東京に戻った次の日の夕方、この日はヴァルハラとしての活動は特に無かったが、
ハチマン個人には大事な用事があった。そう、レーヴァテインの改造である。
その為にハチマンは今、ヘパイストスの店へと向かっていた………フレイヤと一緒に。
「フレイヤ様、注目を集めちゃってるんでそろそろ離れてもらえませんかね」
『い・や・よ』
「………その言い方、何かシノンが二人に増えたみたいに感じられます」
『あら、あの子も前にこんな事を?』
「はぁ、まあそうですね」
『ふ~ん、これは絶対に負けられないわね』
「うわ、面倒臭いのが増えたな………」
『何か言った?』
「いや、何でもないです」
二人は他のプレイヤー達の注目を集めつつ、そのまま転移門へ向けて歩いていった。
もっともMMOトゥデイでフレイヤの事が記事にされている為、
(ハチマンが先手を打って情報提供したからだが)
フレイヤがイベントの続きよろしくヴァルハラに滞在している事は、
それなりに周知されてきており、その視線に非難めいたものは感じられない。
むしろ若干同情の入ったものとなっているくらいである。
そのくらい、フレイヤは気ままな女神として知られているのだろう。
『私、面倒臭い女なのかしらね………夜のベッドではねちっこい自覚はあるんだけど』
「だからそういう事を人前で言わないで下さい。そういう所ですよ、面倒臭いってのは」
『あらやだ、もう、ご・め・ん・あ・そ・ば・せ?』
「いや、顔が近い、近いですって」
『ハチマンってば、そう言いながらも平然としてるのよね、憎たらしい』
と、そんな会話の主導権を取り合う二人を追いかけてくる者達がいた、ウズメとピュアである。
「ハチマンさん、フレイヤ様!」
『あら、二人とも、ご機嫌よう』
「お?二人とも、偶然だな」
「これから二人でいつもの辻ライブをやろうと思って、
ログインしてみたらお二人の姿が見えたんです」
「ああ、辻ライブか、それで場所と時間は?」
その興奮した口調から、ハチマンが見に来てくれる気が満々だと分かり、
二人はとても嬉しそうな表情をした。
「えっと、今日は思い切って、剣士の碑の前でやろうかなって思ってます」
「一応MMOトゥデイで告知してもらったの!時間は夜の八時ね!
で、これから会場の下見に行くつもり」
「なるほどな、護衛の手配はしたのか?」
「うん、護衛はアスナさんが来てくれる予定!」
「アスナの奴、何も言ってなかったけどなぁ………」
ちなみにこれはただの行き違いである。
もしハチマンが用事を済ませた後にログアウトしていたら、
スマホにアスナからメッセージが入っているのを発見し、再びログインする事になっただろう。
「とりあえず俺も用事が済んだら見に行くわ。フレイヤ様はどうします?」
『そうねぇ、ヘパイストスの顔も見ておきたいし、
私はとりあえずハチマンと一緒に動いておこうかな』
「分かりました、それじゃあそんな感じで」
「それじゃあまた後でね!」
「ハチマンさん、お待ちしてますね!」
二人はそのまま転移門へと先行して去って行き、
ハチマンとフレイヤは、その後をのんびりと歩いていった。
『危ない危ない、ハチマンに逃げられていたら、危うくあの二人のライブを見逃す所だったわね』
「いや、その、その節はどうもすみません………」
『別にいいわよ、広い心で許します』
実はハチマンはログインした直後、フレイヤに見つからないように、
そのままヘパイストスの店へと向かうつもりだったのだが、
どんな理屈かフレイヤは、まるでクックロビンのようにハチマンの気配を察知し、
ヴァルハラ・ガーデンの外までハチマンを追いかけてきたのである。
ユイにもキズメルにも気付かれない、それはフレイヤの見事な隠密っぷりであった。
『それじゃあさっさとヘパイストスの所に行きましょうか』
「うっす」
二人はそのまま転移門を潜り、二十七層へと転移した。
「あの設計図を元に、レーヴァテインを改造するのにどれくらいかかりますかね?」
『前の時とほとんど変わらないわよ』
「それじゃあライブには間に合うか、っていうかフレイヤ様、そういうのも分かるんですね」
『まあこれでも私、一応女神だし?』
「一応って何ですか、フレイヤ様より女神然とした女神なんてそうそういないと思いますよ」
『あら、嬉しい事を言ってくれるじゃない。
