ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第1155話 離れてもずっと友達

 ヴァルハラ・ガーデンに戻った後、一同は後日祝勝会を行う事を決め、

順にログアウトしていった。

 

「それじゃあフレイヤ様、ここには自由に出入り出来るようにしておいたので、

どうかゆっくり過ごしていって下さい。ユイ、キズメル、フレイヤ様の事、宜しくな」

「はいパパ!」

「ああ、任せてくれ」

『ありがとう!でも寂しいから、ちょこちょこ私に会いに来てね、ハチマン!』

「ええ、もちろんです」

 

 そう言いつつもハチマンは、フレイヤの事は適当に放置しようと考えていたが、

続けてフレイヤが、何かを操作するようなそぶりを見せながら、ハチマンにこう言ってきた。

 

『ところでハチマン、ここに登録されてるのって、ハチマンのACSのIDよね?』

 

 フレイヤは驚いた事に、ヴァルハラ・ガーデンのコンソールを見事に操作し、

そこからハチマン個人のIDを探し当てて見せたのである。

 

「あっ、は、はい」

 

 ハチマンは戸惑いながらもそう答えたが、この時点でかなり嫌な予感を覚えていた。

 

『オッケー、それじゃあまたね!』

「えっ?あ、はい、またです」

 

 だがフレイヤはそれを確認しただけで何もしてこず、

ハチマンは若干拍子抜けしながらも、そのままALOからログアウトした。

 

 

 

 日高商店のプリンこと日高小春と、ベルディアこと日高勇人は、

今回の戦いの一部始終を見終わり、燃え尽きていた。

 

「うわぁ、兄ちゃん達ってやっぱり凄いなぁ………」

「ええ、まったく久しぶりに手に汗を握っちゃったわ」

 

 燃え尽きたとはいえ、深い満足感に包まれていた二人に、

くるすちゃんがお茶を差し出してきた。

 

「お二人とも、お茶をどぞ~!」

「ありがとう、くるす姉ちゃん!」

「くるすちゃん、ありがとうね」

 

 それなりにプレイしているとはいえ、

ALOに関しては、二人はまだまだビギナーの域を出ていない。

その為今回色々と解説してくれたくるすちゃんの存在は、二人にはとても大きかった。

 

「勇人君、ハチマン様達の戦いぶりを見て、どう思った?」

「えっと、諦めたらそこで試合終了ってテンプレがどれだけ大事な教訓なのかよく分かった!」

「そっか、うん、そうだね」

 

 表情こそ変わらなかったが、くるすちゃんの声はとても優しく、

そんな答えを返してきた勇人の成長を喜ばしく思っているのがひしひしと伝わってきた。

小春もそれを嬉しく思いつつ、丁度画面に映っていたセラフィムを指差した。

 

「あっ、ほらくるすちゃん、セラフィムちゃんが映ってるわよ」

「本当だ、私もお疲れ様!でもまだまだ修行が足りないね、もっと頑張らないと」

 

 小春からすれば、セラフィムも十分活躍していたように見えた為、

何故くるすちゃんがそんな事を言うのか分からなかった。

 

「くるすちゃんは、どの辺りが不満だったの?」

「最後ですね、最後にハチマン様は、ホーリーさんを蘇生する事を選んだじゃないですか。

あそこで私が選ばれるようにならないと、やっぱり駄目だと思うんですよね」

「なるほど、そう言われると確かにそうかもね」

 

 実はこの時、他ならぬセラフィム本人も同じ事を考えていた。

牧瀬紅莉栖の技術を使って作られたAIがどれほど高性能なのか、よく分かる事例である。

それから三人は、ハチマン達の帰還途中に映し出されたヨツンヘイムの風景を楽しみつつ、

自分達がもっと強くなるにはどうすればいいか、という話題でしばらく団らんを続けた。

この三人はまったく血は繋がっておらず、くるすちゃんに関しては人間ですらないが、

もうすっかり本当の家族として、これからも幸せな時間を過ごす事が出来るだろう。

もし八幡はこの風景を見たら、そう確信するに違いない、それはとても穏やかな風景であった。

 

 

 

 そして舞台は八幡達が泊まっている旅館へと戻る。

 

「う~ん………」

 

