキャリバーを持ち上げる事が出来ない。
「くおお、重い!」
「せめて所有権だけでも………」
「このまま落ちて、宮殿の範囲外に出たら所有権が取れないかな?」
「どうだろう、トンキーがこの下に行けるようなら可能性はあると思うけど」
その言葉を受け、トンキーが下へと移動しようとしたが、
ある一定の場所から下にはどうしても行けないようであった。
「駄目かぁ………」
「下も宮殿の範囲内って事なのね」
「まずいな、このままだと………」
キリトは葛藤しながらその手の中にあるエクスキャリバーを見た。
「………まだ早いって事なのかな、俺にもう少し力があれば………」
キリトはそう呟くと、潔くエクスキャリバーを手放し、
そのままリズベットに引っ張り上げてもらい、無事にトンキーの上へと乗り移った。
「………キリト、良かったの?」
「ああ、まあ多分、今回は縁が無かったって事なんだと思う。
まあいつかまた機会があったら絶対に手に入れてみせるさ、その時は手伝ってくれよな」
「う、うん」
「もちろんだぜ!」
「当然です!」
「今度こそ絶対に手に入れようね!」
そんな諦めムードの中、一人だけごそごそと何かしている者がいた、シノンである。
「シノン、何してるの?」
「ああ、うん、さっきも言ったけど、この矢ってモブを捕獲する為に使う矢で、
命中させれば自動的に標的にくっつくのよ」
シノンはそう言いながら下を覗きこんだ。
「距離は………まあギリギリか、風向きは………なるほど、
よしキリト、私が落ちないようにしっかり支えて」
「え?あっ、うん」
シノンにそう言われ、キリトはシノンの腰をしっかり支えた。
「行くわよ」
そしてシノンは何の気負いもなく矢を放ち、
その矢は見事な放物線を描いて、見事にエクスキャリバーに命中した。
「うわ、重っ!キリト、このまま引っ張り上げて!さあ、他のみんなも手伝って!」
「お、おう!」
「う、うん!」
「分かった、行くぜみんな!」
それから五分後、一同は、エクスキャリバーを何とか引っ張り上げる事に成功し、
今、キリトの手の中にはエクスキャリバーが確かに握られていた。
「ははっ、嘘みたいな………」
呆然とするキリトの横で、残りの者達は、感動したような目をシノンに向けた。
「「「「シ、シノンさん、マジかっけえ!!!」」」」
そう言われたシノンはふふんと笑うと、キリトの耳元でこう囁いた。
「キリト、これは貸しにしておいてあげるわ。
その代わり、あんたは私とハチマンが結ばれるように、今後は協力するのよ。
もしそれが嫌だって言うなら、私の腰をキリトが後ろから抱き締めたって、
ハチマンにチクるからね」
キリトはその言葉に余裕な態度で答えた。
「ハチマンなら事情を話せば分かってくれるはずだ」
「頭ではそうかもだけど、感情ならどうかしらね。
要するにハチマンが嫉妬してくれるかどうかって事になるけど………、試してみる?」
「むむっ………」
キリトはハチマンがこんな事で動じるはずもないと思いつつ、
普段ハチマンが、若干シノンを特別視しているような気もしていた為、
全く問題ないと言い切る事が出来なかった。
実際問題ハチマンは何とも思わない為、これはキリトの考え過ぎなのだが、
シノンの話の持っていき方が上手かったのだろう、キリトは熟考を重ねた末、シノンに屈した。
「さあ、どうする?」
「………わ、分かった」
「ありがとう、そのエクスキャリバー、大切にしてね?キ・リ・ト・君?」
「お、おう………」
こうして色々な物を犠牲にしつつ、
キリトは何とかエクスキャリバーを入手する事に成功したのであった。