益々ハチマンが欲しくなったわ。どう?このまま二人でどこかにしけこまない?』
「フレイヤ様、表現が下品です。ってかそういうのはやめろって言ってんだろ!」
『きゃぁ!犯されるぅ!』
「だ~か~ら~!」
当初のハチマンはフレイヤにかなり押され気味であったが、
最近は道徳的な観点からも、フレイヤが本当にそんな行動をとる事はなく、
基本口だけ女神様だという事が分かってきた為、
精神的に若干余裕を残しながらフレイヤと接する事が出来ていた。
そのせいかフレイヤに対するハチマンの口調も、段々と砕けたものになってきている。
「さて、到着っと」
そして二人は五分ほど歩いた末に、ヘパイストス武具店へと到着した。
「フレイヤ様?」
見るとフレイヤは、きょろきょろと辺りを見回しながら、訝しげな視線を店に向けている。
『………前も思ったけど、ちょっとこれ、おかしくないかしら』
「ん………フレイヤ様、何か気になる事でも?」
『いや、だって仮にもあのヘパイストスの店なのに、どうしていつも閑古鳥が鳴いてるの?』
「………そう言われると確かにそうですね」
ハチマンはそのフレイヤの疑問をもっともだと感じた。過疎層とはいえ確かにこれは異常だ。
「とりあえずヘパイストス様に理由を聞いてみましょうか」
『そうね、そうしましょっか』
二人はそのまま店に入り、そんな二人をヘパイストスが出迎えた。
『おお、ハチマンじゃないか!それにフレイヤ、話は聞いたぞ、あのガイア様を倒したらしいな』
「はい、まあ何とかなりました」
『やっぱりあなた的には複雑な気分なのかしら?』
フレイヤのその問いに、ヘパイストスは豪快に笑った。
『わはははは、あのご老体は儂らにとっても目の上のたんこぶだったからな。
ハチマン達が勝ってくれて、これでしばらくは平和になると安堵しておるわい』
ハチマンは、それなりに若く見えたガイアもやっぱり老人枠なんだなと思ったが、
同時に今のヘパイストスの言葉が少し引っかかった。
「しばらくは………ですか?」
『ああ、いずれあ奴も復活するだろうしな』
「え、そうなんですか?」
『神の魂は不滅よ、ハチマンもそれは分かってるでしょう?』
そこにフレイヤがそう補足を入れてきた。
「ああ、確かにトール様も復活するんでしたよね」
『まあそういう事』
「なるほど………まあ復活したガイアがまた攻めてきても、うちが撃退してやりますよ」
『わはははは、それは頼もしい』
『その時はもちろん私も手伝うからね!』
そんな会話がひと段落した所で、ハチマンは先ほどの疑問をヘパイストスにぶつけてみた。
「それでヘパイストス様、さっきフレイヤ様とちょっと話したんですけど」
『ふむ?』
「この店って、もっと繁盛しててもいいと思うんですが、どうして全くお客が来ないんですか?」
その問いに、ヘパイストスはあっさりとこう答えた。
『そもそも来れないからだ』
「へ?」
『簡単な事だよ。この店は、一定以上のステータスが無いと見えないようになっている』
「えっ、そうなんですか?」
『実は先日のイロハでギリギリのラインだったな』
「マジっすか………」
それだとうちのメンバーの一部もアウトだなと思いつつ、
同時にほとんど全てと言っていいくらいのプレイヤーには、この店は見えないだろうと確信した。
それくらい、他のギルドと比べると、
狩りの効率が圧倒的に高いヴァルハラのメンバーのステータス合計は高いのだ。
『なるほど、そういう事だったのね』
『ああ、正直ここにはまだ、ハチマン達以外の客は誰も来ておらん』
『それって凄く退屈じゃない?』
『まあそうだが、神とはそういうものだろう?』
『それは否定出来ないわね』
そう言って二人は頷き合った。ハチマンからすれば理解しがたいが、
神の世界にとってはまったくもって普通の事なのだろう。それによくよく考えてみると、
確かにプレイヤーが誰でもほいほい神に会えるというのはおかしい。
「納得しました、ありがとうございます」
『うむ』
「ついでにあの、別口でお二人にちょっと聞きたい事が………」
先ほどトールの名が出た時にハチマンは、二人に質問したかった事をもう一つ思い出していた。
『む?』
『あら、何かしらね?』
「あの、先日俺達がアルンに入った瞬間に、
レーヴァテインとエクスキャリバーの事がアナウンスされたじゃないですか。
で、武器の強さ的にはミョルニルも同じクラスの武器ですよね?