 八幡が目を覚ますと、その目の前には優里奈や萌郁や栞を始めとして、

フランシュシュのメンバー達と、他の部屋の者達の顔が並んでいた。

 

「おわっ!」

「八幡さん、おめでとうございます!」

「お疲れ様」

「凄く格好良かったです!」

「いやぁ、いい物見せてもらったわ!」

「八幡はんの見事な武者っぷり、この目でしかと見せてもらいました」

「凄い凄い!」

「ピンチの時は、本当に手に汗を握りましたよ」

「いやぁ、ALOも中々楽しそうだよね!」

 

 そう口々に賞賛された八幡は、宴会準備が整えられているのを見て、相好を崩した。

 

「お、おう、みんな、ありがとな」

 

 そこから祝勝会が開始され、この日の夜は大変に盛り上がる事となったが、

その最中に、いきなり八幡のACSに、謎の人物からメールが入った。

 

「ん………これは………誰だ?」

 

 その言葉で明日奈や詩乃が八幡のスマホを覗きこんだが、

顔の広い二人にも全く見覚えの無いIDだったらしく、二人は首を振った。

 

「まあいいか、セキュリティはしっかりしてるんだし、中を見てみれば解決だな」

 

 八幡はそう言って、送られてきたメールを開いてみた。

そのメールは一枚の画像が添付されているだけであったが、

八幡はその画像を見て、慌ててスマホから目を離した。

 

「ど、どうしたの?」

「いや………見てみろよ、これ」

「どれどれ………わっ!」

「ちょっとこれ、どういう事?」

 

 そこにはまさかのまさか、フレイヤのかなり露出が激しい姿が映っており、

八幡は顔を背けたまま明日奈に言った。

 

「悪い明日奈、この画像、明日奈が消してくれ」

「それは別にいいけど………大丈夫?」

「ん、何がだ?」

「いや、ほら、フレイヤ様が機嫌を損ねないかなって」

 

 八幡は目をパチクリさせながら、その意見について検討した。

 

「………ま、まあ平気じゃないか?」

「本当に?」

「むぅ………やっぱりやばいかな………」

 

 八幡は不安になり、明日奈の許可を得て、フレイヤから来た画像には一応目だけ通す事にした。

ALOが()()()()ゲームではない以上、

画像にはおそらく肝心な部分は絶対に映らないだろうし、

多少セクシーなCG程度で収まるだろうという結論に至ったからである。

 

「あの女神、まさかACSを使いこなすなんて、中々やるじゃない。

それでこそ私のライバルだわ」

「え、ライバルって何、っていうかお前は何を目指してんの?」

 

 その詩乃の言葉に八幡は思わずそう突っ込んだが、

詩乃は闘志を燃やすばかりで八幡には返事を返さなかった。

 

「まあいいじゃない、ライバルの定義は人それぞれよ」

「まあそれもそうか、特に何か実害がある訳じゃないしな」

「そうそう、そういう事!」

 

 藍子や木綿季にもそう宥められ、八幡はそれで納得した。

 

「さて、明日はとりあえず、ノリとシウネーの所に見舞いに行って、

その後は土産物を買って帰るからな。みんな、あまり夜更かしはしないように気を付けてくれ」

 

 八幡はそう言って会を閉め、祝勝会はそれで終わりとなり、

ゴミを纏めた後、一同はそれぞれの部屋へと戻っていった。

 

「………しかし本当に勝てて良かったな」

「うん、そうだね。いきなり死んじゃって、本当に焦ったよ」

「あれな………マジでやばかったわ」

「でも楽しかったねぇ」

「ああ、楽しかったな」

 

 二人はそのまま寄り添い合ったが、

さすがに疲れていたせいか、直ぐに眠りに落ちる事となった。

 

 

 

 そして次の日、フランシュシュのメンバー達と別れた八幡達は、

栞を伴ったまま結城病院へと向かい、最初に美乃里の病室を訪れた。

 

「あ、兄貴!見てましたよ、凄かったです!」

「ノリも参加出来れば良かったんだけどな」

「あは、それはまあ次の機会で!」

 

 八幡はノリの頭を撫でながら、先に病室にいた陽乃に話しかけた。

 

「姉さん、ノリの住む寮の部屋の手配はどうなった?」

「もちろんバッチリよ、美乃里ちゃん、元気になったら東京で待ってるからね」

「はい、お世話になります!」

 

 ノリは手術の直後だというのに元気いっぱいであり、八幡はその姿に安心した。

 

「ちなみに八幡君、施恩ちゃんも美乃里ちゃんと一緒にうちに来る事になったからね」

「あ、そうなんですか、それは良かったです」

「まあもうメディキュボイドに入っちゃったから、話すならALOの中でね」

「ああ~、そうなんですか!残念ですがそうしますね」

「まあすぐに会えるわよ、多分来週にはもうメディキュボイドはいらなくなる予定だからね」

 

 その言葉に喜んだのは藍子と木綿季である。

 

「やったわ、これでスリーピング・ナイツの女子組が全員集合ね!」

「いやぁ、楽しみだなぁ」

「ユウ、ノリ、合流したら毎晩女子会よ!」

「うん、そうだね!」

「ラン、気が早いって」

「………せめて週一とかにしとけよ」

 

 八幡は苦笑しながらそう言うに留め、ノリに別れを告げると、

そのまま栞の案内で、ショッピング街へと移動する事となった。

 

「八幡さん、こっちこっち!」

「おお、しかしコヨミさんは相変わらず元気だなぁ」

「それだけが取り柄だから!」

「ちなみにコヨミさんは何の仕事を?」

「普通のOLだよ!まあよく中学生に間違われて困っちゃうんだけどね!」

「ド、ドンマイ」

「もう慣れてるから大丈夫!」

 

 栞は明るい顔でそう言い、八幡は思わず笑みを浮かべた。

 

「そうか、まあもし東京に来る事があったら連絡してくれな、いつでも歓迎するから」

「わ~い、ありがとう、八幡さん!」

 

 栞は嬉しそうにそう言うと、優里奈の腕に抱きついた。

 

「ナユさん、今度はこっちから会いに行くね!」

「はい、お待ちしてますね、コヨミさん」

 

 そう言いながらも優里奈は、同時に胸に伸びてくる栞の手を振り払っていた。

 

「コヨミさん、めっ、です」

「え~?ナユさんのケチ!」

 

 聞いた話だと、昨夜もずっとこんな感じだったらしいが、

優里奈は栞に対してはずっと微笑みを絶やさず接していた為、

八幡は、うちの娘は本当に出来た娘だなと嬉しく感じる事となった。

 

 

 

 それから八幡達は、土産物を購入しては宅配を頼むという連続ミッションに挑み、

事前に用意していた名前のメモの横に送った物を記入していき、

遂に全員分のリストを埋める事に成功した。ここまで要した時間は実に四時間に及び、

一番元気だった栞ですら、別に彼女が何かを選んだ訳でもないのにかなり疲弊してしまい、

一同はそのまま休憩を余儀なくされる事となったのであった。

 

「仲間が増えるってのも、いい事ばかりじゃないな………」

「八幡君が律儀すぎるってのもあると思うけどね」

「まあうちはリアル繋がりだもの、仕方ないわよ」

「こんな事、滅多にある訳じゃないし、気にしない気にしない」

「いや、まあ気にしてはいないけどな」

 

 そう言いながら喫茶店で休んでいた一同だったが、

そろそろ東京に向かわなくてはいけない時間となり、八幡達はそこで栞と別れる事となった。

 

「それじゃあナユさん、八幡さん、それにみんな、またいつか遊ぼうね!」

「コヨミさん、またアスカ・エンパイアで!」

「コヨミさん、俺もたまにはコンバートして遊びにいくからまた宜しくな」

「またね!」

「元気でね!」

「本当に楽しかった!」

 

 コヨミはその暖かい言葉に別れが寂しくなったのか、若干瞳を潤ませながらこう答えた。

 

「うん、みんな、私、みんなの事、離れても友達だと思ってるからね!」

 

 そして栞は八幡達が乗る車が見えなくなるまでずっと手を振り続けた。

運転している八幡は無理だったが、他の者達も、栞が見えなくなるまで手を振り返したのだった。

 

 そして八幡達は、そのまま東京へと戻った。




次の章と思いっきり重なっているのですが、明日でこの章は終わりとなります。
その後もとりあえず続けて投稿しますが、どこかのタイミングでストーリーを纏める為に、
一週間程度休む事があるかもしれませんので、その時は宜しくお願いします。

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