どうしてあれに関してはアナウンスされなかったんですか?」
『ああ、なるほど、それはもっともな疑問よね。ヘパイストス、説明してあげて』
『まあ聞いてみれば至極簡単な事なんだがな』
ヘパイストスはそう前置きし、続けてこう言った。
『それはあれが分け御魂だからだな。いずれトールが復活した時に、同時にミョルニルも復活し、
そして二つに分かれたミョルニルの魂が、一つに戻る事になる』
「あ、そうなんですか?」
『ああ、そもそもトールがミョルニルを必要としたのは、戦いに備えてだからな。
もっとも結局負けてしまったんだから、結果的には必要ない事だったのかもしれん』
「まあそれは結果論ですよ。なるほど、そういう事だったんですね」
『ああ、なのであのイロハという少女にその事を伝えてやるといい。
その武器はまだ完成形ではない、とな』
「分かりました、それはいずれもっと強くなるぞって教えてやりますね、
今日は本当にありがとうございました」
ハチマンは二人にお礼を言い、そのままレーヴァテインをヘパイストスに差し出した。
いよいよここからが、ハチマンのメインイベントである。
『おおおおお、これがレーヴァテインか!確かに凄まじい力を秘めているようだな!』
ヘパイストス、大興奮である。
前回と同じく他の神話体系の最強武器をいじれる事が、よほど嬉しいのだろう。
『これを短剣にすればいいんだな?』
「いえ、実は一つ、可能ならお願いしたい事がありましてですね」
『ふむ?』
そう言ってハチマンは、一枚の設計図を取り出し、ヘパイストスに渡した。
「これはうちのリズとナタクに共同で書いてもらった物なんですが………」
『ふむ、見せてもらおう』
ヘパイストスはその設計図を見て唸り声を上げた。
『これはまた面妖な………』
「レーヴァテインをそんな感じで改造する事って可能ですか?」
『私を誰だと思っている、もちろん可能だ』
「おお………」
ハチマンは喜びの表情を見せたが、次のヘパイストスの言葉を聞き、ぽかんとした。
『だがこれでは物足りん。ハチマンよ、ちょっとこっちに来い』
「………え?あ、はい」
そのままハチマンは奥へと連行され、二人はそこで、設計図を前に熱心に話し合った。
フレイヤは鍛治に関しては畑違いであったが、ちょこちょこと二人の後に続き、
自分なりの意見として色々口を出していた。その意見には鋭い指摘も多く、
ハチマンは、フレイヤ様って結構万能だよなと感心する事となった。
『………ここをこうしてみたら?』
『ふむ、問題ないが、取りまわしは大丈夫か?』
「このくらいなら問題ないです」
『なら次に………』
『いやいや、それはさ………』
「ですね………」
三人はそのまましばらく話し合っていたが、一時間ほどして、その会話が止まった。
『よし、これで完成だ。後はこの通りに作るだけだな』
「すみませんヘパイストス様、お願いします」
そのままヘパイストスは作業に入り、至極あっさりとその装備は完成した。
『待たせたな、ほれ』
「全然待ってません!………おお、ありがとうございます、ありがとうございます!」
ハチマンはヘパイストスに深々と頭を下げたが、その声からは隠しきれない喜びが感じられた。
『しかし本当に変わった装備だなそれは』
「実は当分手に入らないだろうって思って諦めていたんです」
『ほう?何か理由があるのか?』
「必要な素材がまだまだ手に入らないんですよ」
『なるほど、それは難儀だな』
『ハチマン、装備してみて』
「はい!」
そしてハチマンはその装備を
ハチマンはとても懐かしい感覚を覚えつつ、左手を閉じたり開いたりした。
それに応じてギミックが前後する。
「うん、いい感じです」
『満足してもらえたか?』
「はい、最高です!」
『で、ハチマン、その装備の名前は?』
「アハト・ファウストです。なので差し詰め、アハト・レーヴァって感じですかね」
『へぇ、いい響きね』
フレイヤはハチマンの本当に嬉しそうな表情を見て、自身もとても嬉しく感じた。
『本当に………おめでとう』
「はい!」
こうしてヘパイストスの力を借りる事で、遂にアハト・ファウストが、
アハト・レーヴァとして再びこの世に生を受ける事となったのであった。